Swan  琵琶湖水鳥・湿地センターラムサール条約ラムサール条約を活用しよう第8回締約国会議

ラムサール条約 基調文書

国際的に重要な湿地のリスト拡充の戦略的枠組み,2002年版

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Ramsar CoP'

ラムサール条約(1971年にイランのラムサールにて採択)の国際的に重要な湿地のリストを将来的に拡充するための戦略的枠組み及びガイドライン


決議Ⅶ.11で採択された附属書に,それぞれの決議に従って適切な位置に,決議Ⅶ.13Ⅷ.11,ならびにⅧ.33の附属書の内容が統合された.1999年の旧版はこちら. ]

目次

.はじめに

.国際的に重要な湿地のリスト(ラムサール条約登録湿地リスト)に関するビジョン、目標、短期目標

.国際的に重要な湿地とラムサール条約における賢明な利用原則

.ラムサール条約登録湿地に指定する優先的湿地を選定するための体系的方法に関するガイドライン

.1 特定の湿地タイプを選定し指定するためのガイドライン

a.カルスト等の地下水文系を国際的に重要な湿地として選定し及び指定するためのガイドライン
[編注:この分節.1のaは,決議Ⅶ.13で付属書として採択された.]

b.泥炭地、湿性草地、マングローブ、サンゴ礁を国際的に重要な湿地として特定し指定するための手引き
[編注:この分節.1のbは決議Ⅷ.11で付属書として採択された.]

c.一時的な湿地を特定し、持続可能な方法で管理し、「国際的に重要な湿地」として指定するための手引き
[編注:この分節.1のcは決議Ⅷ.33で付属書として採択された.]

.国際的に重要な湿地を指定するための基準及び長期目標、並びにその適用のためのガイドライン

湿地グループA:代表的、希少または固有な湿地タイプを含む湿地

基準1     代表的、希少または固有な湿地タイプに関する選定基準

湿地グループB:地球規模の生物多様性の保全に重要な湿地

基準2、3、4 種及び生態学的群集に基づく選定基準

基準5、6、  水鳥に基づく特定基準

基準7、8、  魚類に基づく特定基準

添付文書A:ラムサール登録湿地情報票
[編注:この添付文書Aから下のDまでは,決議Ⅷ.13で添付文書として採択された.]

添付文書B:ラムサール条約の湿地分類法

添付文書C:国際的に重要な湿地の選定基準
[編注:この添付文書は添付文書Aに付属される本指針本文第節のサマリーである.]

添付文書D:ラムサール条約湿地のための地図や他の空間データの規定のための追加ガイドライン

添付文書E:戦略的枠組み用語集

添付文書F:参考文献


.はじめに

背景

1. 主権国家は、ラムサール条約(1971年にイランのラムサールにて採択)に署名する際、または同条約の批准書もしくは加盟書を寄託する際に、条約第2条4に基づいて、少なくとも1か所の湿地を国際的に重要な湿地として指定するよう義務づけられている。その後は、第2条1に定めるように、「各締約国は、その領域内の適当な湿地を指定するものとし、指定された湿地は、国際的に重要な湿地に係る登録簿に掲げられる。」

2. 上述の条約第2条1で用いられている「適当な」というキーワードについては、条約第2条2に部分的に解釈を助ける条文があり、当該条項では、「湿地は、その生態学上、植物学上、動物学上、湖沼学上または水文学上の国際的重要性に従って、登録簿に掲げるため選定されるべきである。特に、水鳥にとっていずれの季節においても国際的に重要な湿地は、掲げられるべきである」と定めている。

3. ラムサール条約は、その進展過程を通じて常に、国際的に重要な湿地(登録湿地)を選定するための基準を策定し、絶えずその見直しを行ってきた。またこの条約は、自然保護科学の発展を反映した基準を締約国が解釈しかつ応用するのを補佐すべく、定期的にガイドラインを更新して当該基準を補ってきた。

4. 「国際的に重要な湿地のリスト」の拡充に対する戦略の方向性は、これまではどちらかといえば限定的なものであった。その顕著な例として第6回締約国会議では、条約の「1997−2002年戦略計画」を通じて、「地球規模または国内で、特にこれまであまり登録されていない湿地タイプに関して、国際的に重要な湿地のリストへの登録湿地の面積を増やす」よう、締約国に要請している(実施目標6.2)。

目的

5. 第7回締約国会議において登録湿地の数が急速に1000に近づきつつある中で、ラムサール条約は、この「国際的に重要な湿地のリスト(登録湿地リスト)を将来的に拡充するための戦略的枠組み及びガイドライン」を採択した。その目的は、ラムサール条約が登録湿地を通じて達成しようとしている長期目標または成果に関して、より明確な展望、つまりビジョンを示すことである。また締約国が登録湿地の総合的な国内ネットワークを構築するために、将来の指定に関して優先順位を特定しようとする場合、体系的な方法をとれるように締約国を補佐すべく、手引きも提供している。この登録湿地の総合的な国内ネットワークは、地球レベルで考えれば、登録湿地リストに関して掲げたビジョンを実現するものである(次の第項を参照)。


.国際的に重要な湿地のリスト(ラムサール条約登録湿地リスト)に関するビジョン、目標、短期目標

ラムサール条約登録湿地リストに関するビジョン

6. ラムサール条約は、「国際的に重要な湿地のリスト」に関して、以下のビジョンを採択した。

生態学的及び水文学的機能を介して地球規模での生物多様性の保全と人間生活の維持に重要な湿地に関して、国際的ネットワークを構築し、かつそれを維持すること。

7. 上述した湿地の国際的ネットワークについては、条約の各締約国の領土内に設けられた国際的に重要な湿地の、緊密な総合的ネットワークから構築しなければならない。

登録湿地リストの目標

8. 登録湿地に関する上述のビジョンを実現するため、締約国、条約の国際団体パートナー、地域の利害関係者及びラムサール条約事務局は、以下の4つの目標の達成をめざして協力していく(この目標は優先順に並んでいるわけではない)。

目標1 各締約国に、湿地の多様性並びにその主要な生態学的及び水文学的機能を完全に代表する登録湿地の国内ネットワークを設立すること。

9. 1.1)各生物地理区内に存在する自然のまたは自然度が高い湿地タイプごとに少なくとも1か所の適当な(つまり国際的に重要な)湿地を登録湿地に加えること(湿地タイプについては添付文書Bを参照のこと。生物地理区の定義については添付文書Eを参照のこと)。生物地理区分は地球、超国家的な地域、または各国で定められるものであり、各締約国が自国に適切な形でそれを適用する。

10. 1.2)湿地タイプごとに適当な湿地を決定する場合には、主要河川流域、湖または沿岸系の自然の機能の中で、生態学的または水文学的に重要な役割を果たしている湿地を優先すること。

目標2 適当な登録湿地の指定と管理を通じて、地球規模の生物多様性の維持に寄与すること。

11. 2.1)地域、地方、国、超国家的な地域のレベル及び国際的なレベルにおいて、生物多様性の保全と湿地の賢明な利用を最善の態様で推進するため、登録湿地リストの拡充について見直し、適宜、登録湿地の特定と選定のための基準を一層向上させること。

12. 2.2)絶滅のおそれのある生態学的群集を含む湿地、または、絶滅のおそれのある種に関する国内法もしくは国家計画、またはIUCN(国際自然保護連合)レッドリスト、絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約(ワシントン条約)の付属書、及び移動性野生動物種の保全に関する条約(ボン条約)等の国際的な指定により、危急種、絶滅危惧種または近絶滅種と特定された固有種の生存にとって重要な湿地を、登録湿地に加えること。

13. 2.3)各生物地理区(定義は用語集を参照)の生物多様性の保全に不可欠な湿地を、登録湿地に加えること。

14. 2.4)生物の生活史の重要な段階においてまたは悪条件の期間中に重要な生息地を提供する湿地を、登録湿地に加えること。

15. 2.5)関連する登録湿地選定基準の定めるところにより、水鳥及び魚類の種または系統にとって直接の重要性を持つとされる湿地を、登録湿地に含めること(第項を参照)。

目標3 登録湿地の選定、指定及び管理の面で、締約国、条約の国際団体パートナー、及び地域の利害関係者の間の協力を促進すること。

16. 3.1)渡り鳥の渡りルート沿いにある湿地、国境を共有する湿地、同じ様なタイプの湿地、または同じ様な生物種が生息している湿地に関して、2か国(またはそれ以上)の締約国の間で、登録湿地「姉妹提携」協定を結ぶ機会を探ること(決議.19)。

17. 3.2)その他の形式の共同事業で、登録湿地及び湿地一般の長期保全及び持続可能な利用の達成を実証または援助できるものを、複数の締約国の間で行うこと。

18. 3.3)登録湿地リストの戦略的作成、及びそれに続いて地方、国内、超国家的な地域で行われる登録湿地の管理及び国際的に行われる登録湿地の管理において、適当な場合には、NGO及び地域社会に根ざした組織がより大きな役割を担い、かつより大きく貢献するよう奨励し、また支援すること(決議.8)。

目標4 補い合う環境条約に関する各国の協力、超国家的な地域の協力、及び国際的な協力を推進する手段として、登録湿地ネットワークを利用すること。

19. 4.1)生物多様性の喪失、気候変動及び砂漠化の進行の推移を検出するための国別モニタリング、超国家的な地域モニタリング、及び国際的なモニタリングのためのベースライン及び参照地域として、登録湿地を利用すること。

20. 4.2)登録湿地において、保全及び持続可能な利用の実証プロジェクトを実施すること。これはまた、生物多様性条約、気候変動に関する国際連合枠組み条約、砂漠化防止条約、絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約、世界遺産条約、移動性野生動物種の保全に関する条約及びそれに基づくアフリカ・ヨーロッパ渡り性水鳥協定等、適当な国際的環境協定との協力、並びに、北米水鳥管理計画、西半球シギ・チドリ類保護区ネットワーク、1996−2000年アジア太平洋地域水鳥保全戦略、地中海湿地フォーラム、南太平洋地域環境プログラム、南アフリカ開発共同体(SADC)、東南アジア諸国連合(アセアン)、欧州連合のナチュラ2000ネットワーク、ヨーロッパの野生生物及び自然生息地に関する条約(ベルン条約)のエメラルドネットワーク、汎欧州生物及び景観多様性戦略、アンデス高地湿地計画、アマゾン協力条約、環境と開発に関する中米委員会等の地域協定や協力のためのイニシアチブとの協力に関して、具体例を示すものとなる。

登録湿地リストに関する2005年までの短期目標

21. ラムサール条約は、生物の多様性と生産性に富んだ中心地であって、かつ人類の生命維持システムでもある湿地の重要性を強調し、世界の多くの地域で湿地の連続的な喪失と劣化が進行していることを憂慮している。この憂慮への対応として、条約は、登録湿地に関する以下の短期目標を設定した。

登録湿地を拡充する際には、条約が採択した長期的ビジョン、戦略目標、及び登録湿地に関する目標を考慮すべきことを認識した上で、2005年に開催される第9回ラムサール条約締約国会議までに、少なくとも2000か所の湿地を「国際的に重要な湿地のリスト」に掲げるよう確保すること。


.国際的に重要な湿地とラムサール条約における賢明な利用原則

22. ラムサール条約の下では、賢明な利用と登録湿地の指定という二つの概念は完全に両立し相互に補強しあう。締約国に対しては、湿地を「生態学上、植物学上、動物学上、湖沼学上または水文学上の国際的重要性に従って」(条約第2条2)国際的に重要な湿地のリスト 訳注 に登録するために指定し、かつ、「登録簿に掲げられている湿地の保全を促進し及びその領域内の湿地をできる限り適正に利用することを促進するため、計画を作成し、実施する」(条約第3条1)ことが期待されている。

訳注 条約の日本語正訳では「登録簿」。

23. 第3回ラムサール条約締約国会議(1987年)では、湿地の賢明な利用とは「生態系の自然財産を維持しうるような方法で、人類の利益のために湿地を持続的に利用することである」と定義した。第6回締約国会議(1996年)で採択された戦略計画では、「賢明な利用」を持続可能な利用と同一のものとみなしている。締約国はさらに、生態学的及び水文学的な機能を通して、湿地がはかり知れないサービス、生産物及び利益を提供し、人類がそれらを享受しながらそれによって支えられていることを認識している。従って条約は、登録湿地に指定された湿地を中心としてあらゆる湿地が、将来の世代のために、また生物多様性の保全のために、このような機能や価値を引き続き確実に提供してくれるような実践方法を推進する。

登録湿地と賢明な利用原則。条約に基づいて湿地を国際的に重要なものと指定する(登録する)という行為は、保全と持続可能な利用という道程に踏み出すにふさわしい第一歩であり、その道程の終着点では、湿地の長期的かつ賢明な(持続可能な)利用を達成するのである。

24. 条約の第3条2では、「各締約国は、その領域内にあり、かつ登録簿に掲げられている湿地の生態学的特徴が技術の発達、汚染その他の人為的干渉の結果、既に変化しており、変化しつつありまたは変化するおそれがある場合には、これらの変化に関する情報をできる限り早期に入手できるような措置をとる」ように定めている。ラムサール条約は、この規定に従って湿地の「生態学的特徴」の概念を展開し、この用語を次のように定義する。

「生態学的特徴とは、湿地生態系の生物的、物理的、化学的構成要素及び湿地とその生産物、機能、属性を維持する相互作用を総合したものである」(決議.10)。

25. 締約国には、各湿地の生態学的特徴を維持するために、及び当該特徴を維持しながら、「生産物、機能及び属性」を最終的には提供してくれる基本的な生態学的及び水文学的機能を保持するように、自国の登録湿地を管理することが期待されている。したがって、生態学的特徴は湿地の「健康」を表す指標であり、締約国が登録湿地を指定する際には、生態学的及び水文学的属性の変化を検出するためにその後行うモニタリングに対して、ベースラインデータを提供できるように、承認されている「登録湿地情報票」(添付文書Aを参照)を用いて、当該湿地について十分に詳しく説明するよう、締約国に期待されている。生態学的特徴の変化が自然に起こりうる変動域を超えている場合には、その湿地の利用または湿地に対する外部的な影響が持続不能なものであること、自然作用が悪化する可能性があること、及び最終的にはその湿地の生態学的、生物学的、及び水文学的機能が破壊される可能性があることを示している。

26. ラムサール条約は、生態学的特徴をモニタリングする手段と、国際的に重要な湿地の管理計画策定のための手段を開発した。このような管理計画の策定はすべての締約国に要請されていることであり、その策定にあたっては、人間活動が湿地の生態学的特徴、湿地の経済的及び社会経済的価値(特に地域社会にとっての価値)、並びに湿地に関係する文化的な価値に対して及ぼす影響等の問題を考慮する必要がある。また締約国に対しては、管理計画の中に、生態学的特徴の変化を検出するための定期的かつ厳格なモニタリング制度を盛り込むことが奨励されている(決議.10)。


.ラムサール条約の下で優先的に登録湿地に指定する湿地を選定するための体系的方法の採用に関するガイドライン

27. この戦略的枠組みの「はじめに」と題する部分(を参照)では、この枠組みの目的が、ラムサール条約が「国際的に重要な湿地のリスト」を通じて達成しようとしている長期目標または成果に関して、より明確な理解、つまりビジョンを示すことであると述べている。

28. 以下の項では、締約国が登録湿地の総合的で一貫性のある国内ネットワークを構築するために、将来の指定に関して優先順位を特定しようとする場合、体系的な方法をとれるように締約国を補佐すべく、手引きを提供する。この登録湿地の国内ネットワークは、地球規模のネットワークとして考えれば、登録湿地リストに関するビジョンを実現するものなのである。

29. 優先的に登録湿地に指定する湿地を特定するための体系的方法を策定して実施する場合、締約国には、以下の問題を考慮することが要請される。

30. 国家目標の検討 将来の登録湿地を特定するための体系的方法を策定する準備として、締約国には、この戦略的枠組みの第項で述べた目標を慎重に検討することが要請される。「国際的に重要な湿地のリスト」に関するビジョンと長期目標との関連性の中で検討した場合、当該目標は、体系的方法策定の面でその後行われるあらゆる検討の基盤となるものである。

31. 湿地の定義、タイプ、生物地理区 ラムサール条約における湿地の定義をどのように解釈し、どのような生物地理区を当てはめるかについて国のレベルで了解することは、各締約国にとって重要である。ラムサール条約における「湿地」の定義(下記参照)は、この条約の地球的な規模を反映して非常に広く、国のレベル、超国家的な地域のレベル、及び国際的なレベルにおける湿地保全の取組の間に矛盾が生じないように、各締約国に対して広い対象範囲と柔軟性を認めている。重要な点として、ラムサール条約は、自然の湿地または半自然の湿地を登録するようめざしているが、第項に定める基準のうち少なくとも一つを満たすことを条件として、特定目的で作られた人工の湿地についても、登録湿地への指定を認めている。ラムサール条約湿地分類法(添付文書Bを参照)には、代表的、希少または固有な湿地に関するラムサール基準(第項、基準1を参照)に基づいて行われうる登録に関連して、締約国が検討するよう要請されるすべての対象範囲が示されている。

ラムサール条約における「湿地」の定義
「湿地とは、天然のものであるか人工のものであるか、永続的なものであるか一時的なものであるかを問わず、更には水が滞っているか流れているか、淡水であるか汽水であるか鹹水であるかを問わず、沼沢地、湿原、泥炭地または水域をいい、低潮時における水深が六メートルを超えない海域を含む」(第1条1)、そして「水辺及び沿岸の地帯であって湿地に隣接するもの並びに島または低潮時における水深が六メートルを超える海域であって湿地に囲まれているものを含めることができる」(第2条1)。

32. 基準1の下では、合意された生物地理区の範囲内で国際的に重要な湿地を特定するよう、締約国に期待している。用語集では(添付文書Eを参照)、生物地理区を「気候、土壌の種類、植生被覆等の生物学的なパラメーターや物理的なパラメーターを用いて確定した、科学的に厳密な地域区分」と定義している。多くの締約国にとって生物地理区は、事実上国境にまたがるものであり、代表的湿地、固有な湿地等の湿地タイプを確定するには、複数の国の間での協力が必要となる点に注意すべきである。地域や国によっては「バイオリージョン」という用語を「生物地理区(バイオジオグラフィカルリージョン)」の同義語として使っている。

33. 目録とデータ 締約国には、自国の領土内にある湿地に関して収集した情報の範囲と質を確定するとともに、目録を完成していない場合には完成するための措置を講じることが要請される。目録の作成は、ラムサール条約から支持を受けている承認済みのモデルと基準を用いて行う(決議.20を参照)。しかしながら、湿地に関して既に適切な情報を入手できる場合には、目録を作成していない場合でも登録湿地の指定を行うことができる。

34. 湿地の現状と分布、湿地に関係のある動植物、及び湿地の機能と価値に関する科学的知見の拡大に合わせて、国内湿地目録または登録湿地候補リストを定期的に見直し、内容を改訂する(ラムサール条約1997−2002年戦略計画、行動6.1.1)。

35. 締約国の領土内にあって国境をまたぐ湿地 湿地目録は、締約国の全領土を確実に考慮したものとする。特に、ラムサール条約第5条及び「ラムサール条約の下での国際協力のためのガイドライン」(決議.19)に従って、国境をまたぐ湿地を特定して登録湿地に指定するよう考慮する。

36. 超国家的な地域レベルの指導 締約国はまた、登録湿地に指定する可能性のある湿地について相対的な重要性を確定する際に、超国家的な地域レベルでのきめの細かい指導を求めることができることを認識しておくこと。これは次のような場合にあてはまる。

  1. 国内では動植物の種がそれほど集中して存在しない場合(北半球高緯度地方の渡り性水鳥等)
  2. データの収集がむずかしい場合(特に、面積が広大な国の場合)
  3. 特に、乾燥地帯や半乾燥地帯を中心として、場所的及び時期的に降雨量の変動が激しいために、水鳥その他の移動性の種が同じ年の間や複数の年にかけて一時的湿地を組み合わせて活発に利用しており、しかもこの活発な利用のパターンについて十分な知見が得られていない場合
  4. 泥炭地(勧告7.1)、サンゴ礁、カルスト等の地下水文系等、特定のタイプの湿地の場合で、国際的な種類の幅やその重要性に関して、国内では限られた専門知識しかない場合(泥炭地を登録湿地として特定し指定するための追加的な手引きについては、「泥炭地の賢明な利用と管理のための地球的行動計画」への対応として、及び同行動計画と平行して、科学技術検討委員会が策定する予定である。勧告7.1)
  5. 複数の生物地理区が重なり合うために、その移行地帯に高度な生物多様性が認められる可能性がある場合。

37. すべてのラムサール登録基準及びすべての種に対する考慮 体系的方法を策定する場合、締約国には、すべてのラムサール登録基準を考慮することが要請される。条約第2条2には、湿地の「生態学上、植物学上、動物学上、湖沼学上または水文学上」の側面に基づいて、湿地を検討すべきことが定められている。ラムサール登録基準の下では(第項を参照)、これについてさらに、湿地タイプと生物多様性の保全という形で明示している。

38. 締約国はまた、ラムサール登録基準を適切に利用するようめざす。つまりこれは、水鳥(第項、基準5、6)と魚類(第項、基準7、8)に関しては個別基準が策定されたものの、湿地に関係する分類群の中で水鳥と魚類だけが、登録湿地として登録できる根拠、登録湿地として登録すべき根拠となるわけではない、ということである。単に水鳥と魚類については個別の手引きが策定されている、ということに過ぎない。基準2、3、4は、湿地に生息する他の種のためだけでなく、適当な場合には水鳥と魚類のための湿地も同じく特定できる、対象範囲の広い基準である。また、肉眼で見えにくい種や微生物叢については、考慮の際に見過ごすおそれがあるが、生物多様性のあらゆる構成要素を確実に考慮するように注意する。

39. 優先順位付け 登録湿地として指定するにふさわしい湿地のリストを作成する場合、湿地選定基準を体系的に適用したならば、締約国には、優先する候補湿地を特定するよう奨励する。特に、締約国に固有の湿地タイプ、もしくは湿地に生息する生物種で締約国に固有のもの(世界の他の場所では見られないもの)を含む湿地である場合、またはその締約国が、湿地タイプの地球合計もしくは湿地に生息する生物種の地球全体の個体数のうち、相当な割合を保有しているような湿地である場合には、当該湿地を登録湿地として指定することに特に重点を置く。

40. 規模の小さな湿地を見過ごさないこと 登録湿地を指定する体系的方法を策定する場合、登録湿地候補が必ずしもその領土内で最大の湿地とは限らないことを認識するよう、締約国に推奨する。湿地タイプによっては、もともと大きな湿地系として存在しないものもあり、あるいは昔は大きな湿地系であっても、今ではそうでないものもあるので、こうした湿地タイプを見過ごしてはならない。このような湿地は、生息地を維持する上で、または生態学的群集レベルの生物多様性を維持する上で、特に重要な場合がある。

41. 法的な保護区という地位 締約国は、登録湿地への指定が、その湿地に対して、既になにがしかの種類の保護区という地位を付与されていることを要求したり、登録湿地への指定後に必ず保護区という地位を付与することを要求したりするものではないことを認識する。これと同じく、指定を検討中の湿地は、人間活動の影響をまったく受けていないような手つかずの地域である必要はない。登録湿地への指定は、国際的に重要と認められた湿地という地位に引き上げる効果があるために、当該地域を特別な形で認識することに利用できるのである。つまり、登録湿地への指定は、指定を受けた湿地がラムサール条約に基づく湿地選定基準に合致する場合に限って、その湿地の再生と機能回復の過程の出発点となりうるのである。

42. 登録の優先順位を決定する場合に、既存の保護区であるという湿地の地位をその決定要因とすべきではないが、締約国に対しては、国際的な条約、国家政策または法律文書に基づいて公式に湿地を指定する場合に、一貫した方法をとる必要性があることに注意するよう要請する。もしも、湿地に依拠する固有種に対して重要な生息地を提供しているために、その湿地が国の保護区という地位を得ているなら、選定基準に照らしてみれば、その湿地には登録湿地の資格があることになる。したがって締約国には、一貫性を保つために、現在の保護区、計画中の保護区、及び将来の保護区のすべてについて見直しを行うことが要請される。

43. 代表種及び中枢種 指標種、代表種、中枢種という概念もまた、締約国が考慮すべき重要な事項である。「指標」種の存在は、良質の湿地を判断する有用な尺度となりうる。「代表」種の存在は、湿地の保全と賢明な利用にとって象徴的で大きな普及啓発効果を発揮しうる。また「中枢」種は、不可欠な生態学的役割を果たしている。相当の個体数の指標種、代表種または中枢種を有する湿地は、国際的に重要な湿地として特に考慮に値する可能性がある。

44. 種の存在に対する正しい認識 登録湿地の指定にあたって、個体数をもとにして相対的な重要性を判定しようとする場合、締約国は、状況を適切に考慮して判定するように注意する。生物多様性の保全に対する相対的重要性という観点から見れば、湿地の登録とそれに続く管理行動の対象として、ごく一般的な種が多数存在する湿地よりも、希少種に生息地を提供する湿地のほうが優先順位は高くなりうる。

45. 外来種 外来種の導入と広がりについては、生物多様性及び湿地生態系の自然の機能に大きく影響しうることから、大きく懸念されている(侵入種と湿地に関する決議.14を参照)。したがって、湿地を国際的に重要な湿地として登録する場合に、移入種つまり外来種の存在を登録の支持理由として用いてはならない。在来種であっても、生態系を攪乱してアンバランスを引き起こす可能性がある場合には、湿地にとって侵入的なものとみなすことがある。また、他に移入された在来種が、もともと自生していた生息地において希少種や絶滅のおそれのある種になっていることもありうる。締約国は、このような状況を慎重に評価しなければならない。

46. 湿地の境界の決定 登録湿地を指定する場合の境界については、湿地の生態学的特徴を維持するのに適した規模で湿地を管理できるような境界であることを認識し、管理面を重視して決定するよう、締約国に奨励する。ラムサール条約第2条1では、登録湿地の中に、「水辺及び沿岸の地帯であって湿地に隣接するもの並びに島または低潮時における水深が六メートルを超える海域であって湿地に囲まれているものを含めることができる」と定めている。非常に小さい故に潜在的に脆弱な湿地については、湿地の周囲の緩衝域を含めて境界を設定するよう、締約国に推奨する。これは、地下系湿地や比較的大きな湿地の場合にも有用な管理手段となりうる。

47. 動物種の生息地として特定された湿地について境界を決定する場合には、当該個体群のあらゆる生態学的要求と保全の要求を適切に提供するように、境界を設定する。特に、大型の動物、食物連鎖の頂点にいる種、広大な範囲を住みかとする動物種、採食地域と休息地域が大きく分かれている種の場合には、生存しうる個体群を支えるためにかなりの面積を必要とするのがふつうである。利用範囲全域、または生存しうる(自活できる)個体群を受け入れている範囲全域にわたって登録湿地を指定することが不可能な場合には、その周囲の地域(つまり緩衝域)において、当該種と生息地の両方に関連する追加措置を講じる。こうした措置をとれば、登録湿地内にある中心的な生息地の保護を補完することになる。

48. 登録湿地に指定することを検討中の湿地は、湿地生態系全体のかなりの要素を含む景観規模で選定される場合もあれば、それよりも小さな範囲で選定される場合もある。狭い湿地を選定して境界を確定する場合には、以下の手引きが範囲確定の助けとなる。

  1. 湿地には、重要な植生群落をたった一つ含むだけでなく、できるだけ複合的な植生群落や寄せ集まりの植生群落を含める。もともと養分に乏しい(貧栄養)状態の湿地は、種及び生息地の多様性も乏しいのがふつうである。こうした湿地に高い多様性が見られるときには、保全の質の低さが関係している場合がある(これは、著しく条件が変更されていることからわかる)。したがって多様性を考える場合には、必ず湿地タイプごとの平均に照らしてみなければならない。
  2. 帯状に分布する群集については、できるだけ完全に一通りを湿地に含める。湿潤地帯から乾燥地帯へ、塩水から汽水へ、汽水から淡水へ、貧栄養から富栄養へ、河川からそれに続く土手、砂州、堆積系へといった自然の勾配(変わり目)を示す群集は重要である。
  3. 湿地では、植生群落の自然の遷移が急速に進むことが多い。自然の遷移が見られる場合にはできる限り最大限に、あらゆる遷移段階を登録湿地に含める(例えば、開放的な浅瀬から抽水植物群集やヨシ湿原、または沼沢地ないし泥炭地、または湿性森林へと続く場合等)。動的な変化が起きている場合には、先駆群集が登録湿地の域内で遷移を展開し続けられるように、十分広い登録湿地を指定することが重要である。
  4. 湿地が保全価値の高い陸上生息地へと続いている場合には、湿地そのものの保全価値も高まることになる。

49. 狭い湿地ほど、外部の影響を受けやすくなる可能性が大きい。登録湿地の境界を定める場合には、できることなら常に、湿地の境界が、湿地を害する可能性のある活動、特に、水文学的な攪乱を引き起こすおそれのある活動から湿地を守るのに役立つように、注意を払う。理想的には、湿地の国際的重要性とその完全な姿を保全するのに必要な水文学的機能を提供しかつ維持するのに必要な陸地部分を、境界域に含める。さもなければ、計画策定過程を進めることにより、隣接する土地や流域内における土地利用方法から生じうるマイナスの影響を適切に規制し及び監視し、確実に登録湿地の生態学的特徴が損なわれないようにすることが重要である。

50. 湿地群 湿地群または大きな湿地に付随する「衛星」のような個々の小湿地については、以下のいずれかに当てはまる場合には登録を検討すること。

  1. 水文学的に結ばれている系(例えば、複合的な渓谷湿地、湧水に沿って地下水から水供給を受けている湿地系、またはカルストと地下湿地系等)の構成要素である場合
  2. 利用という面で、ごくふつうの動物の個体群と関係している場合(例えば、水鳥の一個体群が、ねぐらや採食地の代替地として利用するひとまとまりの場所等である場合)
  3. 人間活動によって分断される前は地理的につながっていた場合
  4. その他のかたちで生態学的に相互依存している場合(例えば、共通の発達史を持つ明らかに大きな一つの湿地帯や景観の一部をなす湿地群であるとか、別個の種の個体群を支える湿地群である場合)
  5. 点在する湿地(非永続的な性質の場合もあり)の集合が乾燥地帯や半乾燥地帯にあり、個別にもまとまりとしても、生物多様性と人類の双方にとってきわめて大きな重要性をもちうるような場合(例えば、完全には解明されていない連鎖環において不可欠な関係を持っている場合等)

51. 湿地群を登録湿地に指定する場合には、構成要素をまとめて一つの登録湿地として取り扱う根拠を「ラムサール登録湿地情報票」に明記する。

52. 国際的枠組みによる補完 登録湿地への指定を検討する場合、締約国には、目標4.2(第20節)に記載した通り、当該指定を行うことが、関連する国際的及び地域的な環境条約及び計画の下で既に確立されているイニシアチブや策定中のイニシアチブに対して寄与する機会を与える可能性があるかどうかを検討することが要請される。これに該当するものは、特に、生物多様性条約、移動性野生動物種の保全に関する条約及びそれに基づくアフリカ・ヨーロッパ渡り性水鳥協定等である。地域的に該当するものは、北米水鳥管理計画、西半球シギ・チドリ類保護区ネットワーク、1996−2000年アジア太平洋地域水鳥保全戦略、地中海湿地フォーラム、南太平洋地域環境プログラム、南アフリカ開発共同体(SADC)、東南アジア諸国連合(アセアン)、欧州連合のナチュラ2000ネットワーク、ヨーロッパの野生生物及び自然生息地に関する条約(ベルン条約)のエメラルドネットワーク、汎欧州生物及び景観多様性戦略、アンデス高地湿地計画、アマゾン協力条約、環境と開発に関する中米委員会(CCAD)等である。


.1 特定の湿地タイプを選定し指定するためのガイドライン

この分節は,決議Ⅷ.11,ならびにⅧ.33の附属書の内容を統合した最新のものである.

.1A カルスト等の地下水文系を国際的に重要な湿地として選定し及び指定するためのガイドライン

53. カルスト湿地の価値は数々ある。ラムサール条約第2条2は「湿地は、その生態学上、植物学上、動物学上、湖沼学上または水文学上の国際的重要性に従って、登録簿に掲げるために選定されるべきである」と定めている。この視点から見れば、カルスト等の地下水文系湿地には、主に次のような保全価値がある。

a.カルストという現象や作用及びその機能の特異性
b.カルスト系とその水文学上及び水文地質学上の特性の相互依存性ともろさ
c.カルスト等地下水文系の生態系の固有性とそこに生息する種の固有性
d.特定の分類群に属する動植物を保全することの重要性

54. カルスト系には自然という面で数々の価値があるが、そのほか社会経済的にも重要な価値がある。これには、飲み水の供給、放牧されている家畜や農業への水の供給、観光、レクリエーション等がある。カルスト湿地系は、おおむね地表が乾燥している景観の中で人間社会に適当な水を確実に供給してくれる点で、特に重要な役割を果たす場合がある。

55. カルスト地域内または地域外で発生しうる脅威。大まかに言えば、地上系、地下系を問わず、多くの「活動している」カルスト地域は湿地である。大体において、地下カルスト系は今のところまだ保存状態が良いが、開発圧力が高まっているために、絶滅の危機に瀕しつつある。開発圧力は直接的なものもあれば(観光客や研究者が洞窟を訪れる場合)、間接的なものもある。間接的な圧力には、あらゆる種類の汚染(特に水質汚染、固形廃棄物の投棄、汚水の排水、インフラの整備等)、地下水の汲み上げ、貯水池その他に利用するための貯留等がある。

56. 用語の混乱を避けるために、「カルスト等地下水文系」及び「地下湿地」という用語を使用する。また起源に関係なく、水を伴うあらゆる地下の空洞と空隙(氷洞を含む)を含むものとしてこの二つの用語を使う。こうした湿地については、湿地選定基準を満たす場合には常に、登録湿地に指定することができる。ラムサール条約においては、「湿地」の定義を幅広くすることによって各締約国に大きな柔軟性を与えており、こうした姿勢に従い、この二つの用語には、沿岸、内水面、及び人工の地下湿地を明確に含める。

57. カルスト等地下の現象を説明するには専門技術用語が使われるため、専門家でない者にとっては用語集が必要となる。詳細な参考資料としてはユネスコの「多国語によるカルスト用語集」(Glossary and Multilingual Equivalents of Karst Terms: ユネスコ、1972年)を使用できるが、ラムサール条約の適用上、簡単な用語集を提案し、「カルスト」という表題の用語集(添付文書E)を収載した。

58. 地下湿地の登録湿地への指定及び管理を目的として提出する情報は、以下による。

a.入手できる情報(多くの場合、限られた情報しかない可能性があり、将来の研究によることになる)。

b.検討中の規模に適した情報。地方自治体の管理当局や国の管理当局は、入手できるあらゆる範囲の詳細な情報を得られるべきだが、「登録湿地情報票」に記入する場合等、国際的な目的の場合には、一般に要点だけで十分である。

59. 登録湿地への指定については、様々な国内及び国際的な措置を集合的にとらえ、その一環として当該指定を検討する。つまり、大きなカルスト等地下系に含まれる最も代表的な部分をラムサール条約に基づいて登録湿地に指定し、全体的な系とその集水域部分の「賢明な利用」を達成するために、土地利用計画規制等の策を講じることができる。

60. 現地調査や地図作成は特に難題となる可能性があり、これらについては実行可能性に応じて実施する。例えば、地下の地形を二次元の平面図で示し、それに地上の地形を投影させた地図があれば、登録湿地図としては十分である。多くの締約国が地下湿地の三次元図を作成するための財的・人的な資源を持ち合わせていないことは認識されており、そのことが登録湿地を指定することの妨げとなってはならない。

61. カルスト等地下登録湿地の境界は、集水域全域を対象範囲に含むのが最適だが、多くの場合これは非現実的である。但し、湿地の境界には、対象となる地形に直接的または間接的に最も重要な影響を及ぼす地域を含めるべきである。

62. 国際的に重要な湿地選定のためのラムサール基準を適用する場合には、水文学上、水文地質学上、生物学上、及び景観上の固有及び代表的な価値に特に注意を払う。この点で、間欠的な温水カルスト湧水は特に興味深い。

63. ラムサール条約では柔軟な対応を認めているために、締約国は、国内の状況や個々の湿地の状況に応じて最も適した境界を選定することができる。特に、一つの洞窟だけを登録湿地として指定するか、あるいは当該洞窟と複合的な系を合わせて(例えば、地上と地下の湿地を合わせて)登録湿地として指定するかを考えることができる。

64. ラムサール条約では、地上系と地下系の両方を含む湿地について、明文の規定をもって言及しているわけではないが、この条約における湿地の定義(第1条1)には、これらの湿地が含まれるものと解釈し理解する。

65. カルスト等の地下水文系の文化的及び社会経済的な価値、並びに国、地方自治体の両レベルでその「賢明な利用」を実施しなければならないという事実については、特に検討する。当該湿地の登録湿地への指定、管理、モニタリングについては、明確に区別することが必要である。


.1B 泥炭地、湿性草地、マングローブ、サンゴ礁を国際的に重要な湿地として特定し指定するための手引き

はじめに

66.本条約の「2000−2002年作業計画」の行動6.3.1では、STRPに対し、泥炭地、湿性草地、マングローブ、サンゴ礁という湿地タイプを国際的に重要な湿地(ラムサール条約湿地)として特定し指定するための、追加手引きを作成することを求めている。

67.泥炭地、マングローブ及びサンゴ礁は、第7回締約国会議(COP7)に提出された「地球全体の湿地資源と湿地目録の対象となる優先事項に関する評価(GRoWI))」において、湿地生態系のなかでも生息地の消失や劣化の影響を最も受けやすくその脅威にさらされているため、その保全と賢明な利用が確実に行われるように緊急の優先行動をとる必要があると認められた。

68.本追加手引きは、「国際的に重要な湿地のリストを将来的に拡充するための戦略的枠組み及びガイドライン」(決議.11)を泥炭地、湿性草地、マングローブ及びサンゴ礁に適用する際のさまざまな側面について明らかにするものである。特に、国際的に重要な湿地の指定に関するラムサール条約湿地選定基準1にしたがって、これらの生息環境タイプの代表的な湿地を特定し指定するための手引きを締約国に提供する。

69.こうした湿地タイプがラムサール条約湿地リストにおいて十分に選出されていないことにはさまざまな理由がある。たとえば次のような理由である。ある領域内にこうしたタイプの湿地が存在するという認識が欠けていること;マングローブやサンゴ礁などの海洋沿岸域湿地がラムサール条約における湿地の定義にあてはまり、したがってラムサール条約湿地に指定するのが適当であるという認識が欠けていること;ラムサール条約湿地に指定するためのラムサール条約湿地情報票を記入する際に、特にサンゴ礁の場合は適切な境界を定めることがむずかしく、手引きを適用するのが困難なこと;こうした生息地タイプのどの特徴が、ラムサール条約湿地選定基準1に基づく湿地の代表例として最適かがはっきりしないこと;泥炭地や湿性草地の場合、これらの生息地タイプが複数の異なるタイプの湿地と重なって存在することがあるため、ラムサール条約湿地分類法のどの湿地タイプに該当するかがはっきりしないこと;そして、泥炭地の場合、湿地を植生の特徴だけで評価すると、その湿地が泥炭に基づく系であるという認識が欠けてしまうこと。

70.国際的に重要な湿地の指定に関するラムサール条約湿地選定基準は、すべて、泥炭地、湿性草地、マングローブ、サンゴ礁という湿地タイプの特定と指定に適用することができる。

71.これらの各湿地タイプは、生息地の消失や劣化の影響を最も受けやすくその脅威にさらされていることが確認されているため、選定基準2に基づいて絶滅のおそれのある種と同様、絶滅のおそれのある生態学的群集を特定し指定することが、特に重要になる。

泥炭地の特定と指定

72.泥炭地とは泥炭が堆積した生態系であり、泥炭を形成する植生を現在も維持している場合もあればそうでない場合もあり、また植生がまったく見られない場合もある。泥炭とは、枯死して不完全な分解状態にある植物の遺体が、原位置で浸水した条件下で堆積したものである。本手引きでは、「泥炭地」という用語は発達中の泥炭地(「湿原」)も含むものと了解されている。発達中の泥炭地(「湿原」)とは、泥炭の形成作用と集積作用が現在行われている泥炭地をいう。発達中の泥炭地(「湿原」)はすべて泥炭地であるが、泥炭の集積が止まった泥炭地は発達中の泥炭地(「湿原」)とはみなされない。泥炭が存在すること、または泥炭を形成する植生が存在することが、泥炭地を特徴づける。

73.泥炭地とは基質として泥炭が存在する場所のことであるが、ラムサール条約湿地分類法は植生に基づいているため、この分類法によると泥炭地はいくつもの湿地タイプと重なって存在することになる:

a)タイプ I (潮間帯森林湿地)及びタイプ E (砂、礫、中礫海岸で、砂丘系を含む)の海洋沿岸域湿地として存在する場合、またタイプ K (沿岸域淡水潟)の周辺部にも存在する場合がある。

b)主にタイプ U (樹林のない泥炭地)及び Xp (森林性泥炭地)の内陸湿地として存在する場合がある。

c)泥炭土壌は、次のタイプを除くすべての内陸湿地に存在する場合がある。タイプ M (永久的河川、渓流、小河川)、タイプ Tp (永久的淡水沼沢地・水たまり−−無機質土壌)、タイプ Ts (季節的、断続的淡水沼沢地・水たまり−−無機質土壌)、タイプ W (潅木の優占する湿原−−無機質土壌)、タイプ Zg(地熱性湿地)、タイプ Zk(b) (地下カルスト系)。

74.泥炭地は、生物の多様性、世界の水問題、気候変動に関わる地球の炭素保持、人間社会にとって貴重な湿地の機能に寄与するものである。

75.泥炭地には、次のような重要な特徴がある:

a)泥炭形成現象の独自性とその生態学的機能及び自然資源としての機能;
b)水文学的及び水文化学的環境に対する泥炭地の依存;
c)泥炭地、その集水域、隣接する分水界の間の相互依存;
d)植生の独自性;
e)特定の動植物種に対する生息地の提供;
f)水の調節や緩衝機能;
g)局地的・地域的な気候を調節する能力;
h)大気中から炭素を吸収し、長期間それを蓄える能力;
i)地球化学・古地質・古生物学等の資料の保管庫として機能する力。

76.自然の価値に加えて、泥炭地には、次のような社会経済的に重要な価値がある(ただしこれに限定されるものではない)。飲料となる水の吸収と放出、地域社会や先住民に対する自然資源の提供、景観の安定化、洪水の影響緩和、汚染物質の除去、観光、レクリエーション。

77.泥炭地への脅威は、その泥炭地域の内部からも外部からも生じる可能性がある。それには次のようなものがある:

a)土地の排水と他用途への転換、掘削、火入れ、過放牧、耕作放棄、観光客による負荷、持続不可能な商業利用などの直接的な脅威;

b)汚染、過度の取水、緩衝地帯の規模の減少や質の低下、気候変動などの間接的な脅威。

78.改変されながらも生態学的価値を残している泥炭地はあるが、それらの中には上述のような脅威にさらされているものがある。こうした地域には再生の機会がある。

泥炭地に対するラムサール条約湿地選定基準の適用

79.選定基準1による指定を検討すべき泥炭地には、原生の発達中の泥炭地、壮年期の泥炭地、泥炭形成の止まったとみられる泥炭地、自然に劣化している泥炭地、人間により改変されてその影響を受けた泥炭地、再生または回復された泥炭地が含まれる。

80.少なくとも次の特性のうちのいくつかを備えている湿地の指定に特に留意する:

a)手つかずのままの水文学的環境;
b)泥炭を形成する植生の存在;
c)地域または世界の生物多様性の貯蔵庫として機能する力;
d)炭素貯蔵庫として機能する力;
e)炭素隔離機能の存在;
f)地球化学・古地質・古生物学等の資料の保管庫を維持する力;
g)水文化学的多様性;
h)マクロ・ミクロそれぞれのレベルの形態的特徴。

81.わずかな影響が大きな劣化につながるおそれがあるなど、特に影響を受けやすい泥炭地の指定や、劣化しているが再生の可能性がある泥炭地の指定に特に留意する。

82.広大な面積の泥炭地には、水文学上の価値や炭素貯蔵庫、古地質・古生物学的資料の保管庫としての価値があり、また広大な景観が含まれている。そのため面積の広い泥炭地は狭い泥炭地よりも一般に重要性が高く、優先的に指定されるべきである。また、地域の気候に対する泥炭地系の影響力も考慮すべきである。

83.泥炭地系の、水文学的に健全な状態を維持するために、適切で望ましい場合には、泥炭地をラムサール条約湿地に指定するときは集水域全体を含めるようにする。

84.単一タイプの泥炭地と、複数のタイプの泥炭地系を含んだ複合系の泥炭地の両方を指定することが適切である。

湿性草地の特定と指定

85.湿性草地は、草丈の短い多年草、スゲ、ヨシ、イグサ、などの草本を特徴とし、これが優占する植生を持つ自然及び半自然生態系である。また湿性草地は、周期的な冠水条件下や湛水条件下に見られ、刈り取り、火入れ、自然または人為的な放牧、あるいはこれらの組み合わせによって維持される。

86.湿性草地には、氾濫原の草地、周期的に冠水する土地、干拓地(ポルダー)、冠水草地、水位管理が(集中的に)行われている湿性草地、湖岸の草原、比較的大型で競争力のある多年生草本が優占する植生、地下水に依存する、砂丘のくぼみにできる湿地などが含まれる。これらの草地は、重粘土、ローム、砂、砂礫、泥炭などさまざまな土壌の上に発達し、また、淡水系、汽水系、塩水系内に発達する。

87.湿性草地の定義にあてはまる植生タイプは、同じもの同士で、または泥炭地、ヨシ原、水に依存する灌木、森林など他の湿地タイプとともにモザイク状に存在することがある。

88.湿性草地は、ラムサール条約湿地分類法の次の湿地タイプに亘って存在する:

a)タイプ Ts (無機質土壌上にある季節的、断続的淡水沼沢地で、季節的に冠水する草地、ヨシ沼沢地を含む)及びタイプ U (樹林のない泥炭地で、湿地林、低層湿原を含む)に分類される氾濫原の構成要素になっているもの。

b)タイプ 3 (灌漑地。灌漑用水路、水田を含む)及びタイプ 4 (季節的に冠水する農地。集約的に管理または放牧が行われている草地または牧場で、水を引いてあるものを含む)に分類される人工湿地タイプとして存在するもの。牧草地を通っている灌漑用水路で自然植生を有するものは、生態学的に重要な機能を果たしているため、湿性草地の一部分とみなされる。

c)湿性草地環境は、このほか次のような湿地タイプ内に存在する場合がある。タイプ E (砂、礫、中礫海岸。砂丘系を含む)及びタイプ H (潮間帯湿地。塩水草原、塩生高層湿原、潮汐域の汽水・淡水沼沢地を含む)。また、タイプ J (沿岸域の汽水・塩水礁湖)、タイプ N (季節的、断続的、不定期な河川、渓流、小河川)、タイプ P (季節的、断続的な氾濫原の湖沼)、タイプ R (季節的、断続的な塩水・汽水・アルカリ性湖沼と平底)及び Ss (季節的、断続的な塩水・汽水・アルカリ性湿原)など他の湿地タイプの境界周辺にあることもある。

89.湿性草地は特有の生物多様性を支えており、それは、国際的に重要な鳥類個体群、さまざまな哺乳類、無脊椎動物、爬虫類、両生類など、稀少で絶滅のおそれのある動植物の種や群集を含む。

90.近年、特に次のような水文的、化学的機能を果たすうえでの、湿性草地の価値に対する認識が高まっている:

a)洪水の緩和:湿性草地は洪水による水を保持することができる;

b)地下水の涵養:湿性草地は集水域内の水を保持して、地下水の涵養を可能にする;

c)水質の改善:河岸の湿性草地は栄養塩類や毒性物質、堆積物を保持して、これらが水域に流入するのを防ぐ。

91.こうした機能からは経済的な利益が生じている。湿性草地が破壊されるとこの機能は失われ、元に戻すには多くの場合、巨額の費用が必要になる。経済的利益には次のようなものがある:

a)水の供給:湿性草地は水量と水質の両方に影響を及ぼす;

b)淡水漁場の健全性:湿性草地域内の淀みや水路などの開放水域にある生物環境は河川漁業にとって重要である;

c)農業:氾濫原のなかには農地としてきわめて肥沃なものがある;

d)レクリエーション及び持続可能な観光活動の機会。

92.人間の歴史の初期の段階から、氾濫原には人間の手が加えられてきた。産業革命以降、多くの地域で河川や氾濫原への負荷が高まっている。こうした過程の一部として、湿性草地は工業地域で著しく減少したが、他の地域でも特有の脅威にさらされている。それは次のような要因による:

a)農法の変化:排水による土地利用の拡大と肥料使用量の増加、干し草作りからサイロ利用への変更、追い蒔き、除草剤の使用、耕地への転換、放牧密度の増加、放置または放棄、水生植物用除草剤の使用;

b)土地の排水:自然の流況の変化、河川流路からの氾濫原の孤立、冬季の洪水の水が急速にひくことや春季の地下水面の早期低下、排水路における低水位が続くこと;

c)飲料用や灌漑用の取水:これは河川の流量減少及び水路内の水位の低下、地下水面の低下、干ばつに関連する問題の悪化につながる;

d)富栄養化:草地の植物群落における変化や草地の活力増大につながる;

e)海面の上昇や洪水用の水防施設建設による沿岸湿性草地への脅威;

f)開発と鉱物の採掘:周期的に冠水する地域の減少と、残存するそうした土地での洪水発生頻度の増加につながる;

g)湿性草地の断片化:湿性草地の孤立を招くことから、湿性草地だけに生息していて絶滅しやすい種を脅かし、また水位の管理や農業管理に伴う問題を引き起こす。

湿性草地に対するラムサール条約湿地選定基準の適用

93.湿性草地が特に水文学的に特有の機能を果たしている場合には、選定基準1に基づく指定を検討する。

94.湿性草地は、河川や沿岸の氾濫原の一部として、周期的な洪水や人為的または自然の浸水条件によって維持され水文学的に健全な状態を示している。このような動的な生態系の指定に特に留意する。

95.湿性草地で農業その他の管理が行われている場合は、その生態学的特徴が固有の管理手法や伝統的な土地や湿地の資源利用形態(一般に、人為的な放牧、刈り取り、火入れまたはこれらの組み合わせ)によって維持されている系や、そうした管理を続けなければ、植生の緩やかな遷移によって湿性草地が背の高いヨシ原、泥炭湿原、森林性湿地へと変化するおそれのある系を指定するよう特に注意を払う。

96.管理された湿性草地の多くは、水鳥の重要な繁殖集団を支えると同時に、多くの非繁殖集団の水鳥にとっての生息地ともなっているため、この特徴に関する基準4、5、6に基づく指定に注意を払う。

マングローブの特定と指定

97.マングローブ林は、堆積物が豊富にあって波から守られている熱帯沿岸環境にある潮間帯森林生態系であり、その分布は北緯32度付近(バーミューダ諸島)からほぼ南緯39度(オーストラリアのビクトリア州)に達する。熱帯の海岸線の約3分の2から4分の3は、マングローブで縁取られている。

98.マングローブ林は、適度に傾斜の緩やかな地形、波を防ぐ遮蔽物、泥質の基質、潮差の大きい塩水のある場所で、広大で生産性の高い系を形成する。

99.マングローブ林の特徴は、沿岸の生息地でコロニーを形成できるよう形態的、生理的、生殖的に適応した耐塩性の木本であるという点である。マングローブという用語は、少なくとも次の2通りに用いられる:

a)上記の植物、それに関連する動植物、及びその物理化学的環境からなる生態系をいう場合;

b)塩分が多く貧酸素の(嫌気的)基質を利用できるような適応性を持つ点で共通する(さまざまな科や属の)植物種をいう場合。

100.マングローブはラムサール条約湿地分類法の海洋沿岸域湿地のタイプ I (潮間帯森林湿地)に分類される。

101.マングローブは、淡水、栄養塩類、堆積物の海域への流入の調節において、景観レベルの重要な機能を果たす。また、細流土砂を捕捉し固定することによって、海洋沿岸域の水質を調節する。鳥類、魚類、甲殻類など、成体は別の場所に生息するが、生活環のさまざまな段階をマングローブのなかで過ごす動物の個体群を維持するうえでも、また沿岸の食物網を維持するうえでも、マングローブはきわめて重要である。マングローブは、有機性の汚染物質や栄養塩類の吸収能によって、汚染防止にも重要な役割を果たす。

102.マングローブは、その存続が個々のマングローブ林の境界をはるかに超えた、陸と海の景観が果たす機能を維持するうえで不可欠な役割を果たす、重要な生態系である。マングローブ、サンゴ礁、海草藻場は、統合的な景観レベルの生態系の典型的な例に入る。これらが同じ場所にあると一つのまとまりとして機能し、物理的、生物学的な相互作用によって、個々のサブシステムが互いに関連しあい統合されて複合的なモザイクを形成する。そしてこれが、高潮からの防護や沿岸の安定化に重要な役割を果たす。

103.マングローブ生態系は、世界中で少なくとも50種のほ乳類、600種を超える鳥類、2,000種近くの魚介類(エビ、カニ、カキ類を含む)を支えている。またマングローブは、渡り性の鳥や絶滅危惧種にとっても重要である。他の分類群のさまざまな種が、マングローブを、近接する生態系と密接に結びついた食物網を持つ、多様性豊かな群集にしている。

104.マングローブは、海洋や河口における魚介類の漁場の活力や生産性にとって不可欠である。世界的に見ると、海洋環境でとれる全魚類のほぼ3分の2は、最終的にその漁業資源を維持できるかどうかを、マングローブ、海草藻場、塩生湿地、サンゴ礁などの熱帯沿岸生態系の健全さに依存している。マングローブが健全で完全な状態を保っていることは、沿岸域とその文化的遺産を維持し、海面の上昇など気候変動による影響をやわらげるうえで重要である。

105.マングローブは、何千年にもわたって熱帯諸国の経済に重要な役割を果たしており、多くの動植物の重要な貯蔵所であるととともにそれらの避難場所にもなっている。マングローブ生態系は、熱帯諸国で自給用、商業用、娯楽用のきわめて貴重な漁業を支える一方で、その他の多くの財やサービスを直接的、間接的に社会に提供している。

106.マングローブは、陸と海の両方から大量の物質やエネルギーを受け取り、蓄積・分解するよりも多くの有機体炭素を生産するという点で、他の森林系と異なる。マングローブは構造的、機能的にきわめて高い多様性を示し、もっとも複雑な生態系の部類に入る。マングローブが提供する財やサービスは多様であるため、単なる森林資源として管理すべきではない。

107.世界のマングローブ資源の大部分は、次のような原因で劣化している:

a)乱獲、樹皮(タンニン)の採取、薪炭材の生産、木材などの産物にするための利用といった持続不可能な利用慣行;

b)生息地の破壊。たとえば、農業、都市、観光、工業のための開発や、特に水産養殖池建設のための伐採によって、マングローブは世界各地で脅威にさらされている;

c)灌漑やダム建設のための流路変更による水文環境の変化から生じる、養分欠乏と過度の塩分濃度上昇;

d)汚染。工業廃水や家庭廃水、日常的または壊滅的な石油流出を含む。

108.マングローブは、石油汚染、海岸侵食増大、海面上昇、及びハリケーン、寒波、津波などの自然事象、人間の活動によって引き起こされた気候変動の影響に対し、きわめて脆弱である。

マングローブに対するラムサール条約湿地選定基準の適用

109.選定基準1を適用する際には、マングローブが大きく2種類の生物地理区に分布することを認識する。つまり、インド洋・太平洋(東半球)グループと西アフリカ・アメリカ(西半球)グループで、いずれも特徴的だが種の多様性が異なる。

110.自然に機能している手つかずの生態系に、マングローブとともにサンゴ礁、海草藻場、干潟、沿岸の礁湖、塩性干潟、河口の複合生態系などが含まれるときは、その生態系のマングローブ部分を維持するために、これら他の湿地タイプが不可欠である。したがってこうした生態系の一部をなすマングローブは、特に優先してラムサール条約湿地に指定すべきである。多くの場合、マングローブと結びついている他の沿岸生態系部分を含めずに、マングローブ(すなわちその樹木の部分)だけを指定することは、避けなければならない。

111.湿地のネットワークは、陸や海の景観全体を完全な状態に維持するため、個々の狭い面積のマングローブよりも価値が高い。陸や海の景観全体を含めて指定することは、重要な沿岸プロセスを守るための有用な手法であり、可能な場合には、沿岸域のための入れ子型の管理の枠組みの一環として、ラムサール条約湿地への指定を検討すべきである。

112.ラムサール条約湿地の指定にあたって、適切な境界を確定するためには、次の点を考慮する:

a)保全・管理行動の重点とするため、パッチ状の重要な生物環境、特定の群集または地形を含めること;
b)景観のうちで人が優占する部分における保全行動の用意。これは、人が優位を占める景観がより良いものであれば、マイナスのエッジ効果を緩和するのに役立つため;
c)人の立ち入りが比較的限られた広い地域の保全と賢明な利用のための手だて;
d)景観単位全体を含めること(礁湖と河口の複合体、塩性干潟、デルタ、泥質干潟・干潟系);
e)集水域(河川流域)の管理という面も含めた水路学的な健全さと水質の維持;
f)生息地や遺伝的プロセスの消失につながる海面上昇及び人間の活動によって引き起こされた気候変動の影響に対する用意;
g)海面上昇への反応として、マングローブの陸地側への移動が起きる可能性への配慮。

113.マングローブ林に選定基準1を適用する際には、手つかずの自然の地域、あるいは生物地理学的、科学的に重要で保護が必要な地域を指定するよう、特に留意する。

114.マングローブの保全では、保護、再生、自然遺産を理解し楽しむこと、持続可能な利用に重点を置いた保全など、それぞれ最適の用途に沿って各単位を分類する。指定対象とするマングローブ林の最小規模とは、生息域タイプの多様さが最大となるものであり、それには絶滅危惧種、絶滅のおそれのある種、稀少種、影響を受けやすい種、あるいは生物学的集団の生息域が含まれる。候補地を選択する際にはその「自然度」、すなわち、その地域が人為的変化からどの程度守られてきたか、それとも人為的変化を受けなかったかを考慮する。指定されたマングローブの構造的、機能的な完全性や自立能力を維持するのは生態学的、個体群統計学的、遺伝的プロセスであるため、これらのプロセスも考慮する。

115.湿地の境界を定める場合、保全の目的を効果的に果たすには、系が複雑になるほど湿地の規模を大きくする必要があることを考慮しなければならない。ただし、湿地の単位が小さくなるほど境界の確定は重要になる。迷った場合には、湿地の規模を小さくせずに、大きくすることである。

116.マングローブの系は、魚介類の繁殖場や養育場としてきわめて重要であるため、選定基準7及び8の適用に特に留意する。またこの系は生態学的、地形学的、物理的な構造が複雑なため、避難場所として機能することができ、多くの渡り性の種や非渡り性の種の個体群の存続にとって重要であるという事実を考慮して、選定基準4の適用も特に注意する。こうした地域を指定する場合は、沿岸のマングローブ、海草藻場、サンゴ礁の複合体が形成するさまざまな生息環境が、種の生活環の各段階にとって不可欠な場合もあることを考慮する。

サンゴ礁の特定と指定

117.サンゴ礁とは、イシサンゴ(本来のサンゴ)の生物学的活動によって作られた炭酸塩のかたまりと、それとともにサンゴ礁生態系を形成する海洋生物の複雑な集合体をいう。世界の海洋の北緯30度から南緯30度の間の泥質でない海岸線にみられる。その推定総面積は61万7,000km2で、浅い海棚の約15%を形成する。

118.サンゴ礁にはおおまかに分けて裾礁、堡礁、環礁の3種類がある。裾礁は海岸近くにみられ、堡礁は間に礁湖を挟んで陸地から離れたところにあり、環礁は礁湖を取り囲む環状のサンゴ礁で、島(もともと火山であることが多い)が徐々に海面下に沈んだ場所に形成されている。しかし、大陸の海岸線にできるサンゴ礁は往々にして複雑で、その特徴を分類するのはむずかしい。

119.サンゴ礁生態系は、礁でない基層の上にも見かけ上は同じように発達する場合がある。これらは、地質学的には「本当の」サンゴ礁ではないが、他のサンゴ礁と同様の生態学的属性を持ち、人間による利用のしかたは同じである。

120.サンゴ礁は、ラムサール条約湿地分類法の海洋沿岸域湿地のタイプ C (サンゴ礁)に該当する。

121.サンゴ礁は、隣接するラムサール条約湿地分類法の他の海洋生息地、特にタイプ A (永久的な浅海域)、タイプ B (海洋の潮下帯域:特に海草藻場)、タイプ E (砂、礫、中礫海岸)、タイプ H (潮間帯湿地)、タイプ J (沿岸域汽水・塩水礁湖)と機能面で複雑に結びつく生態系の一部となっていることが多い。

122.形や色の純粋な美しさや生命の多様性の点で、世界の自然地域でサンゴ礁に匹敵するものはおそらくない。サンゴ礁はあらゆる海洋生態系のなかで種の多様性がもっとも豊かで、世界の生物多様性に大きく寄与している。サンゴ礁に生息する魚類は 4,000種が知られており、そのうち約10%は、生息地が群島や海岸線から数百キロメートルに限られている。世界の海洋系から見ればわずかな部分しか占めていないにもかかわらず、海洋環境でとれる全魚種の3分の2近くがサンゴ礁とそれに付随する生態系(マングローブや海草藻場など)に依存している。

123.サンゴは、プロスタグランジン(prostaglandins)などの抗凝血剤や抗癌剤など、命を救う医薬品の重要な原料も提供する。

124.サンゴ礁は、温暖な海に接した沿岸域で暮らしている人々にとって貴重である。サンゴ礁は、食料、建築材料、医薬品、装飾用として利用され、熱帯の沿岸地域に暮らす数百万の人々に多くの生活必需品を提供し続けている。

125.熱帯地域では、沿岸生態系と海洋の生物多様性が、多くの国の経済に大きく寄与している。サンゴ礁は、観光やレクリエーションのほか、自給用、商業用、娯楽用の漁業を支えている。バルバドス、モルジブ、セイシェルなど、外貨収入の大半をサンゴ礁観光に依存している国もある。カリブ海地域だけで年間1億人以上の観光客を受け入れており、そのほとんどが必ず海岸やサンゴ礁を訪れている。

126.サンゴ礁は、自己修復する自立的な自然の防波堤として機能し、その後方にある往々にして海抜の低い土地を、嵐や海面上昇の影響から保護している。サンゴ礁が健全で完全な状態を保っていることは、熱帯の沿岸域とその文化的遺産を維持するうえできわめて重要である。

127.その生態学的、経済的な重要性にもかかわらず、サンゴ礁は世界各地で深刻なまでに減少している。サンゴ礁は、堆積物、下水、農業排水その他の汚染源、採鉱、沿岸域の浚渫、沿岸開発など、サンゴ礁を劣化させる数々の人間の活動による脅威にさらされている。劣化のリスクと沿岸域の人口密度との間には、強い相関関係があることが判明している。人口増加による人為的な負荷の深刻さと沿岸域での住民の活動に加えて、サンゴの病気やサンゴ礁に生息する種に感染する伝染病による大量死も発生している。乱獲、爆発漁猟、毒を用いた漁、国内外で取り引きされる土産物用サンゴの採取が、サンゴ礁破壊の大きな原因である。二酸化炭素の増加は、石灰化やサンゴ礁形成の速度を低下させる可能性がある。

128.サンゴ礁に対して一層高まっている影響の一つに、地球規模の気候変動に伴う海面温度の上昇がある。海面温度の上昇はサンゴの白化現象を引き起こす。共生する藻類が失われる結果、往々にしてサンゴそのものが死滅し、引いてはサンゴに依存する多様な群集が消失する。海面温度上昇のほかに、すでに汚染や土砂堆積といった人為的圧力を受けているサンゴ礁は、白化現象を起こしやすくなっているようである。今後の海面温度の予測から、白化現象が次第に広がって頻度も高くなることが示されている。最近の研究によると、UV−Bの照射増大によってもサンゴの白化が起こり、温度上昇による影響に追い討ちをかけている可能性が示唆されている。

129.いったんサンゴが死んでしまうと、岩礁は嵐で物理的に破壊されやすくなり、沿岸の陸地やそこで暮らす人々を海面上昇や嵐から守る機能が脅かされる。1997年から98年にかけて世界各地で起きた大規模なサンゴの白化は、人間が引き起こした地球規模の変化から、生態系規模のダメージが起き始めたことをサンゴ礁が知らせているのかもしれない。再生が成功するかどうかは、健全な管理によって人為的な圧力を減らせるかどうか、そしてサンゴ礁の再生を無に帰すような白化現象が、今後深刻さと頻度を増して起こるかどうかにかかっている。

130.このような問題が相互に影響し合いながら生じている結果、近年、サンゴ礁は激減している。世界のサンゴ礁のおよそ11%が失われ、27%が差し迫った脅威にさらされており、31%は今後10年から30年のうちに減少する可能性が高い。最も危険が大きいのは、広義のインド洋、東南アジア及び東アジア、中東(主にペルシャ湾)及び大西洋地域のカリブ海のサンゴ礁である。

131.サンゴ礁は多数の種の漁業を支えている。現在、漁業管理手段の一つとして、保護区が設けられることが多い。しかし経済的に重要な種のなかにはその生活環の一部を保護区に指定された地域の外で過ごすものもあり、管理の際にはこれを考慮に入れる必要がある。それと同時に漁業管理措置は、持続可能な漁業だけでなく、生物多様性その他の貴重な湿地の特徴を守るものでもある。サンゴ礁に生息する魚類種の多くはラムサール条約湿地の指定を補完するために、この条約の規制よりも厳しい枠組みを必要としている。こうした魚種の保護には、補完的な保全の枠組みや権限が必要である。

132.サンゴ礁を管理する際には、保全の必要性とともに、特定のサンゴ礁に生活を依存する現地の人々のニーズも検討しなければならない。地域によっては、さまざまな利害関係者のニーズに合うように、多用途・ゾーニングの両アプローチを用いて管理することが最善の方法となる。ごく少数の地域を厳しく保護するという手法ではなく、沿岸域レベルでの保護のための入れ子型の枠組みが必要とされる。沿岸のサンゴ礁地域は、統合的沿岸域管理の計画により管理するのが最適である。

サンゴ礁に対するラムサール条約湿地選定基準の適用

133.締約国は、適当な場合には、選定基準1に基づく複合的な湿地の指定を検討する。これには、サンゴ礁とそれに付随する系、特に、隣接する浅い礁原、海草藻場及びマングローブが含まれ、これらは通常、複雑に結びついた生態系として機能している。指定されるサンゴ礁域には、可能な限り多様な生息地タイプと遷移段階のほか、付随する系に関わる生息地タイプと遷移段階も含まれるようにする。

134.個別のサンゴ礁ではなく、湿地のネットワークを指定することに特に留意する。ネットワークは個別の湿地よりも価値があり、海の景観全体を完全な状態に保全するのに役立つ。

135.地理的な位置(「潮上側にあるサンゴ礁」)の関係で浮遊幼生の供給源となり、「潮下側」にある広大なサンゴ礁域への幼生の供給を確かなものにするサンゴ礁地域の指定にも、締約国は特に注意を払う。

136.海岸線を嵐の被害から守り、沿岸の住民やインフラストラクチャーを保護するサンゴ礁も、指定対象として検討する。

137.劣化のおそれがある場合や、ラムサール条約湿地への指定がそのサンゴ礁の生態学的特徴の維持を確保できるような包括的な管理につながりうる場合には、指定を検討する。

138.サンゴ礁の生態学的特徴は、水質が保たれ、沿岸域が適切に管理されてはじめて維持される。そのため、沿岸水域の水質を変えるような人為的変更から、その地域がどの程度まで影響を受けずにいられるか、あるいはどの程度まで保護されうるかが、指定の対象とするサンゴ礁を見きわめるときの重要なポイントである。

139.締約国は、指定するサンゴ礁の境界を確定する際に、ラムサール条約第2条1項を考慮する。段落53で定義した多くのサンゴ礁系の外側部分や、一部の礁湖系の中心は、水深6メートルより深いため、こうした部分をすべて含めてサンゴ礁の境界を確定する。さらに、段落53で定義したサンゴ礁生態系は、サンゴ礁の構造体の境界を超えて広がっており、隣接地域での活動がそれらに害を与える可能性があるため、近接する水域も適宜、指定する湿地に含めるべきである。

140.ラムサール条約湿地に指定されるサンゴ礁の規模は、サンゴ礁の地理学的な規模に適したものでなければならず、またその生態学的特徴を維持するのに必要な管理方法にも、適したものでなければならない。面積は、できる限り、完全で自立的な生態系のまとまりを保護するのに十分な広さにする。海中では、生息地が正確に限定されることはほとんどない。海洋種の多くが広い範囲を生息地としていることや、定住種の遺伝物質が海流によってはるか彼方へ運ばれる可能性のあることに留意すべきである。

141.さらに、次のような湿地を指定することも検討すべきである:

a)地質学的、生物学的に特異な構成物、群系等を支えているか、または美的、歴史的あるいは科学的に特に興味深い動植物種を支えている場合;

b)国内や国際的な機関による長期にわたる研究や管理の記録が残されている場合;

c)環境の変化を評価するための長期モニタリング計画を設定するのに利用できる場合。

142.選定基準7及び8を適用することによって、魚類種にとってのサンゴ礁の重要性を認識する。選定基準7を適用する際には、サンゴ礁における魚種の多様性には地域差があり、たとえばフィリピンの 2,000種以上からカリブ海の約200-300種と幅があることに留意する。ある地域の重要性を評価するには、種の数を単純に数える(種の目録)だけでは不十分であり、評価には各地域における魚類相の特性を考慮する必要がある。サンゴ礁に生息する魚類には固有性があまりみられないものの、一部の島嶼や砂州は事実上隔離されており、魚の個体群が遺伝的に独特なものになってきている。こうしたサンゴ礁系は優先的に指定する。

143.特に保全に配慮すべき種、独特の生物学的集合体及び代表種あるいは中枢種(ミドリイシのサンゴ礁、海綿動物とウミウチワの複合生態系など)を支えている湿地や、手つかずの自然の状態を保っている湿地は、特に優先的に指定する。


.1C 一時的な湿地を特定し、持続可能な方法で管理し、「国際的に重要な湿地」として指定するための手引き

はじめに

144.決議5.6では「賢明な利用の概念実施のための追加手引き」を採択し、地元のレベルで「湿地の賢明な利用を実現するためには、厳正な保護から再生を含めた積極的な介入に至るまでのさまざまな活動を通じて、あらゆる湿地タイプを確実に維持できるバランスを保つことが必要である」と強調した。このように賢明な利用には、持続可能である限り、資源開発をほとんど伴わないかあるいはまったく伴わないものから積極的な資源利用を行うものまで、さまざまな性質のものがありうる。湿地管理は、それぞれの地域状況に適応し、地域の文化に配慮し、伝統的な利用を尊重するものでなければならない。

145.勧告5.3は、面積の小さな、または環境変化の影響を受けやすい条約湿地及び湿地保護区についての厳正な保護措置の策定を要求した。この要求は、決議.14[第6回締約国会議(COP6)、ブリズベン、1996年]で採択されたラムサール条約の「1997−2002年戦略計画」の行動5.2.5で改めて表明され、そこでこのような湿地について締約国が保護策の策定と実施を促すべきことが定められた。また、勧告5.3で要求されたアプローチは、湿地の保全促進に使える唯一の手段というわけではなく、湿地の保護策は、情報を得た市民の自主的な活動の結果として行われる場合でも、有効であることに留意することが重要である。

146.「国際的に重要な湿地」として規模の小さな湿地を指定することに関する手引きは、COP7で採択された「国際的に重要な湿地のリストを将来的に拡充するための戦略的枠組み及びガイドライン」に含まれている。「規模の小さな湿地を見過ごさないこと。ラムサール条約湿地を体系的方法で指定する場合、条約湿地候補が必ずしもその領土内で最大の湿地とは限らないことを認識するよう、締約国に推奨する。湿地タイプによっては、もともと大きな湿地系として存在しないものもあり、あるいは昔は大きな湿地系であっても、今ではそうでないものもあるので、こうした湿地タイプを見過ごしてはならない。このような湿地は、生息地を維持するうえで、または生態学的群集レベルの生物多様性を維持するうえで、特に重要な場合がある。」

147.さらに、1997−2002年戦略計画の実施目標6.2は、「地球規模または国内で、特にこれまで十分に選出されていない湿地タイプに関して、国際的に重要な湿地のリストに登録する湿地の面積を増やすこと」である。ラムサール条約の「2003−2008年戦略計画」(決議.25)では、このリストに十分に選出されていない湿地タイプの指定に優先的に注意を払う必要があると繰り返しており、優先性の高い湿地タイプとして特定されたものには乾燥地帯の湿地が含まれている。乾燥地帯は一時的な湿地にとって重要な地域であり、一時的な湿地は主にこの地帯に分布している。

148.しかし、条約湿地に指定された 1180か所(2002年8月現在)のうち、主要湿地タイプを一時的な湿地として登録されているのはわずか70か所である。ただし相当数の条約湿地では、一時的な湿地の存在が、さほど重要でない特徴として挙げられていることに注意すべきである。

149.この追加手引きは、締約国がラムサール条約の賢明な利用の概念を適用して一時的な湿地の持続可能な利用を確保する際に、また一時的な湿地を条約湿地として特定し指定するために「国際的に重要な湿地のリストを将来的に拡充するための戦略的枠組み及びガイドライン」を適用する際に、締約国を支援するための情報を提供する。この手引きは、一時的な湿地は一般に規模が小さいこと、及び季節的であったり一時的であったりというその性質が原因で、湿地としての価値を過小評価されることが多いが、とりわけ乾燥地帯及び半乾燥地帯や長期の干ばつに脆弱な地域では、このような湿地が、生物多様性の維持にとって、また地域社会や先住民のための水や食糧その他の湿地産物の供給源として、また彼らの生活の方法にとって、きわめて重要である場合があるという事実認識に基づいて作成されている。

一時的な湿地の特定

150.一時的な湿地は、通常、冠水期と乾期が交互に訪れることを特徴とする小規模(面積10ha未満)で浅い湿地であり、水文学的にはほぼ自律している。一時的湿地は主に内湖 原注1 などのくぼ地にでき、湿潤土壌 原注2 の生成と、湿地に依存する水生や水陸両生の植物や動物群集が生育するのに十分な長さの期間にわたって冠水する。ただし一時的湿地の場合、これと同じく重要なことは、永久的湿地に特徴的な動植物群集が広範に生育するのを妨げるに足るだけの期間、干上がることである。

原注 1.内湖:水が蒸発によってのみ失われる水域、つま
 り流出河川のない水域。
2.過湿生成土壌:湿原、沼沢地、浸透域、または干
 潟のような排水の悪い条件下で発達する湛水土壌。

151.一時的湿地への水供給は、降雨や、小さくて分散していることの多い集水域からの流去水あるいは地下水などからくるのがふつうである。一時的湿地は、カルスト地帯、乾燥地帯、及び半乾燥地帯における地下水の涵養にも重要な場合がある。

152.湖の縁部などの永久的な地上の湿地、永久的な湿原、または大型河川と直接物理的に接する湿地は、この定義から外れる。

153.一時的な湿地は世界の多くの地域にあるが、特にカルスト地帯、乾燥地帯、半乾燥地帯、及び地中海型の地域に多く見られる。

154.ラムサール条約湿地分類法は主として植生を基準にするが、一時的な湿地はその大きさと水文学的機能で定義されるため、この分類法によると、一時的な湿地はいくつかの湿地タイプに該当することになる:

a)一時的な湿地は、タイプE(砂、礫、中礫海岸。砂州、砂嘴、砂礫性島、砂丘系を含む)の海洋沿岸域湿地として存在する場合がある;

b)一時的な湿地は、タイプN(季節的、断続的、不定期な河川、渓流、小河川)、タイプP(季節的、断続的な淡水湖沼(8haより大きい)。氾濫原の湖沼を含む)、タイプSs(季節的、断続的な塩水・汽水・アルカリ性湿原、水たまり)、タイプTs(無機質土壌上の季節的、断続的な淡水沼沢地・水たまり。沼地、ポットホール、季節的に冠水する草原、ヨシ沼沢地を含む)、タイプW(潅木の優占する湿原。無機質土壌上の、潅木湿地林、潅木の優占する淡水沼沢地林、潅木 carr、ハンノキ群落)、タイプXf(淡水樹木優占湿原。無機質土壌上の、淡水沼沢地林、季節的に冠水する森林、森林性沼沢地を含む)の内陸湿地として存在する場合がある;

c)一時的な湿地は、タイプ2(湖沼。一般的に8ha以下の農地用ため池、牧畜用ため池、小規模な貯水池)の人工湿地として存在する場合がある。

155.一時的な湿地の重要かつ特徴的な性質には、次のようなものがある:

a)湿潤期は通常水深が浅く、短期間であるため、ほとんどの期間は湿地だということがはっきりとわからないこと;

b)特に永久的な水生生息地とのつながりがなく、局地的な水文環境に全面的に依存していること;

c)植生が独特なこと。たとえば、通常は絶滅が危惧されている水生シダ類(Isoetes 種、Marsilea 種、Pilularia 種)や、その他の水陸両生植物(Ranunculus 種及び Calitriche 種)の典型的群落など;

d)その無脊椎動物群集の独特さ、及び両生類や鰓脚類甲殻動物のような絶滅が危惧される動物群の独特の豊富さ。これは、捕食者としての魚類が存在しないことによる場合が多い;

e)乾燥地帯、半乾燥地帯、及び地中海型の地帯に特によく見られること(カルスト景観における地上地形として発生することを含む);

f)世界各地にある多数の一時的な湿地が、採掘活動の結果として、あるいは地域社会が利用するための水の保持及び貯蔵を目的に創成されたという、人工的性質;

g)水鳥のための営巣地の提供。

一時的な湿地の持続可能な管理

156.一時的な湿地の持続可能な維持には数多くの脅威があるが、そのうちもっとも重大なものとしては以下がある:

a)土地転換のための排水や、反対に、より永久的な湿地への転換など、一時的な湿地が依拠する繊細な水文学的機能の改変。このような改変は、競争力が強く一時的な湿地特有というほどでもない動植物種による蚕食を招き、また捕食者ないしは競争相手の増加を通じて、一時的な湿地の重要な生物多様性上の価値を脅威にさらすことがある;

b)乾燥地域および半乾燥地域における干ばつの増加と長期化に対する、一時的な湿地とその生物の多様性の脆弱性;

c)過放牧、飼い葉用植物の乱獲、過度の取水など、一時的な湿地の自然資源の持続不可能な利用;

d)固形廃棄物の投棄;

e)汚染、集水域内の過度の取水や分流、堆積作用と潅木の繁茂から生じる土砂集積による自然の変化など、間接的脅威;

f)一時的な湿地に対する軽視とその価値や機能に対する認識の喪失につながる、伝統的な生活様式と土地利用の放棄;

g)一時的な湿地の価値と機能に対する認識の欠如。

157.一時的な湿地の持続可能な管理を確保するために、次のアプローチをとるべきである:

a)一時的な湿地が一つの湿地タイプとして国内湿地目録に確実に含まれるようにすること;

b)永久的な地表水から独立していることなど、一時的な湿地が依存する特有の水文学的機能を確実に維持すること;

c)水や飼い葉など、一時的な湿地の提供する自然資源が過剰利用されないようにすること;

d)既知の一時的な湿地について定期的に監視を行い、起こりうる直接または間接の脅威を回避すること;

e)新しい湿地の創成の影響をその創成に先立って評価し、その湿地を取り巻く広範な生態系が確実に悪影響を受けないようにすること;

f)一時的な湿地の存在、及びその湿地生態系としての特殊な価値と機能について、認識を高めること。

一時的な湿地のラムサール条約湿地としての指定:ラムサール条約湿地選定基準の適用

158.「国際的に重要な湿地のリストを将来的に拡充するための戦略的枠組み及びガイドライン」にある選定基準14は、一時的な湿地の条約湿地としての指定に特に関連する。一時的な湿地は一般に小さいので、基準5や基準6を適用できるほど多くの水鳥を定期的に支えていることはほとんどない。ただし、その地域の生物多様性を維持するという点で、水鳥に対する一時的な湿地の重要性は基準3を用いて認識することが可能であり、また特に乾燥地域と半乾燥地域では、水鳥の生活環にとって重要な場所として基準4を用いることができる。魚種のほとんどは一般に乾期に生き延びられないため、一時的な湿地には存在しないが、乾期を泥の中やのう胞内で生き延びられる魚種を一時的な湿地が支えている場合には、これに基準7や基準8を適用することが可能である。

159.基準1を適用する場合、締約国は、カルスト地帯、乾燥地帯または半乾燥地帯(地中海型を含む)にある一時的な湿地の選出に特に留意する。この湿地タイプは、とりわけこれらの生物地理区を代表するものである。

160.基準2及び基準4の適用に際しては、次のような動物群集が一時的な湿地の特徴であることを認識する:

a)その生活環の少なくとも一部分を、また多くの場合はそのすべてを通して、この湿地タイプに事実上依存すること;

b)その湿地のきわめて特有な水文学的条件に全面的に依存しており、本質的にきわめて脆弱であること。その水文学的条件を改変して乾燥もしくは湿潤化させると、一時的な湿地に特徴的な動植物群集全体が急速に失われかねないこと。

161.水生シダ類(Isoetes 種、Marsilea 種、Pilularia 種)など、一時的な湿地に典型的ないくつかの種は、地球規模または各国規模で絶滅の危機にさらされており、かつ保護種リストまたはレッドデータブックに掲載されている。このような種のための国内重要湿地については、基準2に基づく指定を検討することが適当である。

162.締約国は、一時的な湿地の重要性はその大きさと関係ないこと、及び地球の生物多様性への貢献という点で重要な湿地は、大きさで言えばわずか数ヘクタール、あるいは数平方メートルに過ぎないこともありうることを認識すべきである。

163.可能ならば、ラムサール条約湿地に指定する一時的な湿地にはその集水域全体(通常は小さい)を含めて、その水文学的一体性を維持すべきである。

164.基準4の適用に関して、一時的な湿地は、ときには数百の池からなる湿地群または湿地複合体として存在する場合が多いことに留意すべきである。雨が局所的に降る地域では、どの時点をとっても、干上がっている池もあれば水をたたえている池もある。水のある池は、その地域全体を生息域にする水鳥の集団に、生息地を提供する。つまりこうした水鳥の集団は、それぞれの池ではなく湿地群全体に依存している。したがって条約湿地の指定には、できる限り一時的な湿地全体を含めるべきであり、その際には特に、「国際的に重要な湿地のリストを将来的に拡充するための戦略的枠組み及びガイドライン」の小湿地群、特に乾燥地帯または半乾燥地帯にあり、かつ非永久的性質をもつ小湿地群の指定に関する手引き(決議.11付属書の段落50)に留意する。


.国際的に重要な湿地を指定するための基準及び長期目標、並びにその適用のためのガイドライン

165. 湿地リストを拡充するための戦略的枠組みの本セクションでは、湿地を選定するための基準とそれに対して条約が掲げている長期目標を紹介する。締約国が、優先的に指定する湿地を体系的な方法を用いて選べるように、各基準ごとにガイドラインも提供する。第項に掲げた全般的なガイドラインと合わせて、本項で提示するガイドラインを検討すること。また、添付文書Eには、以下に掲げる基準、長期目標、及びガイドラインで使われているものを対象に、用語集を掲載してある。

基準グループA  代表的、希少または固有な湿地タイプを含む湿地

基準1: 適当な生物地理区内に、自然のまたは自然度が高い湿地タイプの代表的、希少または固有な例を含む湿地がある場合には、当該湿地を国際的に重要とみなす。

この登録湿地に関する長期目標

166. ラムサール条約湿地分類法(第項)に従い、各生物地理区内に見いだされる湿地タイプごとに、少なくとも代表となる適当な湿地一つを登録湿地に含めるようにすること。

ガイドライン

167. この基準を体系的に応用する場合、締約国には以下を奨励する。

  1. 領土内または超国家的な地域レベルで、生物地理区を決定すること
  2. 各生物地理区内に存在する湿地タイプの範囲を決定し(ラムサール条約湿地分類法を用いる、添付文書Bを参照)、その際には特に、希少なまたは固有な湿地タイプに注意する。
  3. 各生物地理区内の各湿地タイプごとに、最も典型的な例(添付文書Eの用語集を参照)となる湿地を、ラムサール条約に基づく登録湿地に指定すべく、特定する。

168. 目標1には、特にその中でも目標1.2(前述第10節)には、この基準に基づく別の検討事項として、主要河川流域または沿岸系の自然の機能の中で、生態学的または水文学的に重要な役割を果たしている湿地を優先することを掲げている。水文学的機能については、この基準の下で締約国が優先的に登録する湿地の決定について検討しやすくするために、以下の手引きを提示する。生物学的役割及び生態学的な役割に関する手引きについては、基準2を参照されたい。

169. 水文学的重要性 ラムサール条約第2条に定める通り、湿地は、水文学上の重要性にしたがって選定されるべきであり、これには特に以下の属性が含まれる。

  1. 洪水に対する自然による調節、改善、または予防に大きな役割を果たすこと
  2. 湿地その他下流にある保全上重要な地域の季節的な保水にとって重要であること
  3. 帯水層の水の涵養にとって重要であること
  4. カルスト、または主要な地上の湿地に対する供給源となっている地下の水文学系もしくは湧水系の一部分を構成していること
  5. 主要な自然の氾濫原系であること
  6. 少なくとも地域的な気候の調節や安定の面で大きな水文学的影響力を持つこと(例えば、ある地域の雲霧林や熱帯雨林、半乾燥地域、乾燥地域または砂漠地域、ツンドラにおける湿地や湿地複合、炭素の吸収源として機能する泥炭地系等)
  7. 高い水質基準の維持に主要な役割を果たしていること

基準グループB  生物多様性の保全のために国際的に重要な湿地

種及び生態学的群集に基づく基準

基準2: 危急種、絶滅危惧種または近絶滅種と特定された種、または絶滅のおそれのある生態学的群集を支えている場合には、国際的に重要な湿地とみなす。

この登録湿地に関する長期目標

170. 危急種、絶滅危惧種、近絶滅種または絶滅のおそれのある生態学的群集の生存にとって重要だと考えられる湿地を、登録湿地に含めるようにすること。

ガイドライン

171. 登録湿地は、地球規模で絶滅のおそれのある種や生態学的群集の保全にとって、重要な役割を担っている。関係している個体数が少ないにもかかわらず、また、入手できる定量的なデータや情報の質が低いことが多いにもかかわらず、生活環のいずれの段階であれ地球規模で絶滅のおそれのある種を支えている湿地を、基準2または3を用いて登録するよう、特に検討する。

172. この戦略的枠組みの総合目標2.2では、絶滅のおそれのある生態学的群集を含む湿地、または、絶滅のおそれのある種に関する国内法もしくは国家計画、またはIUCN(国際自然保護連合)レッドリスト、絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約(ワシントン条約)の付属書、及び移動性野生動植物種に関する条約(ボン条約)等の国際的な枠組みにより、危急種、絶滅危惧種または近絶滅種と特定された種の生存にとって重要な湿地を登録湿地に加えるよう、締約国に要請している。

173. 締約国がこの基準に基づいて登録湿地候補を検討する場合、希少種、危急種、絶滅危惧種、または近絶滅種の種に対して生息地を提供する湿地のネットワークを登録湿地に選定すれば、最大の保全価値を達成できる。理想的には、このネットワークに含まれる湿地が以下のいずれかまたはすべての特性を備えていることが望ましい。

  1. 生活環の様々な段階において、対象となる種の移動性の個体群を支えている。
  2. 渡り経路沿い、つまりフライウェイ沿いに種の個体群を支えている。但し、種が異なれば渡りの方法も異なるものとなり、中継点の間に必要な最大距離も異なる点に留意すること。
  3. 悪条件のときに個体群に避難場所を提供する等、他の面で生態学的に関係している。
  4. 登録湿地に指定されている他の湿地に隣接しているか、またはその近隣にあり、当該湿地を保全すれば保護される生息地の面積が拡大し、絶滅のおそれのある種の個体群の生存可能性を高めることになる。
  5. 狭い生息地のタイプを占有ながら分散して生活する定着種の個体群の相当な割合を収容している。

174. 絶滅のおそれのある生態学的群集を特定する場合、次のいずれかもしくはすべての特性を有する湿地を登録湿地に選定すれば、最大の保全価値を達成できる。

  1. 特定の群集の質が高い場合、または当該群集が生物地理区に特に典型的なものである場合に、その特定の群集を擁するかなりの面積を含む。
  2. 希少な群集を収容する湿地である。
  3. 移行帯、遷移過程の途中の段階、及び群集等、個々の過程の典型例となるものが含まれている。
  4. 現在の状況下ではもはや発達できない群集を収容している(例えば、気候変動または人為的干渉により)。
  5. 長い発達の歴史の末に現在の段階に至った群集を収容しており、保存状態のよい古環境を支えている。
  6. 他の(おそらく希少度の高い)群集または特定の種の生存にとって、機能面で重要な群集を収容している湿地である。
  7. 生息範囲または発生数がかなり減少した群集を収容していること

175. 上述第4649節「湿地の境界の決定」で述べた生息地の多様性と遷移に関する問題についても留意すること。

基準3: 特定の生物地理区における生物多様性の維持に重要な動植物種の個体群を支えている場合には、国際的に重要な湿地とみなす。

この登録湿地に関する長期目標

176. 各生物地理区の生物多様性を維持するのに重要と考えられる湿地を登録湿地に含めるようにすること。

ガイドライン

177. 締約国がこの基準に基づいて登録湿地候補を検討する場合、以下のいずれかまたはすべての特性を備えている一連の湿地を選定すれば、最大の保全価値を達成することができる。

  1. 生物多様性の「ホットスポット」であり、存在する種数が正確に知られていないとしても、明らかに種の豊富な湿地である。
  2. 固有性の中心であるか、またはかなりの数の固有種を収容している。
  3. 地域内で発生する一連の生物多様性(生息地のタイプの多様性も含む)を収容している。
  4. 特殊な環境条件(半乾燥地域または乾燥地域の一時的な湿地等)に適応した種の相当な割合を収容している。
  5. 生物地理区の希少または特徴的な生物多様性の要素を支えている。

基準4:生活環の重要な段階において動植物種を支えている場合、または悪条件の期間中に動植物種に避難場所を提供している場合には、国際的に重要な湿地とみなす。

この登録湿地に関する長期目標

178. 生活環の重要な段階において、または悪条件が支配的な状況において、動植物種に生息地を提供する上で最も重要な湿地を、登録湿地に含めるようにすること。

ガイドライン

179. 移動性の種または渡り性の種にとって重要な湿地は、生活環の特定の段階において比較的狭い地域に集まる個体群のうちの、きわめて大きな割合を収容するものである。これは、一年のうちの特定の時期の場合もあれば、半乾燥地域や乾燥地域においては、特定の降雨パターンを示す年の場合もある。例えば多くの水鳥は、繁殖地域と非繁殖地域の間にある長い渡りの道程の途中で、比較的狭い地域を主な中継地(採食及び休息用の場所)に利用する。ガン・カモ科の種にとっては、換羽の場所も同じく重要である。半乾燥地域または乾燥地域にある湿地には、水鳥その他湿地に生息する移動性の種がきわめて高い集中度で収容され、個体群の生存にとって重大な鍵を握っていることがある。しかしながら、降雨パターンが年によってかなり変わることから、見た目に明らかな重要性は年毎に大きく変動する可能性がある。

180. 湿地に生息する非渡り性の種は、気候等の条件が好ましくない場合でも生息地を変えることはできず、一部の湿地だけが、中長期的に種の個体群を維持するための生態学的な特性を備えることになる。こうして一部のワニや魚類は、乾期になって適当な水生の生息地の範囲が狭まるにつれて、湿地複合の中にある水深の深い所や池へと避難していく。そうした湿地では、雨期が再びめぐってきて湿地内の生息範囲が再び広がるまで、この狭い地域が動物の生存にとって重大な鍵を握る。非渡り性の種に対してこのような機能を果たす湿地(生態学的、地形学的、及び物理的に複雑な構造の場合が多い)は、個体群の存続にとって特に重要であり、優先的に登録湿地候補として考慮する。

水鳥に基づく特定基準

基準5: 定期的に2万羽以上の水鳥を支える場合には、国際的に重要な湿地とみなす。

この登録湿地に関する長期目標

181. 定期的に2万羽以上の水鳥を支えるすべての湿地を登録湿地に含めるようにすること。

ガイドライン

182. 締約国が、この基準に基づいて登録湿地候補を検討する場合、世界的に絶滅のおそれのある種や亜種を含む水鳥の集合に対して生息地を提供する湿地のネットワークを登録湿地に選定すれば、最大の保全価値を達成できる。現在のところ、こうした湿地はあまり登録されていない(Green 1996)。上述第44節の「種の存在に対する正しい認識」も同じく参照のこと。

183. 外来種の水鳥については、特定湿地の総個体数に含めてはならない(上述第45節「外来種」も参照のこと)。

184. この基準は、各締約国の様々な大きさの湿地に等しく適用される。この数の水鳥が存在する面積を正確に示すことは不可能だが、基準5に基づいて国際的に重要と特定される湿地は生態学的な単位を構成しているはずであり、したがって1か所の大きな地域を構成しているか、または小規模な湿地の集合である。上述第50節、51節の「湿地群」も同じく参照のこと。データが得られる場合には、累計を把握できるように、渡りの期間中における水鳥の入れ換わり数も考慮すること。

185. 上述第52節「国際的枠組みによる補完」も参照のこと。

基準6: 水鳥の一の種または亜種の個体群において、個体数の1%を定期的に支えている場合には、国際的に重要な湿地とみなす。

この登録湿地に関する長期目標

186. 生物地理区内における水鳥の種または水鳥の亜種の個体数の1%以上を定期的に支えるすべての湿地を登録湿地に含めるようにすること。

ガイドライン

187. 締約国が、この基準に基づいて登録湿地候補を検討する場合、世界的に絶滅のおそれのある種や亜種の個体群を収容する一連の湿地を登録湿地に選定すれば、最大の保全価値を達成できる。上述第44節「種の存在に対する正しい認識」、第52節「国際的枠組みによる補完」も同じく参照のこと。データが得られる場合には、累計を把握できるように、渡りの期間中における水鳥の入れ換わり数も考慮すること。

188. 締約国は、国際的に矛盾のないようにするため、可能な場合には、この基準に基づく登録湿地の評価基準として、国際湿地保全連合が発表して3年ごとに内容を更新している国際的な推定個体数と1%基準を用いる。決議.4が要請しているように、締約国は、この基準のより良い適用を図るために、将来における国際的な水鳥推定個体数の更新と改訂に向けてデータを提供するだけでなく、当該推定数データの大多数の出所である国際湿地保全連合の国際水鳥調査に関し、自国内での実施と発展を支援する。

魚類に基づく特定基準

基準7: 固有な魚類の亜種、種、または科、生活史の一段階、種間相互作用、湿地の利益もしくは価値を代表する個体群の相当な割合を維持しており、それによって世界の生物多様性に貢献している場合には、国際的に重要な湿地とみなす。

この登録湿地に関する長期目標

189. 固有な魚類の亜種、種または科の相当な割合を支える湿地を登録湿地に含めるようにすること。

ガイドライン

190. 魚類は、湿地と結びついている脊椎動物の中で、最も数が多い。世界全体でみると、一生を通じて、あるいは生活環の一部分だけを湿地で過ごす魚類は、1万8000種以上にのぼる。

191. 基準7は、魚類及び甲殻類の高い多様性があれば、その湿地を国際的に重要な湿地に指定できることを示している。この基準は、多様性というものが、分類群の数、様々な生活史の段階、種間相互作用、及び分類群と外部環境との相互作用の複雑さ等、様々な形をとりうることを強調している。したがって、種の数だけで個々の湿地の重要性を評価するのは不十分である。さらに、種がその生活環の様々な段階で果たす様々な生態学的役割についても考慮する必要がある。

192. この生物多様性の解釈には、高水準の固有性と生物非単一性が重要だということが暗黙のうちに含まれている。多くの湿地では、高い固有性を持つ魚類相がその特徴となっている。

193. 国際的に重要な湿地の特定には、固有性の度合いを測る何らかの尺度を用いる。少なくとも魚類の10%が、一つの湿地または自然にまとまっている湿地群に固有のものならば、その湿地を国際的に重要とみなす。しかし固有の魚類がいなくとも、他に相応の特徴があれば、重要な湿地に指定される資格がないわけではない。湖のなかには、アフリカのグレートレイクスと呼ばれる湖群(ビクトリア湖等を含む)、ロシアのバイカル湖、ボリビアとペルーにまたがるチチカカ湖、乾燥地域にあるシンクホール湖や洞窟湖、島にある湖等のように、固有性のレベルが90100%という、きわめて高い数字に達するものもあるが、世界全体に適用するには10%という数字が現実的である。固有の魚類種が生息していない地域では、地理的な亜種のように、種以下の区分での遺伝的に異なる固有性を尺度に用いる。

194. 世界中で魚類の734種が絶滅の危機に瀕しており、少なくとも92種がこの400年間に絶滅したことが知られている(Ballie & Groombridge 1996)。希少種または絶滅のおそれのある種の存在については、基準2で取り扱う。

195. 生物多様性の重要な構成要素は、生物非単一性、すなわち群集内における形態または生殖形態の幅である。湿地群集の生物非単一性は、生息地の時間的、空間的多様性と予測可能性によって決定される。すなわち、生息地がより異なって予測できないものになれば、魚類相の生物非単一性はそれだけ大きくなる。例えば、マラウィ湖は安定した古代からの湖であり、そこには600以上の魚種が生息しているが、そのうち92%は口の中で稚魚を育てるカワスズメ科の魚類であって、科の数にすれば23科の魚類しか生息していない。これとは対照的に、ボツワナのオカバンゴ湿地という雨期と乾期の間で変動する沼地の氾濫原では、生息する魚種は60種に過ぎないが形態や生殖形態が非常に多様であり、生息する魚類の科の数は多く、つまり生物多様性はマラウィ湖よりも豊富である(Bruton & Merron 1990)。湿地の国際的な重要性を評価するには、生物多様性と生物非単一性の両方を尺度として利用すべきである。

基準8: 魚類の重要な食物源であり、産卵場、稚魚の成育場であり、または湿地内もしくは湿地外の漁業資源が依存する回遊経路となっている場合には、国際的に重要な湿地とみなす。

この登録湿地に関する長期目標

196. 魚類の重要な食物源を提供する湿地、または産卵場、稚魚の成育場である湿地、または魚類の回遊経路上にある湿地を登録湿地に含めるようにすること。

ガイドライン

197. 多くの魚類(甲殻類を含む)は、その産卵場、稚魚の成育場、採食場が広く分散しており、かつそれらの場所の間を長距離にわたって移動する等、複雑な生活史を有している。もし魚類の種や系統を維持しようとするなら、魚類の生活環を完結させるのに不可欠な場所をすべて保全することが重要である。沿岸の湿地(沿岸の潟湖や河口、塩生湿地、海岸の岩礁や砂丘を含む)は、水深が浅くて生産性の高い生息地を提供しており、成魚の段階を開放水域で過ごす魚類は、採食場や産卵場、稚魚の成育場として沿岸の湿地を広範に利用している。したがってこうした湿地は、大きな成魚の個体群の生息地になっていないとしても、漁業資源にとって不可欠な生態学的過程を支えているのである。

198. さらに、河川や沼地、湖に生息する多くの魚類は、当該生態系の一部分で産卵したとしても、他の内水面や海洋で成熟期を過ごす。湖に生息する魚類は、産卵のために河川を遡上するのがふつうであるし、河川に生息する魚類は、産卵のために河川を下って湖や河口、あるいは河口の先にある海へと移動するのがふつうである。沼地に生息する多くの魚類は、より永続的で深い水域から、浅いところや、一時的に冠水している場所へと産卵に向かう。したがって、水系の一部をなす湿地は、一見したところ重要ではないように見える場合であっても、当該湿地の上流、下流にわたる広い河川流域の適切な機能を維持するのに不可欠な場合がある。

199. 本ガイドラインはあくまでも手引きを目的とするものであり、個々の湿地その他において漁業を規制する締約国の権利を妨げるものではない。


添付文書A

ラムサール条約湿地情報票(RIS)

締約国会議の勧告4.7によって承認され,決議.13で修正された分類.

記入に際しての注意

1.ラムサール条約湿地情報票は、本書付随の「ラムサール条約湿地情報票記入のための注釈及びガイドライン」にしたがって作成されるべきこと。本票への記入の前に、必ず上記ガイドラインを読むよう強く促す。

2. 完成したラムサール条約湿地情報票(RIS)(及び付随する地図)をラムサール条約事務局まで提出すること。記入者に対して、本票の電子媒体(MS Word形式)及び可能ならば電子媒体地図のコピーを作成することを強く要請する。


事務局使用欄
日付
登録を受けた日・湿地参照番号

1.本票記入者の氏名、住所:

 (例:環境省担当者氏名)
 環境省自然環境局野生生物課
 東京都千代田区霞ヶ関1‐2‐2
 tel 03-5521-8284 fax 03-3581-7090
 xxx_xxxx@env.go.jp

2.本票記入日、更新日:   年 月 日

3.国名: (例:日本)

4.条約湿地名称:

5.湿地の地図の添付:
添付文書[このページの添付文書D]の適切な地図の提出について細目の手引きについては「注釈及びガイドライン」を参照のこと。

a)紙媒体(ラムサール条約湿地リストへの登録時、必須)(□はい  □いいえ):

b)電子媒体(オプション)(□はい  □いいえ):

6.経度緯度: 東経  度 分、北緯 度 分

7.一般的所在地:
所在地の地方名、地方行政区名、条約湿地に最も近い都市名を記述すること。

8.海抜:  T.P.(東京湾中等潮位)   

9.面積:   ha

10.概要:
湿地の主な生態学的特徴や重要性の概要を、短文にまとめること。

11.ラムサール条約湿地選定基準:
該当する基準に○又は下線を記入すること。選定基準及びその適用についての手引きは添付文書「注釈及びガイドライン」[このページの添付文書C]参照のこと。(決議.11で採択)

1

2

3

4

5

6

7

8


12.11.で選定した基準の根拠:
選定した基準毎に、順次明確に記述すること。(根拠に合致した書式についての手引きは添付文書[このページの添付文書C]参照のこと)

13.生物地理学(指定にあたって、基準1や3、また確実に基準2が適用される場合必須):
ラムサール条約湿地を含む生物地理学的地域を記載し、採用した生物地理学的地域区分システムを明記する。

a)生物地理学的地域

b)生物地理学的地域区分計画(参考文献を記入):

14.湿地の物理的特性:
地質、地形、天然または人工等の起源、水文学的特徴、土壌タイプ、水質、水深、水の永続性、水位の変動、潮汐の変化、流域面積、気候等を適宜記述。

15.集水域の物理的特性:
表面積、一般的な地質学及び地形学的特性、一般的な土壌タイプ、一般的な土地利用、気候(気候タイプを含む)を記述。

16.水文学上の価値:
地下水涵養、洪水調節、堆積物捕捉、安定した海岸線の保持等の機能と価値を記述。

17.湿地タイプ

a)出現度:
ラムサール条約湿地の「湿地分類法」の湿地タイプに該当するコードに○か下線を記入する。各々の湿地タイプの記述は、添付文書の「注釈及びガイドライン」[このページの添付文書B]に記載されている。

海洋沿岸域湿地:

A

B

C

D

E

F

G

H

I

J

K

Zk(a)


内陸湿地:

L

M

N

O

P

Q

R

Sp

Ss

Tp

Ts

U

Va

Vt

W

Xf

Xp

Y

Zg

Zk(b)


人工湿地:

1

2

3

4

5

6

7

8

9

Zk(c)


b)優占度:
a)で明記した湿地タイプを、第一にその湿地内で最も広い面積を有する湿地タイプから始めて(面積による)優占度に従って順に列記する。

18.一般的な生態学的特性:
主な生息地と植生の種類、動物群集・植物群落などを適宜記述する。

19.特記すべき植物:
特筆すべき種についての追加情報、またなぜそれらが特記すべきなのか、(「12.基準の適用の根拠」で述べている記述を必要に応じて発展させる)例えば、固有種、気象種、絶滅危惧種、生物地理学的に重要であるのはどの種・群集であるか、などを記入する。但し本項に湿地に現存する種の分類学的リストを記入しないこと−それらは本情報票の追加情報として提供すればよい。

20.特記すべき動物:
特筆すべき種についての追加情報、またなぜそれらが特記すべきなのか、(「12.基準の適用の根拠」で述べている記述を必要に応じて発展させる)例えば、固有種、気象種、絶滅危惧種、生物地理学的に重要であるのはどの種・群集であるか、などを個体数データも含んで記入する。但し本項に湿地に現存する種の分類学的リストを記入しないこと−それらは本情報票の追加情報として提供すること。

21.社会的、文化的価値:
例えば湿地の、漁業生産、林業、宗教上の重要性、考古学的遺跡、社会的な関係等。歴史的、考古学的、宗教上の意味と現行の社会的経済価値とは区別すること。

22.土地保有権、所有権:
(a)湿地:

(b)周辺地域:

23.現在の土地(及び水)利用:
(a)湿地:

(b)周辺地域、集水域:

24.土地利用(水利用も含む)の変更、開発計画等、湿地の生態学的特徴に悪影響を及ぼす要因(過去、現在、将来):
(a)湿地:

(b)湿地周辺地域:

25.実施されている保全策:
条約湿地との境界線の関係を含めて、国レベルでの保護区の種類と法律的地位、管理実践、公的に承認された管理計画の有無とその実施の有無。

26.実施に移されていない保全策案:
例えば、策定中の管理計画、法的保護区とする正式提案の提示等。

27.科学的研究及び施設の現状:
生物多様性モニタリング等を包む、現行の調査プロジェクトの詳細、現地調査事務所の有無等。

28.現在の保全教育:
ビジターセンター、観察用小屋及び自然遊歩道、情報冊子、学校見学用施設等。

29.レクリエーション、観光の現状:
湿地がレクリエーションや観光用に使われているかどうか、使われている場合にはその種類、頻度や利用度等。

30.管轄:
国、地方自治体等の領土上の管轄及び農水省、環境省等の機能上の管轄等

31.管理当局:
湿地の管理を現地で直接に所管する機関または組織の現地事務所の名称、住所を記入する。また、可能であれば必ず、上記事務所で湿地管理に携わる人物の所属・氏名を記入すること。
(例:環境省 自然環境局 xx地区自然保護事務所 xxx支所)

32.参考文献:
科学、技術分野のみ。もし、上記13.生物地理学的地域区分計画の適用がある場合、計画が全て参照できる様、リストアップすること。

本文書及びラムサール条約湿地情報票についての質問状(並びに記入済みの情報票)は、次の住所宛にご送付ください:
Ramsar Convention Bureau, Rue Mauverney 28, CH-1196 GLAND, Switzerland
電話番号: +41 22 999 0170、ファクス番号: +41 22 999 0169、電子メール: ramsar@ramsar.org


「ラムサール条約湿地情報票(RIS)」記入のための注釈及びガイドライン

背景と状況

締約国会議勧告4.7は、「ラムサール・データベース、及びその他の適切な場合に情報を提供するときには、締約国及びラムサール条約事務局は、ラムサール条約湿地の記載のために作成された『データシート』を使うよう」定めた。同勧告は、「選定の理由(ラムサール条約湿地選定基準)」及びラムサールの「湿地分類法」と合わせて、「データシート」に記載する情報の種類を掲げた。

決議5.3では、国際的に重要な湿地(ラムサール条約湿地)への指定に際して、「ラムサール・データシート」を完成させて湿地の地図とともに提出することを再確認した。このことは、続けて決議.13と.16でも繰り返し述べられた。正式には「ラムサール条約湿地情報票」(RISと略す)と題するこのデータシートが、ラムサール条約湿地に関する情報とデータを記録するための標準様式を提供する。

決議5.3はまた、ラムサール条約湿地リストへ登録するための選定基準、湿地の機能・価値(水文学、生物物理学、植物、動物、社会、文化の各面での価値)、そして実施方法や計画などの保全策が、特に重要な情報の種類であることを強調し、RISに湿地について記載する際に、ラムサール条約の「湿地分類法」を適用する事の重要性を強調した。

「国際的に重要な湿地の選定基準」は、1974年に最初の基準が採択され、その後の締約国会議によって洗練されてきた。基準の現在の様式は、勧告4.2(1990年)において設定されたものに、決議.2が採択した魚類に基づく追加基準が加わったものである。「基準」は再び根本的に見直しが行われ、適用のための詳細手引きをつけて、「国際的に重要な湿地のリストを将来的に拡充するための戦略的枠組み及びガイドライン」の一部として決議.11によって採択された。これらの基準とガイドラインは、本「注釈」の添付文書[このページの添付文書C]に含まれる。

「ラムサール条約湿地情報票(RIS)」は、締約国が湿地をラムサール条約湿地として指定する際に完成し、ラムサール条約事務局に提出する。ラムサール条約湿地として登録された湿地の状態は、その生態学的特徴、その特徴に対する脅威と、また進行中のその保全管理の過程と行動との両面において変化する可能性があり、また変化するという認識から、決議.13は、締約国に対して、少なくとも6年おきにRISの内容を更新することを強く要求した。

RISとその付随する地図は、ラムサール条約事務局が保管する。締約国が提供したRISの情報はラムサール・データベースへ入力する基礎データや情報として利用され、ラムサール条約事務局との契約の下に、条約の代りに国際湿地保全連合が管理する。データベースは、、国際的に重要な湿地のリストのための戦略的枠組みとガイドライン(決議.11)や、締約国会議のその他の決議の実施に向けた進行状況の分析や締約国会議への報告など、ラムサール条約湿地に関する情報サービスを提供するために運用される。

あらゆる追加情報提供を含め、締約国によって提供されたRISの情報、ラムサール条約湿地データベースに入力された情報はまた、国際湿地保全連合が各締約国会議に向けてラムサール条約湿地名鑑の作成をするためにも利用される。この条約湿地名鑑には、登録されたそれぞれのラムサール条約湿地の特性や保全状況について、アクセスが公開されて標準化された一覧があり、現在、国際湿地保全連合のウェブサイト(http://www.wetlands.org)から利用することができる。

全般に関する手引き

RISは、条約の3つの使用言語である英語・フランス語・スペイン語のいずれかを使って完成されなければならない。RISと、付随するこの「注釈及びガイドライン」は、3つの使用言語のいずれでも入手可能である。

RISに提供される情報は、明瞭、簡潔に記載し、通常12ページを越えてはならない。

良く研究され、また文献が豊富な湿地、つまり特別な現地調査の対象となった湿地の場合、情報がRISに組み込むことのできるよりもずっと多いこともある。条約湿地に生息する種の状況についての分類リスト、管理計画、公表された内容の写しや報告書のコピーなどの追加情報はRISに添付されるべきもので、条約湿地の公式記録の一部とみなされる。また(プリント、ポジ(スライド)や電子写真などの)湿地の写真は、特に歓迎する。あらゆる追加情報の出典を記載すべきである。

ラムサール条約湿地として指定される場所が、非常に広く、複雑な湿地システム、またはいくつかにわかれた湿地からなる条約湿地の場合には、二つのレベルで対応することが望ましい。つまり湿地系全体に対する大まかな報告と、その湿地系の中にある主要な部分や小湿地に対する詳細な報告である。したがって特に大きな湿地複合については、湿地全体に対する情報票に加えて、そこに含まれる主要地域に対する一連の情報票を作成することが適切と考えられる。

決議.1では、湿地の生態学的特徴を維持するためのラムサール条約湿地のモニタリングの根拠として、その生態学的特性を明瞭に確定することが重要であると強調している。維持されねばならない湿地の生態学的特徴の鍵となる特性には、登録にあたってその根拠とした各々のラムサール基準の下の特性を含めなければならない。さらに、「ラムサール条約湿地及びその他の湿地に係る管理計画策定のための新ガイドライン」(決議.14)に、生態学的特徴である特性を明確化し記述するための手引きが提供されている。

登録された湿地について管理計画が準備されているところでは、RISに提供された情報は、管理計画に記載された生態学的特徴の特性、湿地の価値や機能、その特徴に影響を与え、または与えうる要素、価値や機能、そしてモニタリングを包む管理計画策定プロセスと合致していなければならない。

湿地がラムサール条約湿地に指定された後に、管理計画が管理計画策定プロセスの一部として準備されたとき、RISに提供された情報をチェックしなければならず、また必要であれば、RISを改訂して完成させ、ラムサール条約事務局に提出しなければならない。

決議.1の付属書では、条約湿地の生態学的特徴の説明・評価のために集められた情報の価値を高める必要があること、及び以下に重点を置く必要があることを記している。

  • 国際的に重要な湿地に利益や価値を与える湿地の機能・生産物・属性を記載し、ベースラインを確定すること。(現在のラムサール条約湿地選定基準では、湿地での変化に伴って起こりうる影響を評価する際に、考慮すべきすべての湿地の利益や価値を網羅しているわけではないので、これが必要となる)。RISの12、14、15、16、17、18、19、20、21の各記載項目がこれに該当。

  • 国際的に重要な利益や価値にすでに影響を及ぼした、あるいは重大な影響を及ぼしうる人為的要因に関する情報を提供すること。RISの記載項目24がこれに該当する。

  • 条約湿地ですでに行われている(あるいは計画中の)モニタリングや調査の方法に関する情報を提供すること。RISの記載項目25、26がこれに該当する。

  • 湿地の生態学的特徴にすでに影響を及ぼした、あるいは及ぼしうる、季節的もしくは長期的な「自然の」変化(例えば、植生遷移、ハリケーンのような偶発的・破壊的な生態学上の出来事など)、またはその両方について、自然の変異やその大きさに関する情報を提供する。RISの記載項目16、24がこれに該当する。

ラムサール条約湿地情報票(RIS)の各項作成の手引き

1.情報票記入者の氏名、住所:情報票の記入を行った人の氏名、組織名(機関名)、住所、電話番号、ファクス番号、電子メールアドレスを記載。

2.日付:情報票の記入日(または情報票を更新した日)を記入。記入に際し、月は数字ではなく月の英語名で記入すること。

3.国名:締約国の正式名称(短縮形)を記入。

4.条約湿地名称:条約の使用言語である英語、フランス語、スペイン語のいずれかにより、条約湿地に指定された湿地の正式名称を記入。日本語の名称など、別の名称は正式名称の後に括弧をつけて記入すること。使用される湿地名称は、本項と地図で使用される湿地名称を確実に同一とすること。本項で記入した名称がそのままラムサール条約湿地リストに登録されるときにも使用される。

5.条約湿地の地図:湿地の公認された最新で適切な地図を、紙媒体でRISに添付。(可能であれば電子情報も提出すること)いずれにせよ、紙媒体の地図は、国際的に重要な湿地のリストへの登録のための必須事項である。RISに地図を添付したかどうかに関して、□「はい」・□「いいえ」にチェックを入れる。地図には、ラムサール条約湿地の境界を明確に示すこと。添付文書[このページの添付文書D]で、ラムサール条約湿地の適切な地図及びその他の地理情報に関する規定の詳細な手引きを示す。注として、供給された地図及びラムサール条約湿地に関連する他の地図のリストをRISに添付しなければならない。

6.経度緯度:湿地のほぼ中心の地理的座標を、緯度、経度の度、分、秒で表す(南緯 01°2415 東経 104°1601 または北緯 010°3000 西経 084°5145 など)。対象湿地が互いに離れた構成単位から成る場合には、その個数を明記する。複数の構成単位が最低 1.6 km四方()以上離れて位置する場合、構成単位ごとの中心地の座標を記入する(例えば「A、B、C、」毎など、個別の名称や標識(ラベル)の区別に応じて)。いかなる別個の構成単位であっても、RISで区別したものは、条約湿地地図上でも明確に分類すること。また単独で 1,000 haを占める湿地に、中央の地理的座標一点では、不充分である。広大なラムサール条約湿地の地理情報は、湿地の南西及び北東の隅の地理的座標を与える事によって補うこと(記載項目5及び9も参照のこと)。

(*)緯度・経度の1が、約1.6 kmであるため(経度1は赤道の場合)。

ほぼ中心の地理的座標を簡単に明記出来ない場合、またその点が条約湿地範囲外にはずれてしまう場合や非常に狭い部分に落ちてしまう場合はその旨を注記して、条約湿地の大半を占める部分のほぼ中央の点を明記すること。

7.一般的所在地:湿地の全体としての所在地を記述。この記述には、行政上の大きな括りの地域名(例:都道府県といった行政区分)とそれが属する地方名(例:宮城県/東北・本州、沖縄県/沖縄・九州、など)、「県」「地区」や、大きな行政上の中心となる都市、町、市で最も近くにある所から湿地までの直線距離と方位を含めて記載すること。中心となる都市の人口や行政地方名(可能であればすぐ上のレベルの行政区分/管轄区分も含める)も記載する。

8.海抜:湿地の平均海抜、または最高海抜及び最低海抜を平均海面上のメートル数で記入する。「平均」、「最高」、「最低」など数値の意味する語をはっきりと記入すること。

9.面積:指定した条約湿地の総面積をヘクタールで記入。個別の構成単位に分かれた個々の面積がわかっている場合、これらの構成単位を識別・区別する名称をそえて、その各々の面積を記入する(項目5. 地図も参照のこと)。

10.概要:湿地タイプやその重要性、主要な物理的・生態学的特徴となる特性、最も重要な価値や機能、また特に興味深い特徴などを、「精彩のある文章」で、湿地を簡単な短文にまとめる。特に、17b)項で最も優占度が高いと特定されるような最も重要な湿地タイプも注記すること。

11.ラムサール条約湿地選定基準:「国際的に重要な湿地の選定基準」のうち、対象湿地に当てはまる記号を、○で囲むか下線を引く。当該選定基準に関しては、添付文書[このページの添付文書C]と、決議.11で確定された「基準の適用にあたっての詳細手引きについて」を参照のこと。

多くの湿地は1個以上の基準を満たすことに留意して、合致する全ての基準を完全にかつ精確に選ぶこと。各々の選定基準の適用を正当づける個別の理由は、次項12に記述する。項目11では根拠とする基準を選ぶ。。

12.項目11で選定した基準の根拠:項目11で選定した上記のラムサール条約湿地基準に関し、どういった理由で条約湿地の基準を適用するかを、個々の基準について記述。RISの中で本項は、「国際的に重要な湿地」の概念の根幹である。基準コード単独では、各々の基準が個々の条約湿地に適応している事についての、道筋だった明確な情報を伝達しない−従って、ラムサール基準コードの選択にあたっての説明及び裏付けに、充分に正確な記述を提供することが肝要である。本項の記述は、基準をそのまま繰り返すだけでなく、選定された基準が個々のラムサール条約湿地にどのように当てはまるのかを説明するのに必要な詳細情報を記述しなければならない。添付文書「基準の適用のための詳細手引き」[このページの添付文書C](決議.11で採択)を参照のこと。

登録のために選択した基準の適用に対する根拠を準備するにあたって、個々の選定基準とその適用のためのガイドラインの正しい使用方法に関して、いくつかの点を考慮に入れなければならない:

基準1及びの適用のためのガイドラインは、これらの基準を、それが起こる生物地理区という文脈の中で、湿地に適用すべきことを強調する。しかし、生物地理区が湿地タイプによって異なる場合があることは認める。生物地理区の文脈は、基準2による、脅威を受けている生態学的群集の選定のための、ある理由に対して適用することができる。条約湿地の周囲にある生物地理区と、適用した生物地理学的地域区分の方法は、「13.生物地理学」の項に記入しなければならない;

基準5に関して、ガイドラインは、実際の水鳥の飛来数の合計をはっきり述べ、また望ましくは、入手可能な場合、最近数年間の平均飛来数を述べなければならないこととしている。湿地が水鳥2万羽以上を支えているなど、単に基準をなぞって書くだけでは不充分である;

基準6を選定の根拠とすることに関しては、この基準は、水鳥の種または亜種の地域個体群の総数の1%以上を定期的に支えていることに対して適用しなければならないことを認識すること、また水鳥の飛来数の生物地理的範囲の該当するケースのほとんどは、締約国1国の国土よりも広い範囲となることを認識することが特に重要である。基準6の下に記載する地域個体群のリストには、この鳥の個体群が湿地内で通常観察される個体数だけでなく、生物地理学的な個体群の名称を記載しなければならない。基準6を適用するための最低1%の推奨基準は、国際湿地保全連合発行の『水鳥個体数推計第3版』(2002年)に記載されており、またそこには個々の個体群の生物地理的範囲も記載されている。この基準をこれら生息数の最低1%基準が得られた水鳥個体群だけに適用すべきであることは注意を要する。しかしながら、『水鳥個体数推計第3版』に個体数が記載されていない水鳥種に対して、ガイドラインは、他の情報源からの確かな生息数推定値と最低1%が得られたときにはこの基準を適用してもよい、しかしそのデータの情報源は明確にしなければならない、と記す。単に湿地が個体群の1%以上を支えている、と基準をそのまま記載するだけでは充分でなく、また個体群がその国の固有種である場合を除き、「国内」の個体数の1%以上の個体群を、個体数をつけて、リストに記載することもまた正当な根拠とはならない ;

基準2及びの全てまたはいくつかが適合するとき、該当する種の名前(学名及び英語、フランス語、スペイン語による種名)は、根拠の中に記載しなければならない。

)魚類や貝類の多様性についての基準7を適用することに関して「手引き」は、この基準を利用するには、種のリストだけでは根拠の記述として充分でないこと、また、生活史の段階、種の相互作用、地域的固有性のレベルなど、この基準に適合する高度の多様性を表す他の特性を要求している。

13.生物地理学:条約湿地を取り巻く生物地理区と、適用された生物地理学的地域区分法とを(全ての参考文献の引用とともに)記載しなければならない。生物地理学上の明細は、基準1と3を正しく適用し、また基準2のある種の適用にとって本質的である。(「11.ラムサール基準」及び「12.基準の根拠」を参照)この記述の中で、ラムサール基準適用のためのガイドライン(附属文書を参照のこと)は、「生物(地理)区」を「気候、土壌の種類、植生など、生物的及び物理的パラメーターを利用して確定した、科学的かつ厳密な地域の判定」と定義している。島国でない締約国は、生物地理区は本質的に国境を超越していること、またさまざまな湿地タイプの典型的な、または希少、固有である例の所在を確定するには、国同士の協力が要求されるケースが多いことに留意されたい。また、生物地理学的区分の性質は、自然な変異を決定するパラメーターの性質に従い、湿地タイプによって異なるであろうことも認識されている。(「注釈及びガイドライン」の附属文書を参照)

さまざまに異なった地球規模的、超国家的、地域的な生物地理学的区分法が一般に使われている。国際的に適切であると受け入れられているもの区分法は一つもない。従って、締約国は、(決議.11に対する附属書によって)入手可能な、最も適切であり、科学的に厳密なアプローチであると各国自身が認める、地域区分法を採用するよう強く要請されている。

14.湿地の物理的特徴:該当する場合には以下の特徴を含めて、湿地の主な物理的特徴を簡潔に説明:

  • 地質、地形(一般的特性);
  • 土壌タイプ、土壌の化学特性(土壌群名、鉱物成分:有機成分の表示、典型的な土壌のpH値);
  • 沈殿物の特徴;
  • 起源(天然であるか、人工であるか等);
  • 水文学的特徴(季節的な水収支、流入量、浸潤及び流出量、塩水の流入量)。さらなる詳細。特記:湿地の水文学的価値や機能は、「15.水文学上の価値」で記述すること;
  • 水質(典型的な物理化学的特徴);
  • 水深、水の変動、水の永続性;
  • 潮汐の範囲、変化;
  • 下流面積(特に、洪水調節にとって重要な湿地の場合);
  • 気候―最も重要な定期的な気候の特徴のみをここに記入。例えば、年間降雨量、平均気温変動幅、はっきりしている季節、典型的な洪水や干ばつ期間、その他湿地に影響する通常の気候要因等。近年の主な、また極端な気候的事件、例えば洪水、干ばつ、ハリケーン、台風や嵐、異常気温現象の期間等、湿地の生態学的特徴に悪影響を及ぼした気候現象は、「24.湿地の生態学的特長に悪影響を及ぼす要因」に詳細を記述すること。

15.集水域の物理的特徴:簡単な集水域の特徴の描写。以下を含むこと:

  • 表面積;
  • 一般的な地質学及び地形学的特徴;
  • 一般的な土壌の種類;
  • 一般的な土地利用;
  • 気候(気候タイプの特徴づけを含む)。

16.水文学上の価値:湿地の水文学上の主要な「価値」について説明。例えば、湿地がその生態系を通してもたらす便宜等。洪水調節の役割、地下水の涵水、海岸線の安定化、堆積物や栄養分の保持や受入れ、気候変動の緩和、そして水質浄化や水質の保持なども含まれるが、これに限る必要はない。(湿地の水文学上の価値や機能から外れる)湿地の水文学は、「14.物理的特徴」に記載すること。

17.湿地タイプ:まず最初に、対象となる湿地の範囲内に見出される湿地タイプの全てを○で囲むか下線によって列挙し、次に、記載した最も広い面積の湿地タイプを先頭にして、(面積による)それらの優占度の高さの順に湿地タイプを列挙する。「ラムサール条約湿地分類法」(本「注釈及びガイドライン」添付文書[このページの添付文書B]を参照のこと)に、各湿地タイプコードにどんなタイプの湿地が当てはまるかが記されている。湿地タイプは海洋沿岸域湿地、内陸性湿地、人工湿地の3群に分類されること、また特に広大な条約湿地の場合、ひとつの湿地にはこれら三つの主な湿地タイプのうちふたつ以上が含まれてよいということに留意すること。

いくつかの海洋沿岸域湿地タイプ(例えば河口水域(タイプF)や干潟の森林性湿地(タイプI))が海岸線から遠く内陸に存在することがありうるし、また逆に、内陸性湿地は海岸線近くに存在することもありうるので、本項の追加記述として、内陸・沿岸性、または海洋・沿岸性、のように海岸線を基準とした湿地の一般的地理学的な位置もぜひ記載していただきたい。

湿地タイプの面積による優占度を列挙したら、もし可能なら、指定された湿地の合計面積に対する、構成するそれぞれの湿地タイプの面積や面積割合を記載する。とはいえ、幅広い多様性を備えた広大な湿地に対し、それを記述する事は難しいであろう。もし湿地が複数の単位から成り、それぞれ異なった湿地タイプや優先度の異なったタイプが別々の湿地単位内に現存するのであれば、各々の構成単位に対する湿地タイプの優占度もまた列挙すること(「5.地図」、「6.緯度経度」、と「9.面積」に関する手引きも参照)。

もし、選定された湿地が、非湿地性生息域の範囲を含む場合、例えば集水域のどこかにその様な部分が含まれる場合、このような生物的特徴を備えた湿地の面積、或いは全面積に対する割合をここに列挙することは助けとなる。

18.一般的な生態学的特徴:優占する植物群集と種を挙げ、帯状分布や季節的変化、長期的な変化等を記載して、主な生息地と植生タイプについて説明。近接地域内の自然の植物群集で在来のものがあればそれについて簡単に記入するほか、現在の植物群集が在来の植生と異なる場合には、当該植物群集(栽培を含む)について簡単に記入する。その顕著な食物連鎖に関する情報もこの項に記入する。

19.特記すべき植物:湿地が特に重要、また意義深いとされる理由に関わる植物の種または群集に関する追加・付加的情報を記入。湿地の国際的な重要性を根拠付けるために用いた情報(「12.基準の根拠」)や、「18.一般的な生物学的特徴」で既に提供された情報と重複させないこと。それぞれの種または群集が特記すべきであると結論付けられた理由を明記すること。(例えば、経済的に重要な種の場合、など)

地域の固有植物種に関し、もしそれらが、その湿地に対する基準3の適用に向け考慮されなかった場合(例えば地域固有種の個体数が、基準のための手引きに従って、「重要」と結論づけられなかったとき)、本項に記載してよい。

(偶発的に、あるいは故意に)外から移入された種や、侵略的な植物種もまた、ここに掲載すること。(侵入種や移入種による湿地への影響の記述は、「24.湿地の生態的特徴に悪影響を及ぼす要因」に記載すべきである。)

(出現する)一般的な種のリストは、本項やRISのその他の項目に記載する必要はないが、(湿地の詳細に基づいて正確に分類されていれば)その様なリストは、完成次第RISの附属文書とすること。

20.特記すべき動物:湿地が特に重要、また意義深いとされる理由に関わる動物の種または群集に関する追加・付加的情報を記入。湿地の国際的な重要性を根拠付けるために用いた情報(「12.基準の根拠」)や、「18.一般的な生物学的特徴」で既に提供された情報と重複させないこと。それぞれの種または群集が特記すべきであると結論付けられた理由を明記すること。(例えば、経済的に重要な種の場合、中枢種〔キーストーン種〕である場合、高度な湿地生物多様性の価値に関係する種、例えばカメ、ワニ、カワウソ、イルカなど)。

地域の固有動物種に関し、もしそれらが、その湿地に対する基準の適用に向け考慮されなかった場合(例えば、固有種の個体数が「重要」と結論づけられない(基準3)、または固有魚種の割合が、基準7への適合のための閾値に到達しない、など)、本項に記載してよい。

(偶発的に、あるいは故意に)外から導入された、または侵略的な動物種もまた、ここに掲載すること。(侵入種や移入種による湿地への影響の記述は、「24.湿地の生態的特徴に悪影響を及ぼす要因」に記載すべきである。)

(出現する)一般的な種のリストは、本項やRISのその他の項目に記載する必要はないが、(湿地の詳細に基づいて正確に分類されていれば)その様なリストは、完成次第RISの附属文書とすること。

21.社会的、文化的価値:湿地の主な社会的及び経済的価値と機能、そしてラムサール・ハンドブック第1巻から6巻にある「賢明な利用」の特性(例えば観光、野外レクリエーション、教育及び科学的調査、農業生産、放牧、水源、漁業生産等)、また主な文化的価値と機能(例えば考古学的場所、歴史的意味あい、また先住民にとっての意味を含む宗教上の重要性、等)、を記入する。詳細な情報については、決議.19の付属書「湿地を効果的に管理するために湿地の文化的価値を考慮するための指導原則」を参照のこと。可能な場合には必ず、記入した価値のうち、自然の湿地の過程と生態学的特徴の維持と両立するものはどれか、を示す。持続不可能な利用に由来するもの、また、深刻な生態学的変化を招くものの詳細は、「24.湿地の生態的特徴に悪影響を及ぼす要因」に記載しなければならない。

22.土地保有権、所有権:条約湿地と周辺地域の所有権・保有権について詳述。もし可能であれば、さまざまな保有者・所有者の分類を各々の割り当てられた土地の所有率として明示すること(例えば、半分は州保有地、など)。複雑な保有権の取り決めや規定はすべて説明すること。国または関係地域において特別な意味をもつ契約条項については、その意味を説明する。本項と土地利用の詳細の項で記述するさまざまな土地保有者間の関係を次の項(「23.現在の土地利用」)で記述すること。

23.現在の土地(及び水)利用:(a)条約湿地、(b)周辺地域及び集水域、における全ての主な人間活動を記入。湿地における主な人間活動と主要な土地及び水利用の形態(家庭用水、工業用水の供給、潅漑、農業、家畜の放牧、林業、漁業、養殖、狩猟)の説明に加えて、その地域の人口も記入する。湿地における調査や教育、娯楽・観光に関係する行動や利用もまた本項で言及すること。ただし、これらの事柄の詳述は、それぞれ項目27、28及び29に記述すること。土地及び水のそれぞれの利用の規模や傾向等に関係する相対的な重要性、規模、及び傾向を可能な限り記述すること。(例えば、広大な湿地の一部分のみ、または明確な一帯や、ある湿地タイプの部分など)もし行動や利用が、湿地の明確に独立した部分に限られている場合は注記すること。(b)では、指定された湿地の状態に、直接または間接的に影響のある湿地周辺及びその広大な集水域における土地及び水利用と、湿地の影響を受ける可能性のある下流地域の土地利用についてまとめる。水利用についてさらに詳細には決議.1で採択された「湿地の生態学的機能を維持するための水の配分と管理に関するガイドライン」を参照のこと。

24.土地及び水利用の変化や開発計画などによる変化を含む(過去・現在・未来の)湿地の生態学的特徴に悪影響を及ぼす要因:湿地の内部及び周辺(適切な場合は、より大きな集水域を含める)から、湿地の生態学的特徴に影響を及ぼす人為的及び自然的要因。これらは湿地の自然生態学的特徴に対して、過去に悪影響を与えていた、現在与えている、あるいは将来与えるであろう、新しいまたは変化中の行動・利用、また主な開発計画などを含むものとする。全ての悪影響、また変化の要因を報告するにあたり、計量可能な、定量的な情報(データが存在するのであれば)、及び変化の要因やその影響の規模、大きさ、動向といった情報を提供すること:この情報は、湿地の生態学的特徴をモニタリングする際の基盤として提供されなければならない。

変化を招く作用因(例えば水路の変更、排水、干拓(土地改良)、汚染、過放牧、過度の人為的撹乱や過度の狩猟、漁業など)と、その結果の変化とその影響(例えば土砂の堆積、侵食、魚類の大量死、植生体系の変化、生息域の分断、種の繁殖の撹乱、気候変動に起因する自然または生態系の変化など)を明記する事が重要である。湿地自体に起因する要素と、湿地の外から発生するが湿地に与える影響を現時点で持っている、または持つ可能性がある要素を区別することもまた重要である。悪影響を与える要素が、可能性であるのか、既に存在するのかについてもまた識別すること。

汚染について記入する場合には、具体的な有害化学汚染物質とその汚染源を記載すること。これには、工業起源及び農業起源の化学物質の排水その他の排出物が含まれる。

湿地の生態学的特徴に過去、現在において悪影響を与えたり、将来において悪影響を与える可能性のある、エピソード的な突然の大変動(例えば地震や火山の噴火など)や植生の遷移等の自然現象がある場合には、円滑にモニタリングできるようにするために詳述する。

「19.特記すべき植物」と「20.特記すべき動物」で明らかにした、侵略的移入種または移入種、及び影響のあるあらゆる侵入について(偶発的か、或いは故意か、)の導入の歴史について、情報を提供すること。

25.実施された保全策:国の保護区についての法的地位、また(ラムサール条約湿地以外の)国際的な保全の指定、また湿地が国境をまたいでいる場合は、湿地の全体または一部分に適用される二国間或いは多国間の保全対策について、その詳細を記入。もし保護区が設立されている場合は、設立の日付及び保護区の面積を記載すること。湿地の一部分だけが保護区に含まれる場合は、保護されている湿地生息域の範囲を注記すること。その他、開発に関する制限、野生生物に有益な管理の実施、狩猟の封鎖など、湿地で実施されるその他の保全対策について、どのようなものでも記述すること。

もし湿地のための管理計画が展開され、また実行されているとすれば、そのすべてを含めて、管理計画策定手段を本項で記述。公に承認を得たものかどうかを含めること。その管理計画を、「32.参考文献」に記載すること。また可能ならば、RISに対する追加情報として管理計画の複写を提供する事。

現在、湿地で実施されているモニタリング計画や調査について、その方法や方式に関する情報をここで記載。ラムサール条約の「賢明な利用の実施に関するガイドライン」(決議4.10)及び「賢明な利用の概念を実施するための追加手引き」(決議5.6)が湿地で適用されている場合、或いはその他のより最近の、更に進んだ賢明な利用のガイドラインの実施の実例について説明する。(「賢明な利用」はラムサール条約の基本理念である)

既存のラムサール条約湿地のRISを改訂するとき、もしモントルーレコードに記載される場合、或いはそこから除外される場合、それについて言及し、またラムサール諮問調査団の視察のあるときはその詳細を記載すること。

統合型流域・集水域管理、あるいは、統合型沿岸域・海域管理が適用されている場合には、その旨を記載すること。保護地域の法律制定や個々の保護地域における法的地位の効果に関する簡単な評価を記載すること。地域住民及び先住民を条約湿地の参加型管理に巻き込んでいる場合は、このプロセスに関するラムサールガイドライン(決議.8)とのつながりで、それを記載する。

26.提案されたが実施に移されていない保全策:立法、保護及び管理についての提案など、その湿地に対して提案された、または準備中の保全策があれば、それについて詳述する。

長い間懸案となったままで実施されていない提案があればその経緯をまとめる。また、適切な政府当局に対して既に正式に提出した提案と、正式の承認を得ていない提案とを区別する(例えば、公表された報告書における提言と専門家会議の決議等)。準備中ではあるが、まだ完成していない、承認されていない、或いは実施されていない管理計画があれば、それについても記載する。

27.科学的研究及び施設の現状:現在行われているモニタリングを含む科学的研究計画の詳細、および湿地内の土地利用計画をすべてここに記載。また「23.現在の土地(及び水)利用」に記された研究用特別施設に関する情報を提供する。

28.現在の湿地に関連または利益のある、広報教育普及啓発(CEPA)に関連した環境教育活動:「23.現在の土地(及び水)利用」で記述された研修を含む、広報・教育・普及啓発(CEPA)に関する既存の計画や行動、施設がある場合には本項に記載。湿地の、教育における可能性についてのコメントも記載すること。CEPAの問題とラムサール条約に関する詳細な情報は、ラムサール・ウェブサイトhttp://ramsar.org/outreach_index.htmを参照のこと。

29.レクリエーション、観光の現状:「23.現在の土地(及び水)利用」で説明された、レクリエーションと観光に関する湿地の現在の利用について詳細を記載。レクリエーションや観光のための既存または計画中のビジター施設やセンターがあれば、その詳細を記載し、もしわかれば湿地を訪れる年間観光客数も記載する。どのようなタイプの観光か、また観光が季節的なものかどうかも記載する。

30.管轄:以下に係る政府当局の正式名称及び住所を記入。a)湿地の「領土上の管轄権」を有する行政当局(国、地域、市等);b)保全を目的とする「機能上の管轄権」を有する当局(環境省、漁業省等)。

31.管理当局:湿地の現地で保全と管理を直接に所管する機関または組織の現地事務所の名称、住所を記載。可能であれば、湿地の現地での所管に係る人物の氏名や所属も、必ず記載すること。湿地の管理に関する、特別な或いは独自の取決めがある場合は、それも記入する。

32.参考文献:湿地に関係する主要な技術的参考文献のリスト。これには、管理計画、主要な科学論文、文献を含む。ラムサール条約湿地のための、またその湿地を特別に扱う(例えば国内の全ラムサール条約湿地の詳細を紹介するウェブサイトなど)、機能的・活動しているウェブサイトのアドレス及び最新の更新日も列挙する。湿地に関して多数の刊行資料が入手できる場合には、記載すべき最重要文献のみをここに記載し、その際には、広範な文献目録が掲載されている最近の文献を優先する。可能ならば常に、管理計画のコピーなど最重要文献は抜き刷りまたはそのコピーを添付する。


添付文書B

ラムサール条約湿地分類法

このコードは、勧告4.7によって承認され、締約国会議の決議.5及び.11によって修正されたラムサール条約湿地分類法に基づいている。ここに掲げる分類は、各条約湿地が表す主要な湿地生息地を速やかに特定できるように、大まかな枠組みだけを提示するものである。

海洋沿岸域湿地

A -- 低潮時に6メートルより浅い永久的な浅海域。湾や海峡を含む。
B -- 海洋の潮下帯域。海藻や海草の藻場、熱帯性海洋草原を含む。
C -- サンゴ礁
D -- 海域の岩礁。沖合の岩礁性島、海崖を含む。
E -- 砂、礫、中礫海岸。砂州、砂嘴、砂礫性島、砂丘系を含む。
F -- 河口域。河口の永久的な水域とデルタの河口域。
G -- 潮間帯の泥質、砂質、塩性干潟
H -- 潮間帯湿地。塩生湿地、塩水草原、塩性沼沢地、塩生高層湿原、潮汐汽水沼沢地、干潮淡水沼沢地を含む。
I -- 潮間帯森林湿地。マングローブ林、ニッパヤシ湿地林、潮汐淡水湿地林を含む。
J -- 沿岸域汽水/塩水礁湖。淡水デルタ礁湖を含む。
K -- 沿岸域淡水潟。三角州の淡水潟を含む。
Zk(a) -- 海洋沿岸域地下カルスト及び洞窟性水系

内陸湿地

L -- 永久的内陸デルタ
M -- 永久的河川、渓流、小河川。滝を含む。
N -- 季節的、断続的、不定期な河川、渓流小河川
O -- 永久的な淡水湖沼(8haより大きい)。大きな三日月湖を含む。
P -- 季節的、断続的淡水湖沼(8haより大きい)。氾濫原の湖沼を含む。
Q -- 永久的塩水、汽水、アルカリ性湖沼
R -- 季節的、断続的、塩水、汽水、アルカリ性湖沼と平底
Sp -- 永久的塩水、汽水、アルカリ性沼沢地、水たまり
Ss -- 季節的、断続的塩水、汽水、アルカリ性湿原、水たまり
Tp -- 永久的淡水沼沢地・水たまり。沼(8ha未満)、少なくとも成長期のほとんどの間水に浸かった抽水植生のある無機質土壌上の沼沢地や湿地林。
Ts -- 季節的、断続的淡水沼沢地、水たまり。無機質土壌上にある沼地、ポットホール、季節的に冠水する草原、ヨシ沼沢地。
U -- 樹林のない泥炭地。潅木のある、または開けた高層湿原、湿地林、低層湿原。
Va -- 高山湿地。高山草原、雪解け水による一時的な水域を含む。
Vt -- ツンドラ湿地。ツンドラ水たまり、雪解け水による一時的な水域を含む。
W -- 潅木の優占する湿原。無機質土壌上の、低木湿地林、淡水沼沢地林、低木の優占する淡水沼沢地、低木カール、ハンノキ群落。
Xf -- 淡水樹木優占湿原。無機質土壌上の、淡水沼沢地、季節的に冠水する森林、森林性沼沢地を含む。
Xp -- 森林性泥炭地。泥炭沼沢地林。
Y -- 淡水泉。オアシス。
Zg -- 地熱性湿地
Zk(b) -- 内陸の地下カルストと洞窟性水系

注意:「氾濫原」とは、一以上の湿地タイプを表すのに用いられる意味の広い用語であり、R、Ss、Ts、W、Xf、Xp等のタイプの湿地を含む。氾濫原湿地の例としては、季節的に冠水する草原(水分を含んだ天然の牧草地を含む)、低木地、森林地帯、森林等がある。本ガイドラインでは、氾濫原湿地を一つの湿地タイプとしては扱ってはいない。

人工湿地

1 -- 水産養殖池(例 魚類、エビ)。
2 -- 湖沼。一般的に8ha以下の農地用ため池、牧畜用ため池、小規模な貯水池。
3 -- 潅漑地。潅漑用水路、水田を含む。
4 -- 季節的に冠水する農地(集約的に管理もしくは放牧されている牧草地もしくは牧場で、水を引いてあるもの。)
5 -- 製塩場。塩田、塩分を含む泉等。
6 -- 貯水場。貯水池、堰、ダム、人工湖(ふつうは8ヘクタールを超えるもの)。
7 -- 採掘現場。砂利採掘抗、レンガ用の土採掘抗、粘土採掘抗。土取場の採掘抗、採鉱場の水たまり。
8 -- 廃水処理区域。下水利用農場、沈殿池、酸化池等。
9 -- 運河、排水路、水路
Zk(c) -- 人工のカルスト及び洞窟の水系


添付文書C

国際的に重要な湿地の選定基準及びガイドライン

本基準は、第7回締約国会議(1999年)で採択され、従来使用されていた第4回と第6回締約国会議(1990年及び1996年)で採択された基準に代わるもので、ラムサール条約湿地の選定における第2条第1項の実施のガイドとなる。

基準グループA 代表的、希少または固有な湿地タイプを含む湿地

基準1:適当な生物地理区内に、自然のまたは自然度が高い湿地タイプの代表的、希少または固有な例を含む湿地がある場合には、当該湿地を国際的に重要とみなす。

基準グループB 生物多様性の保全のために国際的に重要な湿地

種及び生態学的群集に基づく基準

基準2:危急種、絶滅危惧種または近絶滅種と特定された種、または絶滅のおそれのある生態学的群集を支えている場合には、国際的に重要な湿地とみなす。

基準3:特定の生物地理区における生物多様性の維持に重要な動植物種の個体群を支えている場合には、国際的に重要な湿地とみなす。

基準4:生活環の重要な段階において動植物種を支えている場合、または悪条件の期間中に動植物種に避難場所を提供している場合には、国際的に重要な湿地とみなす。

水鳥に基づく特定基準

基準5:定期的に2万羽以上の水鳥を支える場合には、国際的に重要な湿地とみなす。

基準6:水鳥の一種または一亜種の個体群において、個体数の1%を定期的に支えている場合には、国際的に重要な湿地とみなす。

魚類に基づく特定基準

基準7:固有な魚類の亜種、種、または科、生活史の一段階、種間相互作用、湿地の利益もしくは価値を代表する個体群の相当な割合を維持しており、それによって世界の生物多様性に貢献している場合には、国際的に重要な湿地とみなす。

基準8:魚類の重要な食物源であり、産卵場、稚魚の成育場であり、または湿地内もしくは湿地外の漁業資源が依存する回遊経路となっている場合には、国際的に重要な湿地とみなす。


添付文書D

ラムサール条約湿地のための地図や他の空間データの規定のための追加ガイドライン

以下の手引きは、国際湿地保全連合とラムサール条約事務局、世界遺産条約、UNEP世界保全モニタリングセンターの経験から、また同様に「世界遺産条約, 1999, 世界遺産登録地指定及び保全報告の状態に向けたデジタル及び地図学ガイドラインを提案する会議」(WHC-99 / CONF.209 / INF.19. Paris, 15 November 1999. WWW document: http://www.unesco.org/whc/archve/99-209-inf19.pdf に掲載)に提供された手引きから書かれたものである。


1.適切な地図を提供することは、条約第2条1項の下の要請であり、それは国際的に重要な湿地(ラムサール条約湿地)選定の手順の基本であり、また「ラムサール条約湿地情報票(RIS)」に提供する情報の本質的な部分である。湿地に関する明確な地図情報もまた、湿地管理の核心である。

2.この追加手引きは、(例えば、地理情報システム(GIS)ソフトを使用することで)ラムサール条約湿地の地図を電子形式で準備、提供すること、また全地球測位システム(GPS)による正確なウェイポイントの確定を通じて、締約国が湿地の境界を明確に描写することについての能力を高めてきていることを認める。

3.ラムサール条約湿地の指定に際して締約国が提出する地図は、出来るかぎり、そして高優先順位で:

)専門的地図作成の基準に合わせて準備しなければならない。(専門的地図作成の基準に合わせた地図が準備されない場合は問題が生じる。)普通に不透明にした手書の湿地境界線や斜線引き(例:区分表示のための)が、それ以外の重要な地図の特徴をぼやかしてしまうことがしばしばある。色付けされた注釈は、地図の原本では、地図の特徴を示す説明書きから明白に区別出来るものの、白黒のコピーではほとんどの色分けが区別出来ないということを認識するのは重要である。そのような追加情報は、概略図を追加して提供されるべきである;

)ラムサール条約湿地の自然な、または改変された環境を示すべきこと。また条約湿地の大きさに応じ、以下に示す地図の縮尺の範囲内で明記しなければならない;

)ラムサール条約湿地の境界を明瞭に示し、既存、または提案されている緩衝帯からこれを区別すること;

)もし湿地が以前登録されたラムサール条約湿地に接し、または以前の条約湿地を包含する場合、それら以前の条約湿地の全ての境界を表示し、前に登録された範囲全ての現在の状況を明らかにしなければならない;

)境界及び地図上に示される条約湿地の指定に関連する特性の分類をそれぞれ示す記号表や判例表をつけ;そして、

)地図の縮尺、地理学上の座標表示(緯度・経度)、方位表示(北の方向)、また可能であれば地図の投影法を明記すること。もし可能であれば、地図(または手引き地図)にいくつかのその他の特徴もまた明示すること。

4.ラムサール条約湿地に指定するために最も相応しい地図あるいは一連の地図はまた、以下の項目を明瞭に示すこと。しかし、これらの情報を蓄積することの優先順位は、上記段落3に記載された属性よりも低い:

)基本的な地形情報;

)関連する保護区指定の境界及び行政上の境界(例:(州または)県や市、郡など);

)条約湿地の湿地と非湿地の部分の明瞭な輪郭、そして条約湿地の境界に対する湿地の境界の描写。これは特に登録する湿地の範囲を越えて湿地が広がるときに当てはまる。可能ならば、主たる湿地生息タイプ及び主要な水文学的特性の分布に関する情報もまた有益である。湿地の広がりの中にはっきりとした季節的変化があるときは、湿った季節と乾いた季節における湿地の広がりを別の地図で示す事は役に立つ;

)主なランドマーク(例:街、道、など);そして、

)同じ集水域内における土地利用の分布。

5.締約国の領土内におけるラムサール条約湿地の一般的所在地を示す地図はまた、きわめて有用である。

6.地図を切り取ってはならない。データ管理者やラムサール条約事務局のスタッフが、縁に印刷された注記や、緯度・経度の印を参照できるようにするためである。

7.地図が上記属性の全てを備えており、適切な縮尺(以下手引きを参照)によっていれば、もし地図(や地図集)が印刷書式(紙媒体)のみで提供される場合(すなわち電子地図媒体がまだ用意されていない場合)も、位置情報システム(GIS)に組み込むための地図のデジタル化は容易になる。

8.その後のデジタル化を正確に歪みなしに行うために、地図は原版(コピーを2部提出する)でなければならず、コピーは認めない。

9.追加項目として、コピーや発表用資料作成の上で、他に主要な地図の次の2つバージョンがきわめて有益である:

)A4サイズに縮小した地図のカラー写真;

)TIFFファイルその他のデジタル画像ファイル(例:JPEGやPDFなど)。

地図の縮尺

10.地図の最適縮尺は、描かれる条約湿地の大きさによる。さまざまな大きさのラムサール条約湿地の地図に対する最適な縮尺は以下のとおりである:

条約湿地の大きさ(ha

地図の適用(最低限の)縮尺

1,000,000以上

1:1,000,000

100,0001,000,000

1:500,000

50,000100,000

1:250,000

25,00050,000

1:100,000

10,00025,000

1:50,000

1,00010,000

1:25,000

1,000以下

1:5,000


11.要約すれば、地図は、RISに記述した湿地の特徴を可能な限り明確に描写し、また特に正確な境界を示すのに適当な縮尺でなければならない。

12.中程度から大規模な湿地に関しては、標準のA4(210 mm×297 mm)やレターサイズ(8.5インチ×11インチ)の用紙では充分な詳細を示す事がしばしば困難なので、一般的にはそのサイズよりも大きな用紙を利用する方がより適切である。しかしながら、その後のコピー作業等が困難となるので、いずれの地図も、可能なときは必ず、A3(420 mm×297 mm)を越えるべきではない。

13.条約湿地が大規模または形状が複雑なときや、また境界が互いに分かれたいくつかの小湿地から構成されるとき、各部分や小湿地の互いの位置関係がわかる高縮尺の湿地の全体地図と同時に、各々の部分や小湿地の地図の拡大版を提供すべきである。そのような地図は全て上記縮尺に関する手引きに従うこと。

境界の記述(文字によるもの)

14.詳細な地勢図が入手できないとき、地図に付随して、条約湿地の境界の記述をすべきである。この記述には地理上その他の国家、地方の法律上、または国際的な境界を示したうえで、条約湿地の境界と共に、ラムサール条約湿地とラムサール条約湿地の一部又は全体を覆う他の既存保護区の関係を示すものとする。

15.もし湿地境界の正確な場所が全地球測位システム(GPS)を使って確定されている場合、締約国は、条約湿地の地図上に、確定また確認した各々のGPSウェイポイントの緯度・経度を列挙し、それを湿地の紙の地図上に記入した電子ファイルまたは紙媒体を含むことが奨励される。

16.以下に示す状況のいずれか、またはいくつかがあって、決議.21「ラムサール条約湿地情報票におけるラムサール条約の湿地境界の正確な記述」に従い、登録されたラムサール条約湿地の境界が変更された場合:

a)ラムサール条約湿地境界の描写が不正確であり、また実質的な誤りがあるとき;
b)ラムサール条約湿地境界がRISで規定する境界の記述と正確に合致しないとき;
c)科学技術の向上により、ラムサール条約湿地境界を、登録当時よりも高度な解像度でより精密に確定することが可能になったとき;

変更は全て、RISを改訂し湿地の地図で明確に示されなければならない。また改善の理由をRISに記述しなければならない。

境界の記述(デジタル)

17.締約国は、可能な場合、地理情報システム(GIS)に組み込むのに適した電子形式のラムサール条約湿地に関する地理的情報を提出することが奨励される。

18.境界と緩衝地帯を線引きするために、ベクター形式で、最大縮尺のデータを提出しなければならない。

19.その他の情報、例えば湿地タイプや土地利用などは、可能な限り大きな縮尺で、一つ以上のベクターあるいはラスター形式のレイヤーにして提出すること。

20.電子フォーマットに関するメタデータは、電子地図に付随させ、電子化のスケール、投影法、各レイヤーの属性テーブル、ファイル形式、そしてレイヤーを準備するために利用したレイヤー仕様を含まなければならない。

21.ESRI株式会社系列の「Arc-InfoGISやマップ・インフォ株式会社の「MapInfoGISが開発したもとの地域言語ファイル形式(ネイティブ・フォーマット)は、きわめて幅広く利用され、また多くのGISソフトにインポートして利用出来るようになってきた。

22.工業会のリーダーを含むGIS組織の大きなグループであるGIS標準化(オープン化)協会(OGC)は、地理情報技術界において現在互換性のない標準の問題に対処している。OGC発案の下におけるGISの標準化、互換性、そして相互運用可能性の進捗状況は、特記されるべきであり、また、ラムサール条約湿地の電子地図供給のためのGISファイル仕様の更新を準備するときに考慮されるであろう。


添付文書E

戦略的枠組み用語集

悪条件(基準4)  長期化した干ばつ、洪水、寒さ等の厳しい気象条件が続く期間中に起こるような、動植物種の生存にとってきわめて不利な生態学的条件をいう。

適当な(基準1)  基準1のように「生物地理区」という用語に対して「適当な」という言葉が用いられる場合には、締約国が、その時点でとることのできる科学的に最も厳格な方法を実施するために決定した、地域区分をいう。

生物非単一性(基準7、8のガイドライン)  群集内における形態または生殖形態の幅をいう。湿地群集の生物非単一性は、生息地の時間的、空間的多様性と予測可能性によって決定される。

生物地理区の個体群  「個体群」にはいくつかの種類がある。

.単型種の個体群全体

.認識されている亜種の個体群全体

.一つの種または亜種の個体群であって、渡りを行う集団に分散したもの、つまり、同一の種または亜種の集団であって、他の集団とほとんど混じることのないもの

.一方の半球から移動して、もう一方の半球や地域にある比較的独立した部分で非繁殖期を過ごす鳥の「個体群」。多くの場合、こうした「個体群」は、繁殖地で他の個体群と広範囲に混じりあったり、渡りの季節中や非繁殖地で、同一の種の定着個体群と混ざりあったりする。

.定着性、遊走性、または分散性の鳥類の地域的な集団であって、明らかにかなり連続的に分布しており、通常の遊走的な渡り期間や繁殖後の分散期間に、他の個体と交流がないほどの大きな格差が、繁殖単位間にないように見えるもの。

生物地理区の水鳥の個体群に関する手引き(及び、データがある場合には、各個体群に対して提案される1%基準)は国際湿地保全連合が提供しており、最新の手引きは Rose & Scott1997)が作成したものである。アフリカと西ユーラシアにおけるガン・カモ科(Anatidae)の個体群については、Scott & Rose1996)による文献中に詳しく説明されている。

生物地理区(基準1、3)  気候、土壌の種類、植生被覆等の生物学的なパラメーターや物理的なパラメーターを用いて確定した、科学的に厳密な地域区分をいう。島国でない締約国にとって、生物地理区は、事実上国境にまたがることが多く、代表的湿地、固有な湿地等の湿地タイプを確定するには、複数の国の間での協力が必要となる。「バイオリージョン」という用語が生物地理区と同じ意味で使われる場合もある。この区域分けの性質は、自然の変異を測定するパラメーターの性質に応じて、湿地タイプごとに異なる可能性がある。

生物多様性(基準3、7)  すべての生物(陸上生態系、海洋その他の水界生態系、これらが複合した生態系その他生息または生育の場のいかんを問わない)の間の変異性をいい、種内の多様性(遺伝的多様性)、種間の多様性(種の多様性)、生態系の多様性、生態学的過程の多様性を含む。(この定義の大部分は、生物多様性条約第2条に定める定義に基づいている。)

近絶滅種(基準2)  IUCN(国際自然保護連合)の種の保存委員会が用いている定義による。動物の場合には、IUCN刊行の1996年版「絶滅のおそれのある動物のレッドリスト」(Ballie & Groombridge 1996)の付属書3に記載されたAEの評価基準(動物用)のいずれかによって、また植物の場合には、IUCN刊行の1997年版「絶滅のおそれのある植物のレッドリスト」(Walter & Gellette 1998)の添付文書1に記載されたAEの評価基準(植物用)のいずれかによって、ある分類群がごく近い将来高い確率で野生では絶滅に至る危機にある場合、その分類群を近絶滅種という。後述「地球規模で絶滅のおそれのある種」も参照のこと。

重要な段階(基準4)  湿地に依存する種の生活環の重大な段階をいう。重要な段階とは、妨げられたり阻止された場合に、種の長期的な保全を脅かしかねない活動(繁殖、渡りの途中の中継地での休息等)をいう。種によっては(ガン・カモ科等)、換羽の場所もきわめて重要である。

生態学的群集(基準2)  共有する環境に生息し、食物の関係を中心として互いに交流しあい、他の集団から比較的独立している種の集団であって、自然に成り立っているものをいう。生態学的群集の大きさは様々であり、小さな生態学的群集が大きな生態学的群集に含まれていることもある。

絶滅危惧種(基準2)  IUCNの種の保存委員会が用いている定義による。動物の場合には、IUCN刊行の1996年版「絶滅のおそれのある動物のレッドリスト」(Ballie & Groombridge 1996)の付属書3に記載されたAEの評価基準(動物用)のいずれかによって、また植物の場合には、IUCN刊行の1997年版「絶滅のおそれのある植物のレッドリスト」(Walter & Gellette 1998)の添付文書1に記載されたAEの評価基準(植物用)のいずれかによって、ある分類群が、近絶滅種には相当しないまでも、それに次いで近い将来高い確率で野生では絶滅に至る危機にある場合、その分類群を絶滅危惧種という。後述「地球規模で絶滅のおそれのある種」も参照のこと。

固有種(基準7のガイドライン)  ある特定の生物地理区にのみ見られる種、つまり世界の他の場所には見られない種をいう。ある一群の魚類がある亜大陸の在来種である場合、そのうちの一部分の種は、当該亜大陸に含まれる一地域の固有種であることがありうる。

(基準7)  共通の系統学的起源をもつ属と種のまとまりをいう。例えば、ピルチャード類、イワシ類、ニシン類は、ニシン科という科に属する。

魚類(基準7)(fish)  ひれのあるすべての魚をいい、これには無顎口魚類(メクラウナギ類とヤツメウナギ類)、軟骨魚類(サメ類、エイ類、ガンギエイ科の魚類、軟骨魚綱)、硬骨魚類(硬骨魚綱)、特定の甲殻類、その他の水生無脊椎動物が含まれる(下記参照)。

魚類(基準8)(fishes)  複数の魚種が関わっている場合には、「魚類」という用語を用いる 訳注

訳注 日本語の場合には、魚種の数に関係な
く、「魚類」という用語を用いている。

(ラムサール条約で定義された)湿地に一般的に生息する魚類の目であって、湿地の利益、価値、生産性または多様性を表すものには、以下が含まれる。

無顎口魚類---無顎綱

  • メクラウナギ類(メクラウナギ目)
  • ヤツメウナギ類(ヤツメウナギ目)

軟骨魚類---軟骨魚綱

  • ホシザメ類やツノザメ類、サメ類(ツノザメ目)
  • ガンギエイ科の魚類(エイ目)
  • アカエイ科の魚類(トビエイ目)

硬骨魚類---硬骨魚綱

  • オーストラリアハイギョ(ケラトドゥス目)
  • 南アメリカハイギョ、アフリカハイギョ(レピドシレン目)
  • ビチャー(ポリプテルス目)
  • チョウザメ類(チョウザメ目)
  • ガーバイク類(レピゾステウス目)
  • アミア類(アミア目)
  • アロワナ類、テングザメ類(オステオゴロッシュム目)
  • ターポン類、、ソトイワシ類(カライワシ目)
  • ウナギ類(ウナギ目)
  • ピルチャード類、イワシ類、ニシン類
  • サバヒー類(ネズミギス目)
  • コイ類、ミノー類(コイ目)
  • カラシン類(カラシン目)
  • ナマズ類、ゴンズイ類(ナマズ目)
  • カワカマス類、キュウリウオ類、サケ類(サケ目)
  • ボラ類(ボラ亜目)
  • トウゴロウイワシ類(トウゴロウイワシ目)
  • サヨリ類(ダツ目)
  • メダカ・カダヤシ類(メダカ目)
  • トビウオ類(トビウオ目)
  • ヨウジウオ類(ヨウジウオ目)
  • シクリッド類、スズキ類(スズキ目)
  • カレイ・ヒラメ類(カレイ目)

いくつかの甲殻類

  • コエビ類、ロブスター類、淡水産ザリガニ類、クルマエビ類やテナガエビ類、カニ類(甲殻綱)
  • イガイ類、カキ類、pencil baits、マテガイ類、カサガイ類、タマキビカイ類、エゾバイ類、ホタテガイ類、ザルガイ類、アサリ類、
  • アワビ類、タコ類、イカ類、コウイカ類(軟体動物門)

その他特定の無脊椎動物

  • カイメン類(海綿動物門)
  • サンゴ類(刺胞動物門)
  • タマシキゴカイ類、ゴカイ類(環形動物門)
  • ウニ類、ナマコ類(刺皮動物門)
  • ホヤ類(ホヤ綱)

漁業資源(基準8)  魚類の個体群のうちで潜在的に利用可能な部分をいう。

渡りルート(基準2のガイドライン)  渡りルートとは、渡り性水鳥が世界で利用する地域を表すために作られた概念であり、繁殖地と越冬地との間を移動する水鳥の個体群が利用する、渡り経路と場所をいう。個々の種及びそれぞれの個体群は異なる経路を通って移動し、繁殖地、中継地、越冬地として利用する場所の組み合わせも、それぞれ異なっている。したがって一本の渡りルートには、水鳥の個々の個体群や種の移動系統が多数交わっており、そのそれぞれに生息地の好みや渡りの戦略がある。こうした各種移動系統に関する知見をもとにすれば、水鳥が利用する渡り経路を大まかな渡りルートに大別できる。各渡りルートは、毎年の移動の間に多くの種によって利用され、同じ様な方法で利用されることも多い。多数のシギ・チドリ類の種の移動に関する最近の研究では、例えばシギ・チドリ種の移動が次の8つの渡りルートに大別できると指摘している。すなわち、東大西洋ルート、地中海・黒海ルート、西アジア・アフリカルート、中央アジア・インド亜大陸ルート、東アジア・オーストラレーシアルートのほか、アメリカ大陸と新熱帯区にある三つの渡りルートである。

渡りルートは明確に分かれているものではなく、生物学的に重要な意味を持たせるためにこうした分類を用いようとしているのではない。渡りルートという考え方は、種や個体群の移動を多少なりとも簡単にグループ分けできる大まかな地理的単位で、他の移動種と同じように水鳥の生態と保全について考察できるようにするための貴重な概念なのである。

地球規模で絶滅のおそれのある種(基準2、5、6)  IUCNの種の保存委員会の専門家グループまたはレッドデータブックにより、近絶滅種、絶滅危惧種、危急種のいずれかに分類されている種もしくは亜種をいう。多くの分類群の場合、地球全体の現況に対する知見は乏しく、それを反映して特に無脊椎動物については、IUCNのレッドデータリストの内容は不完全なだけでなく激しく変動することに注意されたい。つまり、「危急」「絶滅危惧」「近絶滅」という用語については、対象となる分類群の現況に関してその時点で得られる最善の科学的知見に照らして、各国のレベルで解釈すべきである。

重要(基準2の長期目標)  その湿地を保護すれば、種または生態学的群集の長期的な生存可能性を、その地方ひいては地球全体で高めることになる湿地のことをいう。

固有な種(基準7)  特定の国を原産として、その国に自然に存在する種をいう。

移入種(外来種)  その国を原産とせず、その国に自然には存在しない種をいう。

カルスト(セクション.1)  可溶性岩石上に作り出された景観であって、効果的な地下排水のあるものをいう。カルストは、洞窟、ドリーネ、地表排水の欠如を特徴とし、必ずとはいえないまでも主として石灰岩上に形成される。カルストという名称は、スロベニアの古典的カルストである「クラス」という地方名に由来する。この最初に研究された温帯地域のカルストではドリーネ地形が優勢だが、それとは対照的な地形として、熱帯地域の針峰カルスト、円錐カルスト、塔カルストのほか、フルビオカルスト、寒冷地域の氷河カルストがある。「クラス」という言葉は、もともと、むきだしで岩だらけの土地を表すスロベニア語である。

以下のサブセクションではカルストに関する用語を扱う。

外来性排水: 隣接する不透水岩地域からの流出に由来するカルスト排水をいう。異地性排水とも呼ばれる。

難透水層: 帯水層に対して境界の役目をする比較的不透水な地層をいう。

帯水層: 十分な透水性を備えて地下水を運び、井戸や泉に水を供給する含水層準をいう。

半透水層: 帯水層への水の出入りを全面的には遮断しないものの遅らせる岩石層をいう。

被圧地下水流: 被圧帯水層という帯水層全体が飽和状態にある帯水層を通り、静水圧下にある流れをいう。

自生排水: カルスト岩石表面に吸収された降水に全面的に由来するカルスト排水をいう。原地性排水ともよばれる。

逆流洪水: 主要な地下河道内の狭窄部の後ろ側に余剰水量が詰まったために起こる洪水をいう。

層理面: 堆積岩中の堆積面をいう。

層理面洞窟: 層理面に沿った洞窟通路をいう。

盲谷: 水流が地下へ消失する地点、またはかつて消失していた地点で終わる谷をいう。

崩落: 洞窟崩壊と同義。アメリカの用法では、崩壊によって発生した岩砕とも同義。

炭酸カルシウム: 天然に産する化学式CaCO3の化合物であり、石灰岩、大理石などの炭酸塩岩の主成分である。

炭酸岩塩: 単一または複数種の炭酸塩鉱物から構成される岩石をいう。

洞窟: 地中に自然にできた穴で、人間が十分に入れるほどの大きさをもつものをいう。これには水文学上きわめて重要な地下河道や裂罅を含まない。洞窟は中に入ることのできる単一の短い通路のこともあれば、フリント・マンモスケイブシステムのように、何百キロメートルにもわたって広範で複雑なトンネルが網の目状に連なっている場合もある。ほとんどの洞窟は石灰岩の溶解によって形成されるが、砂岩洞窟、溶岩洞窟、氷河洞窟、テクトニック洞窟もある。洞窟というものを、ポットホールやヤマのように縦の開口部、あるいは自然にできた縦のシャフトではなく、水平の開口部とみなしている国もある。

洞窟湖: 堆積物の堤防やグーアの壁の後ろに水がたまってできた湖であって、通気帯洞内にあるすべての地下の湖をいい、これが水没部の入り口になっていることもある。

チェンバー: 洞窟の通路や洞窟系の中にある広い空間をいう。現在知られている最大のチェンバーはサラワク州にあるサラワクチェンバーであり、長さ700メートル以上、最大幅400メートル、最大高さ70メートルである。

古典的カルスト: スロベニアあるクラスと呼ばれる地方をいい、これがカルスト景観の語源となった。

地下河道: 拡大した裂罅や管状の空間など、溶解による空隙をいう。水で満たされた空隙に限ってこの用語が使われることもある。

地下河道流: 地下河道内の地下水流をいう。

溶食: 岩石の侵食であって、溶解を引き起こす化学作用によるものをいう。

ドリーネ: 円形の閉じた凹地で、受け皿型、円錐型、場合によっては円柱型のこともある。ドリーネは、溶解、陥没、または両者の組み合わせによって形成される。ドリーネは石灰岩カルストに一般的に見られる特徴だが、可溶性岩石の中や上にも形成されるものである。また、沈降ドリーネは、不溶性堆積物が下位に分布する洞窟が、形成された石灰岩中へ流出したり陥没することによって形成される。例えば、スロベニア最大のドリーネであるスムレコバ・ドラガは、長さ1キロメートル以上、深さ100メートル以上もある最大のドリーネである。

乾谷: 恒常的には地表水が流れていない谷をいう。地下排水が形成されたり、再活動したときに水がなくなる。

掘削: 自由に流れる水の流れによって谷を形成する侵食をいう。

吸い込み吐出穴: 地下水位に応じて、シンクホールか湧水かのいずれかの役割を果たす開口部をいう。

地下水面帯: 地下水面の水位が変動するゾーンをいい、上部飽和帯ともいう。

淡水レンズ: 透水性石灰岩の島や半島状の土地の下にある淡水の地下水をいう。塩分躍層に沿った淡水と塩水の地下水に挟まれた混合域が、淡水レンズの上下の境界となっている。

グーア: 方解石の沈積によって形成されるプールをいう。グーアは、何メートルもの高さと幅をもつ大きなダムになることもある。トラバーチンは野外で形成されたグーアである。

地下水: 飽和帯中の地下水面より下にある地下の水をいう。

セッコウ: 硫酸カルシウム二水和物を成分とする鉱物または岩石をいい、化学式はCaSO4 .2H20である。

セッコウ洞窟: セッコウは非常に溶解性が高く、通気帯洞や飽和帯洞がこの中にできることがある。最大の洞窟はウクライナのポドリー地方にあるオプティミスティチェスカヤ洞であり、ここの通路だけで約180キロメートルの長さがある。

塩分躍層: 淡水地下水と塩水地下水との境界面をいう。

動水勾配: 帯水層内における地下水面の傾斜をいう。

氷洞: 岩石中に形成された洞窟で、洞内に年間を通じて氷が存在するものをいう。

流入点: 地下排水流路または帯水層の開始点をいう。

石灰岩: 炭酸カルシウムが少なくとも重量で50%を占める堆積岩をいう。

降水: その形態を問わず、大気中から降下した水をいう。

ムーンミルク: 方解石やアラゴナイトの細粒鉱物が堆積したものであり、ほとんどがバクテリアの堆積作用によるものである。

流出点: 地下排水流路または帯水層から水が流れ出る点をいう。

通路: 洞窟系のうち、人間が通過でき、垂直やほぼ垂直な部分でない水平な部分をいう。洞窟の通路はサイズも形も様々であり、知られている最大のものはサラワク州ムル国立公園にあるディア・ケイブで、幅は最高170メートル、高さは最大で120メートルある。

浸透水: 石灰岩の網目状につながった裂罅を通ってゆっくりと移動する水をいう。浸透水は、表土から石灰岩に浸入するのがふつうである。石灰岩帯水層に貯えられている水のほとんどは、浸透水によるものである。浸透水は、吸い込みから流入する水と比べて、洪水に対する反応が遅い。

透水性: 水を通過させる岩石の能力をいう。透水性は、初生的には連結した岩石中の間隙や開口した構造的な割れ目の作用であり、また二次的には、裂罅が溶解により拡大して地下河道の透水性が高まることがある。

飽和帯: 地下水面より下にある地下水で飽和した岩石の部分をいい、この中ではすべての地下河道が水で満たされている。

飽和帯洞: 地下水面よりも下に形成された洞窟をいい、飽和帯内にあるすべての空隙は水で満たされている。飽和帯洞は地下水面下深くにある湾曲部を含むことがあり、カルストの十分な発達に伴って、地下水面のすぐ下に浅い飽和帯洞が形成されることもある。

静水面: 観測井戸(静水管)で水柱が上昇する水位をいう。

ピット(竪穴): 地表または洞窟内部から延びるシャフト(竪坑)またはポットホールをいい、ギャラリー(大きな通路)の垂直部分である。

袋小路谷: 水源が無く突然始まっている谷をいい、カルスト湧水のある場所から、またはその下に形成されるものをいう。

ポリエ: 大きな平坦地をもつ閉じたカルストの凹地をいい、一般的には沖積低地を伴う。地表流や湧水はポリエに流れ込み、ポノール(吸い込み穴)を通って地下に流入する。一般にポノールは、洪水のような大量の水を通すことはできないので、多くのポリエは雨期には湖になる。ポリエの形状は地質構造による場合もあるが、純粋に横方向の溶解と平坦化作用による場合もある。

ポノール: シンクホールまたは吸い込み穴ともいう。

ポットホール: 単一のシャフト(竪坑)、またはほぼ垂直な洞窟系全体をいう。

偽カルスト: カルストに似た特徴の景観を呈すが、基盤岩の溶解によって形成されたものではないものをいう。

残存洞窟: 水の流れが他へ逸れた後に残された、活動洞窟でない洞窟部分をいう。

岩塩カルスト: 岩塩または岩塩に富む岩石に発達したカルスト地形をいう。

シャフト(竪坑): 洞窟の通路のうちで、自然の垂直または急峻な傾斜を呈すものをいう。知られているシャフトで最も深いものは、スロベニアのカニン高原にある入口のシャフトである。これはまったく岩棚がなく、深さ643メートルに及ぶ。

吸い込み: 水の流れや河川が狭窄部を通って地下へと姿を消す地点、または水流や河川が開口した横穴洞窟や垂直のシャフトへと流れこむ地点をいう。吸い込みから流入する水の特徴は、開口した洞窟にすぐ直接に流れこむことであり、浸透水とは区別される。吸い込みから流入する水は、地中流出とも呼ばれる。

洞窟学: 洞窟に関する学術的研究をいい、これには、地形学、地質学、水文学、化学、生物学等の科学的な側面のほか、数々の洞窟探検技術が含まれる。

鍾乳石: すべての洞窟鉱物堆積物を表す一般的用語であり、すべてのつらら石、流れ石、石華等を含む。

湧水: 地下水が地表に湧出する地点をいう。石灰岩に限らないが、一般に洞窟が発達する岩石に大きな湧水ができる。世界最大の泉は、トルコにあるデュマンリの泉で、平均流量は毎秒50m3以上である。

地表下風化帯: 土壌の下にある一般にきわめて風化の進んだ部分をいい、この下にはカルスト帯水層の比較的風化していない主岩盤がある。

サンプ(水没部): サイフォンともいい、水没した通路部分をいう。

トラバーチン: 流水によって堆積した石灰質鉱物であり、流水から植物や藻類が二酸化炭素を抽出することによって沈殿を引き起こし、トラバーチンの多孔質の構造ができあがる。毛管の力、水頭損失、空気混和もトラバーチンの堆積に影響する。

真洞窟性動物: 洞窟の外光が到達する部分より奥の地下に恒常的に生息する生物をいう。多くの真洞窟性の種は、何らかの形で暗黒の環境中で生息できるように順応している。

好洞窟性動物: 洞窟の外光が到達する部分より奥に意図的に侵入し、習慣的かつ一般的に一生の内の一部分を地下の環境で過ごす動物をいう。

外来性洞窟動物: ときどき洞窟に入るが、一時的にも恒常的にも洞窟を生息地として利用しない動物をいう。

通気帯洞: 大部分が地下水面より上の通気帯中に形成された洞窟をいい、水は重力によって自由に流れる。通気帯に存在する水が重力の作用を受けているということは、すべての通気帯洞窟通路は水を下方に排水するということであり、通気帯洞窟はカルスト帯水層の上部をなし、水は最終的に飽和帯または地表に排水される。

通気帯: 地下水面よりも上にある岩石帯であって、水が自由に下方に向かって流れ、部分的にしか水で満たされない層をいう。不飽和帯とも呼ばれ、土壌、地表下風化帯またはエピカルスト帯、それに自由排出浸透帯から成る。

ボークリューズ型湧出: 湧水または湧泉の一種であり、被圧された飽和帯からの直接排水が、水中洞窟内を流れて地表に流出するものをいう。このような湧出は、南フランスにあるボークリューズの泉にちなんで名付けられたものである。ボークリューズの泉の平均流量は毎秒26m3であり、垂直で深さは243メートルである。水量は季節によって変動する。

地下水面: 岩盤内の間隙を満たしている地下水体の上表面をいう。地下水面の上には自由排水される通気帯があり、地下水面の下側には常に飽和状態にある飽和帯がある。個々の地下河道は、地下水面の上にあるか下にあるか、つまり通気帯にあるか飽和帯にあるかのいずれかであり、地下水面とは結びついていないのがふつうである。石灰岩中では、透水性が高いために地下水面の傾斜(動水勾配)は低く、水位は出口の湧水や地域的な地質によって制御される。流量が多いと動水勾配も急になり、湧水とは関係なく水位が上昇することになる。フランスのグロット・ドゥ・ラ・リュイール(リュイール洞窟)では、洞窟の水位、したがってその地域の地下水面が、450メートルも変動する。

地下水追跡: 入口側の水にラベリングし、それを下流側の地点で識別することにより、未探検の洞窟を通ってつながっている地下の流路を確認すること。一般的なラベリング技術では、蛍光色素(ウラニン、フルオレセイン、ローダミン、白色素胞、ピラニンなど)、ヒゲノカズラの胞子、またはふつうの塩のような化学薬品を使用する。これまでに成功した最長の地下水追跡例はトルコで行ったものであり、全長130キロメートルに及んだ。

生活史の段階(基準7)  魚または甲殻類の発育上の一段階をいう。例えば、卵、胚、幼生、レプトセファルス、ゾエア、動物プランクトン段階、幼若体、成体、後成体など。

回遊経路(基準8)  サケやウナギなどの魚類が、産卵場や採食場、稚魚の成育場との間を移動する際に遊泳する経路をいう。回遊経路は、しばしば国境や、各国の国内にある管理区域の境界をまたぐ。

自然度が高い(基準1)  基準1で使われている「自然度が高い」とは、ほぼ自然とみなされる態様で機能しつづける湿地という意味である。基準にこの語を盛り込むことで、自然のままではない湿地であっても価値のあるものを、国際的に重要な湿地として登録できるように図るためである。

稚魚の成育場(基準8)  発育早期にある幼魚に対して隠れ家、酸素、食物を提供する目的で、魚類により利用される湿地の部分をいう。親が巣を守るティラピアのように、親が稚魚の成育場に残ってそれを守る魚類もあれば、親が巣を守らないナマズのように、稚魚が親によってではなく、卵を産みつけた生息地の提供する隠れ家によってのみ守られる魚類もある。稚魚の成育場の役割を果たす湿地の能力は、冠水、潮の交換、水温の変動、栄養分の変化など、湿地の自然の周期がどの程度保たれるかにかかっている。ウェルカム(1979)によれば、湿地で行われた漁業の場合、漁獲量の変動のうち92%は、その湿地の直近の洪水の履歴によって説明できることが示されている。

植物(基準3、4)  維管束植物、コケ植物、藻類、菌類(地衣類を含む)をいう。

個体群(基準6)  この場合には、関係する生物地理区の個体群をいう。

個体群(基準7)  この場合には同一の種で構成された魚類群をいう。

個体群(基準3)  この場合には、特定の生物地理区内における一つの種の個体群をいう。

避難場所(基準4)  「重要な段階」も関係しているので、その定義も参照のこと。重要な段階とは、妨げられたり阻止された場合に、種の長期的な保全を脅かしかねない活動(繁殖、渡りの途中の中継地での休息等)をいう。避難場所とは、干ばつ等の悪条件の期間中に、こうした重要な段階をある程度保護するような場所を表すものと解釈する。

定期的に(基準5、6)(「定期的に支える」)  以下の場合、湿地はある大きさの個体群を定期的に支えているという。

)3分の2の季節において必要数の鳥類が存在していることがわかっており、それに関して適切なデータが入手でき、しかも季節の合計数が3以上の場合。

)最低5年間かけて調査した結果、その湿地が国際的に重要である季節の最大平均値が、必要水準に達している場合(34年の調査の平均は、暫定的な評価にのみ使用できる)。

鳥類がある湿地を長期的に「利用」していることを確定するには、特に、存在する個体数の生態学的必要性と関連づけて、個体数水準の自然の変動を考察する。つまり、(半乾燥または乾燥地域において、干ばつ時もしくは寒冷時の避難場所もしくは一時的な湿地として重要な湿地であって、その程度が年毎に大きく変動する場合など)、状況によっては、湿地を利用している鳥類の数を年数で単純に算術平均しただけでは、その湿地の真の生態学的重要性が反映されないことがある。このような場合、湿地が特定の時期(生態学的ボトルネック)において決定的に重要であっても、他の時期にはそれより少ない数しか収容していないことがありうる。こうした状況においては、湿地の重要性を万全を期して正確に評価するために、適切な期間を対象としたデータについて解釈する必要性がある。

しかしながら、たいへんな奥地に生息する種や特に希少な種の場合、または国の調査実施能力が特に限られている場合など、状況によっては、少ない回数の計測をもとにしてその地域を適当とみなすことができる。情報がほとんどない国または湿地については、一回だけの計測でも、一つの種に対する当該湿地の相対的重要性を確定する一助となりうる。

国際湿地保全連合が編集している国際水鳥調査は、主要な参考情報源である。

代表的湿地(基準1)  ある地域で見いだされる湿地タイプの典型例である湿地についていう。各湿地タイプについては添付文書Bで定める。

相当な割合(基準7)(魚類の基準について合)  極地の生物地理区において「相当な割合」とは、38の亜種、種、科、生活史の段階または種間相互作用をいい、温帯域においては1520の亜種、種、科などをいい、熱帯域では40以上の亜種、種、科などをいう場合があるが、これらの数字は地域により異なる。種の「相当な割合」にはすべての種が含まれ、経済的に価値のある種に限らない。種の「相当な割合」を擁する湿地の中には、魚類にとって限界ぎりぎりの生息地であるものもあり、熱帯域であっても、わずか数種の魚類しか生息していないこともありうる。例えば、マングローブ湿地の淀み、洞窟湖、死海周辺のきわめて塩分濃度の高い水たまりなどである。たとえ劣化した湿地であっても、それを復元した場合に種の「相当な割合」を支える可能性については、同じく考慮する必要がある。高緯度地方、最近氷結した地域、魚類にとって限界ぎりぎりの生息地などのように、もともと魚類の多様性に乏しい地域では、遺伝的に分けることのできる種以下の魚類分類も数に含めることができる。

産卵場(基準8)  求愛、交配、配偶子(精子、卵など)の放出、配偶子の受精、受精卵の放出のために、ニシン、コハダ、ヒラメ、ザルガイなど、淡水湿地に生息する多くの魚類が利用する湿地の部分をいう。産卵場は、河川域、河床、湖沼の沿岸または深水域、氾濫原、マングローブ、塩生湿地、ヨシ原、河口、浅海域の一部分等の場合がありうる。河川から流入する淡水が、隣接する海岸に格好の産卵条件を作りだすこともある。

(基準2、4)  野生状態で交配しまたは交配することのできる、自然に存在する個体群をいう。基準2、4及びその他の基準においては、亜種もこれに含まれる。

種間相互作用(基準7)  種間における、特定の利益や重要性をもつ情報やエネルギーの交換をいい、例えば、共生、片利共生、相互資源防衛、共同抱卵、托卵行動、親から子どもへの高度な保護、社会的狩猟、捕食者と被捕食者の例外的な関係、寄生、高次寄生などがある。種間相互作用はあらゆる生態系内で起こるが、サンゴ礁、古い湖沼など、種が豊富な極相群落であって、そうした作用が生物多様性の重要な構成要素となっている群落においては、特に発達している。

支える(基準4、5、6、7)  生息地を提供すること。ある期間にわたり、ある種または種の集合にとって重要であることを示すことのできる地域は、その種を支えているという。地域に対する占有は連続的である必要はなく、洪水や(地域的な)干ばつ条件といった自然現象に左右されうる。

生存(基準2の長期目標)  種または生態学的群集の地域的な生存及び全体的な生存に対して非常に寄与する湿地については、長期的にその地理的範囲を維持するようにできる。種が長期的に存続する可能性が最も高いのは以下の場合である。

)対象となる種の個体数動態データにより、現在、その種が自然の生息地の生存可能な構成要素として、長期的に自己を維持していることが示されており、

)予知できる未来において、当該種の自然の範囲が狭まらず、また狭まる可能性もなく

)現在だけでなくおそらく将来においても、長期的にその個体群を維持するのに十分な大きさの生息地が持続的に存在する場合。

絶滅のおそれのある生態学的群集  生態学的群集の大きさ、生存または進化を脅かす状況と要因が作用し続けるならば、事実上絶滅する可能性のある生態学的群集をいう。

絶滅のおそれのある生態学的群集の目安となるのは、その群集が、以下の現象のうちの一以上によって実証されるような絶滅につながるおそれのある脅威に、現時点でも継続的にもさらされているということである。

)地理的分布の著しい減少。分布の著しい減少は測定可能な変化とみなされており、これによって生態学的群集の分布が前回の幅の10%未満か、もしくは生態学的群集の全面積が前回の面積の10%未満になり、あるいはパッチ状になった生態学的群集のうちで、25年以上生存し続けられるのに十分な大きさの面積のあるものが10%未満しかない場合である。(10%という数字は参考値であり、もともとかなり広範な面積を占めていた群集などについては、違う数字をあてはめるほうが適切な場合もありうる。)

)群集構造の著しい変化。群集構造には、構成要素となって生態学的群集を形成している種の名称、数、こうした種の相対的及び絶対的量、当該群集内で働いている生物作用及び非生物作用の数、種類及び強度などが含まれる。群集構造の著しい変化は測定可能な変化であり、この変化によって、25年以内には当該生物学的群集の機能回復が実現しそうにない程度まで、当該群集の構成要素である種の量、非生物的相互作用または生物的相互作用が変化する場合をいう。

)生物学的群集において主要な役割を果たしていると考えられる在来種の消失または減少。このガイドラインは、群集の構造上重要な構成要素となっている種、例えば海草、シロアリの巣、藻類、優占木本種等、群集を存続させる過程または群集内で重要な役割を果たす過程で重要な種について言及するものである。

)脅威的作用によって生態学的群集が急速に消失しうるような、地理的に限られた分布(国別に判定)。

)群集構造が著しく変化するような程度まで、群集の過程が変化していること。群集の過程は、火災、洪水、水文学的変化、塩分や栄養分の変化等、非生物的なものの場合もあれば、受粉媒介者、種子散布者、植物の発芽に影響するような脊椎動物による攪乱等、生物的なものの場合もある。このガイドラインでは、生態学的な過程(火災の形態、洪水、サイクロンによる被害等)が、生態学的群集を維持する上で重要な力を持っていること、また、こうした過程が破壊されれば、生態学的群集が減少しうることを認識している。

入れ換わり数(基準5、6)  渡りの期間中に一つの湿地を利用する水鳥の累積合計数をいい、この入れ換わり数は、どの時点におけるピーク時水鳥数よりも多い数になる。

固有な(基準1)  そのタイプのうちで、その生物地理区内にのみ見られるタイプをいう。湿地タイプの定義については付属書Aに記載する。

絶滅危惧(基準2)  IUCNの種の保存委員会が用いている定義による。動物の場合には、IUCN刊行の1996年版「絶滅のおそれのある動物のレッドリスト」(Ballie & Groombridge 1996)の付属書3に記載されたADの評価基準(動物用)のいずれかによって、また植物の場合には、IUCN刊行の1997年版「絶滅のおそれのある植物のレッドリスト」(Walter & Gellette 1998)の添付文書1に記載されたAEの評価基準(植物用)のいずれかによって、ある分類群が、絶滅危惧A類(Critically Endangered)や絶滅危惧B類(Endangered)には相当しないまでも、中期的な将来において高い確率で野生では絶滅に至る危機にある場合、その分類群を絶滅危惧類という。既述「地球規模で絶滅のおそれのある種」も参照のこと 訳注

訳注 本訳は、環境庁による日本版レッド
データブックによる分類を根拠とした。

水鳥(基準5、6)  ラムサール条約は、水鳥を「生態学的に湿地に依存している鳥類」(条約第1条2)と実施のために定義している(条約中で使われているwaterfowlという用語は本基準及び本ガイドラインの適用上、waterbirdと同義とみなされる)。したがってこの定義には、湿地に生息するあらゆる鳥類種が含まれる。また、目という広義のレベルの分類群では、特に以下がこれに含まれる。

  • ペンギン:ペンギン目
  • アビ類:アビ目
  • カイツブリ:カイツブリ目
  • 湿地に関係のあるペリカン、ウ、ヘビウ類:ペリカン目
  • サギ、サンカノゴイ、コウノトリ、トキ、ヘラサギ:コウノトリ目
  • フラミンゴ:フラミンゴ目
  • サケビドリ、ハクチョウ、ガン、カモ(野禽):カモ目
  • 湿地に関係のある猛禽類:ワシタカ目
  • 湿地に関係のあるツル、クイナ等:ツル目
  • ツバメケイ:ツバメケイ目
  • 湿地に関係のあるレンカク、シギ・チドリ類、カモメ、ハサミアジサシ、アジサシ: チドリ目
  • バンケン:カッコウ目
  • 湿地に関係のあるフクロウ:フクロウ目

湿地の利益(基準7)  湿地が人に提供する便益をいう。例えば、洪水調節、表流水の浄化、飲料水や魚類、植物、建築材料、家畜用水の提供、アウトドアレクリエーション、教育など。決議.1も参照のこと。

湿地タイプ(基準1)  ラムサール条約湿地分類法の定義による。添付文書Bを参照のこと。

湿地の価値(基準7)  湿地が自然生態系の機能の中で果たす役割をいう。例えば、洪水の軽減と調節、地下水と表流水の維持、堆積物の捕捉、侵食の調節、汚染の軽減、生息地の提供など。


添付文書F

参考文献

[編注:以下の文献リストはラムサールハンドブック第2版(2004年版)に施されている修正に従う.]

Baillie, J. & Groombridge, B. (eds.) 1996. 1996 IUCN Red List of Threatened Animals. IUCN, Gland. 378 pp.

[上の文献は,次の文献に一新されている:IUCN. (2001). IUCN Red List Categories and Criteria: Version 3.1. IUCN Species Survival Commission. IUCN, Gland, Switzerland and Cambridge, UK. ii + 30 pp.

Bruton, M.N. & Merron, G.S. 1990. The proportion of different eco-ethological sections of reproductive guilds of fishes in some African inland waters. Env. Biol. Fish 28: 179-187.

[Delany, S. & Scott, D. 2002. Waterfowl population estimates. Third edition. Wetlands International Publication 44, Wageningen, The Netherlands.]

Green, A.J. 1996. Analysis of globally threatened Anatidae in relation to threats, distribution, migration patterns, and habitat use. Conservation Biology 10: 1435-1445.

Scott, D.A. & Rose, P.M. 1996. Atlas of Anatidae populations in Africa and Western Eurasia. Wetlands International Publication 41, Wageningen, The Netherlands.

Welcomme, R.L. 1979. Fisheries ecology of floodplain rivers. Longman, London. 317 pp.


[和訳]

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