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ラムサール条約 情報集

湿地の文化遺産8:
湿地−学習と余暇のための文化的景観



湿地−学習と余暇のための文化的景観

古代より湿地はレクリエーションや余暇の場として好まれてきた.豊かで独特な動物相は,とりわけ鳥類が,狩猟に興じる君主や貴族,僧侶たちを引きつけた.エジプトの古代都市テーベの墓地遺跡には,網を用いて鳥類を捕獲したり,水鳥を狩猟する場面の絵がある.ナイル川の三角州や湿地は,木製のブーメランや訓練した猫を使って鳥類を狩猟する高貴なエジプト人を引きつけたことで知られる.

[メゾラ自治体Comune di Mesola」 (西) ]

ケオラデオ国立公園概要紹介,(財)地球・人間環境フォーラム]

 12世紀スペイン中部にあったカスティーリャ王国の王子ドン・フアン・マヌエルは,その著書「狩猟の本 Libro de la Caza」で,現在のバレンシア州内にあるビイェーナ潟湖とエルチェのアルブフェーラ潟湖を豊かな狩猟地として称賛している.エステ家は16世紀にイタリアのポ川デルタに狩猟時の宿泊施設としてメゾラ城を建てた.この豪華な建物は現在,旅行者を引きつけるポー川デルタ州立公園ビジターセンター(エミリア=ロマーニャ州)になっている.インドのケオラデオ国立公園はもともと狩猟目的の保護区として150年前に当時のバラトプール藩王国のマハーラージャが開いたもので,現在では国立公園ならびにラムサール条約登録湿地となり,旅行者のための施設も良く整備されている.

 もちろん過去においては,このような余暇活動は社会の中でも裕福な人々だけが可能であり普通の人々はこのような道楽に費やす時間もお金もなかった.今日でも人々の大半がこのような余裕はないという国もあるが,前世紀のあいだに裕福な人々が費やす時間は劇的に増加した.そして今日,旅行者の数は,彼らの需要と希望を満たすことが地球規模の産業にまで成長している.湿地環境はこのような状況の下に,多彩な旅行者にレクリエーションの機会を大いに提供している.実際,多くの湿地でいまや,多数の人々が野鳥観察やハイキング,釣りやボートなどのより伝統的な滞在活動を楽しむようになり,地元レベルでも国レベルでも意味のある額の収入を提供するようになった.とはいえ,旅行者による湿地への人為的圧力が高まってしまうこともある.いずれにしても,その湿地がもつ豊かな文化遺産を上手に活用してより関心の高い旅行者をより引きつけるレクリエーションを開発することによって,地元への貢献を高めるに十分な機会が生まれるようになっているのである.

その湿地がもつ豊かな文化遺産を上手に活用して旅行者を引きつけるレクリエーションを開発する十分な機会がある.

 その水や泥が備える治療特性という長所が旅行者の引きつける湿地もある.ヨルダンとイスラエルの境にある死海は世界中の海の中で8倍ものミネラルに富み,聖書の時代からその薬効特性によって高名である.薬効のある泥は,伝統的に漢方で用いられ,西洋医学の祖のひとりでもあるギリシャ医師ヒポクラテスも推奨し,保養地の基礎的な資源となっている.例として,グアテマラのイスパコ湖や,スペインのムルシア州にあるマール・メノール(小さなの意の潟湖)が挙げられる.

 旅行者に対して解説を提供することが持続可能な開発を促進するためにたいへん効力を持つことがわかってきた.民俗誌博物館や湿地博物館,エコミュージアムなどの解説施設が,湿地の豊かな文化的伝統についての知識を訪問者に提供することを可能にし,同時に地元住民にとってのその湿地の文化遺産的価値を高める.

Salt and Salinas in the Mediterranean
地中海の塩田と塩泉ALAS(塩についての全ての意)プロジェクトの啓発ビデオ.ラムサール条約CEPAプログラムのALASプロジェクト紹介ページ)より.

 そのような例として,欧州の多くの場所で現在も伝統的方法で利用されている塩田がある.1千年前からとほぼ同じやりかたを維持することによって,地中海地域の多くの国でこの文化遺産を保存しようとする関心がますます高まってきている.それは,単にその地の文化遺産を保存するだけでなく,旅行者に対する『生きる博物館』としてその湿地が発展する機会,すなわち伝統的な活動への意識を高めることや,より需要がある追加収入の機会をも提供する.湿地博物館として活用されている塩田はすでにフランス,ギリシャ,イタリア,スロベニア,スペインなど各国に広がる.例外的な一例は,スペインのアニャーナ塩泉で,ここは120の丘陵斜面を開いて木製の製塩テラスが12世紀につくられた.現在は国の記念物として多くの訪問者をひきつけている.

 香港のマイポ湿地自然保護区はラムサール条約の登録湿地でもあり,その一部に海老の養殖池が維持されている部分がある.「 gei wai」と呼ばれアジアの沿岸域で数百年の歴史のある管理技術が実施されている.それは文化的伝統を維持しているだけでなく,その養殖池と結びついたたいへん多様な野生生物もまた支えている.

 考古学研究者は世界中で発掘調査を通じて人類の活動の過去の歴史を記録してきた.訪問者のためにボートや道,家屋,居住状況など創造的な再現を展示する野外の湿地博物館も数は少ないがある.例えば,イングランド,フランス,ギリシャ,日本,スコットランド,スイス,米国.訪問者が再現された家屋に寝転がったりカヌーを漕いだり,祖先たちの暮らしを疑似体験できるセンターもある.イタリアのポー川デルタ近くのコマッキオでは,訪問者はその文化遺産に沿ったトレイルを散策し,もとあった海岸線の明確な形跡や人類の活動の考古学的遺物,実際に発掘された完全な古代ローマ時代の舟を見てまわることができる.

 湿地は多くの場合に壊れやすい生態系であることを認めなければならない.無計画にレクリエーション活動や旅行者の利用を増やしてしまうことは利益よりも損害を被る可能性がある.その湿地がレクリエーション活動をどれだけ受け入れることができるか(環境収容力)を理解しなければならない.スペインのバレンシア大学地中海湿地研究本部(SEHUMED)では特に,湿地の「物理的収容力」,「実収容力」,「許容収容力」を測定するための方法論の研究を進めている.とはいえ,湿地は自然の構成要素と文化の構成要素のあいだに独得の満足な調和を提供する.すなわち,注意深く利用すれば,これらすぐれた湿地についての私たちの知識や大切さの認識を高めると同時にその文化遺産を地元住民にも訪問者にも同様に恩恵となるように維持することができるのである.


The cultural heritage of wetlands 琵琶湖ラムサール研究会 [英語原文:Ramsar Bureau. 2001. The cultural heritage of wetlands. Ramsar Information Pack for World Wetlands Day 2002, 11 sheets. [on-line] http://ramsar.org/wwd/2/wwd2002_infopack_pdfmenu.htm.
[和訳と編集:琵琶湖ラムサール研究会,2005年.HTMLページ左側に緑色で示したリンクに,情報集本文の参考になると考えられるものを同会が独自に紹介する.]


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