「山の中でひとり」  第39話
cd3120eea4-1221643080.png  もはや耐えきれない熱さ、動かない身体、定まらない視点。
 私はあの人になって、来た道を引き返す。
 雪と熱が来た道を隠す。あの人は直進して、ルートを外れる。
 すぐに水筒とセーターを見つけた。少し歩く。手袋、ゴーグル、下着の順に落ちていた。
 もう意識もほとんど無い。歩けているのが奇跡だ。
 目の前は沢が作った小さな谷間。雪庇が出来る。しかし確認は出来ない。
 あの人は雪庇の上を歩く。そして…、ここから落ちた。
 私は沢に降りる。
 心臓が破裂しそうになりながら彼は流されたのか?それとおもとにかく沢からあがったのか…。
 そう思って沢を見渡すと、ちょうど窪みになって日が当たらないところにあの人はいた。
 多分、ほんの少し前まで残雪に埋もれていたのだろう。柔らかく不完全に屍蝋化している。

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