準決勝の出場選手が出揃った。
第一試合がアンディ・ボガード対ビリー・カーン
第二試合がテリー・ボガード対ジョー・ヒガシ
となる。
「お互い次の試合に勝てば決勝戦であたるね」
アンディはテリーの控え室を訪れていた。
「ああ、そうだな。勝ち進めばいつかは当っちまうんだな。うっかりしてたぜ」
「僕は…正直いって楽しみにしていたんだ、兄さんと戦うことをね。僕は…ずっと兄さんに勝てなかった。けど、ね…。僕はこの十年のすべてをかけて、兄さんにぶつかっていく。手加減はしないでくれよ」
「もちろんさ」
テリーはニッと笑うとがっしりとアンディと腕を組んだ。
「勝った方がギースとやり合う。恨みっこなしだな」
「準決勝第一試合、アンディ・ボガード対ビリー・カーン」
場内アナウンスが響く。
白い道着を身に着けたアンディが入場した。
白木の棍棒を手にしたビリー・カーンが声をかける。
「あんたら、ギース様に因縁があるらしいな。だがせっかくここまで来て気の毒だが、もうお終いだ。こっから先は行かせねえ。消えてもらうぜ」
「ギースの腰巾着に邪魔はさせない」
「はん!」
アンディの挑発的な台詞にビリーは吐き捨てた。
「一つ言っておくがな。世間の中にゃ、このキング・オブ・ファイターズが出来試合だと思ってる奴もいるらしい。だが、あいにくとそうじゃあない。少なくともオレの試合は小細工は一切無しだ。甘い考えをした奴らには試合で思い知ってもらうことになる」
ビリーは睨めつけるような目をして口の端をつり上げて笑った。眉が無いためか、ひどく凶悪な顔付きになる。
アンディはピタリと構えをとった。ビリーは無造作に棍を回し始める。ヒュヒュ…と風切音がする。
「ヤッ」
掛け声とともに棍の先がのど元に迫り、アンディはとっさに左腕でかばう。かろうじて防いだが、腕に鋭い衝撃が走る。棒のリーチを考えて充分間合いを取っていたつもりだったのだが、思っていた以上に射程が長い。
「試合用の棒切れで命拾いしたな。オレのいつもの棍だったら、今頃とっくにお陀仏だぜ」
相変わらず人を小馬鹿にしたようなふてぶてしい笑いを浮かべて、ビリーが棍を構え直す。不思議なことに、まがりなりにも棒術の型にはまった所作である。
…相手の懐に入らなければ駄目だ。ならば。
アンディは間合いをできる限り広げると、ゆっくりと呼吸を繰り返した。
「なんだ、もう観念したのか」
アンディはカッと目を見開いた。
「ハッ」
つきだした拳の先から気の固まりが放たれる。
「チィッ」
ビリーは棍で気を受け止めた。
が、次の瞬間離れていたはずのアンディが目の前に迫っていることに気付いた。
アンディは一息に鋭く踏み込み、ビリーの胸に肘撃ちを叩き込んだ。
ミシッと鈍い音が響き、アンディは手応えを感じた。
次の瞬間喉笛に棍の先が突き刺さり、体が宙に浮いた。
「カハッ」
地に転がった体を即座に立て直すが、とっさに呼吸ができず、ゴホゴホと咳き込む。
「…上等だぜ」
ビリーは血の混じった唾を吐き出した。
「聞こえるか、あの歓声が」
「…なに?」
「ここ数年の大会で、オレにこれだけの一発を見舞ったヤツはいなかったからな。観客は大番狂わせを期待しているのさ」
ビリーは口の端をねじ曲げ、胸を反らせた。
「だが、勝つのはオレだ。観客には悪いがな」
棍をピタリと構え直す。
「…憎まれ役上等だぜ」
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