「山の中でひとり」  第174話
1237991610556.png 「何人も殺しました。何十人も見殺しにしました。好きだった人も、目の前で脅えている無抵抗な人も手にかけました。私が守り続けた芥子畑のせいで沢山の人が苦しんだと思います」
 涙を拭う。冷静にならなきゃならないと思う。
「それなのに、私は自分のことを棚に上げてまるでただの被害者みたいに泣き叫んでました。私が一体何をした?」
 思わず自嘲してしまう。自分でも捻くれてきているのが分かった。
「色々非道いことをしてきました。あの国で私は自分さえ良ければ良かった。レイプされて、非道い事されて、また非道い事されたくない一心で、売春までさせられて…。ようやくそこから解放されても、自分可愛さに大勢犠牲にしました…。しかも、その事を思い出しもしなかった」
 非道い奴だと思う。
「タカヨシ君やおじさん達に出会ってから、毎日楽しかった。幸せだった。でも、結局私はサトシ君を誘ったフリをして、彼を陥れた。日本に帰ってきてもこのざまです。お母さんの言うとおりです。私に幸せになる権利なんかない。私は不幸を振りまいてる」
 大きくため息をついた。
 そうだ。私は非道い奴なんだ。
 なんだ。声に出して話してみてみると簡単に結論が出たじゃないか。
 楽になった気がする。
「まぁ、サトシの件はどうでもいい。何も起こらなかったし、何もなかった。ただ、彼らが仕事の都合で引っ越していっただけだよ。それ以外のことについては、何て言えばいいか分からない。ただ言えるのは、今のキミには生きる権利はない」

 どくん

 大きく心臓が高鳴った。
 時間が止まったような、心臓が一瞬止まったような感じ。
 おじさんは真面目な顔をしていた。冗談を言った訳じゃない。

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