「山の中でひとり」  第65話
cd3120eea4-1225692629.png 「右腕を上げなさい。」
 なかなか上げないから締め上げる。ゆっくりと右腕があがった。
 サトシ君は私の質問に対して嘘ばかりつく。
 でももう私に逆らうことはないだろう。ほんの少し緩める。すがるようにサトシ君は息をしようとする。また締め上げる。
「あなたの名前は、タカヨシ君?」
 首を振る。
「それともサトシ君?」
 うなずく。少し緩めてあげる。でも、すぐに締める。
「ちがうわ。あなたは…、そうね。サトス君よ。返事なさい。サトス。」
 おじいちゃんの家で読んだ漫画のキャラクターの名前を呼ぶ。返事がない。
 私は強く締め上げる。そして少しだけ緩める。何回もサトシ君はうなずいた。右腕が下がり始めたから、また締め上げる。
「誰が腕をおろして良いって言ったの?すぐ上げなさい」
 緩めてあげても、下がったままだからもう一度命令する。ゆっくりと右手があがる。
「この畑を荒らしていたのはサトス君、あなた?」
 首を振った。サトシ君はまた嘘をついた。見下げ果てた男だ。珍しくはないけど。
「私はあなたが畑を荒らしているのを見ていたわ。いい加減にしないと殺すわよ?」
 サトシ君は首を振りながら何度もうなずく。ようやく状況が理解できたらしい。
「非道いことをするのね。反省しなさい。後悔しなさい。わかった?」
 力なくうなずく。聞きたいことは聞いた。ゆっくりと締め上げて、ほんの少しの間緩める。またゆっくりと締め上げる。そうやってゆっくりと、慎重に呼吸を制御して、肺に入っている酸素をすべて消費させる。
 サトシ君の右腕が電池が切れたように落ちた。

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