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ラムサール条約 情報集

湿地の文化遺産4:
湿地で働く−仕事の手段



湿地で働く−仕事の手段

湿地の天然資源を利用することが,数千年にわたって人々にその創造的な才能を呼び起こしてきた.

湿地は人々が挑戦すべき環境を提供する.そこで暮らし,働くにはしばしば物理的な困難を伴う.マラリアや住血吸虫病といった頻繁に湿地と結びつく病気ももうひとつの困難な側面である.しかしそれらとひきかえに豊富な水や多様な天然資源を食物,繊維,医薬,隠れ家として湿地は提供する.そして通常その生産性は高水準であり,従って人類が存続するために欠かせない取り合わせである.

Traditional fishing, Los Roques National Park
ベネズエラのラムサール湿地ロケス国立公園における伝統的な漁法.ラムサール写真エッセイ「湿地の利用2」 () より.

 湿地の天然資源を利用することが,数千年にわたって人々にその創造的な才能を呼び起こしてきた.特別な道具や家,漁労や狩猟,製塩,農耕,林業のための移動手段などを発達させる必要があった.こうして,豊かで多様な文化遺産が,道や仕事の道具,家屋や船など,育まれてきた.

トトラ西)ウィキペディア]

 湿地環境の舟に共通の特徴は浅い喫水と丸い船尾である.米国フロリダ州のニューマン湖で発見された有史以前のカヌーがひとつの良い例である.ここに先住していたセミノールの人々はこの湖をピスラチョッコと呼び,これは「広い舟の場所」という意味である.東南アジアの運河や三角州,河川では,三板やはしけなどたいへん多様な舟が見られる.これらの舟は住まいにも店にもなり,もちろん漁業や運搬といった伝統的な用途にも用いられる.これらの舟が特に印象的なのは香港やタイであろう.アンデス地方の湖では,トトラ[カヤツリグサ科]を用いて舟が作られる.それは「caballitos de totora」(トトラの小馬)とスペイン語で呼ばれる.トトラはまた,籠やマットのように日常の生活用品に編まれる.浅い沿岸域でも同様に多様な工芸が見られるのはもちろんのことである.その地の水域の状況や得られる原材料によって多様であり,それらの工芸は数百年ものあいだ利用され,熟練工がその技能を代々引き継いできた.

 漁業は湿地における第一の活動であり,効力のある船のデザインだけでなく計りしれない種類の捕獲道具と関連する.網やわなが主要なものであり,刺し網から地引き網,投網,湖沼や河川,河口部での常置の定置網や小型で移動できるわなまでさまざまある.これらの場合もまた,水域の条件や得られる原材料,また対象魚種が,それらのデザインや構造に反映される.

[インレ湖写真集「Inle LakeTERRA GALLERIA Photography ()]

 水域で暮らすためには加えて,建築材やデザインに工夫が必要である.ベネズエラのオリノコ川デルタでは,ワラオの人々が湿地の植物を家の建築に用いる.彼らの名称「ワラオ」は沼沢地に住む人々という意味である.水域で暮らすための適応として家を高床式に建てることが世界の多くの地域で発達した.ミャンマーのインレ湖では竹を用い,東南アジアの小さな島々や沿岸の入り江ではコブダネヤシ(ニボンヤシ) Oncosperma またはマングローブが用いられ,アマゾンの冠水森林では材木で家を建ててヤシで屋根を葺く.アマゾンには雨期に水位が最大1012も上昇するところがある.そこの人々はそれに適応できる浮き家を築く.水域で暮らすためのさらなる適応として水に浮かぶ菜園も人々はつくりあげた.古くは14世紀にメキシコの遊牧民であるアステカの人々がテスココ湖で水上菜園を営んだ記録がある.現在でもカシミールのダル湖やミャンマーのインレ湖など営まれているところがある.

A charming spot of Venice
バンコクやアムステルダム,カラカスの一部,そしてこの写真のベニスといった主要な都市のいくつもが湿地の上に築かれている.写真は,2003年にベニスで開かれた湿地会議の報告)ラムサール条約事務局HPより.

 湿地に関連した恒久的な構造物も重要な文化遺産である.バンコクやベニス,アムステルダム,カラカスの一部といった湿地の上に築かれた主要な都市.これらの湿地の都市景観には,運河が寺院や宮殿,家屋とともに融けこんでいる.塩の利用が港湾や桟橋,貯蔵庫の建設を導いてきた.地中海の沿岸域沼沢地の多くで,古くはローマ時代から中世のころから.また水資源の利用自体,そのための効率的な対話の必要性とともに,広範な水関連の構造物を築き上げてきた.ナイル,チグリス,ユーフラテス,黄河などの大河で,各文明は最も効率的に水を利用しようとしてダムや水路,運河のシステムを築いた.世界の他の多くの地域でもこのようなシステムが見られるが,湿地環境を損なうこともある.

 20世紀後半にダム建設の極端な時期があったことにより,近年ダムに関心が当てられている.1950年から1980年までの30年間に世界中で3万5千を下らない数のダムが建設された.世界ダム委員会の報告書は,4千万から8千万の人々がダムのために立ち退かされ,数えられない人々がそれ以外のさまざまな影響を受けたと推定している.不釣合に先住の人々がダムによる負の影響を被り,しばしば彼らの生命や生活,文化や精神的存在に対する容易ならない影響を受けてきた.文化遺産に対する負の影響がダムの計画過程において無視されていることがいまもって大部分であり,現在でもアフリカ,アジア,新熱帯区のいくつもの国で地元の人々の生活スタイルや伝統を破壊しかねないダムの建設計画に対する議論が続いている.

 人々が湿地環境に暮らし働くことによって,伝統や生産物の驚くべき多様な遺産が生み出されてきた.今日の経済発展速度はこれら文化遺産への不断の脅威となっている.いま挑戦すべきは,これら遺産を失わないような管理戦略を開発することである.


The cultural heritage of wetlands 琵琶湖ラムサール研究会 [英語原文:Ramsar Bureau. 2001. The cultural heritage of wetlands. Ramsar Information Pack for World Wetlands Day 2002, 11 sheets. [on-line] http://ramsar.org/wwd/2/wwd2002_infopack_pdfmenu.htm.
[和訳と編集:琵琶湖ラムサール研究会,2005年.HTMLページ左側に緑色で示したリンクに,情報集本文の参考になると考えられるものを同会が独自に紹介する.]


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