さっちゃんは私の耳を持って、部屋の外に出た。
まだ鏡で確認していないせいか耳を失ったダメージは意外と少なかった。それよりも、友恵が心配だった。
友恵がさっちゃんにヒドい事をされていないか…
あの子はおとなしそうでいて、気が強いからひどい目にあわされているはずだ。
そう思うと、胸が張り裂けそうになる。
さっちゃんに懇願しても、友恵は解放されるわけがない。
どう考えても、友恵を救い出す方法が思いつかなかった。
でも、そのおかげで不可思議な事に気が付いた。
さっちゃんが友恵をさらったとして、髪の毛の束と眼鏡だけを見せて、
友恵の声すら聞かせないという事が本当にあり得るだろうか?
髪の毛なんてウィッグで誤魔化せるし、眼鏡だってそうだ。さっちゃんは私を追いつめるために嘘をついたのかもしれない。
考え出すと、さっちゃんが嘘をついてると考えた方が合理的だった。
さっちゃんはかしこい娘だから、最終目的が何にせよ、そんなリスキーな事をするはずがない。
私はもう、友恵がさらわれたのは嘘だとしか考えられなくなった。だからさっちゃんに対する怒りがこみ上げてきた。
この感情こそが、さっちゃんの狙いなのかどうかは分からない。でも、そんなのは関係なかった。ただ、さっちゃんが憎らしくなった。
ドアが開く。さっちゃんは微笑んでいた。
「友恵ちゃんって意固地ね。全然私の言う事信じてくれないの」
嘘だ…。友恵がいるなら携帯でも、MDでもいい。声を聞かせるはずだ。
「人を信じられないのは悲しい事よね?私はそう思うの…。頭に来る。」
嘘つき。友恵はここにいない。
「美術部なら、ダリのアンダルシアの犬って知ってるよね」
そう言ってさっちゃんはカッターを見せた。背筋が凍り付いた。怖さで身体が動かない。
「相互責任って言ったよね?妹さんのペナルティはお姉ちゃんが払わないとね」
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