「鮭児の時知らずタン」  第59話
 重い足取りの時知らずタンを、クスクスとムシさんは笑いました
「貴女は面白いわ。お腹の子供より、自分のエゴを取るのね」
「…ちがいます」
 反論の言葉が見つからず、時知らずタンはただ否定する事しかできませんでした
「私はあの人達みたいに子供を産む事にこだわりはない。私たちはあなた達が考える以上に沢山いるから、誰か適当な人が子供を生む。私は、私が快適に生きて行ければそれでいい。あなたも同じようね」
「…違います。私のお腹にはまだ子供はいません。だから、お姉さんの…」
「同じよ。このまま海に戻ればあなたのお腹にも子供ができる。あなたは自分のエゴを満足させるために、その子達の可能性をすべて道連れにしてあの人と死地に向かうのよ」
「……違います」
「女の子にはね、母親になれる子と、女の子にしかなれない子がいるのよ。でもあなたは母親にならずに女の子である事を選んだのよ」
「………違います」
「このまままた海に戻ってシャチにでも食べられてくれたら、私も嬉しかったんだけどね。いいわ、応援してあげる。同じ女の子ですもんね」
 クスクス笑うムシさんの事を否定する事も出来ず、ただ黙々と時知らずタンはお姉さんと一緒に歩き続けました。

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