「山の中でひとり」 第118話
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楽しかった昨日が終わり、朝になり、帰る時間になった。 私はおばさん達に頂いたお土産をデイパックに詰め込んた。 ういろうや丁稚羊羹。ペットボトルに入れ直した麦茶におにぎり。鹿と猪肉の味噌漬け。アメちゃんにパン。 全部食べきれないだろと思うけど、おばさん達の真心が詰まってる重たさ。 おじさんに電車の乗り換えを調べて貰う。鈍行電車と乗り換えと、家までの徒歩を合わせても4時くらいには家に着く。 おじさんとタカヨシ君が町の駅まで車で送ってくれる。 「私は用事で駅までついて行けないけど、家に着いたら手紙でも電話でもいいから返してね。これ、あなたの家までの切符」 「あっ。あの、そんなことまで…。えっと、お金をお返しします」 お父さんによく似た人のウェストポーチに入っていた4万円。これは返さずに貰っておいた。 「いいのよ。気にしないで。お金は大事にしなさい。んっと、こんな事言うと残酷かもしれないけど、もしお家に帰れても貴女にとって良いことになるとは思わない」 お母さんのことを思う。返す言葉が見つからずに、思わず目をそらした。 「もし逃げ出したくなったら、そのお金を使ってここまで逃げてきなさい。遠慮はいらないから。逃げてきなさい。」 切符の入った封筒を私に握らせておばさんが私を抱いた。 「これから嫌なことや、苦しいことがあるかもしれない。ここは貴女にとってツラい場所かもしれないけど、貴女のことを心配している人がいることを忘れないでね。」 おばさんの言葉が胸に刺さる。 本当は帰りたくはない。ここの子でいたかった。 「さぁ、涙を拭いて。胸を張ってお家に帰りなさい」 その通りだ。 お母さんが待っている。帰らなきゃ…。
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