お出かけですよ♪

5話 戦闘準備・・・かも


お食事が終わり、食後の散策に出たお二人でしたが、

征樹君が憔悴気味のせいもあり、今ひとつ会話が弾みません。

当然、フェル君の機嫌にも影響が表れます。

「マサキ、どうした? 何故そんなに疲れているのだ?」

「・・・明日の予定をどうしようか考えているだけです・・・。」

「予定? 私が思い通りに動くだけの事だろう、何故予定など考える必要があるのだ?」

それが困るんですよおっと心の中で絶叫した征樹君でした。

今日一日でどれだけの気苦労を味あわされたかを考えれば当然の感想だったのですが、

征樹君の心労などまったく理解していないフェル君、疑問だらけのご様子です。

仕方なく自分の苦労ではなく、表に現れるであろう騒動の方に話を集中させました。

「お分かりでないのかも知れませんが、貴方が思い通りに振る舞われた場合、

一騒動が起きてお忍びの事がばれてしまいます、それではお困りでしょう?」


「・・・よくよく考えてみれば、私はこの惑星で最高位の存在の筈だぞ、

何故、忍びがばれたぐらいで困らねばならないのだ? 」


無邪気に発せられた質問でしたが、これは征樹君の残り少なくなっていた忍耐の限界を吹き飛ばしてくれました。

お忍びがしたいと言い出したのは貴方でしょうがあっ!!

だからこそ、そのお願いをかなえるべく、目立たないようにしようと奮闘しているというのにっ。

誰のわがままのせいで私がこんな気苦労をしなくてはいけないのか、

考えてみて下さいよっ、と心の中で叫んでから、

「よろしいですか、もし、あなた様がこのような所にいらしている事が

おおやけになれば、すぐさま獣化兵の一軍が差し向けられ、

私と二人だけで楽しむことは不可能となります。」

異様な迫力でせまる征樹君に少々怯み気味のフェル君、

そんなもの寄越すなと命じれば済むことではないか、

それでもくっついてきたら吹き飛ばせば良いだろうと言い返すことが出来ません。

「それは困る。私はマサキと二人きりで遊んでいたいのだ。」

とお返事しました。頷いて言葉を続ける征樹君、

ここで説得し損なうと後がないぞと切羽詰まった状態が持続しているため、

不気味なオーラを漂わせていることにも気づいていません。

何処からともなく怪奇なBGMまで聞こえてきそうな雰囲気です。

「そう、二人だけのお忍びをこっそりと楽しむ為には

あなた様の正体がばれないよう、静かに目立たないように過ごす必要があります。」

「ふむ、ふむ。」

「そのためには貴方が一般の人間達と同じように振る舞う必要があるのです。

騒ぎを起こさず、目立たないようにしていれば心ゆくまでお忍びを堪能する事が出来るでしょう。」

あの、オーバーアクションが舞台俳優のノリになっているんですけど・・・。

「難しいが、・・・力の加減に気をつけておとなしくしていれば良いのだな。」

「そうです、あくまでも一般人の行動範囲で振る舞って下さい。」

極限まで追い込まれた征樹君、何とフェル君を迫力負けさせてしまいました。

これで少しはましになるだろうと、ほんの少しだけ安心した征樹君と、

何がどうなのかよく分からないまま頷かされたフェル君は

静かな川縁をゆったりと楽しんだ後、宿へと戻ったのでした。


「ん〜〜。」

翌朝、フェル君はいたってさわやかに、征樹君は少々お疲れ気味のお目覚めです。

「マサキ、昨日も言ったが、一般人と同じように振る舞うように気をつけるから、

今日は私のやる事にいちいち待ったをかけたりしないように。」

行動を制限するなと言うのはコワイのですが、

せっかくその気になっているフェル君の機嫌を損ねる方がもっとコワイので仕方なく頷きました。

「・・・善処はします、しかし、確約は出来ませんよ。」

「何故だ?」

「クロノスの品位に関わるようなこと、あなた様の名誉に関わるような事は

いくら何でも見逃せませんからお止めしますよ。」

と言われても何が名誉で何が不名誉なのか

いまひとつ理解できていないフェル君は、困ったように首を傾げるばかりです。

これは今日も一日大変だなと、征樹君は覚悟を決めるしかありませんでした。


朝食を終え、お出かけの準備にとりかかります。

征樹君が支度を整えている間、テレビを眺め(させられ)ていたフェル君、

唐突にこう言い出しました。

「そういえば、日本の列車には通勤通学のラッシュタイムというものがあるのだったな。」

「はい、ありますが、それが何か?」

「当然マサキもそれを楽しんでいたのだな。」

「・・・あれは楽しむものではありません・・・。」

「そうなのか、これは楽しそうだが。」

指差した画面には列車事情についての特集なのか、朝夕のラッシュ風景の映像が映っていました。

どうやら、満員の列車に乗り込んだり、人混みをかき分けて進む人々の姿が

フェル君には楽しく遊んでいる様に見えてしまったようです。

「勘違いなさらないで下さい、あれは好きでやっているわけではありません。」

生活のために皆さん頑張っているのだと説明したのですが、フェル君には実感が湧かないようです。

さらにはこんな事を言いだしてしまわれました。


「お前の説明だけではよく分からないので、実際に乗って確かめてみたい。」


・・・征樹くんの頭の上に降臨者製の隕石が降ってきました。

それだとラッシュアワーの電車に乗り込まなければならない・・・、

駄目だ、それは不可能だ、アルカンフェルが満員電車に乗り込むなんてそんな恐ろしい事はあってはならない。

通勤時のラッシュにフェル君が混ざったら・・・、

ぎゅっと押されたなんてだけでも、この無礼者とフェル君がキレるのは間違いない。

まして、足を踏まれたりなんかしたら、怒りのパワーが炸裂して車両が脱線転覆・・・。

いかん、いかん、考えたくもないぞ。

大惨事の幻を見てしまった征樹君、これは止めなくては大変な事になると、説得開始です。

「貴方はクロノスの総帥なのですよ、そのような一般人と同じ行動は・・・。」

言いかけて墓穴を掘ったことに気づきました。案の定フェル君の突っ込みが入ります。

「昨夜から、この忍びの間は一般人と同じように振る舞えと言っていたではないか。」

路線変更です。ここは事実をある程度まで話してしまいましょう。

アルカンフェルがクロノス総帥と知らない人々は貴方に対しての礼儀を守らねばならないと知らず、

混雑する駅構内や電車内では無礼な振る舞いに及ぶかも知れない、

それはつまりアルカンフェルの怒りに触れるという事を話して聞かせました。

「その結果何が起きるかは想像がつきますよね? 」

「・・・。」

「となれば当然お忍び旅行もそこでおしまいです。それがお嫌ならここは我慢してください。」

仕方なく頷くフェル君、もっともその顔には不満げな表情を浮かべていましたが。


「それではお召し替えを。」

と、征樹君が取り出した愛らしい衣装の数々を見てフェル君、不審気に呟きます。

「またこの格好になるのか?」

「これがお忍びには最適の衣装なのです。」

「・・・本当にそうなのか? 何かが違うような気がするのだが・・・。」

昨日一日あの格好で出歩いている間に違和感を持ってはいたので

尚も首を傾げていたフェル君ですが、征樹君が

「この衣装が良いのです。」

きっぱりと言い切るので、そんなものなのだろうかと反論を止めてしまいました。

このように、フェル君がよく分かっていないのを良いことにさっさと着せ替えていきます。

今日も、ロングスカートなピンクハウス系で決めてありますが、

昨日と違い華やかさよりも可愛らしさを強調した衣装を選んでみました。

明るめの琥珀色をベースにした小花模様のブラウスは

襟元や前立てが愛らしいフリルで彩られ、所々に配された小さなリボンが可愛らしく、

全体的にゆったりとした柔らかなイメージがあります。

ブラウスと同色のスカートは華やかなフリルが三段重ねに縫いつけられ、

あちこちに散らしたリボンがひらひらと蝶のように舞う様は幻想的ですらあります。

やはりモデルが良いと衣装も映える、と一人満足した征樹君でした。



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