「山の中でひとり」  第131話
76557d488d-1234002018.png  少し迷ったけどおじいちゃんの家に寄らずに、そのままお家に帰った。
 このままお家に帰ることは恩を仇で返すのと一緒で、今の私には彼に会わせる顔なんてない。それにきっと甘えてしまう。
 お家に帰ると、玄関には鍵がかかっていた。周りを見渡したけどお母さんは何処かに出かけているようだった。
 お母さんに言いつけられているから、お家には入れない。
 だから、私は自分の部屋に戻った。
 日本に帰ってきたときには、私の部屋はもう私には小さくなっていた。
 お母さんに帰ることを拒否されてからは、おじいちゃんの家で暮らしていた。
 もう私の部屋は私の荷物置き場でしかなかったけど、それでも落ち着く私の部屋。

 表面がキレイな石を探してきて、丁寧にナイフを研ぐ。
 切っ先は鋭くして、奥は石にたたきつけてノコギリみたいにした。
 十徳ナイフは安物で、調べてみると固定金具すらなくてネジで締めているだけだった。これだからパチモンだめだ。
 部屋の屋根のささくれを集めて、ねじ穴にねじ込んで無理矢理締める。ほとんど閉まらなかったけど、それでもシャンとした。
 デイパックの紐を切って繋げて輪っかを作る。自分の部屋に乗ってそれを屋根の梁に吊した。
 自分の用意が出来たから、次の作業に移る。
 スカートの裾を切って紐を作って、ナイフのホルダーにくくり付ける。それを手に巻き付けてから、本体が滑らないようにしっかりと手にくくり付けた。
 これで刺しても、抜いても手から離れてしまうことは無いだろう。
 一応、予備にほとんど使っていなかった雪風をポケットに入れた。

 お母さんが私を許せない理由は何となくわかる。
 謝っても許してもらえないと事も理解している。
 お互いに傷つけ合って苦しみ続けなくてはならないのなら、お母さん。
 一緒に死んでください。

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