泣き疲れていつの間にか寝てしまった。
少し冷静になってから、私はさっちゃんは妹にまで手は出さないと思った。
さっちゃんは馬鹿じゃない。
私が行方不明になって警察も動いているだろうし、家族に対するガードが堅くなっているこの状況で、妹を誘拐するようなリスクは犯さないはずだ。
こういう時は冷静になって、さっちゃんの要求を理解してその要求を満足させて付け入る隙を作らなくちゃ。いくら何でも私に自分を殺させることが目的とは思えない。冷静にならなきゃ…。
さっちゃんがいない間、必死で考えた。何パターンかシミュレートした。
不安はふくらむ。ともかく冷静になろうと足に力を入れて、激痛で恐怖を殺す。
何時間たったのか分からない。さっちゃんが部屋に入ってきた。
さっちゃんの姿を見た瞬間、頭の中のシミュレーションはすべて吹き飛んだ。
「さっちゃん、さっきのって嘘だよね…?」
妹が心配で声を上げようとするのを必死で我慢する。冷静にならなきゃ。
さっちゃんはクスクス笑ってた。よかった。怒ってない。
「やっぱり姉妹よね。友恵ちゃんだっけ?素直で良い子ね」
嘘だ。引っかかっちゃだめだ。必死で感情を抑える。
「せっかく癖のない綺麗な髪なのにくくっちゃもったいないよ。」
嘘だ。友恵とさっちゃんは何回かあったことがある。引っかかっちゃだめだ。
「めがねの度。意外ときついのね?良いレンズね。高かったでしょ?」
嘘だ嘘だ嘘だ。さっちゃんはそんなリスク冒さない。
「でも、友恵ちゃんは眼鏡やめてショートカットにした方が絶対可愛いよ」
信じちゃだめだ。冷静にならなきゃ。
「だからね。ちょっと試してみたの。良い感じだったよ?」
そういってさっちゃんは手に持っていた眼鏡を鼻にかけて、何かを顔の横に持って行った。
見覚えのある血が付いた眼鏡。毎日見ている髪型。舌を出していたずらっぽく笑うさっちゃん。
冷静になんてなれなかった。
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