ラムサール条約　第10回締約国会議　決議案22　付属書
国際会議「世界の水鳥」エジンバラ宣言，2004年４月

水鳥のフライウェイとは、渡りの経路という生物学的システムであり、異なる国々や異なる大陸にある生息地ならびに生態系を直接結ぶものであることを意識し、

水鳥の保全とワイズユース［賢明な利用］は、関係する国々とその人々が責任を負うものであり、人類共通の課題であることを想起し、

100年以上にわたってこれまで培われてきた水鳥を保全するための国際協力の長い歴史、たとえば1916年の米国及びカナダ（英国が代行）間で結ばれた渡り鳥に関する条約といった条約／協定、また40年余り前の1963年、ガンカモ類の保全に関する欧州会議の初回会合がスコットランドのセント・アンドリュースにて開催され、これが1971年にイランのラムサールで締結される湿地条約［ラムサール条約（特に水鳥の生息地として国際的に重要な湿地に関する条約）］を築き上げる過程のスタートとなったことも想起し、

オランダのノードウェイク・アーン・ゼー（1966年）、ソビエト連邦レニングラード（1968年）、イランのラムサール（1971年）、ソビエト連邦アストラハン（1989年）、米国フロリダ州セント・ピータースバーグ・ビーチ（1992年）、日本の釧路とフランスのストラスブルグ（1994年）で開催された、主要な国際会議が水鳥保全に関する技術的な国際交流をよりいっそう発展させてきたことを特筆し、

更なる条約や協定、方策並びにプログラムの構築とその実践を通して各国政府間の協力関係が一層発展してきたこと、また、水鳥の保全活動やモニタリング活動において非政府の国内的並びに国際的な協力が一層発展してきたことを認識し、

2002年に南アフリカのヨハネスブルグで開催された持続可能な開発に関する世界首脳会議（ヨハネスブルグ・サミット）において、2010年までに『現状の生物多様性の喪失速度を有意に低下させること』を達成するという念願を、世界のリーダーたちが表明したこと、この目標が2004年２月の生物多様性条約第７回締約国会議において更に発展させられたこと、これらを意識するとともに、この目標を達成するには全ての大陸において多大な資金投入と焦点を絞った協調的保全活動が必要とされていることを認識し、かつ広報・教育・普及啓発活動並びに研修活動がこの目標を達成するために重要な役割を果たすであろうことを認め、

政府・政府間機関・非政府機関・地元社会・民間セクターの間の国際協力とパートナーシップを強化することが急務であることを更に意識し、

陸上生態系並びに海洋生態系のいずれにおいても多くの水鳥個体群が危機的な状況におかれていること、そして世界の湿地が質的にも量的にも減少を続けていることに危機感を抱き、

本会議での多数の技術的分科会並びに発表が導き出した結論や優先行動に着目し、直ちにこの宣言文に記録し、

世界の水鳥の現状を再評価するためにエジンバラでこの国際会議を開催することに対し、国際湿地保全連合と英国並びにオランダの両国政府当局が共同でイニシアティブを執ったこと、オーストラリアやデンマーク、米国、日本、ドイツ、スウェーデン、アイルランド、ベルギー、スイスの各国からの支援、ボン条約［移動性野生動物種の保全に関する条約］やアフリカ−ユーラシア渡り性水鳥保全協定、欧州連合狩猟保全団体連盟、狩猟野生生物保全評議会からの支援、並びにその他多くの団体・個人から寄せられた情報を歓迎し、

エジンバラに参集した会議参加者一同は、

水鳥とその生息湿地環境を保全する取組みは有意な進展を見せ、いくつもの主要な成功を導いているにもかかわらず、全体としては重要な課題が残っており、将来的な変化による影響の流動性を考え合わせながらさらなる努力と集中的な行動が必要とされていることを考慮する。

ラムサール条約が言う『水鳥はその季節的な渡りにおいて国境を超え、このために国際的な資源であるとみなされ』また『先見性のある各国の政策と協調的な国際行動によって湿地とその動植物相を保全することができる』ということを再確認する。それゆえに、水鳥が人類の生存維持に有用であるだけでなく水鳥そのもののためにも、水鳥個体群とその生息湿地環境を保全する国家間の努力が拡大されるよう促す。

フライウェイレベルでの保全の取組みは、種に基づいたアプローチと生態系に基づいたアプローチの両方を兼ね備え、渡りの範囲全体で国際的に協調されるべきであることを考慮する。

水鳥と湿地資源の保全と持続可能な利用には、市民や民間セクター、それに依存する地元社会、並びにその他の利害関係者による協調的な行動が必要とされることを認める。

次のような緊急行動を、特に求める：

• 湿地の喪失と荒廃を食い止め事態を好転させる。
• 国内湿地目録並びに国際的な湿地目録を完成させる。また、特に地元社会の参加を通して、水鳥にとって重要な湿地とその周辺域の保全を促進する。
• 水鳥の重要生息地の国際的なネットワークをフライウェイに沿って拡張し強化する。
• 水鳥の種の保全のため各国間の公的な協定や他の協力の取り決めを構築し拡張する。その際、可能ならばボン条約、生物多様性条約及びラムサール条約の枠組みを活用する。
• 世界的に絶滅のおそれのある水鳥の種の全てについて、その回復計画に資金を投じ実践する。
• 特にシギ・チドリ類にとって重要な生息地における人間活動の政府等による持続的管理を通じて、最近明らかになった長距離を渡るシギ・チドリ類の減少傾向を食い止め事態を好転させる。
• 緊急かつ国際協調的な保全行動、特に［ボン条約に基づく］「アホウドリ・ミズナギドリ類保全協定」が提供する枠組みを通じて、アホウドリ・ミズナギドリ類［ミズナギドリ目鳥類］の個体群を好ましい保全状態^{［訳注１］}まで回復させる。

  ※訳注１：

  『好ましい保全状態』は英語原文で "favourable conservation status"。これはボン条約が定義する用語で、特に保全活動に取組まなくても個体群が安定して自立的に生存できる状態をいう。対語は "unfavourable conservation status"。同条約では数値基準も示されている。

• 海洋環境における汚染を実質的に減少させ、海洋資源の持続可能な収穫を確立する。
• 特に国際水鳥センサスのような、調整し適切に資金を投じられた調査研究及びモニタリングプログラムからもたらされる質の高い科学的な勧告を得て、将来の保全のための決定の礎を確保する。この目的達成のために、政府と他のパートナーが共働し、互いに支援するよう促す。
• 特に［ヨハネスブルグ・サミットの］2010年目標のために、世界の湿地の状態についての政策的目標を開発する。それには、着実で持続可能なモニタリング体制によって得られる水鳥やその他のデータを用いる。
• 水鳥と湿地の保全のための特に重要な要素として、広報・教育・普及啓発活動に資金を投入する。
• 水鳥の疾病リスクを評価するとともに、渡り性水鳥の移動様式や、野鳥の取引、並びに人間の健康に対する影響などに関するモニタリングプログラムを構築する。

水鳥と湿地のワイズユースが持続可能な開発と貧困の根絶のために重要であることを伝え、施設や資源が限られた国や地域において、フライウェイレベルの保全に役立つ能力の開発を特に優先させるよう促す。

各国が関係する条約や協定を批准してより一層の国際協力に取り組むこと、そして地球環境ファシリティなど可能な資金源を利用してこの宣言に盛り込まれた行動に資金をあてることを強く奨励する。

協調的かつ国際的な状況評価の長い歴史とともに、2002年に世界レベルのリーダーたちにより採択された2010年目標の達成に向けた進展を評価するために、水鳥が優れた指標となることを考慮する。そして、この目的達成には、ボン条約や生物多様性条約、ラムサール条約、その他の国際協定が共働し、かつこのような状況評価に関係する他のパートナーとも共働すること、特に国際湿地保全連合とともに、３年ごとに編さんされる「水鳥の個体群推定」の分析的な開発をさらにすすめ、それを活用することを求める。

この宣言と本会議の技術的成果^{［原注１］}を世界中に広める必要性を重視する。

今後の進展を評価するために10年後に再び会議で再会することに合意する。

エジンバラ
2004年４月７日

［2004年当時の原注１］

技術的な要約集は2004年夏に刊行される予定で、会議のウェブサイト www.wetlands.org/GFC にも公開される。会議に報告された論文は2006年に論文集として刊行される予定である。

［第10回締約国会議への

稿の原注１］全ての出版物は www.jncc.gov.uk/worldwaterbirds より入手できる。

［会議の結論］

上記の勧告を支持し、会議は次のように結論した：

• アメリカ地域のフライウェイについては、チリで開かれた第８回新熱帯区鳥類学会議で検討された渡り鳥の現状に関する結論、並びに最近完成したアメリカ地域水鳥保全計画により、北米・中米・南米並びにカリブ海諸国の協力体制が発展しつつある。北米では一世紀以上にわたって保全の努力が積み重ねられ、また生物学に根ざした地形指向型のパートナーシップの共通展望が開けたが、渡り鳥を共有する汎アメリカ地域の国々のあいだでの国際協力をさらに高める必要があることは明白である。
• アフリカ−ユーラシア・フライウェイについては、水鳥についての知見も全体によく集積されているが、必要とする国や地元での行動に効果的に活かされているとは言えない。さらに、保全努力も、世界的に絶滅のおそれのある種を含む多くの水鳥個体群を健全に維持し、あるいは回復させることに結びついていない。水鳥の保全を持続可能な開発の一部として統合させ、これにより湿地の生物多様性に寄与すると同時に、地元社会を始めとする湿地に依存する利害関係者がより大きな恩恵を受けるようにすることが急務である。アフリカ−ユーラシア渡り性水鳥保全協定がそのための良い基礎を提供する。
• アフリカ内部フライウェイは極端に未解明であり、より一層の配慮が改善に向けて必要である。
• 中央アジア・フライウェイの水鳥については全体に情報が乏しいが、減少傾向にあることが見て取れる。このフライウェイの多くの国々では、これまで保全に対する投資がほとんどなされず、かつ地元の利害関係者が湿地の持続可能な管理に関与してこなかった。中央アジア地域において、渡り性水鳥の保全に対する自発的取組みの国際的枠組みを構築し、協調的な保全行動を促進することが急務である。また保全に関する優先課題と必要な対応を見極めるためにも更なる情報が必要とされる。
• アジア−オーストラリア・フライウェイの水鳥は最も未解明であり、世界的に絶滅のおそれのある種もこのフライウェイに最も多い。このフライウェイは世界的に人口密度の最も高い地域にまたがっており、保護されていない湿地はもとより保護されている湿地においてすら極度の圧力にさらされている。他の地域でも同様だが、主要な重要湿地を効果的に保護することが必要不可欠である。重要湿地の効果的なワイズユースの確保と水鳥の消費対象としての利用を持続可能な状態にすることには、重大で厳しい課題が待ち受けている。
• 外洋性水鳥の海洋上での保全には特有の課題がある。アホウドリ・ミズナギドリ類保全協定の発効は最も歓迎される進展であり、その完全な実施が急務である。海鳥の混獲の問題、特に違法漁業並びに非統制漁業への事態に取り組むことは、多くの種における極めて不十分な保全状況を好転させるためにこれからも必要な重要事項である。またそれは、持続可能な海洋漁業を達成するための普遍的な必要条件である。
• 世界的に知られているフライウェイのほとんどは北極圏に起源をもつ。近年における北極圏諸国間の国際協力の発展は、水鳥の保全管理に地元社会の参加を促し、その伝統的な知識を活かすことが必要不可欠であるという認識とともに、歓迎されるものである。中央・南太平洋熱帯区フライウェイについても調査研究が必要である。
• 気候変動は既に水鳥に影響を及ぼしている。その影響は複合的で、生息地の喪失や荒廃のような既存の悪影響を大きく激化させる。地形規模並びにフライウェイ規模といった大きな規模で、水鳥個体群とその生息環境への悪影響を減少させ軽減するための計画づくりが必要である。このような計画づくりを支えるためにも、潜在的な将来シナリオを探究する調査研究が必要とされ、それには長期的なモニタリングと監視体制から得られるデータが必要である。
• 世界の非渡り性水鳥個体群の保全状況は多くの場合、渡り性水鳥よりも芳しくない。そして一般的に、渡り性個体群に比べ国際的な関心が当てられていない。非渡り性水鳥の保全のために必要な取組みにも、国内及び国際的に重点を置くことが肝要である。
• 人口密度が高い地球上では、水鳥の保全に取組む関係者は地元社会や行政との関係に着目することが重要である。このことは、保全状況を悪化させている原因を好転させるためにも、保護される種と人間社会との軋轢を解決するためにも、重要な手段である。広報・教育・普及啓発活動に適切に資金を注入することを、全ての水鳥保全の取組みにおいて、その中心にすえることが必要である。
• 長距離を渡るシギ・チドリ類にとって数少ない重要生息地が決定的な重要性をもっていること、並びにそのような重要生息地のいくつかにおける人間の活動によって特定のシギ・チドリ類個体群が近年劇的に減少したことが、科学的に確認された。
• 個体群サイズの小さな種は遺伝学的並びに個体群統計学的なリスクを負っていることを近年の調査研究は浮き彫りにしている。これらは、種の回復計画のデザインの仕方を暗示している。
• （新興・再興病原体^{［訳注２］}による）水鳥の病死の頻度及び規模は、注目に値するほど大きくなってきている。これらの疾病は水鳥だけでなく人類にも影響を及ぼす。多くの学問領域にわたる取組みがこの問題の解決のために必要である。

  ※訳注２：

  新興病原体とはＳＡＲＳ等の新たに発見された病原体、再興病原体とはペストや結核等の既に制圧されたと考えられていた病原体の再流行を指す。

• 水鳥のモニタリングを統合的なアプローチで取組めば、個体群の変化の原因を対費用効果良く確認することができる。このような統計学的情報を収集しセンサスデータと統合させた良い例もある。国内また特に国際的にこのような組織立った取組みをより一層進めることが強く奨励され、またそれに資金注入されるべきである。
• アトラスを体系的に分析した結果、各フライウェイにおける繁殖地・越冬地・中継地の保全状況を評価するために標識調査研究が有用であることが確かめられた。この目的を達成するには、通常のリング標識や色標識^{［訳注３］}、テレメトリー^{［訳注３］}、安定同位体分析、また遺伝標識^{［訳注３］}から得られるデータを統合する必要がある。

  ※訳注３：

  色標識には色首環や色足環、脚フラッグ、ウィングタグ、色鼻環などがある。テレメトリーまたはバイオテレメトリーは発信器を用いた追跡。遺伝標識は遺伝子マーカーとも呼ばれ、遺伝学的解析で標識として用いられる遺伝子を指す。