灰色の空。冬の空。 
  ふるさとにいる頃、雪に埋もれて死んでしまおうかと思ったことがある。 
 とても寒い日だった。 
  ひもじくて、寒くて、何時間もじっとしていた。 
  窓から見える風景はみんな灰色で、出来るコトは凍てつく夜をただ待つ。夜になったらじっと朝を待つ。
  
  体調が回復してからは時々、おじさまと散歩に出かけた。そして冬の美しさを知った。雪に埋もれながら春を待つ木々の力強さを知った。 
  握りしめたおじさまの手は大きくて安心出来て…、その手をつなげる事は私の幸せ。 
  おじさまは時々感情を無くしたような目で遠くを見る。そんなおじさまを見るととても悲しくなる。 
  もしあのまま外に出てじっとしていればおじさまに出会うこともなかった。幸せを感じることもなかった。 
  だから、私はおじさまの幸せのために私にできる事なら何でもしたい。 
「どこにも行かないで欲しい」 
 おじさまが痛いくらい手を強く握って言った。おじさまの知り合いの女の子が家出をして返ってこないらしい。とても悲しそうにおじさまは話した。 
  私の手を握り締める大きな手。それは私の手足に枷をかけた。 
  見えない枷。 
  私は例え慰め者にされても、家畜のように扱われてもこの優しくて寂しがり屋の紳士から逃げ出すことはない。逃げ出せない。この枷は外れることはもうないのだから。
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