「山の中でひとり」 第153話
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みんなで車に乗り込むと、おじさんが写真を渡してくれた。 「アトゥイさんの携帯に送ったファイルじゃ写りが悪いから、印刷しておきました」 「お気遣いいたみいります」 「いえ。こちらこそ、あんなことがあったのに…」 「あんなこと?」 おじさんがハッとする。私もまずいと思う。 「気にしないで。おじいちゃん」 「いや、でも…」 「気にしないで」 しばらく重い空気が淀んだ。タカヨシ君が意味が分からずにおろおろしている。 「まぁ、ともかく電車の乗り継ぎとかが多かったから、ちゃんと家に帰れるか心配だったんで、好江さんに頼んで見守…、ついて行って貰ったんだけど」 「あぁ、その話はこの子から聞きました。なかなか剛毅な奥さんのようですね」 おじいちゃんって何だか難しい言葉を知っている。最近読み始めたラノベの影響かな。 「いえ、ウチまで一緒に帰るべきだったと私は思います。せめて、ウチの前まではついて行かないと…。しっかりしてるけど、まだ彼女は子供なんだし…」 珍しく真面目な顔でおじさんが言った。みんな心配してくれていたんだと思うと、ありがたいなぁと思う。あの時はそんなことも思わなかった。感謝しなくちゃ。 「連絡をしてきてくれた時は嬉しかった。ご両親のことは何て言っていいか分からない。でも、勝手ないいぶんかもしれないけれど、嬉しかった…」 それから他愛もない話をした。どうしてもみんな言葉を選んでしまう 。 まぁそんなこととは関係なくタカヨシ君に看板の漢字の読み方を習った。 そうこうするウチに、タカヨシ君の家に着いた。おじさんが玄関でチャイムを鳴らす。 「まぁ、色々あるけど取りあえず謝意の印って言うか…」 ドタドタと足音が聞こえる。玄関の戸が開く。 「…おかっ。オカエリナサイ。ゴシュジン…さま…」 「好江さんには中華風メイドさんのコスプレをして貰いました」
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