「お風呂場で…」 第21話
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「多分、手首切った位じゃ死ねないって分かったのね。」 彼女は私を台所に招き入れながら言った。 「お薬沢山飲んで、手首も切って…。それでも死ねないって分かったから、あの子は湯船に頭をぶつけたんだと思う…」 あの子がただ滑って転んで、事故で死んだのなら彼女は救われるんだろうか…?それとも違うのか?少し考える。 「私たちはね。そこまでして…、そこまでしてあの子が生きることを拒絶したのなら、それを受け入れようと思う」 「それは…」 「ええ。多分、とても苦しいことだと思う。でもね。あの子がそれを望んで成し遂げたのなら…、それを受け入れるのも親のつとめ じゃないかと思う」 彼女が苦しみ抜いて出したであろう結論に、私は反論できなかった。何か口を出す権利は私にはない。 ただ、彼女の何かを受け入れたような顔が私には耐えられなかった。 それから焼香をすませて、お母さんに頼んで最後のお別れをした。 最後に出会った柩の中のあの子は、少しいびつな形をしていて…、いつまでも頭の中に残った。 |