Swan  琵琶湖水鳥・湿地センターラムサール条約ラムサール条約を活用しよう第8回締約国会議

ラムサール条約

決議.19:湿地の文化的価値

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「湿地:水、生命及び文化」
湿地条約(ラムサール,イラン,1971)
第8回締約国会議
バレンシア,スペイン,2002年11月18-26日


決議.19

湿地を効果的に管理するために、湿地の文化的価値を考慮するための指導原則

1.伝統的な社会では古来より湿地と水に慣れ親しんできたことから、湿地の保全と賢明な利用は文化的に重要な価値を持つにいたり、これが歴史を通じてさまざまな文明や文化の多様な宇宙観のなかで認識されてきたことを確認し

2.湿地特有の物理的な特徴は、きわめて大きな文化的価値を持つ構造物、手順、技術、特別に設計された人工遺物を生み出して、独特の方法による伝統的活動の営みに寄与してきたことを同じく確認し

3.人々と湿地の関係からは、民話、音楽、神話、言い伝え、習慣、伝統的な知識、民衆の知恵といった形で、文化の非物質的な側面が生みだされたこと、またそれが、社会的な慣行や、湿地資源、特に水を管理する伝統的な社会組織形態に表れていることを認識し

4.湿地資源の持続可能で伝統的な利用からは、しばしば、湿地の保全と賢明な利用にとって重要な価値を持つ文化的景観が作りだされたことを重ねて認識し

5.湿地及びその周辺に暮らす社会にとって、湿地の文化的な価値は、過去も現在もきわめて重要であり、その社会をその社会たらしめるものの一つになっているため、湿地の消失はその社会に湿地から切り離された喪失感をもたらすだけでなく、社会にとっても生態系にとってもマイナスの影響を引き起こすおそれがあることを認識し

6.湿地に関する文化的な知識が今日の社会にとって共有の遺産であることを認識し

7.多様な文化の中の、伝統的な湿地管理方法に関する多くの知識やその管理方法自体が、数千年にわたって湿地の保全と賢明な利用に寄与してきたこと、そして現在も寄与し続けていることを認識し

8.こうした知識やこれまでの湿地管理のその他の側面のもつ精神的な重要性に加えて、文化的な価値は持続可能な観光やレクリエーション活動の資源としても利用でき、それによって住民の収入増加や生活の質の向上にも役立つため、大きな社会経済的重要性をもちうることを重ねて認識し

9.湿地資源の持続可能な利用のいかなるプロセスにおいても、物質的及び非物質的な文化遺産を適正に認識して支えることが不可欠な要素であるという事実を意識し

10.湿地の文化遺産としての価値の特定、評価、保護の手順と手法のほか、それらに関連する政策の策定と実施においても、重大な弱点と不足点があることを認識し

11.この数十年間に起こった大規模で急激な社会経済的変化は、世界の多くの地域で、湿地特有の文化遺産の適正な保存をいちだんと脅かしてきたことに留意し

12.さまざまな多国間の協定や組織が、湿地を含む生態系の文化的な価値、及びそうした生態系と人間との関係を認め保護するために活動していることを認識し

13.ラムサール条約は、特に以下をはじめとして、文化遺産保存のために決然たる行動の必要性に取り組んでいる多国間協定や地域協定、及び他の多国間組織や地域組織と協力する必要があることを確認し

· 世界の文化遺産及び自然遺産の保護に関する条約(パリ、1972年);
· 欧州議会の農村建築とその景観に関するグラナダ・コール(呼びかけ)(1975年);
· 欧州議会議員会議の農村建築の遺産に関する勧告881号(1979年);
· 文化遺産の保全促進に関するユネスコの活動;
· 第11回国際記念物遺跡会議(ICOMOS)総会で批准された「伝統建築遺産憲章」(Vernacular Built Heritage Charter)(エルサレム、1996年)によって提案された保全のための一般原則;
· 民間伝承の保護、保全、法的地位、経済利用、及び国際保護に関する世界知的所有権機関(WIPO)の各種勧告;
· 生物多様性条約(CBD)、特に「生物多様性の保全と持続可能な利用に関連する先住民及び地域社会の知識、工夫、慣行の現状と傾向に関する総合報告概略」及びその計画や準備のためのタイムテーブルに関し、また「先住民の社会及び地域社会により伝統的に占有または利用されてきた神聖な場所及び土地で行うことが提案されている開発、または当該場所及び土地に対して影響を与える可能性のある開発に関する文化的、環境的、社会的な影響評価の実施に関する勧告」に関する締約国会議決定.10;
· 欧州景観条約(フィレンツェ、2000年);
· 独立国における先住民及び種族民に関する条約(国際労働機関第169号条約、1991年9月5日);
· 先住民問題常設フォーラム。

14.また特にラムサール条約の条文では、その前文の段落3で「湿地が経済上、文化上、科学上及びレクリエーション上大きな価値を有する資源であること及び湿地を喪失することが取返しのつかないこと」をすでに認識していることを想起し、また第7回締約国会議(COP7)が「湿地管理への地域社会及び先住民の参加を確立し強化するためのガイドライン」(決議.8)を採択したことを重ねて想起し

15.本締約国会議の分科会5では、世界各地から湿地の文化的側面に関する背景文書と事例が提出されたことに留意し

締約国会議は、

16.本決議の付属書に記載された「指導原則」のリストに関心をもって注目する

17.ラムサール条約事務局に対して、湿地の文化的側面に関する情報文書(第8回締約国会議文書15)と今回の締約国会議での検討用に作成された詳しい手引きを充実させて背景文書として発表するために、締約国、専門家、実施担当者、そして世界各地の地域住民や先住民に意見や情報を求めること、及びCOP9にその進捗を報告することを要請する

18.締約国に対して、本決議付属書に記載された「指導原則」のリストの使用を検討することを奨励する。ただしその場合には、湿地の文化的価値の保全と強化との関連でのみ使うこととする;

19.締約国に対して、国の法的な枠組みと利用できる資源と能力の範囲内で、以下を行うよう同じく奨励する

a)湿地と水に関係する物質的及び非物質的な文化要素の収集整理と評価を検討すること。これは特に、国際的に重要な湿地を新たに指定するために情報票を作成する場合や、既存の登録湿地の情報票を更新する場合に行い、その際には、適宜、生物多様性条約及び世界所有権機関の規則にしたがって、知的所有権、慣習法、事前の情報に基づく同意の原則を考慮する;

b)湿地に密接な関わりをもつ人々に加え、広く一般の人々に対しても、この文化的価値を理解し、新たな生命を吹き込むように働きかけること;

c)湿地管理計画の立案と実施に、文化遺産の適切な側面を盛り込むこと;

d)文化的及び社会的な影響の評価基準を環境影響評価に組み込むよう努力すること。これには特に、信仰や宗教といった特有の文化的関心の問題、慣習、社会組織の形態、自然資源を利用する仕組み(土地利用パターンなど)、文化的に重要な場所、神聖な場所、儀式、言語、慣習による知識や法制度、政治構造、役割、習慣などが含まれる;

e)先住民、地域住民その他の利害関係者の積極的な参加を得てこのような取組を実施すること、また、特に湿地に関する計画策定と管理への参加を強化する手段として、湿地の文化的価値を利用することを検討すること;

20.締約国に対して、現行の文化遺産保護、法的枠組み、政策の中で、湿地に関わる文化的・遺産的価値を認識するよう奨励する

21.締約国に対して、湿地の文化的価値について適当な教育研修活動を共同で行うことを検討するとともに、湿地の保全と賢明な利用への「指導原則」の適用や統合をさらに進めるために、地方、地域、国の規模で試験的なパイロットプロジェクトを計画することを検討するよう促す

22.締約国に対して、湿地の文化的価値を育み発展させる際に「指導原則」をどのように適用するかを検討するために、地域または国のレベルで適当な協議の仕組みを設けるよう奨励する

23.締約国及びラムサール条約事務局に対して、関連した多国間協定(上の段落13に示したものなど)との協働を進め、労力の重複を避けることを強く要請する


付属書

湿地を効果的に管理するために、湿地の文化的価値を考慮するための指導原則

一般原則

1.本文書は、湿地の文化的価値を特定し、保存し、高めるための一般原則を提案するものである。知識と経験が蓄積されるにつれ、将来の締約国会議が新たな原則をここに追加することも可能である。原則の中には重複するものがありうるが、文化的価値は相互に関連しており統合的なアプローチが必要とされるため、重複は当然といえる。

2.湿地の保全と人々にとっての利益とは強く結びついている。また、湿地の保全と持続可能な利用の間に正の相関関係があることは、繰り返し実証されてきた。したがって、保全には先住民や地域社会の参加が必要であり、文化的な価値は、そのための大きな機会を提供する。

指導原則1:文化的価値を見きわめ、適切な関係協力者を特定すること。

指導原則2:湿地の文化的側面と水の文化的側面を結びつけること。

指導原則3:湿地に関係する文化的景観を守ること。

指導原則4:伝統的方法に学ぶこと。

指導原則5:伝統的で持続可能な自主管理方法を維持すること。

指導原則6:湿地での教育的、解説的活動に文化的な側面を組み込むこと。

指導原則7:ジェンダー、年齢、及び社会的な役割の問題に対して、文化的に適切な扱いを考慮すること。

指導原則8:自然科学と社会科学のアプローチの違いを埋めること。

指導原則9:湿地に関する文化の問題に国際協力を結集すること。

指導原則10:湿地の古環境学的、古生物学的、人類学的、考古学的な面に関する研究を奨励すること。

指導原則11:湿地に関係する伝統的な生産システムを守ること。

指導原則12:湿地内にある、または湿地と密接に関係する、歴史的な構造物を保護すること。

指導原則13:湿地に関係する人工遺物(可動性の物質的遺産)を保護し、保存すること。

指導原則14:湿地に関係する水・土地の集団的利用管理システムを保存すること。

指導原則15:湿地内や湿地周辺で用いられてきた伝統的で持続可能な慣行を維持し、この慣行から得られた産物の価値を評価すること。

指導原則16:湿地に関係する言い伝えを保護すること。

指導原則17:伝統的な知識を活用すること。

指導原則18:湿地を保全する取組の中で、湿地に関係する宗教的、精神的な信条と神話的な側面を尊重すること。

指導原則19:湿地の保全と解説活動(インタープリテーション)を推進するために、芸術を利用すること。

指導原則20:国際的に重要な湿地について記載するためのラムサール登録湿地情報票に、可能であれば文化的側面を盛り込み、伝統的な権利と利益を確実に保護すること。

指導原則21:湿地の文化的側面を管理計画策定に組み込むこと。

指導原則22:湿地のモニタリングプロセスに文化的価値を組み込むこと。

指導原則23:湿地の文化的価値の保全と保護のために、制度的及び法的な手段の利用を検討すること。

指導原則24:環境影響評価に文化的及び社会的な評価基準を組み込むこと。

指導原則25:湿地に関係する広報教育普及啓発活動を文化的な面で充実させること。

指導原則26:自主的で差別のない方法により、伝統的で持続可能な湿地産物に対して品質表示を行う可能性を検討すること。

指導原則27:部門の垣根を越えた協力を奨励すること。


ラムサール条約第8回締約国会議の記録 [和訳:『ラムサール条約第8回締約国会議の記録』(環境省 2004)より了解を得て再録,2005年,琵琶湖ラムサール研究会.]
[レイアウト:条約事務局ウェブサイト所載の当該英語ページに従う.]

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