4.星の名前
その昔、各地域の人々は、暦を知るために星空を観察していました。その際にそれぞれの地域でそれぞれの名前が付けられていました。例えば、ギリシアで「プレアデス」と呼ばれている星団は、中国では「昴宿」と呼ばれ、日本では「すばる」と言われました。
ただ、そのままでは学問上不便ですから、17世紀にドイツの天文学者バイヤーが、各星座ごとに明るい星から順に(例外もあります。後述)、ギリシア文字のアルファベットを充てて統一しました。これらを一般に「バイヤー記号」といいます。
しかし、アルファベットでは表しきれない程に星をたくさん持っている星座もありますから、イギリスのフラムスチードが各星座の西から東へ順番に1,2,3...と数字をふりました。これらを「フラムスチード番号」といいます。このフラムスチードの星表に載っていない(南の星座に多い)星については、英語のアルファベットで、大文字と小文字を区別して表されます。世界的に大きな望遠鏡でしか観測できない暗い星々については、アルファベット+数字で表されています。また、近年に明るくなった新星は西暦年+アルファベットで示されています。
さて、今まで述べてきましたのは、あくまで学名としての星の名前です。それとは別に、一般的に、明るい星や暦の上で重要な星についてはラテン語やギリシア語、アラビア語などで独自の名前が使われます。これらは学名と区別して「固有名」といいます。私たちにはむしろこの固有名の方が馴染みがあるのではないでしょうか。「αCMa」とか「おおいぬ座α星」とか言うよりも、「シリウス」って呼んだ方がピンときますよね。
ここからは、余談です
A)ギリシア文字のアルファベットが明るい順に並んでいない例
(1)ふたご座
α星カストル(1.58等)よりもβ星ポルックス(1.14等)の方が明るいですが、この2つの星は双子の兄弟を表していて、神話の中でカストルの方が兄とされていますので、こちらをα星としたものです。
(2)おおぐま座
おおぐま座といえばやはり北斗七星でしょう。その他にはこれといった明るい星もないので、北斗七星のひしゃくの口の先から順にαβγとつけられました。
(3)射手座
この星座は銀河系の中心方向にあって、非常にたくさんの星が輝いていて、17世紀の技術ではどれが一番明るいのか判別できていませんでした。しかし、その後の技術の発展に伴い、ε星が最輝星だと判りました。
(4)とも座・ほ座
これらは、もともとは「アルゴ船座」という星座の一部だったのですが、大きすぎて学問上不便ですから「とも・ほ・りゅうこつ・らしんばん」の4つに分けられました。もともとのα星だったカノープスをりゅうこつ座に持って行かれたので、これらにα星は存在していません。ただし、らしんばん座だけは後から別に作られたもので、しかも星の数も少ないため、改めて符号を付け直しましたからα星を持っているのです。
(5)りゅう座
この星座の最輝星は2.35等のγ星(エルタニン)で、α星(トゥバーン)は3.6等星にすぎません。しかし、地球の回転軸がコマのように首振り運動をするのに(これを「歳差現象」といいます)伴い、約5,000年前はトゥバーンが北極星に当たっていたため、重要視されてα星になりました。次にこの星が北極星になるのは約21,000年後のことになります。
B)固有名詞を持つ星たち(代表例)
(1)アケルナル (エリダヌス座α星)
エリダヌス座は川の星座です。オリオン座のリゲルの横に源を発した後、夜空を延々と蛇行して天の南極の近く、みずへび座の頭の部分へ向かって南北へ仰角60゜にわたって流れています。そしてアケルナルはまさにその河口にあります。アラビア語で「河の果て」の意味を持っています。
エリダヌス川というのは、現在で言うポー川のことです。
(2)コル・カロリ (りょうけん座α星)
りょうけん座そのものは、1687年にヘベリウスがおおぐま座から独立させたものですが、この星の名前はおおぐま座にいた頃に名付けられたものです。
イギリスでは、1649年革命家オリバー・クロムウェルによって清教徒革命がなされましたが、クロムウェルの死後、チャールズ2世が即位し、王政が復古されました(1660年)。この当時グリニッジ天文台の台長をしていたエドモンド・ハレー(あのハレー彗星の発見者です)が、チャールズ王の栄誉をたたえ、それまで固有名のなかったこの星に「コル・カロリ」の名を贈りました。カロリとはチャールズのラテン名です。「コル・カロリ」は直訳すれば「チャールズの心臓」ですが、おそらくは「魂」とか「心」の意味を持たせたものと考えられます。
(3)アトリア (みなみのさんかく座α星)
だいたい、星座の神話はギリシアやローマ、アラビアが舞台になっていますから、極端に南にある星座はもともと神話が無く、固有名を持っているものは少ないのですが、この星は、神話と関係なく名付けられました。
この星のラテン名を所有格で言うと'Trianguri
Australis'になりますが、これを略したTri
Aにαを頭に付けて「αTri A」としたことから、語感がいいのでアトリアと呼ばれるようになりました。
同じようなものに、みなみじゅうじ座のα星がラテン名「αCrux」からアクルクスと呼ばれている(β星はベクルクス、γ星はガクルクスですが)のがあります。
(4)スアロキン、ロタネブ (いるか座α星、β星)
この星座自身は古く、ギリシア神話の海の神ポセイドンのしもべのイルカとされていますが、この両星の固有名が付いたのは1814年のことです。
イタリアのパレルモ天文台の天文学者ニコラス・カシアトーレが、師匠にあたるピオッティが星表を作るのに際して、自分のラテン名「Nicolaus
Venator」の逆読みをこの星に付けるよう頼んだのが起源といわれます。
余談の方が多かったですが、以上の内容をふまえて、星座一覧をご覧になると多少は分かりやすいかとも思います。
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