「山の中でひとり」  第142話
2cb900a038-1235102411.png  大抵の人間は目の前の逆境に対抗することが出来る。
 だから人の心なんて簡単には壊れたりしない。
 壊れたいと願うから、心は壊れるのだ。

「感染症の危険があるから、もう蓋を閉めなさい。義男もこんな姿を娘に見て欲しくないだろう…」

 おじいちゃんが悲しそうに言った。
 お父さんの手を取る。冷たくて、まるでラバーのような感触。
 私が切り取った指と耳。痛かったろう。非道いことをした。
 逃げても現実が変わらないなら、それを受け入れよう。

 お父さん。ごめんなさい。
 ありがとう。
 こんなになるまで頑張ってくれて、本当に…ありがとう。
 そして、お帰りなさい。

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