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ラムサール条約

決議.33:一時的な湿地

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「湿地:水、生命及び文化」
湿地条約(ラムサール,イラン,1971)
第8回締約国会議
バレンシア,スペイン,2002年11月18-26日


決議.33

一時的な湿地を特定し、持続可能な方法で管理し、「国際的に重要な湿地」として指定するための手引き

1.締約国が決議5.6において「賢明な利用の概念実施のための追加手引き」を採択し、その手引きが地元のレベルで「湿地の賢明な利用を実現するためには、厳格な保護から再生を含めた積極的な介入に至るまでのさまざまな活動を通じて、あらゆる湿地タイプを確実に維持できるバランスを保つことが必要である」と強調したことを想起し

2.面積の小さな、または環境変化の影響を受けやすい条約湿地及びその他の湿地への厳正な保護措置の策定を要求した勧告5.3と、このような湿地について締約国が保護措置の策定と実施を促すべきことを定めたラムサール条約の「1997−2002年戦略計画」の行動5.2.5とを同じく想起し

3.「国際的に重要な湿地のリストを将来的に拡充するための戦略的枠組み及びガイドライン」(決議.11)では、国際的に重要な湿地の指定にあたって規模の小さな湿地を見過ごしてはならず、またこのような湿地が生息地を維持するうえで、または生態学的群集レベルの生物多様性を維持するうえで、特に重要な場合があると定めていることをさらに想起し

4.一時的な湿地とはすべての気候地域にある小湿地であり、これらがそこに依存するきわめて特有な動植物群集を通じて地球の生物多様性の維持に貢献していること、またとりわけ、地域社会(特に乾燥地帯の遊牧民集団)が使用するための水の貯蔵、そのような社会への牧草地の提供、湿地が小規模であることを利用した環境教育、及び特に不安定な環境に対する生物群集全体の適応に関する科学研究など、重要な社会経済的価値を有することを認識し、またそれらが、特にカルスト地帯やステップ地帯などの乾燥地域においては文化的価値をも有することに留意し

5.一時的な湿地は、その一時的な性質ゆえに軽視されがちであり、また伝統的な生活様式の放棄や農業利用、恒常的な冠水などの持続不可能な管理方法、農業開発及び都市開発のための埋め立て、「地下水利用を湿地保全と両立させるためのガイドライン」(決議.40)で認識されている、地表水及び地下水の流れの非常に特殊な水文環境へのマイナスの変化、一時的な湿地の再生可能資源の過剰な利用、及びその他の間接的原因によって、世界中で失われつつあることを憂慮し

6.1997−2002年戦略計画の実施目標6.2は、「地球規模または国内で、特にこれまで十分に選出されていない湿地タイプに関して、国際的に重要な湿地のリストに登録される湿地の面積を増やすこと」であり、またラムサール条約の「2003−2008年戦略計画」(決議.25)では、このリストに十分に選出されていない湿地タイプの指定に優先的に注意を払う必要があると繰り返していることを想起し

7.一時的な湿地はラムサール条約の国際的に重要な湿地のリストに十分に選出されていないことを憂慮し

締約国会議は、

8.本決議に付属する「一時的な湿地を特定し、持続可能な方法で管理し、『国際的に重要な湿地』として指定するための手引き」を、締約国の適用を求めて、採択する

9.締約国に対して、自国の領域内にある一時的な湿地について、その特有の性質を尊重し、その消失と劣化の根本原因に対処しつつ、その管理が持続可能なものとなることを優先事項にして、この手引きを考慮し次のことを行うことにより、それらの湿地の賢明な利用を確保するよう求める

)一時的な湿地のベースライン目録をできる限り作成する;
)一時的な湿地の存在とその特有の価値と機能についての認識を高める;
)一時的な湿地特有の水文学的機能の維持を確保する;
)一時的な湿地の自然資源が持続可能な形で使用され、過度に利用されることのないようにする;
)地域社会及び先住民に対する一時的な湿地の重要性を認識し、それらの管理と保護を支援することを約束する;
)一時的な湿地について定期的に監視し、伝統的な利用と管理を常に考慮しながら、それらの価値と機能に対する脅威を特定し回避する;

10.締約国に対して、「国際的に重要な湿地のリストを将来的に拡充するための戦略的枠組み及びガイドライン」(決議.11、ラムサールハンドブック第7巻)及び本手引きを考慮しながら、適切である場合には一時的な湿地を国際的に重要な湿地のリストに登録するために、地域住民や先住民と協力する取り組みを最優先事項として再開すること、またこのタイプの湿地を含む湿地を同リストに登録するための指定に関して、自国の進捗状況を第9回締約国会議(COP9)に報告することを同じく求める

11.ラムサール条約事務局に対して、この決議の付属書を「国際的に重要な湿地のリストを将来的に拡充するための戦略的枠組み及びガイドライン」に適切に組み入れるよう指示する


付属書

一時的な湿地を特定し、持続可能な方法で管理し、「国際的に重要な湿地」として指定するための手引き

はじめに

1.決議5.6では「賢明な利用の概念実施のための追加手引き」を採択し、地元のレベルで「湿地の賢明な利用を実現するためには、厳正な保護から再生を含めた積極的な介入に至るまでのさまざまな活動を通じて、あらゆる湿地タイプを確実に維持できるバランスを保つことが必要である」と強調した。このように賢明な利用には、持続可能である限り、資源開発をほとんど伴わないかあるいはまったく伴わないものから積極的な資源利用を行うものまで、さまざまな性質のものがありうる。湿地管理は、それぞれの地域状況に適応し、地域の文化に配慮し、伝統的な利用を尊重するものでなければならない。

2.勧告5.3は、面積の小さな、または環境変化の影響を受けやすい条約湿地及び湿地保護区についての厳正な保護措置の策定を要求した。この要求は、決議.14[第6回締約国会議(COP6)、ブリズベン、1996年]で採択されたラムサール条約の「1997−2002年戦略計画」の行動5.2.5で改めて表明され、そこでこのような湿地について締約国が保護策の策定と実施を促すべきことが定められた。また、勧告5.3で要求されたアプローチは、湿地の保全促進に使える唯一の手段というわけではなく、湿地の保護策は、情報を得た市民の自主的な活動の結果として行われる場合でも、有効であることに留意することが重要である。

3.「国際的に重要な湿地」として規模の小さな湿地を指定することに関する手引きは、COP7で採択された「国際的に重要な湿地のリストを将来的に拡充するための戦略的枠組み及びガイドライン」に含まれている。「規模の小さな湿地を見過ごさないこと。ラムサール条約湿地を体系的方法で指定する場合、条約湿地候補が必ずしもその領土内で最大の湿地とは限らないことを認識するよう、締約国に推奨する。湿地タイプによっては、もともと大きな湿地系として存在しないものもあり、あるいは昔は大きな湿地系であっても、今ではそうでないものもあるので、こうした湿地タイプを見過ごしてはならない。このような湿地は、生息地を維持するうえで、または生態学的群集レベルの生物多様性を維持するうえで、特に重要な場合がある。」

4.さらに、1997−2002年戦略計画の実施目標6.2は、「地球規模または国内で、特にこれまで十分に選出されていない湿地タイプに関して、国際的に重要な湿地のリストに登録する湿地の面積を増やすこと」である。ラムサール条約の「2003−2008年戦略計画」(決議.25)では、このリストに十分に選出されていない湿地タイプの指定に優先的に注意を払う必要があると繰り返しており、優先性の高い湿地タイプとして特定されたものには乾燥地帯の湿地が含まれている。乾燥地帯は一時的な湿地にとって重要な地域であり、一時的な湿地は主にこの地帯に分布している。

5.しかし、条約湿地に指定された 1180か所(2002年8月現在)のうち、主要湿地タイプを一時的な湿地として登録されているのはわずか70か所である。ただし相当数の条約湿地では、一時的な湿地の存在が、さほど重要でない特徴として挙げられていることに注意すべきである。

6.この追加手引きは、締約国がラムサール条約の賢明な利用の概念を適用して一時的な湿地の持続可能な利用を確保する際に、また一時的な湿地を条約湿地として特定し指定するために「国際的に重要な湿地のリストを将来的に拡充するための戦略的枠組み及びガイドライン」を適用する際に、締約国を支援するための情報を提供する。この手引きは、一時的な湿地は一般に規模が小さいこと、及び季節的であったり一時的であったりというその性質が原因で、湿地としての価値を過小評価されることが多いが、とりわけ乾燥地帯及び半乾燥地帯や長期の干ばつに脆弱な地域では、このような湿地が、生物多様性の維持にとって、また地域社会や先住民のための水や食糧その他の湿地産物の供給源として、また彼らの生活の方法にとって、きわめて重要である場合があるという事実認識に基づいて作成されている。

一時的な湿地の特定

7.一時的な湿地は、通常、冠水期と乾期が交互に訪れることを特徴とする小規模(面積10ha未満)で浅い湿地であり、水文学的にはほぼ自律している。一時的湿地は主に内湖[]などのくぼ地にでき、湿潤土壌[]の生成と、湿地に依存する水生や水陸両生の植物や動物群集が生育するのに十分な長さの期間にわたって冠水する。ただし一時的湿地の場合、これと同じく重要なことは、永久的湿地に特徴的な動植物群集が広範に生育するのを妨げるに足るだけの期間、干上がることである。

8.一時的湿地への水供給は、降雨や、小さくて分散していることの多い集水域からの流去水あるいは地下水などからくるのがふつうである。一時的湿地は、カルスト地帯、乾燥地帯、及び半乾燥地帯における地下水の涵養にも重要な場合がある。

9.湖の縁部などの永久的な地上の湿地、永久的な湿原、または大型河川と直接物理的に接する湿地は、この定義から外れる。

10.一時的な湿地は世界の多くの地域にあるが、特にカルスト地帯、乾燥地帯、半乾燥地帯、及び地中海型の地域に多く見られる。

11.ラムサール条約湿地分類法は主として植生を基準にするが、一時的な湿地はその大きさと水文学的機能で定義されるため、この分類法によると、一時的な湿地はいくつかの湿地タイプに該当することになる:

a)一時的な湿地は、タイプE(砂、礫、中礫海岸。砂州、砂嘴、砂礫性島、砂丘系を含む)の海洋沿岸域湿地として存在する場合がある;

b)一時的な湿地は、タイプN(季節的、断続的、不定期な河川、渓流、小河川)、タイプP(季節的、断続的な淡水湖沼(8haより大きい)。氾濫原の湖沼を含む)、タイプSs(季節的、断続的な塩水・汽水・アルカリ性湿原、水たまり)、タイプTs(無機質土壌上の季節的、断続的な淡水沼沢地・水たまり。沼地、ポットホール、季節的に冠水する草原、ヨシ沼沢地を含む)、タイプW(潅木の優占する湿原。無機質土壌上の、潅木湿地林、潅木の優占する淡水沼沢地林、潅木 carr、ハンノキ群落)、タイプXf(淡水樹木優占湿原。無機質土壌上の、淡水沼沢地林、季節的に冠水する森林、森林性沼沢地を含む)の内陸湿地として存在する場合がある;

c)一時的な湿地は、タイプ2(湖沼。一般的に8ha以下の農地用ため池、牧畜用ため池、小規模な貯水池)の人工湿地として存在する場合がある。

12.一時的な湿地の重要かつ特徴的な性質には、次のようなものがある:

a)湿潤期は通常水深が浅く、短期間であるため、ほとんどの期間は湿地だということがはっきりとわからないこと;

b)特に永久的な水生生息地とのつながりがなく、局地的な水文環境に全面的に依存していること;

c)植生が独特なこと。たとえば、通常は絶滅が危惧されている水生シダ類(Isoetes 種、Marsilea 種、Pilularia 種)や、その他の水陸両生植物(Ranunculus 種及び Calitriche 種)の典型的群落など;

d)その無脊椎動物群集の独特さ、及び両生類や鰓脚類甲殻動物のような絶滅が危惧される動物群の独特の豊富さ。これは、捕食者としての魚類が存在しないことによる場合が多い;

e)乾燥地帯、半乾燥地帯、及び地中海型の地帯に特によく見られること(カルスト景観における地上地形として発生することを含む);

f)世界各地にある多数の一時的な湿地が、採掘活動の結果として、あるいは地域社会が利用するための水の保持及び貯蔵を目的に創成されたという、人工的性質;

g)水鳥のための営巣地の提供。

一時的な湿地の持続可能な管理

13.一時的な湿地の持続可能な維持には数多くの脅威があるが、そのうちもっとも重大なものとしては以下がある:

a)土地転換のための排水や、反対に、より永久的な湿地への転換など、一時的な湿地が依拠する繊細な水文学的機能の改変。このような改変は、競争力が強く一時的な湿地特有というほどでもない動植物種による蚕食を招き、また捕食者ないしは競争相手の増加を通じて、一時的な湿地の重要な生物多様性上の価値を脅威にさらすことがある;

b)乾燥地域および半乾燥地域における干ばつの増加と長期化に対する、一時的な湿地とその生物の多様性の脆弱性;

c)過放牧、飼い葉用植物の乱獲、過度の取水など、一時的な湿地の自然資源の持続不可能な利用;

d)固形廃棄物の投棄;

e)汚染、集水域内の過度の取水や分流、堆積作用と潅木の繁茂から生じる土砂集積による自然の変化など、間接的脅威;

f)一時的な湿地に対する軽視とその価値や機能に対する認識の喪失につながる、伝統的な生活様式と土地利用の放棄;

g)一時的な湿地の価値と機能に対する認識の欠如。

14.一時的な湿地の持続可能な管理を確保するために、次のアプローチをとるべきである:

a)一時的な湿地が一つの湿地タイプとして国内湿地目録に確実に含まれるようにすること;

b)永久的な地表水から独立していることなど、一時的な湿地が依存する特有の水文学的機能を確実に維持すること;

c)水や飼い葉など、一時的な湿地の提供する自然資源が過剰利用されないようにすること;

d)既知の一時的な湿地について定期的に監視を行い、起こりうる直接または間接の脅威を回避すること;

e)新しい湿地の創成の影響をその創成に先立って評価し、その湿地を取り巻く広範な生態系が確実に悪影響を受けないようにすること;

f)一時的な湿地の存在、及びその湿地生態系としての特殊な価値と機能について、認識を高めること。

一時的な湿地のラムサール条約湿地としての指定:ラムサール条約湿地選定基準の適用

15.「国際的に重要な湿地のリストを将来的に拡充するための戦略的枠組み及びガイドライン」にある選定基準14は、一時的な湿地の条約湿地としての指定に特に関連する。一時的な湿地は一般に小さいので、基準5や基準6を適用できるほど多くの水鳥を定期的に支えていることはほとんどない。ただし、その地域の生物多様性を維持するという点で、水鳥に対する一時的な湿地の重要性は基準3を用いて認識することが可能であり、また特に乾燥地域と半乾燥地域では、水鳥の生活環にとって重要な場所として基準4を用いることができる。魚種のほとんどは一般に乾期に生き延びられないため、一時的な湿地には存在しないが、乾期を泥の中やのう胞内で生き延びられる魚種を一時的な湿地が支えている場合には、これに基準7や基準8を適用することが可能である。

16.基準1を適用する場合、締約国は、カルスト地帯、乾燥地帯または半乾燥地帯(地中海型を含む)にある一時的な湿地の選出に特に留意する。この湿地タイプは、とりわけこれらの生物地理区を代表するものである。

17.基準2及び基準4の適用に際しては、次のような動物群集が一時的な湿地の特徴であることを認識する:

a)その生活環の少なくとも一部分を、また多くの場合はそのすべてを通して、この湿地タイプに事実上依存すること;

b)その湿地のきわめて特有な水文学的条件に全面的に依存しており、本質的にきわめて脆弱であること。その水文学的条件を改変して乾燥もしくは湿潤化させると、一時的な湿地に特徴的な動植物群集全体が急速に失われかねないこと。

18.水生シダ類(Isoetes 種、Marsilea 種、Pilularia 種)など、一時的な湿地に典型的ないくつかの種は、地球規模または各国規模で絶滅の危機にさらされており、かつ保護種リストまたはレッドデータブックに掲載されている。このような種のための国内重要湿地については、基準2に基づく指定を検討することが適当である。

19.締約国は、一時的な湿地の重要性はその大きさと関係ないこと、及び地球の生物多様性への貢献という点で重要な湿地は、大きさで言えばわずか数ヘクタール、あるいは数平方メートルに過ぎないこともありうることを認識すべきである。

20.可能ならば、ラムサール条約湿地に指定する一時的な湿地にはその集水域全体(通常は小さい)を含めて、その水文学的一体性を維持すべきである。

21.基準4の適用に関して、一時的な湿地は、ときには数百の池からなる湿地群または湿地複合体として存在する場合が多いことに留意すべきである。雨が局所的に降る地域では、どの時点をとっても、干上がっている池もあれば水をたたえている池もある。水のある池は、その地域全体を生息域にする水鳥の集団に、生息地を提供する。つまりこうした水鳥の集団は、それぞれの池ではなく湿地群全体に依存している。したがって条約湿地の指定には、できる限り一時的な湿地全体を含めるべきであり、その際には特に、「国際的に重要な湿地のリストを将来的に拡充するための戦略的枠組み及びガイドライン」の小湿地群、特に乾燥地帯または半乾燥地帯にあり、かつ非永久的性質をもつ小湿地群の指定に関する手引き(決議.11付属書の段落50)に留意する。

原注:

1.内湖:水が蒸発によってのみ失われる水域、つまり流出河川のない水域。
2.過湿生成土壌:湿原、沼沢地、浸透域、または干潟のような排水の悪い条件下で発達する湛水土壌。


ラムサール条約第8回締約国会議の記録 [和訳:『ラムサール条約第8回締約国会議の記録』(環境省 2004)より了解を得て再録,2005年,琵琶湖ラムサール研究会.]
[レイアウト:条約事務局ウェブサイト所載の当該英語ページに従う.]

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