「山の中でひとり」  第133話
1234109022064.png  ゆっくりと、音を立てないように玄関の戸を開ける。
 久しぶりのお家の中はお線香の良いにおいがした。
 靴を脱いで持つ。

 お母さんは一番奥にある台所にいるようだった。
 静かに仏間に回り込む。
 お母さんを玄関におびき出すために、戸に向かって靴を放り投げる
 安普請の戸は靴が当たって、大きな音を立てた。
 立て続けにもう片方も投げた。また大きな音を立てた。

「誰です?」
 足音と共に台所から声が聞こえた。

 その声は、おじいちゃんだった。
 そこに存在することは、あり得ない声。
 パニック。
 廊下から足音が近づいてくる。
 計画通り、とおりすぎる時に脇腹を刺すべきだ。
 いやダメだ。
 私の中で、私会議が踊る。

 足音が通り過ぎた。
 早急に次の手を打たなければならない。
 あたりを確認したとき、仏壇にお母さんの写真が飾られていることに気が付いた。

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