「山の中でひとり」  第159話
1236578944262.png  境内はとても静かで、涼しくて心地よい風が吹いていた。
 時間はゆっくりと優しく流れた。
 タカヨシ君と色んなお話をしたと思うけど、何を話したか思い出せない。
 多分、宝物のように大事な時間。
 夏祭りの日、受け止めることに臆病になっていた時間。
 多分これが幸せなんだと思う。

 正午のサイレンが村中に響いた。
 帰らなきゃ鳴らないけど、帰りにくい。
 おばさんにどんな顔をすればいいか分からない。
 躊躇する私の手を握ってタカヨシ君が歩き出した。
 タカヨシ君の手は強引で力強かった。
「大丈夫」
 そう言ったタカヨシ君の声は落ち着いていて、優しく…
 私はどうしても逆らうことは出来なかった。

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