「山の中でひとり」  第64話
cd3120eea4-1225552853.png  紐で輪っかを作ってサトシ君の素早く首にかける。
 一旦上に引き上げて腰を浮かしてから後ろに引き倒す。不意を突いたから簡単に倒れて尻餅をつく。そのまま法面を引っ張りながら下る。サトシ君はパニックになって、喉をかきむしる様にして紐を外そうとするけど、完全にのど笛に入ってるから、それはむなしい抵抗に過ぎない。
 紐を後ろに引けば、抵抗できずに自ら後ずさる。力のない私でも簡単にサトシ君を制御できる。
 一旦畑までおろして、もう一度法面を登らせる。脚でサトシ君の肩を固定して背中を引く。ちょうど首つり状態になったから、左手でもう片方の紐を持つ。Vの字になった紐と紐の間にカマの柄を差し込んで巻き上げながら背中を立てる。即席のガロットが完成した。もうサトシ君は私の手の中だ。行動も、思考も、呼吸でさえも…。

 スカボローの市に行くのか? 昨日の天気は雨か? 1週間前の夕食は美味しかったか? お父さんの車のオイルはもう交換したのか? ピーマン食べられる? シュレディンガーの猫は元気か? 風が吹けば桶屋が儲かる理由を知ってるか? あの本はちゃんと隠したのか? 自分であの本を買ってきたのか? スカボローの市に行くのか? 夏休みの宿題はやったのか? あなたはキラか? 昨日は寝たのか? 例の物は今持ってるのか? 昼には雨が降ると思うか? 尻派か乳派か? おじいちゃんは貧乳派だったけど、私がまだ気づいてないと思うか? スカボローの市に行くのか? ジョンを撃ったのは本当にチャップマンだと思うか? アポロは本当に月に行ったと思うか? スカボローの市に行くのか?

 私はカマの柄を緩めたり、締めたりしてサトシ君の呼吸を制御しながら、意味のない質問を何回も繰り返した。

<< Back || Next >>


|| 山の中でひとり  Top | 描いていただきました | CG | Profile | BBS ||