競売物件が人気だが![]()
最近、裁判所の競売物件がインターネットに公開されるなどしていることもあり、競売物件の取り扱いをメーンとする不動産業者だけではなく、広く、一般にも競売物件が注目されるようになってきている。競売物件は、いわば物件のリスタートであって、ある意味、競売物件の取得は、物件の原価仕入れともいえ、仕入れコストを低廉にさせる。反面、占有者の排除や権利関係の調整などに思わぬコストを要することもあり、注意を要する。
情報入手に手間を惜しんでは良い物件は取得できない![]()
近時、インターネットで多くのサイトが裁判所の競売情報をアップしている。インターネットの検索エンジン・googleで、「不動産競売」の検索をかけると8000件以上のヒットがあり、多くのサイトが裁判所の競売物件を開示し、最低競売価格や物件明細書を閲覧できるようにするなど、容易に競売物件にアクセスできる仕組みができている。また、新聞の夕刊などにも情報が掲載される。
ただし、これらの競売物件情報(インターネットによるものもあれば、裁判所に出向き物件明細書・現況調査報告書・官邸評価書などを閲覧した場合もあろう)を入手した際、競売においては、完全な情報はほとんどないということに注意しなければならない。通常の売買であれば、宅地建物取引業法により、宅地建物取引業者による詳細な重要事項説明がなされる。しかし、不動産競売において、裁判所は、重要事項説明ほどには、物件情報を十分に説明してくれない。現地を自分の足で確認し、最新の公簿を閲覧するなどの情報収集は、競落しようとする者が必ず行わなければならない。物件明細書などに書いてあることには通常大きな誤りはないものの、書いていない事項について、当該事項、例えば、件外不動産の存在などがないとは限らないことに注意を要する。競売物件を入手しようという者は、情報入手に手間を惜しんではならない。
入札価格をどう決めるか?![]()
不動産競売では、入札価格をどの程度とすれば落とせるのかも気になるところである。東京地方裁判所では、平均すると最低競売の1.3倍程度で落札されているようである。このような数値は、入札価格を決めるために参考にはなるが、あくまで統計データであり、これのみに頼ってはいけない。あくまで、自分の目で確認したうえ、物件の形状、接道状況などの一般の物件と同様の観点のみならず、占有者は誰か、占有者と債務者・所有者との関係、公簿に短期賃貸借の登記が記入されていないかなど、自ら調査すべき事項は多い。これらの調査結果に基づいて、例えば、占有排除のために、法的コスト(執行費用や執行完了まで商品にできないことによるコストなど)が、どの程度となるかを算定しなければなるまい。これらを最低競売価格と対比し、入札価格を決めるのにどの程度上乗せするべきかを慎重に検討すべきである。一般に、競売の入札価格は正常な市場価格の3割から4割引きであるといわれるが、その後にかかることが想定されるコストを考えれば、3割から4割引きという価格自体が、全く安いものではないことに気付かされることもある。
考えておくべきコスト![]()
一般に、めぼしい物件に占有者がいる場合、入札を躊躇することが多いと思う。しかし、逆に占有者がいない場合に、安心できるかというとそうとも言い切れない。引渡命令による簡易な明け渡しができることは当然であるものの、物件調査のときにはいなかったはずの占有者が、競落後に物件に行ってみると、全く知らない誰かがいるということがあり得る。差押後の第三者であるから、短期賃貸借の発生する余地もなく、何も心配する必要がないはずであるにもかかわらず、占有者から法外な立退料を請求されることもある。一種の競売妨害であり、場合によっては刑事事件になりかねない行為であるが、やむなく支払ってしまう競落人も少なくない。
物件明細書や物件調査報告書に「敷金・保証金」の記載がない場合でも、占有者から敷金の返還請求を求められ、驚愕する場合もある。物件明細書は、あくまで、裁判所書記官や執行官が調査することのできる範囲のものであり、調査が不十分であることもあり得るのである。
占有者に対する明渡手続きの概要![]()
占有者に対する明渡手続きは、96年(平成8年)の民事執行法の改正により、相手方とできる範囲が広がったこともあり単に実体法上、競落人に占有者が対抗できないだけでなく、手続法上も引渡命令(民事執行法83条)により、簡易にこれをなし得ることができるようになっている。
従来は、実体法上競落人に対して対抗できない占有者であっても、旧所有者に対して正権原を有している占有者に対しては、引渡命令はなし得ず、訴訟によらざるを得なかった。訴訟となると近時促進が図られているものの、それでも手続きに時間がかかり、その間、占有者は事実上物件を占有していることになる(仮処分など早期に暫定的な結論を出す方法もあるが、保証金を供託することを要する)。
これに対し、引渡命令によるとなると、記録上問題がなければ、簡単な書類審査だけで、決定を出してもらえ、保証金も不要である。競落人にとっては、引渡命令で明渡可能か、訴訟にのらなければならないのかは、当該物件をいつから利用したり処分したりできるかの見込みやコストについて、大きな違いがあるといいてもよい。
このように、近時は簡単に引渡命令が得られることとなったが、その執行となるとまだまだ難問が残っている。最近の相談例でも、引渡命令の執行により、物件の完全な明渡を得たものの、執行のために負担した移転費用、件外物件保管費用が高額となってしまったというものがあった。
そのために、占有者に立退料を支払う例も存在するようであるが、本来支払う必要のないものに費用を支払うことは、占有屋などの違法な存在を容認することになるのであり、むしろ、競落のときから、占有排除の法的手続費用をきちんと見込んでおき、競落人に対抗できない占有者に対して、不必要な立退料は支払わないようにしたいものである。
また、実体法上、競落の時には、競落人に対して対抗できる占有者、例えば、短期賃貸借(建物の場合3年以内の賃貸借)で、期間が満了していなかったり、差押前に更新したものなどについては、期間満了までは、引渡命令によっては明渡しはなし得ず、引渡命令の申立は、競落人が裁判所に競落の代金を納付した日から6ヶ月内しか申立できないことから、この間には短期賃貸借の期間が満了しないとなると、結局は、引渡命令では占有を排除できないことになる。
この場合は、占有者が任意の明渡をしないとなると、訴訟によらざるを得ないのであり、競売により物件を取得しようとするものは、占有者の権原の性質を見極めてコスト計算をしておくことが必要である。
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