「山の中でひとり」  第75話
cd3120eea4-1226726917.png  警察署の近くのショッピングセンターに行った。
「今日は御馳走作らないとね。」
「サトシ君のことでお祝いですか?」
 ちょっとドキドキしながら聞いてみる。
「ん〜、ちょっと違うわね。えっと…、ほら。高志さんの事。ちょっといじめ過ぎちゃったかな〜って…、うん。あはは。せめて美味しいもの作ってあげなくちゃね」
 照れくさそうにおばさんが笑った。私もつられて照れくさくなって、そして自分が恥ずかしくなって笑う。
 沢山の人がいて、色んな人がいて、色んな物を買っている。何だかアニメみたいだ。
 下着や服を買ってもらったあと、夕食の食材を買ってもらった。お金を払ってレジを通る。ふと上を見ると、案内板に公衆電話のアイコンを見つけた。
「あの…、電話をしてきて良いでしょうか?」
「保護者の人?」
「えっと…、はい。」
「そこで待ってるから、行ってきなさい。」
 そう言って少し後ろでおばちゃんが私を送り出した。私はまた嘘をついた。

「私、山奥で迷ってしまいました。でも何とか自力で下山できたのですが、下山途中に他の遭難者の遺体を見つけました。」
 110番をかけると、お巡りさんが冷静になるように説明した。
「入山されたのは何日のことですか?」
「あの、私…。あまり関わり合いになりたくなくて…。その人が持っていたGPSに遭難者の遺体の場所ってポイント付けしたので、この公衆電話の足下に置いておきますから、それを見てください。それじゃ。」
 聞き返す間を与えずに電話を切る。彼はまだ一人で山の中にいると思うと、悲しかった。
 私はデイパックからウェストポーチを見えないように取り出して、おばちゃんの元に戻った。
「あの…、落とし物を拾ったので受付に渡してきます。」
 そういってサービスカウンターにウェストポーチを渡して名前を告げずにおばちゃんとお店を出た。
 さようなら、お父さんによく似た人。多分、これでお家に帰れると思う。

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