日々、在りしことども



端月三十一日
このところ何故か全く読書が進まず、アップルパイを焼く。
本年は出していない炬燵睡眠をしていないのが不味いのか、蜜柑を筆頭とした ビタミンの不足か、三リッターで買った白ワイン――以前の二リッターの方が美味しかった ――にどこか問題があったのか。

運動不足以外で肉体のささやかな不調が説明できればいいなと、現実逃避し本日終わる。
端月三十日
家前の道路――未舗装――に車のタイヤが転がっていた。どこから転がってきたのか、まあとにかく退かそうと歩み寄る。

あれ、ドーナツ穴の向う側が見える。

ドーナツに穴があるのは当然だが、中にクリームをたっぷりと入れ、揚げてあるのも嫌いではなく、 それと端にチョコを少し垂らしたシンプルな穴あきと二つ、濃い目の紅茶で頂くのが若かりし頃の楽しみの一つであった――
老人の回想はさておき。端的に言えば道路が陥没してました。

穴はタイヤの直径よりやや小さい程度。中は少し壺型に広がっているが大したことはなく、 高知県の道路工事で見付かった鍾乳洞のような神秘性も無い。
ボコッ、と空いた穴に気付いた誰かが、注意を促すためにタイヤを置いておいた模様。

とりあえず役場への連絡は明日とし、嬉々として死蔵されていたデジカメを振り回す。意外な事件は人生の薬味。実害無きうちは面白きこと哉。
端月二十六日
中身が無いということもあるが、それ以上にすぐ文章を打てる環境が不十分であり、 思う存分更新どころか記録もつけず日々至る。

雪の落ちる音がうるさかったとか、弟の咳が治らぬようだとか、たまさか出したメールの返信が半日後であり、携帯で即座に返信も届く昨今、十日半月平気で寝かす自分は常人の十数倍、常人の十数倍! と社会復帰の遠さを数値で自覚してみたり、など。

大した日々にはあらず。しかし――まだ二月じゃなかったんだ。
端月二十一日
やや大雪。何故か左目痛し。
三日ほどどうも良く覚えていない。それだけ内容が無かったのであろう。
端月二十日
大寒の名に恥じず、極めて寒し。
端月十八日

端月十七日

端月十六日
早朝起床。何故か手が荒れるまでひたすら調理。
昼、久々に昼。書店乾麺切手再訪図書館無法無頼。
夕食をとらずに沈。

二日寝込んだ母の代わりに咳き込む父を見て風邪の移動を観測予想するも、一気に飛んで弟がダウン。
此処に至り自分は防波堤として度数50のバーボンで喉と体内の殺菌消毒を試みる。
――酒もこの度数になるとストレートで揮発風味がするからな……
端月十五日
タイタンの画像に思わず興奮を覚える。


獅子舞い。
恒例行事だが、こういった季節文化ものをこの家の人間は結構好み、酔った親爺が例年通り些少大目に包む。
いつもと違うのは、明日、地元の寺関係の集会場に当たっているため、広々と綺麗に掃除されたばかりの座敷。

何故か獅子が二匹、座敷で舞うことと相成りました。

本年は御神楽関係の人――鉦を鳴らし祝詞を詠い上げる――が何故か居らず、音楽係の青年がCDラジカセをセット。内容も祝詞ではなく何やら唄っていたが、反面獅子舞い自体は堪能できた。
改めて思い知らされたが、獅子舞いは“舞い”なのだ。
良く見れば牙の形など、貌の違う獅子が二匹。カツカツと四方を噛み舞い、あるいは低くで向かい合う。一通りの後、今度は後ろ足役の人間をそれぞれ抜き、自分の被っていた前部分の布も捻り折って小さく纏めた獅子頭の二人が舞う。
じいっと見ているうちに、ふとその空間に嵌る。そこに立つのは伝統的な被り物をした人間ではなく、赤面金壺眼の巨大な頭をした、新年を告げる鬼神なのだ。

この数時間後、『仏壇の灯明代わりの麦キュウが切れてる!』とかで、クリスマスの電飾から切り取ったオレンジ色の麦キュウをニッパー片手に繋ぐハメになるが――まあ、縁起良き新年と嘯いておくこととす。
端月十四日
書き上げたまま、寒中見舞いを机上に放置する日々。
端月十三日

端月十二日
タイヤの交換より戻れば、タイミング良く大雪。降るを好むが故、色の抜けていく世界に落ち着いた心持ちになるも、ラジオで『〜スキー場積雪二百数センチ』と聞き、ちと妬み湧く。げに浅ましき性。


さて、某小説を読む。

時間が経ち、読者と筆者の共有する土台がずれてしまえば、ここまで物語は痛ましくなってしまうのか。昔『総門谷』とやらを読み、呆然とさせられた不幸な過去を思い出してしまった。
シリーズとしては結構出たようだから、当時それなりに人気もあり、面白いとされたのだろう。『妖怪は凋落した神の姿である』とかどこぞの民俗学者は言っていたが、今となってはそれより哀れ。

常に股間のたぎっている主人公が、パコパコ入れて殺すだけの話。出てきた連中は次々殺すし、それ以外は殺される。何故この主人公がここまで話に関わって暴れているのか分からないし、それ以上に何でコレが主人公やっているのかも分からない。あの変な儀式ごっこでヒロインの仲間になって、ソ連工作員の武器倉庫からかっぱらった得物を手に米軍基地へと突入し、三ページほどで死んだ脳内薬中チンピラの群れは何の意味が――ああ、主人公が基地の奥まで入っていく小道具の一種か。

書かれた当時の読者には斬新で、共感の抱ける世界なのかもしれない。今でも、大学教授に自己批判させれば世の中は変わるんだと信じている若者や、この世は悪の物質文明と善の霊的文明の戦場だとチャネリングで覚醒できる人々には面白いかもしれない。いやいや、共産圏は悪の管理国家だとか、逆にこの世の楽園だと真実に辿り着ける人々ならば――

少しペースを落とそう。今の視点で過去を一方的に嘲笑うのは容易い。例えば『ガンダム』。新シリーズが出るたびにくそみそに貶されるものだが、栄えある『初代<打ち切り>ガンダム』こそが、突っ込みどころ満載の駄作だとは、誰も――あんまり――思っていても――老人に鞭打つようには――言わない。
それは、初代ガンダムが新シリーズとして現在作られたものではなく、過去に作られたものだからだ。今の視点で見るだけならともかく、今の諸々のレベルで評価を正当に下そうとすれば、それは試みのほうがまず間違っている。
それと同じで、この小説も当時としては壮大なスケールの物語だったのかもしれない。故に、先取の精神で大胆に試みたからこそ、今、ずれて見えるのかも、または魅力的過ぎて後続に次々と類似作品が出、ついには手垢に塗れすぎて陳腐の代名詞となったのかも……


結局、時間と、それぞれの読者が持つ暗黙の了解のずれがここにはあるのだろう。『エルフは耳が尖った美形の自然に親しむ種族』と言われ、余り違和感を覚えないというのは実際狭い世界の話でしか無い訳だし。


だから自分は此処に感謝するという結論に至りたい。多くの素晴らしい作品に、まだ違和感ではなく魅力を感じられる間に巡り会えたことに。『月姫』を貪るように楽しみ、夢枕獏や菊地秀行という名を、失笑ではなく輝く目で見上げられるこの今に。

――表紙買い、程度の気分で古本を手に取ったが、五拾円に落ちるまで待っても何の問題も無かったな、と嫌な気分を振りまいて落トス。


追記:年賀状ならぬ寒中見舞い、未だ手をつけず。過去に一度、旧暦と称して出したためか、『まだ端月の半ばも過ぎてないじゃないか』と落ち着いたもの。人間、いらん経験は積まぬ方が良い。
端月十一日
さて本日まで。

今頃だが年賀状を買い求めに出、街角で煙草をガラス戸越しに老婆が売っているような場所で、『切手・葉書』の看板の下、購入。この時期になると今度は余った年賀葉書を交換してくれと持ち込む人々がいるのだとか。

他、余り中身は無いが彼是日を送る。ネットに文章を上げるツールのインストールどころか、キーボードすらパソコンから大概外れているので、此の様になっている。

茶、それなりに旨し。酒、今一つ。年賀状、未だ書きあがらず。
端月四日
この年境に十年近く愛用し続けてきた最後の湯飲み茶碗を割り砕く。本日、思い立ちて 彦根まで購入に出向く。白く少ない小花を寒風に晒す二期咲桜を横目に、京橋の方へと――

状況:車が突っ込んできます。

寄ってきているなと思い、歩道の方へと身を寄せる。

状況:更に車が突っ込んできます。

見れば運転席に見慣れた東氏の笑い顔。止めとばかりにもう一迫り。
以上の流れでスーツ姿の氏が、暇だとかで買い物に付き合うこととなる。

器屋を幾つか巡るが、手頃な値段とモノの良さで、今回も橋たもとの『こいで』にて 蕎麦猪口を一つ。見た目は地味だが、見れば見るほど、震えがくるぐらいに味わいのある満足がいく品。

そのまま銀座へと足を伸ばし、百円ショップを冷やかす。Tシャツだの扇子だの――絵柄の趣味は極めて悪い――筆墨硯紙まで、知らぬ間に凄い品揃えとなっていた。
後、何時のも酒屋へ。店主氏曰く、『冷蔵庫で寝かせた日本酒が、ここだけの話、お勧めです』とか。味が良くこなれる模様。結局、自分は此処のところ何より気に入りの蔵『ニオ竹生島』の初しぼりを購入。先月上旬に絞ったものだが、今季の新酒第一号。

酒屋にて頂いた和三盆を懐に、何故かそのまま氏の車で長浜へ。
移転して大きくなったブックオフと、隣接した百円ショップを回る。後者は先のとは系列が違い、全体的にセンスが良く、菓子の材料などが多かった。

向かいの店にて、夕食に味噌煮込み饂飩。猫舌には向かぬが、味は良く、寒風吹きすさび、霙交じりの雨が叩く今日の日に大層合った。

暮れて後、車を停めていた場所へ戻る。本来、家人のために夕過ぎには戻らねばならぬものの、ここまで遅くなっては仕様が無いとばかりに雑談。政治や民族差別、報復行動について長く語る。――一番記憶に残っているのが、各国軍隊レーション事情というのも、どうかと思うが。


珍しく、人間っぽく喋って移動した一日。ただ、家人にはえらく迷惑を掛けた模様。陳謝。
端月二、三日
ついかなりの量をきこしめすが、何故か二日酔いの程度軽し。
良い酒は悪酔いし難くて良い。
端月一日

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