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ラムサール条約 情報集

湿地の文化遺産7:
世界遺産条約と文化的景観,そして湿地



世界遺産条約と文化的景観,そして湿地

世界遺産条約(日本語条文)環境省生物多様性センター]

世界遺産条約は,その傑出した自然の価値あるいは文化的価値を全人類のために保存されるべき区域や物件の一覧表を作成することによって世界の遺産を規定し保全する.そして締約国の密接な協力を通じてそれらの保護を確保するように努力する条約である.多数のラムサール条約登録湿地が世界遺産条約にも記載されており,これらふたつの条約のあいだで1999年に署名された覚書が共通目標を達成するための将来の協力の枠組みを提供する.

世界遺産条約は1992年に保護に値するもうひとつの範疇として文化的景観の認定を奨励するという重要な一歩を踏み出した.

 当初世界遺産条約は自然の価値か文化的価値かどちらかを有する区域や物件を認めていたが,1992年に保護に値するもうひとつの範疇として文化的景観の認定を奨励するという重要な一歩を踏み出し,このような範囲を認めて保護するはじめての国際法的文書となった.こうして,文化的景観が同条約第1条に規定する「自然と結合した人工の所産」に相当することを認めるに至った.文化的景観は,人類社会とその居留地が自然環境が及ぼす物質的制約と機会に影響されつつ時代とともに発展してきたことを証明する.

 「文化的景観」という用語は,人々と自然環境の多様な相互作用の証しを含む.それらはしばしば,持続可能な土地利用の技術や自然との精神的関係を反映する.2001年8月までに全部で23の文化的景観が世界遺産一覧表に記載されており,まだ控えめだが数年のうちにはずっと増加することであろう.すでに文化的景観の5つの記載地はラムサール条約の登録湿地であり,他のラムサール湿地も世界遺産条約の文化的景観として認められる大きな機会が,ふたつの条約の協力関係を通じて提供される.

世界遺産条約が規定する文化的景観の3つの範疇

「明瞭に意匠された景観」が最も確認しやすいもので,人間の設計意図の下に創造された景観.これには,庭園や公園用地の景観で,常にというわけではないが多くの場合に,宗教的あるいはその他の記念建造物やその一群に関連する美的な理由で構築されたものが含まれる.
 ポルトガルの「シントラの文化的景観」がその典型例.

「有機的に進化する景観」は,はじめは社会,経済,統治者,あるいは宗教による命令や要請により築かれ,その後その自然環境との関連や反応によって現在の形態に発達してきた景観.このような景観は,その形態の進化の過程やその構成要素の特色に反映されて,次のふたつに区分される:

[ホルトバージ国立公園HPHortobágyi Nemzeti Park」 (), ハンガリー政府観光局東京事務所「ホルトバージ国立公園」]

a)「残存景観(または化石景観)」.過去のある時点でその進化過程が完了してしまったが,有意に区別される特徴がその物理的形態にまだ見られるもの.
 ハンガリーのラムサール湿地のひとつ,ホルトバージ国立公園が傑出した例である.ここでは,2千年以上にわたりその区域を伝統的に利用してきた牧畜社会が形づくった文化的景観をまだ見ることができる.

b)「継続する景観」.これは現在の社会がその伝統的生活様式と密接に関連する社会的役割の活性を保ち,その景観の進化過程が引きつづき進行しているもの.同時にその時代を越えた進化を顕著にあらわす物理的形跡を展示するもの.
 欧州にはラムサール条約に登録される湿地も含んで,次の3つの例がある:スウェーデンの「エーランド島南部の農業景観」,フランスの「シュリー・シュル・ロワールとシャロンヌ間のロワール渓谷」,ならびにリトアニアとロシア国境の「クルシュー砂州」.

「関連する景観」は,物理的な文化形跡がわずかであるか欠いており,それよりもむしろ,宗教的,芸術的,あるいは文化的に強力なその自然の要素との関連が存在する景観.
 オーストラリアの「ウルル=カタ・ジュター国立公園」(エアーズロック)が好例で,先住民にとっての根源的重要性をもつ.

人々の環境に対する精神的,物理的,ならびに技術的反応の相互作用に特徴づけられて,文化的景観は自然と文化が切り離せないことを証明する.このような信仰や伝統,遺跡や自然の混合を保存することは,その管理者にとってかなりの困難を提示する.これらの困難に管理者が対処するのを助けるために,ユネスコ世界遺産センターと条約の国際的諮問機関3団体が「文化的景観の管理指針」を策定中である(訳注.2005年9月時点で未刊).この指針が,人々と自然とのあいだの慎重な扱いを要するバランスを保護する日常的な管理者の活動を援助することが期待される.そして文化的景観でもあるラムサール条約登録湿地の保全管理に役立つツールになることであろう.

「世界遺産条約」は正式には「世界の文化遺産及び自然遺産の保護に関する条約 Convention Concerning the Protection of the World Cultural and Natural Heritage」として,1972年にユネスコによって採択された.2001年7月現在で,世界の164の国々が署名している.ウェブサイト http://www.unesco.org/whc/

条約の国際的諮問機関3団体は次のとおり:

IUCN−国際自然保護連合.自然遺産に関して助言する(http://iucn.org/themes/wcpa/wheritage/wheritageindex.htm).

国際記念物遺跡会議.文化遺産に関して助言する(http://www.icomos.org).

文化財保存修復研究国際センター.文化遺産に関して助言する(http://www.iccrom.org).


The cultural heritage of wetlands 琵琶湖ラムサール研究会 [英語原文:Ramsar Bureau. 2001. The cultural heritage of wetlands. Ramsar Information Pack for World Wetlands Day 2002, 11 sheets. [on-line] http://ramsar.org/wwd/2/wwd2002_infopack_pdfmenu.htm.
[和訳と編集:琵琶湖ラムサール研究会,2005年.HTMLページ左側に緑色で示したリンクに,情報集本文の参考になると考えられるものを同会が独自に紹介する.]


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