「山の中でひとり」 第39話
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もはや耐えきれない熱さ、動かない身体、定まらない視点。 私はあの人になって、来た道を引き返す。 雪と熱が来た道を隠す。あの人は直進して、ルートを外れる。 すぐに水筒とセーターを見つけた。少し歩く。手袋、ゴーグル、下着の順に落ちていた。 もう意識もほとんど無い。歩けているのが奇跡だ。 目の前は沢が作った小さな谷間。雪庇が出来る。しかし確認は出来ない。 あの人は雪庇の上を歩く。そして…、ここから落ちた。 私は沢に降りる。 心臓が破裂しそうになりながら彼は流されたのか?それとおもとにかく沢からあがったのか…。 そう思って沢を見渡すと、ちょうど窪みになって日が当たらないところにあの人はいた。 多分、ほんの少し前まで残雪に埋もれていたのだろう。柔らかく不完全に屍蝋化している。
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