「鮭児の時知らずタン」  第60話
 嬉しそうにヒョコヒョコと人間のゴミをよけながら歩くお姉さんの横を歩きながら、時知らずタンはイルカの子供の事を考えていました。
 あの子はシャチの気まぐれで生かされて、シャチの気まぐれで食べられました。そのシャチはあの子を食べきれずに窒息して死んでしまいました。子供も生まず、捕食者の栄養にもならず、ただ生まれて死んでいきました。シャチは子供を産めなくなり、ただ食べる事だけを生きる糧にし、食べる事によって死んでいきました。
 残酷だ、と思いました。
「お姉さん…。イルカの子供は天国にいますよね?」
 突然の時知らずタンの質問に、お姉さんは少し考えて言いました。
「天国が有るかどうかは解らないけど…、多分。あの子はあの子のお母さんにまた会えたと思う…」
「お母さんって、結局何なんでしょう…」
 お姉さんは時知らずタンを優しく抱いて言いました
「それはね。私たちよ」
 時知らずタンを抱いたお姉さんの体温は暖かくて、お姉さんの言葉は暖かくて時知らずタンは自然と泣いてしまいました。
「うん…」
 そして、時知らずタンは嘘をつきました。

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