Swan 琵琶湖水鳥・湿地センターラムサール条約ラムサール条約を活用しよう第7回締約国会議

ラムサール条約 基本文書

19992002年条約普及啓発プログラム

日本語訳:環境庁,2000年[了解を得て再録].

 英語   フランス語   スペイン語  (以上,条約事務局)

 PDF  (環境省のインデックスページ)     2003−2008年 


「人と湿地:命のつながり」
"People and Wetlands: The Vital Link"
湿地条約(ラムサール,イラン,1971)
第7回締約国会議
1999年5月1018日 コスタリカ サンホセ

19992002年ラムサール条約普及啓発プログラム

ラムサール条約の施行を支えるための広報、教育、普及啓発促進活動
(ラムサール条約は、1971年イランのラムサールにて採択)

決議Ⅶ.9にて採択)

目次

普及啓発プログラムの目標と根拠

.課題の定義;.目標;.普及啓発プログラムの根拠;.普及啓発プログラムについて;.対象グループの特定

関係者

.締約国;.条約事務局(ラムサール条約事務局);.条約の国際団体パートナー;.地域NGO及び全国規模NGO;.地元の利害関係者;.援助機関及び協賛者

行動のための手段と枠組み

.必要性、能力及び機会の検討;.戦略計画策定過程;.関係者間の情報伝達;.キャンペーン;.参考資料の共有;.学校教育及び研修;.教育・普及啓発センター

添付文書Ⅰ 普及啓発プログラムの優先的対象グループ

添付文書Ⅱ 湿地リンクインターナショナル


普及啓発プログラムの目標と根拠

1.「普及啓発プログラム」は、1996年の第6回締約国会議で採択された、ラムサール条約の「19972002年戦略計画」総合目標3への直接的な対応策である。総合目標3では、その三つの実施目標を通じて、この条約が世界中のすべてのレベルで、湿地の価値と機能に関する認識を高める ことができるようにする一連の行動を定めている。

2.戦略計画総合目標3の下にある三つの実施目標は、この条約と条約事務局の国際的な教育・普及啓発プログラム、国内的な教育・普及啓発プログラム、及び広報活動について言及している。本文書で定める普及啓発プログラムにおいても、これと同じ三つの活動分野について総合的に検討し、締約国、条約事務局、この条約の国際団体パートナー、地域住民等がそれぞれの優先する対象グループに普及するための適切な行動をとる一助となるように、モデルを提示している。

課題の定義

3.締約国、条約事務局、この条約の国際団体パートナー、地域住民等に対する課題は、湿地の保全及び湿地資源の賢明な利用に反するような慣行を変えるために、効果的な広報活動を行うことである。効果的であるためには、締約国が課題と可能な解決策を決める際に利害関係者を参加させ、変化をもたらすための法的及び経済的手段と適切に結びついた手段として、広報と教育とを利用する必要がある。これはつまり、各締約国がラムサール条約を施行する際に、広報活動がその中心部分になるということであり、ラムサール条約事務局とこの条約の国際団体パートナーがそれを支援するということである。

目標

4.普及啓発プログラムの目標は、ラムサール条約の「19972002年戦略計画」総合目標3に定められた実施目標と同じである。すなわち、

.実施目標3.1協力機関や他の機関と協力し、各国の教育及び普及啓発プログラムを促進するために企画された、湿地及びその機能と価値に関する国際的な「教育・普及啓発」プログラムの実施を支持し支援する。

.実施目標3.2主要政策決定者や湿地の中や周囲に住む人々、湿地を利用するその他の人々、そして広く一般の人々といった広範囲の人々を対象として、湿地に関する教育・普及啓発の国内プログラムを策定し促進させる。

.実施目標3.3ラムサール条約事務局の広報活動を改善する。また、条約とその広範な適用を一段と促進すること及び湿地の価値と機能に対する意識を高めることのできる「条約広報戦略」を策定する。

普及啓発プログラムの根拠

5.ラムサール条約は、次のことを行うために普及啓発プログラムを必要とする。

.湿地の機能、便益及び価値に対する人々の意識を高めること、湿地が各国の自然のインフラストラクチャーの重要な財産であると認識されるようにすること。

.人々に湿地に対する関心を持たせるようにして、政策策定及び湿地の実践的な計画策定や管理に関わるようにすること。これは湿地にプラスの影響を与え、かつ当該資源の持続可能な利用につながるような行動を奨励する鍵である。

.政策策定者、民間企業及び社会のあらゆる分野において、湿地保全と賢明な利用に対する支持層、すなわちラムサール条約の支持基盤を確立すること。

6.広報活動を行わなければ締約国及びこの条約は、湿地とその機能、便益、価値の低下や喪失の進行と湿地管理との衝突を引き続き目の当たりにすることになる。

7.湿地は人間の生活を支えるために不可欠なものであり、しかるべき管理が必要である。広報活動とは、科学及び生態学と人々の社会的、経済的現実とをつなぐ架け橋である。広報活動は、この条約の「道具」が動くように燃料を注ぐものであり、締約国とその支援者が、湿地の保全と賢明な利用が実施されているかを見るために、必要とする情報を提供するのである。

普及啓発プログラムについて

8.以下のセクションで述べる各行動は、これだけに限定されるものではない。広報活動を成功させる秘訣は問題をしっかりと把握することであり、関係する人々の置かれている状況、害悪を及ぼすような慣行を変更する際の障害を把握して、状況に応じてそうした問題を伝えるメッセージや手段を作成することである。「普及啓発プログラム」は、世界中のあらゆるレベルで、関係する人々や組織が行う活動を導く助けとなるような、行動の枠組みを提供するものとみなされるべきである。

9.この計画の趣旨は、命令的なものでも包括的なものでもない。この計画は単に、あらゆる状況や事情に合うか否かを別にして、まず、行動に対する一連の提案や選択肢を提供しようとするものに過ぎない。全体としてみれば、「普及啓発プログラム」は、ラムサール条約の施行を円滑にする広報、教育及び普及啓発の分野の行動に対して、適切な枠組みの設定を支援するためのものである。

対象グループの特定

10.この「普及啓発プログラム」は、一般社会や市民社会という最も広範な分類に属する多数のグループを対象としている。提供国その他が、どのような行動をとるかをこの計画を用いて決定できるように、添付文書では、湿地の状況と長期的な持続可能性にただちに、しかもかなりの影響力のある人たちとして特定された、市民社会の27の小グループについて説明する。この「普及啓発プログラム」に基づいて国際的行動計画、地域行動計画、国内行動計画、または地方自治体の行動計画を策定する場合、締約国その他には、添付文書を自らの状況と重ねて考慮し、最優先とする対象グループを決定することが要請される。


関係者

11.「普及啓発プログラム」では計画に則して行動した結果として、ラムサール条約と、それが適用しようとする原則の代理人ないし代表となる「関係者」が増加する、ということを根本的に想定している。それゆえ、「普及啓発プログラム」に対する支援は、政策策定者を教育し、湿地の保全と賢明な利用の達成を目指した、地方規模の行動を結集するための、投資とみなされるべきである。

12.このセクションでは、まず最初に、広報、教育及び普及啓発の過程を先導する主要関係者を特定すること、つまり地域、国、地方の状況及び優先的対象グループに適した行動計画の立案と実施に対して、第一に責任をとらなければならない人々と組織を特定することが不可欠であることを認識する。

13.締約国。各締約国においてラムサール条約担当政府機関に指定された省庁は、国内レベルで、また適当な場合には国際、地域、地方のレベルで、湿地に関する広報、教育及び普及啓発活動(以下「湿地広報教育普及啓発活動」)を促進し、かつ実行するリーダシップを示す責任がある。当該担当省庁がこうした役割を果たす専門知識を備えていない場合には、「湿地広報教育普及啓発活動」(第4446節)の職員研修を行うよう勧告するか、または当該技能を備えた職員のいる他の省庁、もしくは組織と協力して作業を行うことが奨励される。

14.「普及啓発プログラム」が提案する必要性、能力、及び機会の検討をどのような方法で行うかにかかわらず、実行する行動に対して特定の専門リーダーを置くために、各締約国には湿地に関する広報、教育及び普及啓発(以下「湿地広報教育普及啓発」)を所管するその国の担当窓口を指定することが求められる。

15.条約事務局。ラムサール条約事務局は、湿地広報教育普及啓発活動のまとめ役という役割を引き続き果たすことになる。この文書の次のセクションでは、事務局がすべてのレベルにおける「普及啓発プログラム」の実施を助けるために、現在行っている行動及び今後行う行動案について概略する。このような行動のなかでも、条約担当省庁で利用できる資源と専門知識の増強を図るために、事務局がこの条約の国際団体パートナーと密接に協力する必要性が認識されている。

16.条約の国際団体パートナー。ラムサール条約には、バードライフ・インターナショナル、IUCN(国際自然保護連合)、国際湿地保全連合、及びWWF(世界自然保護基金)等、いくつかの正式な国際団体パートナーがある。これらの機関は、締約国その他が湿地広報教育普及啓発に対して一層戦略的な取組を図れるように、すでにかなりの資源と専門知識を提供してきた。次のセクションでは、締約国が広報教育普及啓発分野における願望を希求する際に、これらの国際団体パートナーと一層協力するための方法について検討する。

17.第7回締約国会議は、正式な国際団体パートナーをさらに受け入れるための基準とガイドラインを採択する決議.3を採択した。湿地広報教育普及啓発分野の専門知識を持つ他の多数の機関が、将来における協力関係やパートナーシップ関係を強められるように、条約の正式なパートナーという地位を得るようになることが望まれる。

18.地域NGO及び全国規模NGO。「湿地広報教育普及啓発行動計画」の策定と実施においては、国際団体パートナーと同じく、当該分野の専門知識を備えた地域NGO及び全国規模NGOも主要な関係者である。この認識に立ち、以下のセクションでは、行動計画を実施する際に政府の湿地広報教育普及啓発担当窓口と協力して作業を行う、NGOの適切な専門家を特定するよう、締約国に要請する(上記14節参照)。

19.地元の利害関係者。おそらく鍵となる関係者は、利害関係者という範疇に入る地方レベルの人々、すなわち、生活と生計が、少なくとも部分的には地元の湿地でのできごとによって決定される人々である。いかなる「湿地広報教育普及啓発行動計画」においても、こうした地域住民が全面的に自分たちの湿地の真価を認めるようにし、特に地域社会の外側から、湿地資源の重要性に対する認識と理解を高めるようにすることが不可欠である。こうした湿地「管理者」が、湿地の提供する機能、便益、価値を正しく評価しなければ、政府やNGOの取組はなかなか功を奏せないことになる。理解と正しい評価に基づいた、地域管理者という姿勢が不可欠である。

20.援助機関及び協賛者。多くの国にとって、それも特に開発途上国や市場経済移行国にとっては、資源と専門知識の不足が、「湿地広報教育普及啓発行動計画」の実施を妨げているものとみられる。したがって、「湿地広報教育普及啓発行動計画」(2533節)を立案するきわめて早い段階から、こうした締約国が潜在的な資金源と協議し、支援を得られるようなプロジェクトを彼らと協力して策定することが重要である。開発途上国や市場経済移行国向けの多角的援助機関や二国間援助機関等、従来からある機関もこうした協賛者となりうるが、民間企業の協賛者にも働きかけるよう考慮すべきである。この好例としては、条約事務局が現在民間企業のダノングループやフランスのいくつかの政府機関と共に携わっているパートナーシッププロジェクトがある。この3か年行動計画では、「水資源と水質を大切に(Caring for water resources and water quality)」というテーマのもとに、渡り性の種の湿地ネットワークから研修、水と人の健康プロジェクト、一連の広報及び普及啓発活動まで、ラムサール条約に基づく6つの行動テーマに資金を振り向けている。この共同プロジェクトは各国の国内プロジェクトに対しても理想的なモデルを提供している。


行動のための手段と枠組み

21.「普及啓発プログラム」の本セクションでは、「湿地広報教育普及啓発行動計画」の策定用に、大まかな枠組みないしモデルを提供する。これらの行動計画については、国際、地域、国内、及び地方のレベルで適用できるように策定すべきである。当該行動計画は、国際的なパートナーまたは地域的なパートナーとして活躍する締約国が策定するものもあれば、ラムサール条約担当政府機関とNGOが共同で国内計画を策定したり、地元の利害関係者がその土地の必要性に合わせ、地方規模の行動計画を策定して実施する場合もある。あらゆる種類の「湿地広報教育普及啓発行動計画」が、「普及啓発プログラム」の採択と適用から誕生することが望まれる。以下では、湿地の保全と賢明な利用を促進するために、どのようにして、適切に対象を絞った広報教育普及啓発行動計画を策定したらよいかについて提案する。

必要性、能力及び機会の検討

22.まず最初の出発点として提案するのは、湿地広報教育普及啓発分野における現在の必要性、能力及び機会について検討することである。包括的な検討を行い、この点に関する現在の強みと弱みがどこにあるのかについて明確な像を描こうとするなら、検討すること自体がたいへんな作業となる。以下には、各レベルでの行動計画策定につながる検討を行うための枠組みを提示する。

a.中央政府の担当窓口の指定−上述第14節で述べたように、各締約国には、湿地広報教育普及啓発に関するその国の担当窓口を指定し、この役割を遂行する担当者とその連絡先の詳細を条約事務局に通知することが求められる。可能であれば、ラムサール条約担当政府機関の湿地広報教育普及啓発分野の専門家がこの担当者になるべきだが、さもなければ、その他の適当な政府機関の職員がなることもできる。この担当者の役割は、湿地に関連する国内的、地域的、及び国際的な広報教育普及啓発活動に関して、公表された指導者兼窓口となることである。

b.各国の非政府系担当窓口−NGOが湿地広報教育普及啓発活動に果たす、または果たしうる主な役割を認識し、国際NGO、地域NGOまたは全国規模NGOの適切な個人に対して、湿地広報教育普及啓発活動の非政府系担当窓口になり、必要性、能力及び機会の検討並びにそれに続く行動計画を進める中で、政府の担当窓口と協力するように要請することが各締約国に奨励される。

c.地球規模の担当窓口ネットワークの構築−こうした担当窓口には、地球規模の専門家ネットワークを形成することが期待される。このネットワークの目的は、情報を共有し、参考資料の普及を促進し、かつ個人、グループ、地域社会に対して湿地と水資源の管理に参加する機会を提供できる計画の策定と拡大を支援することである。こうした課題については、以下の項で詳しく検討する。

d.国家湿地委員会または国家生物多様性委員会としての湿地広報教育普及啓発活動−広報、教育及び普及啓発活動を促進するためには、国の担当窓口が、国家湿地政策、生物多様性戦略及び存在する場合には、水政策等の政策の策定と実施を担当する国家委員会のメンバーまたは常任オブザーバーであることが望ましい。こうした立場にあれば、能力と選択肢について検討する際にも大いに助けとなる。

e.湿地広報教育普及啓発特別部会の設置−さらに、このための機構が他にない場合には、必要性と選択肢について検討し、その結論に基づいて優先順位を決めるために、小規模な特別部会を設置することが勧告される。どんなに小規模な場合でも、特別部会には上記22節a)、b)で述べた政府の担当窓口と非政府系窓口を含めるべきであり、可能な場合には常に、上記13節から20節に述べた5つの「関係者」グループの主な代表も含めるべきである。政府からは、少なくとも、環境と保全、水資源管理及び教育に関係する事項を扱う省庁の代表者を含めるべきである。地域、国、または地方という設定において、湿地に対する主な脅威がどのようなものかに応じて、第一次産業である農業を担当する省庁や、観光を担当する省庁の代表も加えるほうが賢明な場合もある。

f.湿地広報教育普及啓発検討のための多層的枠組み−能力と機会について検討する場合、その対象範囲は包括的であるべきであり、少なくとも第25節以降で検討する活動分野、すなわち、関係者間の情報伝達、意識向上と行動促進のためのキャンペーン、参考資料と知識の共有、学校教育機会及び研修機会とそれらの教育課程、環境教育・普及啓発専門センターが果たしている役割等を含めるべきである。さらに、活動が現在どこで進行中か、またはそれらを強化し、もしくはそれらを土台とする余地がどこにあるかを確定するには、国際、地域、国、地方といった各種レベルで検討することが望ましい。このような分野について検討すれば、各レベルにおいて検討対象になる範囲が、明確にわかるようになるはずである。

g.行動計画の策定−「普及啓発プログラム」の下では、遅くとも2000年6月30日までに湿地広報教育普及啓発の能力と選択肢についての検討を完了するよう、締約国に奨励している。条約事務局は、湿地広報教育普及啓発検討特別部会と各国の担当窓口で使うアンケートを作成して、当該検討の円滑化を図る。この検討結果と結論をもとに、湿地広報教育普及啓発の担当窓口と特別部会が、その国のラムサール条約担当政府機関の検討を求めるべく、最優先行動についてガイドラインを提示する「湿地広報教育普及啓発行動計画」を策定する予定である。同担当窓口らは、2000年12月31日までにラムサール条約担当政府機関にこの助言を提出するとともに、条約事務局に対してもコピーを送付し、適当な場合には事務局も助言と支援を申し出られるようにする。

戦略計画策定過程

23.すべてのレベルでの脅威の特定−前第22節は、湿地広報教育普及啓発分野における能力と機会について検討するという、行動計画策定のための作業について、その枠組みを定めている。各国の必要性に応じて、及び国際、地域、国、地方といった各レベルに合わせて、行動計画を策定する必要がある。このような行動計画を立案する際に検討すべき一法として、一国内でどのような行動が行われた場合に湿地の最大の喪失や劣化が起きるのかを確定する、脅威分析という方法がある。汚染による影響か、それとも湿地の他の用途への直接的な転用か、あるいは水不足なのか等を確定するのである。この分析を行うと、最優先して注意しなければならない対象グループ(添付文書に記載)を特定することができるようになる。

24.最も費用効果の高い行動の特定−もう一つの方法は、とりうる行動のうちで最も費用効果の高いものについて検討する方法である。例えば、希少な資源の使い道として、地元の利害関係者を対象とするのが良いのか、それとも政治的代表者や政策決定者を対象とするのが良いのかが、重要な問題となる可能性がある。前者を対象にすれば、地方において長期的な成果が得られるが、後者を対象にした場合には、それよりも広範な影響をもたらす決定がなされるのが普通である。ラムサール条約担当政府機関に対して優先する対象グループについて助言し、彼らの行動が確実に湿地の保全と賢明な利用にプラスになるようにするには、どのような広報を行うのが最善かを助言するのは、国の担当窓口と湿地広報教育普及啓発特別部会の役割である。

関係者間の情報伝達

25.情報伝達面での強みと弱みの明確化−上述第22節で説明した能力及び機会の検討を行う場合には、第1320節で特定した各種関係者と添付文書に記載する対象グループとの間における情報伝達の度合、種類、及び有効性を明らかにすることを優先すべきである。そうすれば、情報伝達が行われていない部分、その逆に情報伝達が行われている部分及びそれを保持する必要がある部分やその向上を図らなければならない部分が明らかになるはずである。この分析では、まず最初に優先的対象グループを確定するのが(上述第24節参照)有用かもしれない。国内のラムサール登録湿地の管理担当者を例にとれば、管理担当者同士は直接に情報を伝達しあっているのか、管理担当とラムサール条約担当政府機関との間はどうか、渡りを行う同一の種が利用する他のラムサール登録湿地の管理者との間で情報の連絡は行われているのか、また条約事務局の「賢明な利用資料ライブラリ」を直接に利用できるのか、あるいは関連する各政府省庁の職員がラムサール条約戦略計画の文書を入手し、ラムサール条約のウェブサイト 訳注 にて公開されているより詳細な情報にアクセスが可能かどうか等を明らかにすることである。

26.情報及び研修の必要性の明確化−情報伝達について検討する場合には、情報や助言がどこから発信されるべきか、または発信されうるか、発信者と情報や研修を必要とする人々との間をどのようにつなぐかを確定するために、情報の必要条件を各対象グループごとに考察すべきである。この情報とは、条約が奨励する行動をとれるようにする情報のことである(添付文書を参照)。このような過程を踏めば、情報の伝達が現在どこで途切れ、直接に条約の施行を妨げているかが明らかになる。「湿地広報教育普及啓発行動計画」が対処しなければならないのは、こうした部分についてなのである。

27.専門情報源及び専門的な研修機会の特定−情報伝達について検討する場合、この分野における能力増強の機会を提供しうる情報や研修が、どこで得られるかを明らかにすることも重要な要素である。この件については、条約の国際団体パートナーや条約事務局に問い合わせるのが有用かもしれない。また、「普及啓発プログラム」(後述第3943節を参照)では、広範な参考資料と各種の研修手段を抱えている国々に対して、その利用可能性について宣伝し、それらを簡単に利用できるようにするよう要請している。専門知識や知見の共有を円滑にすることは、「湿地広報教育普及啓発行動計画」の中核となる要素である。適当な参考資料源や研修の機会をつきとめようとする場合、各国の湿地広報教育普及啓発担当窓口が、他の国の担当窓口に助言や支援を求めることが期待されている。この件については、条約事務局の湿地管理研修機会目録も役に立つはずである(第4446節を参照)。

28.インターネット及び電子メールの力の全面的活用−情報ハイウェイの出現とともに、情報伝達方法は急速に変化した。「普及啓発プログラム」の下でも、この点を見越して「湿地広報教育普及啓発行動計画」に取り入れるべきである。条約事務局にはしっかりと整備されたウェブのサイトがあり、日々の業務ではますます電子メールを活用するようになっている。「普及啓発プログラム」の一つの目標として、各締約国の条約担当省庁と2000年までに電子メールのやりとりをできるようにすることが掲げられている。この目標には、各国の湿地広報教育普及啓発担当窓口に任命された者とも電子メールでやりとりすることが含まれており、それと同じ人が、ラムサール条約のウェブサイトにもアクセスできなければならない。条約事務局は引き続きラムサール条約ウェブサイトを整備し、それがこの「普及啓発プログラム」の中枢として確実に存続できるように、参考資料を追加していく。

29.地球規模でのラムサール電子メールネットワークの構築−以上に述べたことに続いて目標とすることは、インターネットのアクセスを徐々に拡大し、ラムサール条約担当政府機関、各国の湿地広報教育普及啓発担当窓口、ラムサール登録湿地管理者、環境教育・普及啓発専門施設、及び地域社会や先住民の人々等(第4749節を参照)の間で、電子メールのやりとりをできるようにすることである。この情報伝達ネットワークは、知識と情報を共有するための地球規模のラムサール条約電子ネットワークに対して、枠組みを提供することになる。各国の「湿地広報教育普及啓発行動計画」及び他のレベルにおける行動計画においても、主要な人々がインターネットのアクセスと電子メールの能力を身につけられるような、将来を見越した計画とビジョンを持つべきである。

30.条約事務局とラムサール条約担当政府機関との間での正式な情報伝達の継続とその増進−条約事務局では、ウェブサイトに加えて、ラムサール条約担当政府機関との正式な情報伝達や、担当省庁間の正式な情報伝達を行うために「ラムサール・エクスチェンジ」を維持している。この情報交換システムは、英語、フランス語、スペイン語の3か国語で別々に運用されており、条約事務局が電子メールアドレスを把握している、すべてのラムサール条約担当政府機関がこれに含まれている。また同様の目的で、常設委員会及び科学技術検討委員会のメンバーを対象とした別のメーリングリストもある。条約事務局はこの情報伝達機能をさらに拡大するため、各国の湿地広報教育普及啓発担当窓口向けの「ラムサール・エクスチェンジ」を設置する予定である。国内の「湿地広報教育普及啓発行動計画」においては、中心となる人々が適切な「ラムサール・エクスチェンジ」を操作できるようにすることを優先事項とすべきである。

31.ラムサールフォーラムの拡大−このほか条約事務局は、ラムサールフォーラムという、電子メールによる一般向け公開討論の場を管理している。1998年後半現在、世界各地の組織、学術機関、政府、政府間機関、市民、合わせて540人が、ラムサールフォーラムに登録している。ラムサールフォーラムには毎月約100件の有意義なメッセージが掲載されており、内容は、条約事務局からの発表のほか、技術的な質問、支援要請、保全警報、他のグループからの会議のお知らせ等である。このフォーラムは貴重なサービスを提供しており、ラムサール条約にアクセスして湿地問題に関与するグループの数は増加している。国内の「湿地広報教育普及啓発行動計画」においては、国及び地方の中心的な人々が、ラムサールフォーラムに参加することを優先事項とすべきである。

32.締約国その他ウェブサイトとのリンク−生物多様性条約との協力の覚書及び共同作業計画と一貫して、ラムサール条約もまた、条約の下でのクリアリング制度という長期的なビジョンを支持する。すなわち、最終的には各締約国が条約の問題を専用に扱うウェブサイトを持つということである。これを達成することは、地球規模のラムサール電子メールネットワークの構築と同様、「普及啓発プログラム」の長期的なビジョンである。締約国には、各国の湿地関連活動を専用に扱うウェブサイトの設置を「湿地広報教育普及啓発行動計画」の中に盛り込むことが要請される。ラムサール条約の国際団体パートナーその他とともに、締約国にはまた、適当な情報資源を提供する既存のウェブサイトまたは新たに設置されるウェブサイトが、確実にラムサール条約のウェブサイトと互いに「ホットリンク」で結ばれるようにすることが、同じく要請される。

33.国際的に重要な湿地に関する利用しやすいデータベース−「国際的に重要な湿地のリスト」が急速に拡大するにつれ、電子的な手段によってこのような代表的湿地に関する情報を自由に利用できるようにすることが優先課題となっている。1999年末までには、オランダにある国際湿地保全連合事務局がラムサール条約のために管理しているデータベースを、インターネットに導入する予定である。オンラインで所定の範囲の質問に答える機能を加えることも予定している。「湿地広報教育普及啓発行動計画」を策定する場合、締約国はこうした展開を予測し、活動を促進する情報手段としてラムサール登録湿地データベースの利用拡大を図るよう計画すべきである。

キャンペーン

34.長期的及び短期的キャンペーン−普及啓発を図り、心構え及び行動の長期的な変化を促すために、キャンペーンという方法をとることも、「湿地広報教育普及啓発行動計画」の一貫として検討すべき要素の一つである。このようなキャンペーンは、問題についての意識を徐々に高めていくという、比較的目立たない活動の場合もあれば、適切な時期と場所を選んで人目をひくように、短期的な活動を行う場合もある。

35.世界湿地の日、世界湿地週間−「世界湿地の日」は、ラムサール条約戦略計画の行動3.1.5によって設置されたものであり、短期的な広報の方法の一つである。1996年以来この日を祝う人の数は増え、この日に対する関心も高まっている。「世界湿地の日」は、イランのラムサールにおける1971年の条約採択を記念して2月2日とされ、その日と重なる週が「世界湿地週間」となる。

36.様々な普及活動−一部の国々では、「世界湿地週間」の間に、懸案の問題について宣伝して一般の人々を現地の行動に参加させるための全国キャンペーンを開始したり、あるいは終了したりすることで成功を収めている。「地球規模で考え、現地で行動する」というスローガンは、湿地にも当てはまるのである。「普及啓発プログラム」の下ではこのような行動計画が奨励される。状況に応じて、湿地を復元したり、ゴミの収集や汚染の浄化を行ったり、侵入種を取り除いたり、教育的な標識を設置したりするという地元の行動や全国的な行動を行えば、地域社会による年間を通じた行動にも弾みがつくものである。それらはまた、複数の国によって共有されている湿地、河川流域、あるいは渡りを行う種の管理面での協力といった、より地域的な問題にも関連性を持ちうる。現在、いくつかの政府は、「世界湿地の日」と「世界湿地週間」がラムサール条約に基づいて達成された事柄の発表時期としてすべてのレベルで認識されるように、国際的に重要な湿地の追加や国家湿地政策の採択といった特別の発表を行う場として、この記念日とこの週を利用している。

37.条約事務局の支援−条約事務局は、「普及啓発プログラム」の下で引き続き「世界湿地の日」と「世界湿地週間」を事前にしっかりと広告宣伝し、湿地の保全と賢明な利用に関する様々な側面について普及啓発を行うべく、新たなテーマを毎年提示していく。条約事務局はまた、「世界湿地の日」及び「世界湿地週間」を推進する際に地球、地域、国、地方の各規模で利用するための参考資料も、引き続き提供していく。さらに条約事務局は、「世界湿地の日」がメディアで大きく取り上げられる日となるように、条約に基づく地球規模の新たな取組の開始日として毎年この機会を利用するように努めていく。

38.優先的な地域行動−締約国、NGO、地域住民、及び先住民の人々に対してもまた、「世界湿地の日」と「世界湿地週間」という機会をそれぞれ自分たちの湿地関連活動や計画を普及啓発する機会として利用することが要請される。

参考資料の共有

39.情報と専門知識の流れの集結−「普及啓発プログラム」の枠組みのもう一つの要素は、教育と研修に関係する参考資料を共有することである。こうした参考資料はきわめて大量に存在するものの、現在のところ世界各地に分散しており、それを共有したり交換したりする仕組みはほとんどない。このような資料には、子どもの教育用及び成人教育用の学習教材、正規教材というほどではない教育用材、普及啓発用資料、最新の研究成果等がある。このような種類の資料を大量に抱えている国もあれば、それを入手して自国の状況に適応させようと必至になっている国もある。

40.印刷物の作成と配布−条約事務局は、その責任の一端として、定期的なニュースレター、インフォメーションパック、条約を施行する際にガイドラインを提示するための詳細な技術刊行物等、一連の印刷資料を作成している。これまでに出版された印刷物には、「湿地の経済的価値」(1997年)、「湿地、生物多様性、そしてラムサール条約」(1997年)、「ラムサール条約:その歴史と進展」(1993年)等がある。「普及啓発プログラム」の一環として、条約事務局は、引き続きラムサール条約とその作業に関する教育的出版物や情報出版物のほか、より技術的な手引き等を出版していく。出版はラムサール条約の使用言語である3か国語で行われるほか、人材的・経済的な条件が許せば、その他の言語でも行われることになる。こうした出版物のウェブサイトへの掲載も同じく、可能な範囲で続けていく。「湿地広報教育普及啓発行動計画」の一環として、締約国は、条約事務局の作成したこうした資源情報を確実に利用できるように図るべきである。

41.教育資料のクリアリングハウスとしての条約事務局−「湿地広報教育普及啓発行動計画」の策定にあたっては、条約事務局以外からの教育資料についても、利用可能性を検討すべきある。こうした資料を国が保有している場合には、地球レベルでその存在を公表できる条約事務局に当該資料を利用できるようにすることを提案する。条約事務局は、ラムサール条約のウェブサイトで教育資料のクリアリングハウスまたは地球規模のライブラリを運用することにより、参考資料の円滑な共有を図ることができる。クリアリングハウスの考え方に沿って、ラムサール条約のウェブサイトは、中央政府、NGO、その他ウェブサイトを持っている関係者の間で、同様の資源を抱えているウェブサイトネットワークのノードあるいはハブとして機能することになる。これは、既に設置された賢明な利用資料センターにより、1998年の「世界湿地の日」に開始される。

42.言語及び地域的背景についての考慮−他の国のために作られた教育資料を使おうとする場合、大きな障害となるのは言語と背景の違いである。ラムサール条約担当政府機関、条約事務局、NGOその他関連する組織には、関連する参考資料をその国の言語に翻訳し、内容を地域的な状況に合わせて調整するための資源と方法を探ることが要請される。

43.湿地専門家データベースの利用−条約事務局は1998年にラムサール条約の湿地専門家データベースを構築した。1999年初めまでには、このデータベースに約450名の湿地専門家が登録される予定である。このデータベースは、湿地管理上の問題に対処する際の助けとなる適切な専門家を特定できるようにして、湿地管理者とその実践者に便宜を図ることを目的とする。この専門家データベースは、「普及啓発プログラム」の下で、情報と知識がスムーズに流れるように拡張される。第7回ラムサール条約締約国会議においてもまた、各締約国に対して、科学技術検討委員会の検討する事項を扱う担当窓口を指定するよう要請し、技術的専門知識に関する分野での条約の能力を増強したところである(決議.2参照)。これにより、技術的専門家の地球ネットワークができあがることになり、条約事務局は、専門的な助言を求めるもう一つの経路を提供できるものとしてこれを宣伝することになる。当該決議ではさらに、ラムサール条約が協力の覚書を交わした他の国際条約の専門的科学技術機関、すなわち生物多様性条約、ボン条約、砂漠化防止条約、世界遺産条約のリンクを創設する。さらにラムサール条約科学技術検討委員会と、湿地科学者協会、国際湖沼学会、世界湿地経済学ネットワークなどの専門機関やネットワークとの間にリンクを設立し、広報教育普及啓発行動計画において、こうした技術的専門知識や科学的な専門知識を直接利用できる機会について留意し、それを適切に促進することが要請される。

学校教育及び研修

44.学校教育課程の一環としての湿地保全と賢明な利用−湿地広報教育普及啓発分野において検討すべきもう一つの要素(上述22節参照)は、ラムサール条約が推進する湿地の保全と賢明な利用原則を推進するために、適切な教材をどの程度まで、国内の学校教育課程の中に盛り込むかを評価することである。この点で、教育省の代表を湿地広報教育普及啓発特別部会または適切な機構に加えることが推奨される。ラムサール条約の原則がこうした教育課程に盛り込まれない場合には、湿地広報教育普及啓発特別部会または適切な機構がこの状況を是正する最善策を検討し、ラムサール条約担当政府機関にそれを勧告する必要がある。当該原則が学校教育課程の一部として採り入れられた場合には、条約事務局がその詳細情報及び他の国の見本となりうる内容を公表して提供できるように、同事務局に詳細を提出することが締約国に要請される。

45.研修計画の利用しやすさの向上−条約事務局は、湿地管理研修を受けたいと望む人々を支援するために、1998年に「湿地管理研修機会目録」の作成を開始した。1999年1月時点で、この目録には約100件の研修の機会に関する情報が記載されていた。現在、この目録は、印刷物でも、ラムサール条約ウェブサイトからでも入手できる。湿地広報教育普及啓発に関する必要性、能力及び機会について検討する一環として、自国内にある湿地研修の機会を特定し、これを行動計画に織り込むことが締約国に期待されている。また湿地広報教育普及啓発に関する研修の機会についても、こうした検討の一部に加えるべきである。またこのような情報は、「湿地管理研修機会目録」に加えてもらうよう、条約事務局に提出すべきである。

46.研修必要性分析の実行−現在どのような研修機会があるのかを認識することも重要だが、さらに重要なことは、研修に対してその国にあてはまる優先順位を設定することである。まずその第一ステップとして、研修が支援する事項に対して優先順位を設定する。これに関する勧告は、湿地広報教育普及啓発特別部会または適切な機構が、国内及び優先的対象グループ内の湿地に対する脅威について出した結論を基にして、行うべきである。例えば特別部会が、特定の地域内の湿地に対する最大の脅威は侵入種の植物だと結論していたなら、明らかに、現地の湿地管理者やその雑草の防除や根絶に必要な作業に関係する人々に対する研修が最優先事項となる。また、開発プロジェクトを承認するにあたり、地方自治体の行政官が湿地の提供する便益や利益を過小評価していた場合は、こうした個人に対する経済評価方法の研修が優先事項となりうる。

教育・普及啓発センター

47.環境・湿地教育センターとの協力−このようなセンターがある場合には、湿地保全と賢明な利用原則を推進し、「関係者」間の情報伝達を促進することを設置目的としているのが理想である。英国の野禽湿地トラストは、情報の共有を促進するために、湿地リンクインターナショナル(Wetlands Link International: WLI)計画を通じてこうしたセンター間の通信ネットワークを開設し始めている。湿地リンクインターナショナルについての詳細は、本「普及啓発プログラム」の添付文書に記載する。ラムサール条約の「普及啓発プログラム」においては、湿地リンクインターナショナルの新たな取組を湿地広報教育普及啓発の国際行動、地域行動、国内行動、地方行動の基礎とするため、次の行動をとることが勧告される。

a.ラムサール条約事務局及びその国際団体パートナーは、主要教育配信機構として湿地リンクインターナショナルを支援するため、民間企業その他から資源を得るように努める。

b.ラムサール条約事務局は自らのウェブサイトを通じて湿地リンクインターナショナルを宣伝するとともに、それに加わっているセンターに対しては、湿地広報教育普及啓発を促進する中心的な国内センターになるように奨励する。

c.締約国には、「普及啓発プログラム」の目的を推進する一助とするため、各国の湿地広報教育普及啓発活動の一環として、自国内にある環境教育センター間または湿地教育センター間、及び外国の当該センターとの間での姉妹提携締結について検討することが要請される。こうした関係を結んだ場合には、職員の交換やインターネットリンクの設定を最優先とする。

d.締約国には、情報や専門知識の交換に寄与できるように、自国内にある環境センター及び湿地センターの職員に、湿地リンクインターナショナル・ネットワークの存在を知らせることが奨励される。

e.湿地教育普及啓発の国内担当窓口は、湿地リンクインターナショナルに加わっているセンターと密接に協力すべきであり、適当な場合には、こうしたセンターの代表を湿地広報教育普及啓発特別部会または適当な機構に加えるべきである。

f.教育センター設立の際に湿地リンクインターナショナル・ネットワークが得た経験については、同じように教育センターの設立を希望する者の参考になるように、文書化して配布する。

48.環境・湿地教育センター設立への努力−「普及啓発プログラム」においては、こうした施設が「湿地広報教育普及啓発行動計画」の実施に不可欠な要素だとみなされている。湿地環境での実践経験を提供するほか、こうしたセンターが提供できる一連の機能については、上述したとおりである。またこうしたセンターがエコツーリズムを通してかなりの経済的利益を地元に提供しうることは、これまでの経験から示されている。国内「湿地広報教育普及啓発行動計画」を策定する場合、締約国には、教育及び普及啓発活動の主要拠点を提供しうる、環境センターまたは湿地教育センターを将来的に設置するための規定を盛り込むことを検討するよう、要請される。こうしたセンターは、市場経済移行国または開発途上国に対しても、持続可能な開発を促進するためのかなりの資金的な利益を提供しうる。

49.学習施設の関与−博物館、動物園、水族館、植物園その他これに類する機関は、技術的助言と公的な教育を行うという面で多くのことを提供できる。こうした施設は一般の人々にも人気があるので、その展示物に湿地への関心を組み込むすばらしい場を提供する。締約国には、湿地の価値と重要性を宣伝するために、こうした専門センターとのパートナーシップを確立し、協力して作業に当たることが奨励される。「普及啓発プログラム」の下では、上述した湿地リンクインターナショナルの新たな取組に参加するよう、上記機関に対して推奨すべきである。


訳注 ホームページ


添付文書

普及啓発プログラムの優先的対象グループ

A)一般大衆

対象グループ個人根拠求める行動
地主(特に、湿地の管理に責任を持つ者)地主は湿地に直接影響する決定を下す。ラムサール条約は専門的情報を彼らに伝えるとともに、彼らがそうした情報を利用できるようにしなければならない。ラムサール条約の賢明な利用という原則に沿って湿地を持続可能な方法で利用すること。
先住民および地域社会湿地に関係のある多くの先住民や地域社会には、こうした生態系を持続可能な方法で管理する偉大な知識がある。ラムサール条約は、この経験を他の湿地管理者と共有することを奨励するよう目指すべきである。湿地および資源の持続可能な利用について先住民や地域社会が持っている知識を共有すること。

世界の先住民が湿地の持続可能な利用を継続して行うこと。
女性多くの文化では、女性は、家族という単位の中で一番実行力に富み、生活習慣の変更を受け入れやすい傾向があるので、湿地管理に携わる女性をふやすことは優先事項である。女性はまた、家族の中で一番多くこどもと言葉を交わすものである。湿地の持続可能な(賢明な)利用の促進と達成に対して、家族全員が関与すること。
子ども子どもは次の世代の環境管理者ないし環境の世話人であり、子どもたちには、ラムサール条約が湿地の重要性とその賢明な利用法を確実に伝えなければならない。若者が湿地の保全と賢明な利用に責任を持つこと。
全国規模NGO、地域NGO多くの国では、地域NGOが行動達成になくてはならない存在である。彼らが専門的な情報を利用できるような環境が必要である。すべてのレベルで、湿地の賢明な利用を援助し、奨励し、円滑にすること。
電子メディア、活字メディアに携わる人々電子メディアや活字メディアでのニュースやその他の記事を通じて、一般大衆への湿地に対して肯定的な参考情報の伝達を促進できる。湿地の提供する多くの機能、便益、利益を認識すること、またそれによって、メディアが湿地問題を大きくかつ詳細に取り上げるようになること。
地域社会のリーダー、著名人:スポーツ選手、宗教の指導者、芸術家、王族等地域社会のリーダーは、一般に対する存在感を利用して懸案の課題に対する注意を引くことができる。また湿地保全に共感する人々は、ラムサール条約のメッセージを普及する理想的な大使となることができる。地域社会の意識を高めるためにラムサール条約の理想と原則を普及し、人々が湿地に対して依然抱いているマイナスのイメージを一掃すること。

B)すべてのレベルの政府

対象グループ個人根拠求める行動
地方自治体、県又は州の政府および中央政府内の環境政策決定者および計画策定者左記の政策決定者は、地域レベルおよび地方的な規模での主な政策策定者である。彼らの行動は地方のレベル又は集水域や河川流域の規模で、湿地に対して直接に、プラスにもマイナスにも影響しうる。今後の喪失や劣化をくい止めるため、政策策定や計画立案の過程で湿地のあらゆる機能、便益、利益について検討すること。これらの政策決定者が、環境管理対策として湿地の復元や修復をするようになること。
地方自治体、県又は州の政府および中央政府内の湿地管理者(監視人、レンジャー等)こうした人々は、ラムサール登録湿地の管理を担当する場合には特に、湿地生態系を管理する最善の実施方法について助言を受ける必要がある。ラムサール条約の賢明な利用という原則に沿って湿地を持続可能な方法で利用すること。
各国のラムサール条約担当省庁彼らは、自己の裁量で適用したり普及したりできる最善の情報を持つべきである。ラムサール条約によって課されたすべての義務と期待に応え、すべてのレベルの行動に対して、必要な政策上、行政上、計画上の枠組みを設定すること。他の国際的および地域的な環境条約を担当する省庁と協力すること。
各国の他の環境関連条約担当省庁およびその担当部局湿地等の土地および水資源の管理に対して総合性の高い方法をとるべきだとすれば、他の条約を実施する人々にもラムサール条約への理解と共感を呼び起こす必要がある。条約の実施に対して総合的な計画を達成するために、ラムサール条約その他すべての国際的および地域的な環境条約の実施に責任を有する人々と協力すること。
ラムサール条約その他環境関連条約に関する国内諮問委員会(国内ラムサール委員会等)湿地等の土地および水資源の管理に対して総合性の高い方法をとるべきだとすれば、ラムサール条約その他の条約の実施に関して政府に助言する人々にも、ラムサール条約への理解と共感を呼び起こす必要がある。ラムサール条約によって課されたすべての義務と期待に応え、すべてのレベルの行動に対して、必要な政策上、行政上、計画上の枠組みを設定すること。条約の実施に対して総合的な計画を達成するために、ラムサール条約その他すべての国際的、および地域的な環境条約の実施に責任を有する人々と協力すること。
すべての持続可能な開発関連職務および環境関連条約を担当する大臣および国会議員、州議会議員、県議会議員、地方議会議員彼らは政策の設定、予算配分等に直接介入するため、ラムサール条約はこうした大臣やあらゆる政府閣僚から支持を得る必要がある。国会議員(野党の議員ら)は、将来こうした地位につく可能性がある。湿地および水資源の持続可能な利用を促進するために、ラムサール条約を前向きな手段として利用することの価値を認識すること。
各国の援助機関、二国間援助機関ラムサール条約は、一連の持続可能な開発問題に関して政府と接触している左記機関が行っている内容について、概ね良好な理解が得られているように確保する必要がある。ラムサール条約は、関係当局者に対して十分な説明がなされ、かつ彼らが締約国内の現地プロジェクトを通じてラムサール条約の原則を支持できるように確保しなければならない。ラムサール条約の賢明な利用という原則に一致するプロジェクトを支援すること、また逆に、湿地の破壊や劣化を招くようなプロジェクトを支援しないこと。
大使、および海外任務につく職員中央政府がより良く情報に精通できるように、こうした政策決定者がラムサール条約とその運用方法について全面的に理解していることが重要である。湿地および水資源の持続可能な利用を促進するために、ラムサール条約を前向きな手段として利用することの価値を認識すること。

C)国際的組織および地域的組織

対象グループ個人根拠求める行動
世界的な組織 − 世界銀行、地球環境ファシリティー、国連開発計画、国連環境計画、地球水パートナーシップ等ラムサール条約は、一連の持続可能な開発問題に関して政府と接触している左記機関の内部に、条約の活動内容に対する概ね良好な理解があるように確保しなければならない。ラムサール条約は、関係当局者に対して十分な説明がなされ、かつ彼らが締約国内の現地プロジェクトを通じてラムサール条約の原則を支持できるように確保しなければならない。ラムサール条約の賢明な利用という原則に一致するプロジェクトを支援すること、また逆に、湿地の破壊や劣化を招くようなプロジェクトを支援しないこと。
地域的な組織 − 南太平洋地域環境プログラム、欧州委員会、南部アフリカ開発共同体、地域的な開発銀行等同上同上
世界的なNGOパートナー、その他国際NGO、地域NGO条約の4つの正式なNGOパートナー(IUCN(国際自然保護連合)、WWF(世界自然保護基金)、国際湿地保全連合、バードライフ・インターナショナル)は、いずれもラムサール条約の推進に積極的であり、また有効である。ラムサール条約のメッセージを伝えることに関与するこうした国際NGOや地域NGOを増やす必要がある。すべてのレベルで、湿地の賢明な利用を援助し、奨励し、円滑にすること。
他の環境関連条約や計画(生物多様性条約、砂漠化防止条約、ボン条約、気候変動枠組み条約、絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約、世界遺産条約、人と生物圏プログラムの事務局)地球レベルおよび各国レベルで条約間の協力を促進したいならば、左記を対象とすることが不可欠である。条約の実施に対して総合的な計画を達成するために、ラムサール条約その他すべての国際的および地域的な環境条約の実施に責任を有する人々と協力すること。

D)民間企業

対象グループ個人根拠求める行動
潜在的な後援者、支援者ラムサール条約は湿地の持続可能な利用を推進している。したがって民間企業の行っている活動が条約の目的に反しないように、働きかけなければならない。ラムサール条約の賢明な利用という原則に一致するプロジェクトを後援すること、また逆に、湿地の破壊や劣化を招くようなプロジェクトを行ったり支援したりしないこと。
主な民間企業
  • 水および衛生設備
  • 潅漑および給水
  • 農業
  • 鉱業
  • 林業
  • 漁業
  • 環境管理者
  • 観光
民間企業のうち、左記等の部門は、湿地に大きくマイナスの影響を及ぼす可能性がある。ラムサール条約は、企業活動が湿地の喪失を招かないように確保する実践方法を、当該企業内において推進しなければならない。ラムサール条約の賢明な利用という原則に一致するプロジェクトを支援すること、また逆に、湿地の破壊や劣化を招くようなプロジェクトを支援したり行ったりしないこと。

すべてのレベルで、湿地の賢明な利用を援助し、奨励し、円滑にすること。
職業団体ラムサール条約は、職業団体を通じて同条約の賢明な利用の実践を奨励すべきである。すべてのレベルで、湿地の賢明な利用を援助し、奨励し、円滑にすること。

E)教育部門および教育機関

対象グループ個人根拠求める行動
教育大臣、教育課程作成当局、審査理事会、大学左記はすべて、湿地の保全と賢明な利用という問題を、学校教育課程に加えるよう働きかけることができる。この普及啓発プログラムに基づき、適切に策定された湿地広報教育普及啓発行動計画のうち、関連部分の実施を支援すること。
全国教師連盟、国際教師連盟教育課程や学習プログラムにラムサール条約の原則を盛り込むことは、一般的には教職員協会と協力することによって促進できる。この普及啓発プログラムに基づき、適切に策定された湿地広報教育普及啓発行動計画のうち、関連部分の実施を支援すること。
環境教育に関する全国ネットワーク、国際ネットワーク、協会および評議会左記の組織が作成中の教育資料その他の資料に、湿地と水の問題を盛り込むことができる。この普及啓発プログラムに基づき、適切に策定された湿地広報教育普及啓発行動計画のうち、関連部分の実施を支援すること。
湿地センター、環境センター、動物園、水族館、植物園等左記は、ラムサール条約のメッセージを広める場として理想的であり、適切な情報と資料がそこで入手できるように、努力を傾注すべきである。この普及啓発プログラムに基づき、適切に策定された湿地広報教育普及啓発行動計画のうち、関連部分、実施を支援すること。
全国図書館ネットワーク、国際図書館ネットワーク図書館ネットワークは、ラムサール条約と湿地に関する情報を一般市民に利用しやすいものにできるすばらしい場を提供する。この普及啓発プログラムに基づき、適切に策定された湿地広報教育普及啓発行動計画のうち、関連部分の実施を支援すること。


添付文書

野禽湿地トラスト(英国)の
湿地リンクインターナショナル計画

英国を本拠地とするNGOの野禽湿地トラストは、1990年に湿地リンクインターナショナル計画を策定した。この計画は、湿地教育センターの新設と既存の湿地教育センターの向上という面で、世界各地の組織を支援しようとするものであった。オーストラリア、フランス、香港、イタリア、ニュージーランド、シンガポール、トリニダードトバゴ、イギリス、アメリカ合衆国のセンターが中心グループとなって開始したこの計画は、湿地リンクインターナショナルの愛称「ウェリー」の名で呼ばれるようになり、今やそのデータベースには100か国を超える国々から、900以上もの個人やグループや組織がアクセスするまでに成長した。

ニュースレターが年2回発行され、これがネットワーク内のコミュニケーションを図る主な機関誌となっている。過去9年間にわたり、プロジェクトは一つずつ計画され、研修、センター設立、広範な教育・普及啓発プログラム等が実施された。

この計画は、当初、商業的な資金源から資金を調達していたが、ここ5年間は、野禽湿地トラストがこの計画の経営やそのとりまとめ役の給与を支えてきた。残念ながらこの資金も1998年5月に停止された。

野禽湿地トラストはこの計画を継続して運営する予定であり、更なる整備のための資金を積極的に集めているところである。復活した湿地リンクインターナショナルの中で野禽湿地トラストは、センターのレベルでもその上のレベルでも、個人や組織や機関が湿地に関する教育・普及啓発プログラムを策定するのを援助するために、計画の中心を拡大していく予定である。主要な手段は、野禽湿地トラストのウェブサイトに設置する「学習ゾーン」であり、そこには、湿地に関する教育・広報資源に関するデータベースと、湿地教育センターの育成を助ける主要情報が収載されている。

野禽湿地トラストの背景

野禽湿地トラストは英国に本拠を置く、50年以上もの歴史をもつ組織であり、国内で8か所のビジターセンターを運営するほか、現在はロンドンに9番目のセンターである湿地センターを設立中である。野禽湿地トラストは多数の個人や組織や機関が、世界各地でそれぞれの湿地センターを設立するのを支援している。野禽湿地トラストの最も有名なセンターは、1946年にピーター・スコット卿がこの組織を創設した地、イングランド西部スリムブリッジにある。

各地の野禽湿地トラストセンターには、毎年75万人もの人々が訪れているが、2000年には、ロンドンセンターの開設により、この数字が100万人以上に膨れるものと期待されている。

野禽湿地トラストの主な目的は、湿地の価値と利益について普及啓発し教育することであり、沼地観察と水地域キャンペーン(198894年)、学校向け探検計画、説明・展示物開発計画(ディスカバリ・センターや遊びながら学習する方式のセンターの新設等)等、野禽湿地トラストの目的を支えるための計画を多数策定してきた。野禽湿地トラストは、国際湿地保全連合の教育・普及啓発専門家グループのとりまとめも担当している。

詳しい情報は、以下で入手されたい 編注
Doug Hulyer, Director of Conservation Programmes & Development, WWT, Slimbridge, Glos. GL2 7BT, U.K. 電話番号:(+44) 1453 890333 内線 224.ファクシミリ:(+44) 1453 890827;電子メール: doug.hulyer@wwt.org.uk.


編注 2006年現在すでに担当者は替わっている.最新の担当者・連絡先は「湿地リンクインターナショナル」ウェブサイトで確認されたい:http://www.wli.org.uk/(英語・仏語・西語).


「記録」表紙

[英語原文:ラムサール条約事務局,1999.Ramsar Resolution VII.9 Annex "The Convention's Outreach Programme 1999-2002", May 1999, Convention on Wetlands (Ramsar, 1971). http://ramsar.org/key_outreach_prog_e.htm.]
[和訳:「ラムサール条約第7回締約国会議の記録」(環境庁 2000)より了解を得て再録,琵琶湖ラムサール研究会,2001年6月,編注追加:2006年9月.]
[レイアウト:条約事務局ウェブサイト所載の当該英語ページに従う.]


Swan 琵琶湖水鳥・湿地センターラムサール条約ラムサール条約を活用しよう●第2部●「普及啓発」
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URL: http://www.biwa.ne.jp/%7enio/ramsar/cop7/key_outreach_prog_j.htm
Last update: 2006/09/27, Biwa-ko Ramsar Kenkyu-kai (BRK).