「鮭児の時知らずタン」  第58話
「もうすぐ故郷よ!急ぎましょう!!」
 お姉さんはとても嬉しそうに言いました。その声にハッとして時知らずタンは我に返りました。
「あっ、ごめんなさい…。ちょっとボーッとしちゃって…」
「さぁ行きましょう!」
 そう言ってお姉さんが伸ばした手を握ろうとした時ムシさんがお腹で暴れました。
「貴女はシャチを石女と呼んだけど、このまま彼女の手を握れば貴女は石女以下ね」
 ムシさんの言葉に、時知らずタンが一瞬ビクッとしました。
「ん?どうしたの?」
「あっ、いえ。何でもないです。気にしないで…」
 そう言って時知らずタンはお姉さんの手を握りました。
 ムシさんはクスクスと笑いました。屈託なく、遠慮なく、心から笑いました。

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