「山の中でひとり」  第168話
41e48456a0-1237358807.png  湯飲みに三杯目をそそぐ。これで最後だ。少しずつ我慢して飲み込む。
 手が震えてきた。頭が痛い。目がかすむ。

    アナタは楽に死ぬべきじゃないと思うの
    だから、苦しんで死んでもらおうと思って、
    車の中に置き去りにしてもエンジンをかけちゃうし、
    ジャガイモの芽や青梅を食べさせても吐き出すし、
    お風呂場をガス室にしようとしても全部水に流しちゃう。

    冬の日、アナタのことばかり話す義男さんを登山に誘いました。
    山は全てを解決してくれる。
    お互い同じコトを思っていたみたいね。
    でも山は私の問題だけを解決してくれました。

    だから今回も山に問題を解決してもらうことにしました。
    私も生きるのが辛くなってきたし、これで終わりにすることにします。

    でも、これを読んでいるというコトは
    結局私のお願いは聞いてくれないみたいね。

    アナタが私のことが嫌いなのは知ってる。
    でもね。アナタの事を好きになろうと頑張ったのよ?
    アナタを生んでからずっと、私なりに努力した
    それなにの、アナタが私にしたことは何?
    嫌いなら、私にすり寄ってこないで欲しかったわ
    私を好きなふりをしないで欲しかったわ。

    この手紙と一緒に農薬を置いていきます。
    パラコートを探したんだけど、隣の倉庫には有りませんでした
    けど同じ除草剤だから、多分、同じでしょう。
    これを飲んで死になさい。

    さよなら。
    アナタなんて大嫌い。
    許して欲しかったら、謝りに来なさい。

 とうとう耐えきれなくなって、吐き戻した。
 遠くでおじいちゃんの叫びが聞こえる。
 苦しい。死んじゃう。助けて…
 でも、我慢しなくちゃ。

 あぁ、そうだ。謝りに行こう。
 謝ったところで取り返しは付かないけど、謝りに行こう。
 さようなら、さようなら、さようなら。
 ごめんなさい。
 さようなら。

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