「鮭児の時知らずタン」  第66話
 時知らずタンが気が付いた時、お姉さんはもういませんでした。正しい判断だ、と思いました。
 一体、何分、何時間気を失っていたのか自分でも解りませんでした。普通に歩けないお姉さんにとってそれが取り返しの付かない損失になりかねないのは、汽水に酔った時知らずタンでも解りました。
 正しい判断だ、と思いました。お姉さんは、時知らずタンはすぐ追いつくと思ったのでしょう。
 正しい判断だ、と思いました。でも、時知らずタンの身体はこれ以上汽水に耐えられそうにありませんでした。一人ではほとんど前に進めなくなった時知らずタンを他の鮭たちは不思議そうに、でも気にもとめずに歩いていきました。
 もう一歩も歩けないと思った時、時知らずタンは海に帰りました。

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