(十二)

 

朝、京子が造ってくれた朝食を摂り、二人揃って会社へ出勤をした。

滅多に走ったことのない朝の京都を走ると新鮮な感じがして、少し心が浮き立った、だがすぐ
に町子のことが気になり、気分の良い朝も一躍暗くなる。

揃って出勤をしたことを、ほかの社員達に知られないように会社から少し離れたところで京子
を降ろし、高木は駐車場に車を入れ、直接自分の部屋に上がった。

出勤日であっても祭日であったため、何処かのんびりした気分だった。

しかし、社員達にとってはそんなことは関係がないのかもしれない、個人を対象にした営業が
少ないと言っても、このように祭日になるとやはり客が何人かは来る、個人に売るための分譲
地や建売住宅の案内などはしなければならない、高木の仕事はこのような時はあまりないが、
それでも日頃出かけていることが多いため、こんな日をめがけてくる客もある。

京子が持ってきてくれたコーヒーを飲み、一息いれてから昨日のフランチャイズの書類に目を
とおした。

一応、フランチャイズ料を取らなければならないためか、簡単なことでも難しい表現で書いてあ
る、そんな難しい表現をしなくても要は儲かる商売をしなければならない訳である、まあ解りき
ったことだが。

それでも今回の説明会で高木が最も重要に思ったのは、営業員の管理者のことである、これ
はなかなか難しい、もし雇うとしてもかなりの給与を支払わなければ来てくれる者がいない、そ
れにうまくいって雇えたとしてもその人間がどこまで信用できるかも解らない。

不動産業の場合どうしても取り扱う金額が多額なため、万一不正があった時など大変なことに
なる、高木の知り合いの同業者のなかにもかなりの損害を蒙ったものもいたりして、以前から
必要性は解っていたのだが、どうしても踏み切れなかった。

しかしそのことから逃げてばかりはおられなくなってきた、何とか前進をして一歩を踏み出さな
ければならない時なのかもしれない。

あれこれ考えていると疲れてしまった。

煙草に火を着けて昨日のことをぼんやりおもいだした。

「家に電話をしようか?」

思い出していると急に不安が襲ってきて家に電話をしなければならないとおもった、だが電話
をしたところで町子がいる訳でもない、母が一人いるところに電話をして嫌味の一つも聞くのが
堰の山である、どうしょうか迷っていたが摂り合えず電話を取った、何度か呼び出す音がして
いたがなかなか出ない。

一度切って暫くしてからまたかけた、だがまた同じように呼び出す音だけが空しく聞こえるだけ
だった。

一応架けるだけはかけたのだからと思い直して、自分の心を慰めることにした、何か義務を果
たした様な気分でほっとしたものの、次第に時間を経るにつれて徐所に違う不安が襲ってき
た。

「お婆ちゃんになんかあったんやろか?」

悪いことをしたという気持ちが尚更不安を注ぐ。

「やっぱり泊まらんかったらよかった」

今更後悔をしても遅いのだが、ついあれこれと考えてしまう。

気分を変えようと思って七階に下りた。

「コーヒーのお代わり」

「あら、どうされました?」

「なにが?」

「電話で言って下されば持って行きましたのに」

「うんちょっと」

首を傾げながら京子は厨房に行きコーヒーを煎れている。

「相田君、この前の東山の土地を買ってくれたあの会社、その後何も言って来てないか?」

高木は営業の社員と話していた専務の相田に聞いた。

「はあ?、社長何かありましたか?」

「いや別になに言うことはないんやけど」

「あれから何も言って来ていませんので上手くいっているんじゃないですか」

「それやったらええんやけど」

相田も高木が急に場違いなことを言ったので何があったのかと、不思議そうな顔をして見てい
る。

「はいコーヒー」

「ありがとう」

高木は京子からコーヒーのカップを受取り八階に上がった、京子は含み笑いをしながら可笑し
そうな顔をしていた。

母のことは少し気になっていたので、昼に一度家に帰ることにして、もうそれ以上考えるのはや
めた。

十時半頃に森本が久しぶりに顔を出し暫く雑談をしていた、だがどうしても商売の愚痴が出
る、別保も同じようなものだし心配しないように言ってはみたが、むしろこちらも人ごとではな
い、それぞれが他所はどうしているのか気になるようである。

森本が帰ってから昼に自宅に帰ると、母は何事もなかったかのように家にいた。

「朝電話したんやけどおらんかったんか?」

「なんや電話したんか、解らんかったわ、ゴミを出しに行ってたけど何時頃やったんや」

「十時頃や」

「それやったら下に行ってた」

「そうか」

それから残り物のおかずで昼食を摂り、直ぐに家を出た、案の定母に一言嫌味を言われた。

それは仕方がないと覚悟をしていたが、やはり母には心配をかけたようである。

事務所に戻り暫くすると京子から内戦電話が鳴った。

「社長、裕香さんからお電話です」

「裕香から?」

「はい、お繋ぎします」

「ああ、ありがとう」

突然、裕香からと言われ、何かあったのではと少し心配をして電話にでた。

「もしもし」

「お父さん?」

「ああ、裕ちゃん」

元気そうな声が聞こえ、心配は杞憂だったのだろうと思ったが、何かあったのかと聞いた。

「ごめんなさい、心配をかけて、でも何もないから大丈夫よ、それよりお父さん今電話はいい
の?」

「うん、それはええけど、ちょっと心配をした」

「ごめんなさい」

「いや別に誤ることはないから、ところでどうした?」

「あのね、明日お父さんの都合はどう?もしよければご飯一緒にしない?」

「めずらしいなあ、裕ちゃんから誘いがあるって」

「突然だから驚いた?」

「そりゃ、、、裕ちゃんからの誘いなんてめったにないから、、、」

「そうね」

「何かあるんやろけど、まあそれは会ってから聞くことにしよう、ところで明日の何時頃がええ
の?」

「お父さんさえよければ夜の七時頃はどう?」

「うん、その時間やったらええわ」

「じゃお願いね」

「解った」

短い会話だったが裕香と話しをしてからは、なんとなく気分が良かった。

何か言いたいことがあるのか、或いは頼みごとでもあるのだろうが、裕香のことだったら何でも
聞いてやろうと思った。

電話を切ってから、気分がよくなり近くの喫茶店に行った。

京子に言えばまた笑われそうで、黙ってエレベーターに乗り部屋を出た。

外は天気が良く暖かで、木々の緑も春真っ盛りを告げている、喫茶店は連休だったためサラリ
ーマン客はいなく空いていた。

コーヒーを頼んだが、京子が知れば事務所で淹れるのにと言われそうだと思った。

しかし場所が変われば同じコーヒーでもまた気分が違う。

自分の部屋を出て、一っ時の時間を楽しみ、気分の転換をするのもいい。

裕香が電話を掛けてきてくれた嬉しさと、話が出来た嬉しさの余韻に浸りたかった。

暫くするとコーヒーが運ばれてきた。

「何か嬉しそうですね」

いつもの若い女の子の店員が高木に話しかけた。

「そう?」

心の中を見透かされたようで、誤魔化すように応えた。

「あやしい」

「そんなんやない」

「でも、よっぽどいいことがあったみたい」

「本当に何でもない」

「本当?」

店員は茶化すように高木に言ったが、しかし嬉しさが顔に出ているのかと改めて思い返した。

昨日外泊をしたことを忘れていたが、暫くぼんやりしているとまたそのことを思い出した。

母には一応顔を合わせたのだからこれで良いとしても、今度は町子である、今夜はどうしても
顔を合わすことになる、どう言い訳をしたらいいのか。

祇園へ行っていたとでも言いたいのだが、それにしても祇園の場合は外泊するときかならず電
話をしている、何も連絡をしないのは、何処かに後ろめたいことがあるので、そんなことは町子
でなくても分かることである。

いつも連絡をしていたのが悔やまれるが、しかし、いつもは浮気をしようと思って外泊している
訳ではない、町子と所帯を持ってからは出来るだけ祇園へ出ることも控えて来たし、何よりも
町子との家庭を大切にしようと思って来た。

それが偶々昨日のようなことになってしまった、京子だからそうなったのかとも考えたが、必ず
しもそうではないようにも思う、今まで大切にしようと考えてきたことが、

心の底の何処かでもういいと思い、徐所に崩れてきていたのかもしれない。

それにしても京子の積極的な態度には驚かされた、町子と所帯を持ってから家庭を大切にし
てきたことは京子も解っていたはずである、それを彼女自ら積極的に崩そうとしている。

良子の時はそんなことはなかった、うまくいっていないことを京子にぐちってみたりしていたが、
その時でも家庭を壊そうとはしていなかった。

あの当時は京子も若かったが、その若さが積極性を鈍らせていたのかとも思ったりする、だが
或いは良子が京子と知り合う以前から既に妻の存在だったことが京子の行動をにぶらせてい
たのかもしれない。

彼女にしてみれば、その躊躇が高木と一緒になれなかったと後悔しているのかとも考えたりす
るが、そこまで深く思案を巡らしいるとは思いたくなかった。

「高木さんお電話です」

店員が高木に電話が掛かっていることを告げにテーブルまで来た。

「電話?」

「彼女からですよ」

「えっ!」

「うそです、、、」

「なんや、あまり茶化さないでくれる」

「すみません」

「今日は娘から電話があって嬉しかっただけなんだから」

(なんでこの子に言い訳をしなけりゃならないのか)と思いながら電話に出ると京子だった。

「はい」

「来客です」

愛想のない京子の声が聞こえた。

「分かったすぐ帰る」

すぐに勘定をして表に出たが何故京子に居場所が分かったのか不思議だった。

 

その日の夕食はみどりと母と三人で摂った。

「お父さん、連休は何処へも行かないの?」

「何処かって、みどりは何処か行きたいの?」

町子と所帯を持ってからはあちこちよく行った。

みどりのために東京のディズニーランドへ行ったこともある、高木自身は温泉が好きで、温泉
にもよく行った。

特に長野県の冬は良い、雪が降っている時に入る露天風呂は最高である、生まれ育った舞鶴
が子供の頃よく雪が降ったため、雪景色を見ているとその当時の頃を思い出してしまう。

歳をとると味覚や季節感がどうしても子供の頃の思い出と連動してしまい、好きな物の原点が
その思い出から来ているのに気が付く。

子供の頃嫌いだった大根の煮たものが好きになったり、雪が降り積もった早朝の景色に感動
したりしている。

静かに考えると全て子供の頃の思い出と結びついている。

人それぞれに違った思い出があるのであろうが、そこの所を分かりあえることも大切であると
思う、どうしても育った環境が異なると、思い出のルーツも違ったものになってくる。

町子とはその所は異なっていた、いや町子だけではなく良子のときも異なっていた。

二人とも京都の大都会で育っている、雪景色や大根の煮物などに強烈な思い出など持ってい
なかった。

高木が小学校の頃、母は四十も半ばだった、学校では無論給食があったが、それでも年に何
度かは給食の無い時もあり、母に弁当を造ってもらったことがある、友達の若いお母さんが造
った色とりどりのおかずが入った弁当と違い、大根と漬物だけのおかずだったりして、それが
恥ずかしくて、いつも給食の無いときは子供心に悩んだのを覚えている。

そんなことを考えると、一体みどりや裕香にはどんな思い出が宿っていくのだろうか、、、。

「ねえ、お父さん何処かへ行こうよ」

「そうやなあ、お父さんも行きたいけどお母さんの都合も聞いてみないと」

「お母さんには私から言うし、ね、いいでしょう」

気をつかって自分から言うと言っているみどりに少し嬉しさを感じた。

「じゃお父さんからも言うからみどりも言ってくれる?」

「はーい、じゃ今夜言うからね」

「そんなに急いで言わなくても、お母さん今夜も遅くなるかもしれないよ」

「でも早く言わないと連休終わっちゃうでしょ」

母は二人の会話を不機嫌そうな顔をして黙って聞いていた。

「お婆ちゃんも行こう」

高木は母に気を使って言ったがあまり嬉しそうにしていてなかった。

「お婆ちゃんは遠慮しとくわ」

どうせ返ってくる言葉は分かっていたのだが、どうしてこうも天邪鬼なのだろう。

「ねぇおばあちゃん行こうよ」

みどりは母にまで気を使って言っている。

「お婆ちゃん、みどりにまで気を使わせたらあかん」

「そやかて何処行きますのや?」

「そんなんまだ決まってへん、話聞いてたら分かるやろ、そんなに拗ねんと」

「お婆ちゃん何も拗ねてまへん」

「ほなもう少し言い方があるやろ」

高木がきつく言うと母は黙ってしまった、みどりは自分が言い出したことで二人が言い争いにな
ってしまいおろおろしている。

「気落とさんでええよ、年寄りはこんなんやから」

しかし母には困った者である、これでは町子が外に勤めに行きたくなる気持ちも分るような気
がする。

「テーブルの物持ってきて」

夕飯が終わり高木はキッチンで洗いものをした。

「はーい」

みどりも甲斐甲斐しくそれを手伝った。

母に少し言いすぎたことと、昨日の罪滅ぼしもあった。

「もうええから部屋に行ってなさい」

「いいの、じゃ部屋に行こうっと」

みどりが素直で本当に助かる、これで子供までおかしくなれば、どうしていいのか分らなくなっ
てしまう。

暫くキッチンでまだ残っていたものを片付けていたが、一通り片付けたのでダイニングで寛い
だ。

「今夜は何時頃になるんやろ」

落ち着いてすることもなくなると町子の帰りが気になりだした。

早く顔をみてすっきりしたい気持ちと、そうではない気持ちが交叉する、朝から時間があるとそ
のことが気になってしようがない、いっそう思い切って全部話してしまおうか、いやいやそんなこ
とをすればどんなことになるか分ったものじゃない。

あれこれと考える。

やっぱり泊まるべきじゃなかった、京子がいくら言っても断るべきだった、後で後悔するぐらい
だったら何故その時断る勇気がなかったのだろう、あの京子の顔を見たとき魅入られたように
言うがままにしてしまった。

ほかのことでも、時々これに似たようなことがある、その場の雰囲気でどうしても断ることが出
来ない、高木の性格のいい部分なのだが、時と場合によってはそれが後々とんでもないことを
招く場合がある、土地の仕入れなどの場合も勢いで買ってしまったりするときがある、今までそ
れほど多額な金額でなかったのが不幸中の幸いなのだが、今でも売れ残って処分に困ってい
る、いつも断るべきときはことわらなければとそのつど心に誓うのだが、昨日のように勢いに流
されてしまう。

頭の隅で町子の対応を気にしながらそのままテレビを見ていた。

夜の十一時頃になり町子が帰ってきた。

ドアの鍵の音が「カチャ」として、その音がいかにも町子の帰りを告げたように聞こえた。

「お帰り」

「あらっ、起きてはったの?」

「うん」

「疲れたわ」

「ご飯は?」

「少しだけ」

「ほな造ろうか?」

「いえ、シャワー浴びてから造りますから」

「でも遅かったんやなあ」

「在庫が合わなくて」

短い会話を交わして町子は寝室へ行った。

町子がシャワーを浴びている間に軽い食事を造ってやった。

「あなたすみません」

「いや」

テーブルに着き、お茶を一口飲んでから食事を口に運ぶ、その姿を冷静に眺めていると、少し
可哀想に思えてきた。

「みどりが今日何処かへ行きたいと言ってた」

「何処かって?」

「うん、連休やから」

「遊びに行きたいって訳?」

「そう」

「、、、」

「お母さんにも言うって言ってたけど、明日にでも聞いてやってくれないか?」

「あなたの都合はどうなの?」

「俺は都合は合わせる、この頃何処へも連れて行ってないし、あまり無理を言う子じゃないか
ら、たまには聞いてやらないと、、、」

「我侭聞いてたらきりありませんよ」

「そうやないやろ、めったに自分から要求するような子やないから、それよりもお前の都合はど
うなんや」

町子と顔を合わせたとき、何から話したらいいのかと思っていたが、ついみどりの話になってし
まった。

町子の子供なんだからと、つい気を使ったつもりだったが、町子は自分の子供が我侭をいって
いるとしかとっていないような言い方である。

「それよりあなた、昨日は何処へ泊まってはったの?」

急に話が高木のほうに向いた。

「祇園行ってたから、、、」

咄嗟に言葉を返したが、みどりの離しをしていたときだっだけに朝から考えていた言い訳など
何処かへとんでしまっていた。

「何も言わず外泊なんて初めてね」

「そうか?」

急いで頭の中を整理しながら、取り敢えず答えた。

「外泊する時は連絡くださいね、心配するでしょ」

「ああ」

やはり気にしているのだ、当たり前なのだろうけれど、心の何処かに案外もう見捨てられてい
るのかもしれないという気がした。

「大阪へ行ってて別保と会うた、帰りに祇園へ行こうとなってそのまま祇園へ行ったけど、別れ
たのが遅かったのでそのままホテルへ泊まった、夜中やったし電話は遠慮した」

話の流れで祇園へ行ったことになってしまった。

「大阪は何でしたの?」

「例のフランチャイズの、、、」

「、、、」

まさか京子と一緒に大阪へ行き、そのまま家に泊まったなどと考えてもいないだろう、心の中で
悪いことをしたと思っていた。

「これからは必ず連絡して下さい」

「うん」

話はそれで終わった、朝からの苦痛はいったいなんだったんだろう、終わってしまえば何と言う
ことはない、心配し過ぎて損をしたと言う気持ちと、何となく気まずい気持ちが交叉して複雑だ
った。

それから少しほっとしてみどりのことを聞いた。

「それでみどりのことやけどどうする?」

「そうね、急ですし都合がつくかどうか、、、」

「出来るだけ行ってやろう」

「ええ、明日店へ行って他の人の都合を聞いてみるわ」

「ほな明日お前からみどりにそのこと言ってやってくれ」

「ところであなた、明日はどうなんですか?」

「何が?」

「またお泊りですか?」

「よお言うわ、それは嫌味か?」

「いえそうではありませんけど、、、」

「そんなにしょっちゅう祇園行ってられへんやろ」

「それやったらよろしいんですけど」

「もう嫌味はええ」

やはりもっと追求したいのかもしれない、あまり言うと喧嘩になる、お互い何処かで抑えてい
る。

最後の一言で明日裕香と会うことを言いにくくなってしまった、変に誤解されないかと心配にな
り言いにくい、しかし言わなくてまた帰りが遅くなると今度は今日のようなわけには行かないだ
ろう。

「ところでなあ、、、」

「何?」

「明日裕香と会う」

「裕香さんと?」

「うん」

いきなり裕香の名前を出したので、少し今までと話の流れが変わった。

「何ですのまた」

これまで裕香と会うことを事前に言うことはなかった、会ってから言うことはあったが会う前に言
わなかったため、こうして改まって裕香と会うと言うと町子も少し驚く。

「何か相談事があるみたいや」

「そう?」

「それで明日は食事はいらない、出来たら早く帰ってやってくれないか」

「ええ、明日は早く帰れますから」

少し疑っているようだが、裕香と会うとなるとそれ以上言えない。

「それでどうしてはりますの?」

「さあ、あまり会わへんから分からんけど、今日電話があって何か相談したいような口ぶりやっ
た」

「良子さんのことじゃないの?」

「さあ、、、」

町子が良子の名前をだすのはめずらしい、

町子と所帯を持つようになった時には既に良子とは別れていたのだからそれ程良子を気には
していなかったように思ったが、それでもめったに裕香の母親である良子の名前は口には出さ
なかった。

「俺も出来るだけ早く帰るから」

言葉には出さなかったが裕香と会うことは信じたようである。




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