「お風呂場で…」  第4話
「わたし」は、バスタブに腰を下ろして自分を見下ろした。切れた手首、首筋。赤い湯船。
「こうして見ると、やっぱり私は死んだんですね」
「そうよ」
 自分の手を握ろうとしてすり抜ける。
「やっぱり、触れない…」
「そうよ」
「でも、不思議。もっと、悲しかったり、悔しかったりする物だと思ってた…」
「分泌液よ」
「え?」
「感情は体内の分泌液に大きく影響される。だから、貴女はもう怒る事もないし悲しむ事もない」
「そっか…。残念」
「やっぱり、触れない…」
「そうよ」
「そっか…。残念」
 
 知識がそう思わせるんだ、と言おうとして死に神さんは止めました。

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