「山の中でひとり」  第116話
3976c037bf-1231942187.png  うちに帰るのを一日延ばした。
 昨日の今日で帰りづらいと言うこともあるけど、昨日のわがままを言ってしまったのでおばさんのご厚意に甘えることにした。
 おじさんが急ごしらえで作ってくれた服を着ておばさんと見せに行った。少し大きいけど、その分ラフな感じで着心地が良かった。
「高志さん、ちゃんと約束は守ってね」
「分かってますって。写真は撮りませんよ。着心地はどう?」
「すっごいいいです。意外と涼しいし、サラッとしていて気持ちいい。でも…」
「あぁ。動きやすさをとったから、すこし大きいのは勘弁してね」
 おじさんと話していると、おばさんが真っ赤になって台所に逃げ込んだ。
「いえ、その…。どうして私がロングでおばさんがミニスカートなのかと思って…」
「君は今日は食べるのがお仕事。好江さんはお仕事しやすいように和風メイドさん。これからたこ焼きとか焼きトウモロコシとか二人目とかお好み焼きとか作ってもらわなくちゃならないからね。実用性重視の方向性で。」
 不意にぴんぽーん、とチャイムが鳴った。
「高志さん、カメラ持ってきたわよ!」
 カメラを抱えながら、おばあさんとおじいさんがやってきた。好江さんのご両親だ。
「ちょっ、お母さん!?なんで??」
「いっや、まぁまぁ。」
 ニコニコしながらおばさんをカメラで撮り始めた。おじさんは何だか複雑な表情で、どちらかと言うと若干引き気味で、おばさんを見ている。
「高志さん!!騙したわね!!」
 泣きそうな声でおばさんが叫んだ。
「僕は写真を撮りませんよ。僕はね。」
 おじさんとおばあさんがグッと親指を付き出し合いながら、いい笑顔で笑った。
「この子ったら、可愛く産んであげたのに昔から地味な服ばっか着てるから。ほら、高志さんに感謝しなさい」
「いや、僕は学生時代の制服のブラウスに白衣とか好きだったなぁ。」
「いいいゃやぁぁぁあぁあ!!」
 おばさんが声にならない声で叫んだ。

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