「山の中でひとり」 第140話
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「嫌なこと、話すよ…」 おじいちゃんは玄関でへたり込んでいる私の隣に座って言った。 「アレはお前の父さんだ。山の中で遭難していたそうだ」 私は1日で両親を失った。 ショックなことが多すぎて逆に冷静に受け入れられた。 「屍蝋化してる。昔、山岳救助の手伝いに来てくれた時の人と同じ。冬の間雪の中で過ごしたんだな…」 あぁ、彼とそっくりだな。死に方までそっくりなんて奇遇だ。 「昨日、警察から連絡があってね。同じように遭難して、何とか自力で下りられた人が義男を発見したらしい。その人は義男のGPSに位置情報を記憶させて、下山してから警察に匿名で連絡してくれた。」 おじいちゃんが、GPSを渡してくれた。彼も同じ物を持っていた。起動する。でもこれはちゃんと充電されていた。 「それの位置情報を元に、警察が義男を迎えに行ってくれた。登録されていた位置に義男はいた。」 そう言えば彼はもうお家にかえっているだろうか?あの駐在さんを信用するしかない。 「義男は防災ヘリで地元の警察署まで運ばれて、検視を受けた。滑落して、大怪我を負ったようだ。警察は遺体の状況から遭難と断定した。」 ナビが立ち上がる。設定をいじって室内モードにする。 「そのGPSのユーザー登録と自宅の位置から、警察は遭難者は義男だと仮定していた。検視して、取り寄せていた歯医者のカルテと照らし合わせて…」 お気に入りを選択する。 「遭難者は義男と断定された。」 リストの中に「そうなんしゃのいたいのばしょ」。 必死に考えないように避け続けた事だった。手が震えた。 私はお父さんの遺体を切り刻んだのだ。
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