「鮭児の時知らずタン」  第22話
 お姉さんは泣きました。泣いて泣いて、ぐしゃぐしゃになるまで泣きました。ふと、時知らずタンは、向こうの方からボールで遊びながら段々と自分たちの方にやってくるイルカの子供を見つけました。
「お姉さん。イルカの子供がきます…。あの子は…」
「知ってる!お腹が減ってるんでしょ!もう、もう放ってて…。私は…、私は……」
 何故だか時知らずタンまで泣けてきて、だからお姉さんの手を握って言いました。
「お姉さん、私が一緒に走りますから。だから、ここから一番遠くにある岩場まで走って下さい」
「イヤ…」
「岩場につく前に…多分、あの子がここまで来ます。あの子が私たちに気付いたら、一緒に食べられましょう。でも、逃げ切れるかもしれません。だから…、一緒に走って下さい…」
「貴女だけで逃げてよ!」
「イヤです!!」
 お姉さんの手を強く握って、生まれて初めて大声で叫びました。泣きべそかきながら何度も叫びました。
「ひどいよ…。貴女一人で逃げてよ…。放っててよ…」

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