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ラムサール条約

決議.16:湿地再生

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「湿地:水、生命及び文化」
湿地条約(ラムサール,イラン,1971)
第8回締約国会議
バレンシア,スペイン,2002年11月18-26日


決議.16

湿地再生の原則とガイドライン

1.締約国会議が、全ての締約国による湿地再生を奨励した勧告4.1を想起し、さらに、再生の原則とガイドラインの作成を科学技術評価パネル(STRP)に求めるとともに、締約国に対して湿地再生に高い優先度を付与するよう要請した勧告6.15を重ねて想起し

2.締約国が湿地再生をより進めるために利用することのできる、さらなるガイドラインとツールの開発を求めた決議.17を同じく想起し

3.締約国が、可能な場合には再生事業に適した湿地を含む、国内の湿地資源に関する総合的な国内湿地目録を完成させるよう決定した決議.20を重ねて想起し

4.ラムサール条約ウェブサイトの一部であり、また再生の事例研究を含む湿地再生のウェブサイトの構築作業に関して、STRP内の専門家作業部会、そして「湿地研究者協会」とギリシャの「ビオトープ・湿地センター」の貢献とに謝意を表し

5.勧告4.1で表明され、また決議.17においてさらに強調された見解、すなわち、湿地再生は失われた自然の湿地に置き換えることが出来ないとしても、生態学的、経済的及び社会的に実行可能な、そしてまた、湿地保全との調整が図られた湿地再生事業は、人々及び野生生物の両方に大きな恩恵を提供することを、ここに繰り返し述べ

6.「持続可能な開発に関する世界サミット(WSSD)」(2003年、ヨハネスブルグ)の『実施計画』(段落37d)において、洪水と干ばつの影響を受けやすい国々において、湿地再生がそれらの危険を減らす役割をもつ可能性を確認したことを歓迎し

7.湿地再生の原則及びガイドラインが、条約第4条2項に規定された代償措置に関して妥当性を持つこと、そしてガイドラインが、本締約国会議で採択された決議.20における代償措置に関する手引きに対し妥当性を持つことを認識し

8.本締約国会議が湿地再生の実施に貢献する多くの決議、特に湿地管理計画策定(決議.14)、湿地目録の枠組み(.6)、影響評価(.9)、泥炭湿地のための世界行動(.17)、気候変動と湿地(.3)、そして湿地の生態学的特徴の維持に関する決議(.8)を通じて、締約国のための新しいガイダンスを採択したことを同じく認識し

締約国会議は、

9.本決議の附属書である「湿地再生の原則とガイドライン」を採択する

10.全ての締約国に対して、湿地の再生あるいは創出が自然湿地の喪失に置き換えられるものではないことを認識することを求める

11.全ての締約国に対して、法的側面、影響評価、奨励策、気候変動及び海面上昇の影響回避について特別な注意を払いつつ、湿地再生の原則とガイドラインを「国家湿地政策」及び計画に完全に統合することを強く要請する

12.締約国に対して、WSSDの『実施計画』に概説された洪水及び干ばつによる影響の受けやすさにさらに対処するための手段として、『湿地再生の原則及びガイドライン』を適用することを求める

13.締約国に対して、本会議で採択された湿地目録の枠組み(決議.6)を適用しつつ、再生しうる湿地を含む国内湿地目録の作成にあたって、この原則及びガイドラインを利用すること、そこで特定された湿地において湿地再生実施のためのプログラムを策定すること、そしてその進展について締約国会議のための3年ごとの国別報告書において報告することを求める

14.本会議での「泥炭地に関する世界行動のためのガイドライン」(決議.17)採択を通じて、泥炭地という湿地タイプの賢明な利用に優先度が与えられたことに沿った形で、締約国が泥炭地の再生に特別な注意を払うよう強く要請する

15.全ての締約国に対して、湿地の生態学的機能を維持するための水の配分及び管理(決議.1)、湿地の保全と賢明な利用を河川流域管理に統合すること(決議.18)、そして国境を越えた行動(決議.19)に関して、集水域及び河川流域レベルでの管理において湿地再生が果たす役割に特別な注意を払うよう重ねて強く要請する

16.全ての締約国に対して、条約第4条2項の下での代償措置に関する条項を考慮する際、そして本会議で採択されたそのような代償措置に関するガイドライン(決議.20)を用いる際には、この「湿地再生の原則とガイドライン」を適用することを求める

17.締約国に対し、湿地再生プロジェクトに労働、技能、機会の提供を取り込んだり、地域社会が依存している生態系の財とサービスの再生に焦点を当てることにより、湿地再生に貧困削減を結びつける機会を検討することを奨励する

18.締約国に対して、付属書の「原則及びガイドライン」を湿地再生に関心を持つ地域社会の利害関係者に広く普及させ、「湿地管理の地域住民及び先住民の参加を確立し強化するための決議.8」のガイダンスに従って、湿地の再生と維持において地域社会及び先住民の人々を関与させることを奨励する

19.全ての締約国に対して、「湿地再生の原則とガイドライン」を実施する際には、決議.19の付属書である「湿地の効果的に管理するために、その文化的価値を考慮するための指導原則」を考慮し、湿地再生に当たって湿地の文化的及び考古学的遺産としての重要性が充分に認識し、その重要性を確実に維持するよう求める

20.締約国に対して、湿地再生事業を実施する際には、わかりやすく描かれた事例集、湿地再生に関する用語の案内、検索可能な文献目録、ウェブ上の再生に関する技術情報へのリンク、そして再生奨励策、再生の社会経済的側面、再生候補地の選択に関する論文等を掲載した、ラムサール条約の湿地再生ウェブサイトを利用することを奨励し、また締約国や他の諸機関に対して、湿地再生事業及びその経験に関する情報を広く利用できるようにするためと、特に本決議によって採択された原則とガイドラインを適用したことを明獲に示す再生事業を紹介するように、条約の公用語の一つを用いてウェブサイトに提供することを重ねて奨励する

21.締約国に対して、その国内での研修においてどのような要素が必要であるかを評価する際に、その一部として、湿地再生に関する研修の必要性を特定するよう要請し、またラムサール条約事務局に対して、科学技術検討委員会(STRP)及び国際湿地保全連合等と協力して、湿地再生に関する研修の機会や専門知識に関する情報を特定すること、また「ラムサール条約湿地研修イニシアティブ」が設立されたならば、その一環として関連する研修プログラム(モジュール)を作成するよう重ねて要請する

22.STRPに対して、決議.17に沿った形で「泥炭地地球的行動のための調整委員会」が設立されたならば、この委員会と協力し、湿地再生に関する用語集、そして小規模ダムと湿地再生に関する手引きを含む、湿地再生のツールと手引きをさらに発展させるよう要請し、またSTRPに対して、カナダ政府及びその他関心を持つ締約国の支援のもとに、決議.24に対応する湿地喪失の代償措置に関する手引きを準備し、この件についてCOP9に報告するよう要請する


附属文書

湿地再生の原則とガイドライン

はじめに

1.湿地再生から生ずる恩恵の認識と、世界中で湿地の状況が悪化している現状を押しとどめる必要性から、世界各地で数多くの再生事業が始まっている。しかし、湿地再生に対する関心とその機会が増大しつつあるにも関わらず、湿原再生の努力は散発的に行われているに過ぎず、国レベルでの全般的計画策定が欠けている。湿地再生に関心をもつ個人や機関は単独で活動しており、他事業の経験から得られる利益を得られないことが多い。

2.湿地再生に関する過去の経験の重要性と、締約国における湿地再生に関する関心が増大していることを認識し、勧告6.15は、「科学技術検討委員会(STRP)に対し、事務局、関係締約国や協力機関と協力して、湿地再生の原則に関するガイドラインを定める」よう強く要請していた。STRPは、「湿地の保全と賢明な利用に関する国家計画策定の要素としての再生」に関する決議.17によって、これらのツールとガイドラインを、さらに発展させることが課題となった。

3.条約の『戦略計画2003−2008年』の実施目標4は「再生(restoration)」と「回復(rehabilitation)」の2つに言及しているが、この2つの用語の違いは明確ではない。ラムサール条約では、これらの用語について厳密な定義を提供しようとはしていない。「再生」が攪乱を受ける前の状況に戻すことを意味し、「回復」は、必ずしも攪乱を受ける前の状況に戻らなくても、ある種の湿地機能の改善を意味するのだと言えるかも知れないが、これらの用語はラムサール条約の諸文書や自然保護に関する文献の双方においてしばしば相互に交換可能な形で使われている。この『湿地再生の原則及びガイドライン』では、「再生」という言葉を、本来の状況に戻すことを促す事業と、必ずしも攪乱を受ける前の状況に戻そうとはせずとも、湿地機能の改善を図る事業の双方を含むような、より広い意味で使用することとする。

4.事例研究を含む、湿地再生のためのツールと手法に関するガイダンスが科学技術検討委員会によって作成されており、ラムサール条約ウェブサイトの、湿地再生に関するページ(http://ramsar.org/STRP_rest_index.html)で利用することが出来る。

5.さまざまな状況における多くの事業の経験に基づいた、一般的な『原則とガイドライン』は、再生事業をこれから始めようという際に有用となる。本文書では「原則」として、再生事業が成功するための基礎となる考え方を述べており、それらの考え方自体は、国家湿地政策の中に統合されるべきものである。(ラムサール条約の「国家湿地政策の策定と実施のためのガイドライン」(決議.6)も参照のこと。)

6.本文書の「ガイドライン」は、再生事業を特定し、発展させ、実施するに当たっての段階ごとの過程を提供しており、これはそれ自体さらに行政のガイドラインに統合することが出来る。

7.しかし、再生事業にはそれぞれ特有の状況があるので、これらの『原則とガイドライン』は様々な状況において有用となるよう計画されたものであっても、全世界で一律に適用できるものでも最終的なものでもない。

原則

8.湿地再生に注がれる努力と資源によって、自然保護全般と湿地の賢明な利用に対する恩恵が最大になるよう、湿地再生の国家プログラムと優先度が、「国家湿地政策、計画もしくは戦略」の一部として、再生を行いうる湿地の全国目録に基づいて、確立されるべきである。

9.湿地再生事業の「最終目標」、「目標」、「達成基準」を明確に理解し提示することは、再生の成功のために非常に重要である(下記のテキストボックスと「ガイドライン」を参照)。「最終目標」及び「目標」は、湿地の保全と賢明な利用に関する国家計画の要素としての再生に関する、ラムサール条約決議.17の付属文書と一致する形で、湿地が多様な機能を果たしていることを認識していなくてはならない。すなわち、「生物多様性保全、信頼できる食糧資源の提供、淡水供給、水質浄化、洪水調整やレクリエーションといった多様な目的が、再生事業の持続可能性と利益全体を増大させることが多い」ということである。仮に、ある事業が、攪乱を受ける前の状態に戻すことを目指そうとするのであれば、そのことを事業の最終目標の一部として述べるべきであり、それが意味するところを明確に述べる、より詳細な情報を事業目標に組み込まなければならない。しかし、必ずしもすべての再生事業が、攪乱を受ける前の状態に戻そうとしているものではないこと、また、本『湿地再生の原則とガイドライン』に使われている「再生(restoration)」という言葉が、攪乱を受ける前の状態に戻すことを意味しているわけではないことに留意する必要がある。

10.注意深く計画を策定することにより、望ましくない副作用が発生する可能性を制限出来る。例えば、注意深く計画を策定することにより、蚊が増加したり、望まぬ洪水が発生したり、あるいは飲料水の水源に塩水が流入するといった問題を回避することができる。計画策定に役立つよう、対象となっている地域の特徴や、事業の実施可能性や成功に影響する要因の評価を行うべきである。(考慮すべき課題については Box 2を参照)

11.事業の選択、設計、展開を行っている際には、自然の過程と存在する条件が考慮されなければならない。堅牢な構造物や広範囲にわたる掘削を必要とする手法よりは、可能な限り、生態工学の原則が適用されるべきである。

12.ラムサール条約の勧告4.1は「現存する湿地を失ってから再生するよりも、それを維持及び保全するほうが、常に望ましくかつ経済的である」、そして、「将来にわたる再生の事業計画が、現存する自然生態系を保全しようとする努力を減ずるものであってはならない」と的確に述べている。定量的データも主観的評価も、現時点で利用できる再生技術で人の手が入らない自然生態系の状態に匹敵するものを創出した事例はほとんどないことをはっきりと示している。このことから当然、最優先の国家的関心事に関わるものでない限り、再生をするという約束と引き換えに、質の高い野生生物生息地や生態系を失ってしまうような事態は、避けなければならない。しかしながら個々の湿地を再生することで、例えば集水域の全般的な状況を改善し、また水配分管理を改善することによって、現存する質の高い湿地で現在実施中の管理に貢献することができる。

13.湿地再生計画策定のために受け入れることができる最小規模は、可能な限りにおいて、集水域レベルとすべきある。1つの湿地を対象とした個々の比較的小さい再生事業は、集水域という視点の中で計画されている場合にのみ、価値のあるものとなる。湿地再生計画の策定においては、より高い場所に位置する生息環境の価値、そしてより高い場所と湿地の生息環境との間の連続性とを無視してはならない。

14.湿地再生計画の策定においては、水配分の原則、そして再生が湿地生態系機能の維持の中で果たす役割を考慮に入れなければならない。(決議.1の付属文書「湿地の生態学的機能維持のための水配分及び管理に関するガイドライン」を参照のこと)

15.湿地再生は、地域社会の利害関係者や、事業からは地理的に離れていたとしても事業からの影響を受ける利害関係者、例えば下流域に住む人々が参加する公開された過程でなければならない。対象地内外の地域社会、先住民族、企業の利害を含む様々な分野に及ぶ全ての利害関係者が、湿地再生事業の最も初期の検討段階に始まり、事業実施の間中、そして長期間に及ぶ管理体制作り(スチュワードシップ[訳注:自分たちの共有財産だという意識を持って、自主的に管理していこうとする考え方。あるいは管理権を委ねられた存在として責任を持つこと。])に渡って十分に参加できるようにすべきである。

16.再生は、実施中の管理及びモニタリングも含め、長期にわたる管理体制作りを必要とする(決議.1附属文書「効果的な湿地モニタリングプログラムの枠組み」を参照)。再生は可能な限り、自主独立して行われるように設計されるべきであるが、一般的には、長期間に渡る管理体制作りの必要性を理解している支持母体、この管理体制作りを支えるための(人や資金などの)資源、管理体制を実際の行動に移すための意思表示(コミットメント)が必要となる。奨励措置の実施は、再生事業の長期間にわたる成功のために価値ある貢献が出来る(決議.15「賢明な利用原則の適用を促進するための奨励措置」参照)。

17.湿地再生計画策定は、地域の景観形成に貢献してきた伝統的な資源管理の知識を取り込むことが出来るような場合には、それを実施すべきである。地域住民による伝統的な環境知識、管理の手法、持続的な資源収穫を実践してきた内容を取り入れることは、再生にとって不可欠の要素となるべきだ。

18.順応的管理の原則(決議.14で採択された「ラムサール条約湿地及びその他の湿地に係る管理計画策定のための新ガイドライン」参照)が、再生事業に適用されるべきである。事業の展開に応じて、予期されなかった事態への対応や、新しく得られた知見や資源を活用するために、修正が必要となる場合もあるだろう。どのような修正であっても、当初設定された最終目標、目標、達成基準に鑑みての事業評価に照らし合わせて、設計しなければならない。

19.成功した再生事業は、利害関係者による参加の継続に対して、そしてさらなる事業及びプログラムの策定に、新しい発想や良い刺激を提供することが出来る。ある再生事業の提案や、事業の結果及び成功に関する情報は、科学技術に関する討論の場において、そして利害関係者が手に入れられるような一般的な情報として、幅広く普及されるべきである。

20.再生のための人為的干渉は、湿地の状態が悪くなった原因やその結果に確実に対処するため、人々の意識を高めるための手段、そしてそもそも生態系の劣化につながった人々の行動様式や業務に影響を与えるような手段と結び付けられるべきである。これらの対応は、土地所有者、資源利用者、そして周囲の地域社会が再生事業に引き込まれるようにするための、また、「湿地管理への地域社会及び先住民の参加を確立し強化するためのガイドライン」(決議.8)の適用のための、さらなる仕組みを提供してくれる。

ガイドライン

21.本文書に添付されているフローチャートは、湿地再生事業のガイドラインの流れを表す。以下、フローチャートについて説明する。

22.フローチャートにおいて四角で示されている事項は、同時に並行して起こる、あるいは反復して起こる事業の段階を示している。例えば、事業を行う場所が選定されるまでは利害関係者が完全には特定できないだろうし、関連する利害関係者を変更すれば、そのことが最終目標、目標、そして達成基準の変更につながる場合もあるだろう。

23.利害関係者を特定し、作業の総ての側面において利害関係者に参加してもらう(フローチャート1 Box 1)。利害関係者は、再生の過程全体を通じて、計画に関わる総ての鍵となる決定に参加してもらうべきである。

24.事業の最終目標、目標、達成基準(フローチャート1 Box 2):多くの湿地再生事業が、最終目標と目標をおろそかにしてきちんと言明しない、あるいは全く言明しなかったために、困難に陥っている。明確に言明された最終目標及び目標なしでは、事業は方向性を失ってしまう。それぞれの事業目標に対し達成基準を当てはめることにより、利害関係者は最終目標と目標をより詳細に考慮することを強いられることになり、また、達成基準を策定することによって、しばしば最終目標と目標を修正することになる。事業最終目標の一例として、野生生物の生息地としての質を向上させることがあげられる。これに結びついた目標のひとつとして、渡りを行う水鳥のような特定生物種の生息地としての価値を改善することがあげられる。この目標に結びつく達成基準としては、再生が完了した後に対象湿地を利用すると期待される、いくつかの主要種の繁殖つがいの数を明らかにすることなどが例としてあげられる。

25.一般に、異なるモニタリング手法を用いた場合に結果が異なる場合もあることを認識すれば、達成基準を評価するために用いるモニタリング手法を、計画策定過程の一環として特定するべきである。例えば、達成基準として特定の植物種による被覆率70%を求めている場合、被覆率を推定するのに異なる手法を用いれば、同じ場所でも異なる値が得られることがある。最終目標、目標、達成基準、そしてモニタリング手法を、明確に記載し、広く行き渡るようにしなければならないし、事業を正しい方向に向けておくために、頻繁に再検討を加えなければならない。

ボックス1 最終目標、目標、評価基準

最終目標は、事業から求められる成果についての一般的な宣言である。−最終目標を述べることにより、すべての利害関係者が事業に求められる方向性を一般的な言葉によって理解するようにできる。事業は個々の湿地が発揮する多様な機能を反映して、複数の最終目標を持つことがある。

目標は、事業に求められる成果についての個別の提示である。−事業は個々の湿地が発揮する多様な機能を反映して、通常複数の目標を持つことになる。

達成基準(成功基準とも呼ばれる)は、事業が意図された多様な目標に適合しているかどうかを見極めるための、観察あるいは測定が可能な属性である。−個々の目標には、それに結びついた1つかそれ以上の達成基準がある。


26.対象地の選択(フローチャート1 Box 3):多くの場合再生事業は、特定対象地の状況に対応して始まるので、そのため対象地は事業の最初の時点で特定されることになる。しかし、いくつかの事業では対象地なしに開始されることもある。こういった場合には、最終的な対象地が特定される前に、いくつかの候補地が評価されることになるだろう。実施可能性のある再生事業を特定するための手順は、次の3段階に分けられる:

)第1段階では、湿地機能再生のためにどの位の面積が必要かを特定し、それぞれの場合の再生に関わる環境上の制限要因を示す。

)第2段階は、より対象地の事情に応じたものとなり、第1段階で得られた環境制限要因を総合的に分析することによって、実施可能な再生事業の持続可能性を評価し、また、社会経済的な特徴や集水域のその他の特性を評価することになる。

)第3段階は、最終的な結果であり、前の2つの段階の評価により、潜在的に持続可能と考えられる再生事業をいくつか特定し、それらに優先順位をつけることになる。この最終段階は、湿地資源管理における合理的な決定をする必要性からのものであり、一般からも広く受け入れられる、経済的にも効率の良い事業の成功へと導くものだ。

27.フローチャート2と以下の段落で、対象地選択の過程を綿密に説明する:

)集水域の空間解析は、湿地機能を再生する必要性がある地域の特定と、異なる集水域における再生の必要性を相対的に見て順位付けするのに役立つ(フローチャート2 Box{a})。例えば、農業開発がかなり行われている集水域において、水質改善を目的として湿地を確立することは、栄養分流出の問題が明らかに起きているとは思われない隣接集水域の場合よりも、はるかに重要な問題だということが出来るだろう。

)集水域の空間解析に役立てるため、失われてしまった湿地や劣化した湿地の目録、そして機能の評価を通じて、再生の対象地域の場所を決定することが必要である。(フローチャート2 Box{b})

)集水域の空間解析にあたっては、集水域レベルでの湿地機能の評価が求められる(フローチャート2 Box{c})。これは、湿地機能の状況を判断し、現存する生態系と利用形態を維持していくために求められる行動に優先順位を与えるものである。機能評価によって、最も深刻な劣化の問題を抱えた湿地の位置を確認し、集水域レベルで再生されるべき機能を特定し、そして再生のための一般的対策が定められるべきである。

)再生事業を実行すべき湿地の位置を確認した後、実行可能な湿地再生事業を特定し、再生のための優先事項を設定するために、その対象湿地に特有な制限要因の記録・評価をしなければならない。(フローチャート2 Box{d})これらの制限要因は、集水域レベルで特定すべきであり、生態学的、科学的、技術的、社会的、そして経済的な変動要因(パラメーター)を含まなければならない。

)対象湿地に特有な制限要因は、水の利用可能性、景観形態、基層の特徴、動植物相の存在など、自然資源がどれだけ利用できるかという要因を含んでいる。(フローチャート2 Box{e})湿地再生には、気候、地形、集水域のその他の特徴といったものに起因する、いくつかの生態学的な制限要因がある。

)社会経済的な要因の観点からは、一般の人々に受け入れられており、利害関係者が積極的に参加しているような再生事業、持続可能な開発に貢献するような再生事業、実現のために必要な資源が利用できることがある程度確かであるような再生事業に対し、高い優先順位が与えられるべきである。(フローチャート2 Box{f})

)最終決定(フローチャート2 Box{g})は、Box 2に掲げられた事項と以下の内容をも考慮に入れた評価に基づいて行われるべきである。

a)特定の湿地機能を確立するための空間的必要性(どれ位の面積が必要か);
b)その地方全体の状況の中で地域的決定がどのような影響を及ぼすか;
c)集水域の土壌及び水資源の保存、必要な場合にはその回復;
d)長期的な変化と予期できなかった事態に対応した計画;
e)稀少な景観要素、野生生物生息地、関連する種の保存;
f)湿地機能に与える開発の影響の回避もしくは補償;
g)湿地の自然の潜在力と両立できる土地利用及び管理形態。

ボックス2 湿地再生事業の有用性と実現可能性の評価において取り組むべき事項

以下のような質問を通して適切な湿地保全事業を選択するための評価をすべきである(決議.17の附属文書を一部改変):

a.環境面での利益(例えば、水量及び水質の改善、富栄養化の減少、淡水資源の保存、生物多様性保全、湿地資源の管理の改善、洪水調節)があるかどうか?

b.提案された事業の経済効率はどうであるか? 投資とそこから起こる変化は、一時的結果をもたらすものではなく、より長期にわたって持続可能なものでなければならない。建設段階で適切な費用であり、将来に渡って維持するための費用も適切であるよう目指さなければならない。

c.再生された地域は、地域住民及びその地方に対し、どのような選択肢、利益あるいは不利益を提供するのか? これは、健康状態、基本的な食糧及び水資源、レクリエーションやエコツーリズムの可能性の増大、景観価値の改善、教育機会、文化遺産(歴史的あるいは宗教的な場所)等を含むだろう。

d.事業の生態学的潜在能力は何であるか? 生息地や生物学的価値の観点からは、対象地は現在どのような状況にあるのか、そして特に、現在の湿地保全や生物多様性的重要性の特徴が失われたり悪影響を受けたりするかどうか? 対象地は、水文学、地形学、水質、動植物群集等の観点から見てどのような状況になっていくことが期待されるか。

e.現在の土地利用の観点からは、対象地の状況はどうであるか? 再生及び機能回復の目標といった観点からは、先進国、経済的移行国、発展途上国の間で、またそれぞれの国内においても地方の条件によって、状況は大きく異なってくるだろう。特に、現在の状況ではほとんど利益を生み出していない辺境地域においては、改善がなされることが多い。

f.主な社会経済的制約は何であるか? 事業実現に対し、地方及び対象地において積極的な関心があるか。


28.最終目標、目標、達成基準についての対象地の適合性(フローチャート1 Box 4):いったん対象地が特定されれば、適合性を確認するために、最終目標、目標、達成基準は再検討されるべきである。

29.事業設計(フローチャート1 Box 5):事業目標に向かって事業を進める方法は、ほとんどいつも複数あるため、事業設計の早い段階で代替案を考慮することは有益である。比較を行うにあたっては、大まかな経費見積もり、事業目標を達成する可能性がどの程度のものであるのか、すべての利害関係者の見解といった内容を考慮すべきである。代替案のうちひとつが選択され、工事を正しい方向に導くために用いられるような、詳細な設計計画にまで発展させられるべきである。工事が適切な取り組み方で実施されることを確実にするために、再生計画は研修プログラムを含むべきである。再生手法を試験し改良を行うために、最初にパイロット事業を策定し実施に移すことが考慮されるべきである。

30.モニタリングと達成基準を満たすこと(フローチャート1 Box 6):モニタリングは、事業目標に結びついた達成基準に焦点をあてるべきである。効果的なモニタリングプログラムは、すべての生態系が継続的な変化と発達を経験しているということを考慮し、時間的にも空間的にも変化しやすいことを計算に入れたものでなければならない。

31.達成基準が満たされない場合(フローチャート1 Box 7と8):達成基準がクリアされない時には、事業を注意深く再検討する必要がある。当初の最終目標、目標、達成基準が実現可能ではなかったかも知れないし、その場合にはそれらを再検討しなければならない。当初の最終目標、目標、達成基準が現時点においても実現可能なものであると判断された場合には、改善のための手段がとられなければならない。改善のための手段としては、現計画にいくつかの修正を加える場合から、事業の完全な再設計を行う場合まであるだろう。

32.しばしば、再生事業は生態系の過程を理解する上で新たなよりどころを提供してくれるし、ほとんどすべての場合に再生事業は、本質的には実験的なものであると見なされなければならない。それゆえ、当初の最終目標、目標、達成基準に修正を加えることや、改善のための手段をとることは、失敗の兆候ではなく、再生を行う上での必要な過程の一部と見なすべきである。

33.事業の成功(フローチャート1 Box 9):達成基準が満たされた場合、事業は成功したものと見なすことができる。しかし、この成功を維持していくためには、現在行われている管理体制作りとモニタリングが必要となってくるだろう。また、利害関係者は、成功かどうかを評価するために用いられた達成基準に関して、今でも満足しているかどうかを決めるために、事業のさらなる検討をすべきである(例えば、達成基準が満たされたということを、彼らの考えるところの再生の成功と同等なものとしてとらえて良いかどうかを判断する)。もし、達成基準が満たされた後であっても、利害関係者が事業の結果に満足していない場合、すべてのプロセスを再度開始することが必要となるかもしれない。

フローチャート1

フローチャート1.湿地再生のための指針.

フローチャート2

フローチャート2.湿地再生計画確定の過程.記号は本文の説明に対応.


ラムサール条約第8回締約国会議の記録 [和訳:『ラムサール条約第8回締約国会議の記録』(環境省 2004)より了解を得て再録,2005年,琵琶湖ラムサール研究会.]
[レイアウト:条約事務局ウェブサイト所載の当該英語ページに従う.但し,ふたつのフローチャートは画像で示した.これらフローチャートは環境省HP所載のPDFファイルにも含まれている.]

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