「山の中でひとり」  第59話
cd3120eea4-1224798240.png 「多分、お父さんは版張りました。頑張ったんだと思いたいです。思いたかったです。 でも…空港でおじいちゃんはお父さんが蒸発したことを…、お家でお母さんはお父さんが私たちを捨てた事を教えてくれました。」
「非道いお父さんね。…あっ、いや…。えっと、ごめんなさい。」
 おばちゃんは慌てて否定する。私は愛想笑いを返す。
「いえ、事実ですから…。お家に帰ってからも色々ありました…」
 ジャガイモの芽や青梅はすぐにはき出した。チャイルドロックした車に閉じこめられた時はキーシリンダーの裏の部品を直接回してエンジンをかけた。お風呂場に入浴剤とトイレの洗剤を振りかけられて閉じこめられたときはすぐにシャワーの水で流した。他にも色々あった。最後に山に置き去りにされた。
「本当に色々あって…、またお母さんと私は離ればなれになりました。だからお家に帰るために山を抜けてきました。」
「それであんな格好してたの?でも、山を抜けるって言ったて大人でも何日もかかるわよ…。」
「実際、何日もかかりました。怪我したり、色々あったから何日かかったか分かりませんが…。」
「色々、色々。適当にはぐらそうとしてない?」
「スイマセン…。どう説明すればいいのか自分でも分からないんです。それに、今言ったことを証明するスベも私には有りません。」
 多分母さんは私を許さないだろう。だから、これが最後の帰り道になるなら…
「でも…、私は自分の力でお家に帰りたい。」

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