| 源氏物語 16巻「関屋」原文 |
|
口語訳 |
| 九月(ながつき)つごもりなれば,紅葉の色々こきまぜ,霜枯れの草,むらむらをかしう見え渡るに,関屋よりさと崩れ出(い)でたる旅姿どもの,色々の襖(あを)のつきづきしき縫ひ物,括り染めのさまも,さる方にをかしう見ゆ。 |
⇒ |
『九月の末らしく,色とりどりの紅葉や霜枯れの草むらが趣深く見渡されるそんな秋景色のなかに,関の館(やかた)<=逢坂の関>から光源氏一行の旅姿が,どっとなだれるような勢いで現れた。様々な色合いの狩衣(かりぎぬ)は,刺繍や絞り染めも決まっていて,旅の装いとしてしゃれた感じがする。 |
| 御車は簾下ろし給ひて,かの昔の小君,今は右衛門の佐なるを召し寄せて,「今日の御関迎へは,え思ひ捨て給はじ」など宣ふ。 |
⇒ |
光源氏は,車の簾をおろし,昔小君とよんでいた右衛門の佐(すけ)(=空蝉の弟)を呼び寄せ,「今日,逢坂の関まで迎えに来た私の真心を,見捨てないだろうね」と言う。 |
| 御心のうち,いとあはれにおぼし出づること多かれど,おほぞうにて,かひなし。 |
⇒ |
心にしみじみと思い出すことが多いけれども,人目が多く,ありきたりの伝言しかできないので,何とも寂しい限りである。 |
| 女も,人知れず昔のこと忘れねば,取り返してものあはれなり。 |
⇒ |
空蝉も,あの時が忘れられず,一人しんみりと思い返していた。 |
| 「行くと来とせきとめがたき涙をや絶えぬ清水と人はみるらむ え知り給はじかし」と思ふに,いとかひなし。 |
⇒ |
「常陸(ひたち)へ行く時も京に帰る時も,せき止めることのできない私の涙を,絶えず湧き出る清水とあの方は見るのだろうか。
殿(光源氏)には,この気持ちがおわかりにならないであろう」
と思うのも,これまた何とも寂しい限りであった。』 |