その日も淡々と書類にペンを走らせる。
 と云っても書くことは最近同じ。
 最近、研究はすっかり進まなくなってしまっている。
 技術面で追いつかなくなったというのも理由の一つだろうけど、きっと”主任”の心の迷いも…
 
 二人の逢瀬はまだ続いていた。
 そして、わたしの傍観も…
 
 わたしは好きなのかもしれない。
 窓から見る風景。そのなかであの人が見せる、とても良い顔が。
 たとえわたしはそれに触れられなくても、あの人が幸せならそれでいい。
 何も出来なくても、何も届かなくても。
 部屋の窓からあの人の笑顔を見ることが出来るなら、それでいいんだ。
 
 だけど…  
 だけどもしも。
 わたしとあの人が、研究員でもなんでもなかったなら。
 もしも。
 わたしがあの人の心を癒せるくらいの笑顔を見せられたなら。
 
 もしも。
 もしも…
 
「…っ…うっ」

 何故だか判らない。

 泣く理由なんてどこにもないはずなのに。

 わたしの涙と、繰り返す幾つもの「IF」はいつものブザーがなるまで続いた。
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