Swan  琵琶湖水鳥・湿地センターラムサール条約ラムサール条約を活用しよう第8回締約国会議

ラムサール条約

決議.17:泥炭地に関する地球的行動

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「湿地:水、生命及び文化」
湿地条約(ラムサール,イラン,1971)
第8回締約国会議
バレンシア,スペイン,2002年11月18-26日


決議.17

泥炭地に関する地球的行動(GAP)のためのガイドライン

本文書では「泥炭地(peatland)」という用語には発達中の泥炭地(「湿原(mire)」)も含まれるものと了解されている。泥炭地とは、その表面に泥炭層が自然に集積された景観地域である。発達中の泥炭地(「湿原」)とは、泥炭の形成作用と集積作用が現在行われている泥炭地をいう。発達中の泥炭地(「湿原」)はすべて泥炭地であるが、泥炭の集積が止まった泥炭地は「湿原」とはみなされない。

1.世界の泥炭地の賢明な利用、持続可能な開発、及び保全に関するさらなる協力を奨励した勧告6.1を想起し、締約国及び他の関連組織に対して、「泥炭地の賢明な利用と管理のための地球的行動計画草案」を完成へと近づけるよう協力を求めた勧告7.1を重ねて想起し

2.勧告7.1では、「泥炭地に関する地球的行動計画」(GAPP)草案作成における協力機関に対して、草案検討の進捗を報告すること、及び同草案の修正版を、第8回締約国会議で検討して可能ならば採択できるように、同会議に提出することを求めたことを同じく想起し

3.泥炭地は6大陸に分布して世界の湿地の大きな部分を占め、世界の湿地資源の不可欠な部分であることを認識し

4.地球の生物多様性の維持にとって、また世界の気候系に不可欠な機能である水と炭素の貯蔵にとって、泥炭地が重要であることも同じく認識し

5.泥炭地がもっとも脆弱な湿地タイプに入ること、そして世界の多くの地域で広範囲にわたって消失し続け、ダメージを受け続けていることを憂慮し

6.炭素の吸収と隔離に果たす泥炭地の役割に関する情報がさらに必要であることを認識し

7.泥炭地は、古考学的な記録と考古学的な人工遺物を手つかずのまま保存していることから、考古学的及び文化的な遺産としてもっとも重要な湿地に入ること、また手つかずの泥炭地を維持することは、文化的価値・自然の価値のいずれの管理者にとっても、共通の優先課題であることを認識し

8.ラムサール条約の1997-2002年戦略計画が、泥炭地を国際的に重要な湿地のリストに十分に選出されていないタイプの湿地であると特定したこと、また今回の締約国会議で、泥炭地をこのリストに載せるべく特定し指定することについて、締約国のための追加手引き(決議.11)が採択されたことを認識し

9.さらにまた、今回の締約国会議で採択された2003-2008年ラムサール条約戦略計画が、締約国その他の優先行動として、泥炭地の保全と賢明な利用を特に重視していることを認識し

10.世界泥炭地イニシアティブ(GPI)は、各国によるその泥炭地の賢明な利用の実施を支援すること、また特に、基礎となる目録、さらなる手引き、及び普及啓発に関する地球的行動を実施することを目的とするものであり、このイニシアティブを実施するために、国際湿地保全連合、国際自然保護連合(IUCN)オランダ委員会、国際湿原保全グループ(IMCG)、国際泥炭学会(IPS)、グリーン・ワールド・リサーチ(ALTERRA)、国際灌漑排水委員会(ICID)が協力していることに留意し

締約国会議は、

11.本決議に付属する「泥炭地に関する地球的行動のためのガイドライン」を採択し、締約国に対して、その能力の範囲内でこれらのガイドラインを実施するよう奨励する

12.締約国、国際団体パートナーその他の関連組織に対して、世界の泥炭地の機能と価値に対する認識と理解を深めるため、また進行中の活動を支援するために、できるだけはやく手段を講じるよう強く要請する

13.締約国に対して、各国の法律、政策及び奨励措置の見直しと、泥炭地の賢明な利用、保全及び管理のためのさらなる国家戦略の策定を優先するよう奨励する

14.締約国に対し、あらゆるタイプの泥炭地の目録作成と評価に対する支援のほか、適当な場合には、その領域内にある泥炭地を国際的に重要な湿地のリストに加えるための指定を同じく優先するよう求める

15.締約国に対して、本条約及び他の条約の締約国会議のために作成する国別報告書の中に、適切であれば、各国の泥炭地資源の現状と傾向に関する情報を盛り込むよう要請する

16.締約国に対して、ラムサール条約普及啓発プログラムを通じて各国の教育と普及啓発のための行動計画を実施する際に、泥炭地をそのテーマの一つとして盛り込むよう奨励する

17.条約湿地に指定された泥炭地及びその他の湿地に関する管理計画を策定している締約国に対して、決議.14によって採択された「ラムサール条約湿地及びその他の湿地に係る管理計画策定のための新ガイドライン」を実施する際には、考古学的及び文化的遺産としての泥炭地の特徴の重要性に対する配慮を適宜計画に盛り込むよう強く要請する

18.ラムサール条約事務局に対して、関係締約国、科学技術検討委員会(STRP)、国際湿原保全グループ、国際泥炭学会、ラムサール条約国際団体パートナー、その他の非政府組織、企業などの組織と協力して、「泥炭地地球的行動計画のための調整委員会」を設置するよう要請するとともに、設立されたならば同調整委員会に対して、泥炭地に関する地球的行動のための実施計画を作成するよう同じく要請する

19.「泥炭地に関する地球的行動のためのガイドライン」に定められた行動の実施を支援する世界泥炭地イニシアティブが協力組織によって立ち上げられたことを祝福するとともに、このパートナーシップに対して、「泥炭地地球的行動計画のための調整委員会」に参加するよう要請し、さらに、このイニシアティブへの財政支援を行ったオランダ政府に感謝の意を表する

20.締約国その他に対して、この実施計画で定められた活動を行えるようにするため、利用できる財源を特定し、それを調達するよう奨励する

21.将来的な優先順位に対する勧告を含め、これらのガイドライン実施の進捗についての報告がラムサール条約第9回締約国会議(COP9)に提出されることを要請する


付属書

泥炭地に関する地球的行動(GAP)のためのガイドライン

泥炭地とラムサール条約

1.泥炭とは、枯死し不完全な分解状態にある植物の遺体が、そのまま浸水した条件下で堆積したものである。泥炭地とは泥炭の堆積の見られる景観であり、泥炭を形成中の植生を現在支えている場合もあればそうでない場合もあり、また植生がまったく見られない場合もある。泥炭が存在すること、または泥炭を形成できる植生が存在することが、泥炭地の主たる特徴である。

2.泥炭地が世界の湿地資源の中の極めて重要な部分であることが、近年とみに認識されるようになってきた。6大陸に広がり、世界の湿地のおよそ半分を占める泥炭地は、高層湿原、低層湿原、沼沢地林、転換された泥炭地などに見られる。こうした泥炭地は地球上のすべての生物帯に見られるが、特に、寒帯、温帯、熱帯の地域に多い。

3.泥炭地は最近まで、国際的な保全団体からほとんど注目されなかったが、現在では泥炭地が経済的、生態学的資源として極めて重要なものであることは世界中で認識されるようになった。泥炭地は生物多様性、地球の水循環、気候変動に関連する地球の炭素貯蔵その他、人間社会にとって貴重な湿地の機能に寄与している生態系である。

4.泥炭地、そのなかでも特に、泥炭を集積し発達中の泥炭地は、何ものにも代えがたい古代環境の記録保管庫であり、そこから過去の景観の変化や過去の気候を推測することもできれば、人間が環境に及ぼした影響を判断することもできる。

5.泥炭地は、現在さまざまな脅威にさらされており、緊急に国内的または国際的行動をとる必要がある。世界の泥炭地資源に対して賢明な利用、保全、管理(以下これらをまとめて「賢明な利用」という)を行う機会は、科学的、技術的情報が限られていることだけでなく、経済的、社会文化的、環境的要因の作用によっても制約を受けている。締約国と協力機関は、こうした制約の重大さを国の適切な枠組みの中で、またさまざまな規模で評価する必要がある。たとえば、南米アンデス山脈の高地にある泥炭地は、過放牧、農業用地のための土地の排水、乾燥泥炭の取引、人間の利用を目的とした自然の水路の変更によって改変されている。

6.泥炭地は広く国際的に大きな意味合いを持ち、その賢明な利用は、ラムサール条約、国連気候変動枠組条約、生物多様性条約(CBD)その他の国際的な文書や協定の実施に重要な関連性を持つ。

7.泥炭地は生物多様性を保全するうえで特別の役割を果たしている。というのも、湿地に依存する動植物のうちきわめて希少で珍しい種のなかには、泥炭地を避難場所としているものがあるからである。「CBD・ラムサール条約共同作業計画」は、泥炭地が生物多様性に地球規模で貢献していることをはっきりと示す機会である。

8.泥炭地は世界の炭素の大きな貯蔵庫として、森林に勝ることがわかっている。また有機物を活発に集積している泥炭地は、炭素の吸収源である。国連気候変動枠組条約(UNFCCC)は、この両方の側面に注目すべきである。

9.マラウイ原則(Malawi Principles)に裏打ちされ、生物多様性条約実施のための枠組みとして採択された生態系アプローチもまた、この「泥炭地に関する地球的行動のためのガイドライン」(GAP)を実施する貴重な方法であると認識されている。このことは、生態系アプローチの利用に触れたCBD第4回締約国会議(COP4)の決定/15、及びラムサール条約COP7決議.15と合致する。

10.泥炭地は生物多様性にとって重要だが、それに加えて泥炭地は、特に浸水した脱酸素条件下で考古学的な遺跡や古生物学的な記録を保存する能力があることから、世界の多くの場所では、文化遺産にとっても、きわめて重要なタイプの湿地になっている。このことは、欧州考古学評議会の「2001年湿地の遺産管理に関する戦略と趣旨宣言」によって確認されている。この「戦略と趣旨宣言」では、文化遺産の保存に対する湿地の賢明な利用とラムサール条約の重要性に注目し、泥炭地における湿地の生物多様性の管理と文化遺産の管理には、多くの共通点があると述べている。

11.ラムサール条約締約国は、世界の泥炭地の保全に対してさらなる協力を求めた勧告6.1を通じて、泥炭地の世界的な重要性を認識した。この「泥炭地に関する地球的行動のためのガイドライン」は、勧告7.1で承認された「泥炭地の賢明な利用と管理のための地球的行動計画」草案から発展したものである。またこのガイドラインは、勧告7.1にしたがい、ラムサール条約の国際団体パートナー、国際泥炭学会(IPS)や国際湿原保全グループ(IMCG)を中心とした国際的な泥炭地保全機関、関係締約国の作業によりいっそうの発展をみた。STRPとその泥炭地専門作業部会もその支援と評価を行った。

12.本ガイドラインでは次のような7つのテーマを掲げ、各テーマごとに、泥炭地の賢明な利用と管理のための地球的行動について優先すべき一連のアプローチと活動を勧告している:

A.地球の資源についての知識
B.泥炭地に関する教育と普及啓発
C.政策手段と法的手段
D.泥炭地の賢明な利用
E.研究ネットワーク、地域専門センター、組織的対応力
F.国際協力
G.実施と支援

13.このガイドラインは、泥炭地の問題に取り組んでいる締約国、ラムサール条約の諸機関、国際団体パートナーその他の組織が泥炭地に関する地球的な行動計画を策定する際の基盤となるものであり、これによりラムサール条約2003-2008年戦略計画の実施目標3.2を実行できるようにするものである。

14.本ガイドラインとその実施の全体目標は、泥炭地が地球の生物多様性の維持と、世界の気候系に不可欠な水と炭素の貯蔵にとって重要だということを認識させること、また人々と環境に有益となるように、その賢明な利用と保全と管理を推進することである。

15.まとめると、本ガイドラインは以下を提供する:

a)泥炭地の賢明な利用、保全及び管理のための戦略策定を促進するための国のイニシアティブ、地域的及び国際的なイニシアティブの枠組み;

b)この戦略を支えるため、資金を提供し行動を実施する政府、民間部門、非政府組織の間の国内的、地域的、国際的なパートナーシップを促進するための仕組みについての手引き;

c)ラムサール条約、CBDUNFCCC、その他適切な国家的、地域的、国際的な手段を通じて、泥炭地に関する地球的行動の採択とその実施に対する支援を促進するための方法。

A.地球の資源についての知識

用語と分類法の標準化とその適用

16.泥炭地に関する分類法は世界各地で数多く作られており、泥炭地と泥炭地におけるプロセスを定義するための用語も、さまざまなものが作られてきた。世界の泥炭地資源の特徴、範囲、現状を説明しようとする場合、これらの資源に対して世界的に一貫性のある見方をするためには、その基本として、用語と分類法を比較して整合化を図ることが不可欠である

行動のためのガイドライン

A1.ラムサール条約に対しては、泥炭地に関する用語と分類法を検討して標準化するために、泥炭地保全組織や締約国その他の関連組織の参加を得て、泥炭地用語・分類法・生物地理区分作業部会を設置することが奨励される。

A2.作業部会は、用語、分類法及び生物地理区分を検討し、それについてのコンセンサスを形成するために、地域的、国際的な作業部会やシンポジウムを開催する。

A3.泥炭地資源に関する情報の収集整理において締約国その他を支援するために、作業部会は「泥炭地用語集」を作成して公刊する。

A4.ラムサール条約は、作業部会の用語と分類法の標準化に関する報告書に照らして、泥炭地という視点からラムサール条約湿地分類法を見直す。


世界泥炭地データベースの作成

17.泥炭地の目録と評価に関する情報は、国によって千差万別である。情報は総じて不完全で一貫性がなく、泥炭地の賢明な利用を確実に行うためにこの重要な基礎資料を使う必要のある人にとって、アクセスしにくいことも多い。これが妨げとなって、泥炭地資源の重要性とその価値と機能は認識されにくく、また泥炭地の国際的に重要な湿地としての特定と指定も含めて、締約国では泥炭地の賢明な利用を確実に行うための対策が進んでいない。

18.湿地目録の優先順位に関するラムサール条約決議第.20は、締約国に対して目録作成活動の実施において、「地球全体の湿地資源と湿地目録の対象となる優先事項に関する評価」(GRoWI)の報告で特にリスクが大きい、または情報が乏しいと特定されたタイプの湿地を特に優先するよう強く要請した。この報告は泥炭地を優先すべき湿地タイプと特定し、地球の炭素吸収源でもあり経済資源でもあるという重要性にもかかわらず、ヨーロッパ、アジア、北アメリカにおいて、特にそれが農業用地の排水と植林によって脅かされていると指摘している。東南アジアのような熱帯地域では、泥炭地はほとんど知られていない。

行動のためのガイドライン

A5.泥炭地資源の重要性を強調し、締約国その他による「泥炭地のための地球的行動計画」の実施を助けるのに必要な基本情報を提供するために、地球規模の泥炭地データベースを構築し、それを締約国その他に広く利用できるようにする。まず始めはこのデータベースは既存のデータ源から作成し、泥炭地に関する合意された標準用語及び分類法と整合化し、泥炭地資源の分布、大きさ、質、生態学的特徴、生物多様性に関する基本情報を収載するものとする。

A6.締約国には、国の能力に応じて、このデータベースに加えるために各国の泥炭地に蓄えられた炭素に関する情報を提供するよう奨励する。

A7.締約国は、世界泥炭地データベースに対する情報提供における進捗について、国別報告書を通じて各締約国会議に報告する。

A8.世界泥炭地データベースにまとめられたデータと情報は、「国際的に重要な湿地のリストを将来的に拡充するための戦略的枠組み及びガイドライン」の適用に関してラムサール条約に助言する立場にある国際湿地保全連合が入手できるようにし、かつ利用できるようにする。この助言は、泥炭地が条約湿地リストに十分に選出されていないことがラムサール条約により確認され、将来優先的に指定すべきことが要請されたことに留意して、締約国が泥炭地を条約湿地として特定し指定するのを支援するためのものでなければならない。こうした将来の指定を支援するため、データベースには泥炭地の生物地理区分に関する情報を含める。


泥炭地資源の量と質の変化と傾向の検出

19.泥炭地はラムサール条約により、特に脅威にさらされている湿地タイプであることが確認されているため、優先すべきことは、泥炭地の現状の変化と傾向をモニタリングし、締約国がその賢明な利用を守るために必要な対策を支援することである。地上での評価とモニタリングに加え、近代的な地球観測用リモートセンシングは、さまざまな技術を用いて地理的に広大な規模を評価できる、きわめて有望な評価方法である。

行動のためのガイドライン

A9.締約国がその泥炭地資源の状況判定と変化の検出に使えるように、標準化したモニタリングシステムを確立する。

A10.各国の泥炭地の現状とその傾向に関する報告は、締約国が本条約の各締約国会議のために3年ごとに作成する国別報告書の構成要素とする。締約国はまた、世界泥炭地データベースに加えるために、こうした情報を提供する。

A11.地球観測関係の組織や機関、及びこの分野の専門家とともに、泥炭地の質と量における現状と傾向を広範囲にわたって評価する、リモートセンシング用ツールと分析法を開発する機会を探る。

A12.国別報告書に記載された泥炭地資源の現状と傾向に関する情報と、世界泥炭地データベースで入手できる情報に基づき、世界の泥炭地資源の現状と傾向に関する定期的な概略報告書を作成し、締約国がそれを検討できるようにする。


B.泥炭地に関する教育と普及啓発

20.地球の湿地の生物多様性資源としての泥炭地の重要性が確実かつ十分に理解されるためには、泥炭地をテーマとする環境教育、研修、普及啓発プログラムを企画して実施することが重要である。ラムサール条約の広報教育普及啓発プログラム(決議.31)は、湿地に関する教育と普及啓発の整備と強化のための包括的な枠組みであり、泥炭地に関する教育と普及啓発は、この枠組みを利用して実施できる。

行動のためのガイドライン

B1.環境教育を担当する国または地方の機関は、学校教育、生涯教育、成人教育、また経済界、産業界を対象とした教育の各プログラムの中に、本条約の広報教育普及啓発プログラムを実施するための重要な要素として、泥炭地を組み込む。

B2.泥炭地に関する教育、学習、研修用の教材を開発して普及させる。この資料では泥炭地に付随する価値についても述べる。開発した資料は、地域社会、女性、先住民からの情報、それも特に、泥炭地が景観や文化の重要な部分を占めている地域の人々からの情報を得て、知識や経験、技能を幅広く含むものにする。

B3.ラムサール湿地研修サービスが設置されたなら、そこでの研修モジュール開発による場合も含め、湿地に関する計画立案者と管理者に対する現職者用専門研修のため、実施担当者と研修指導者の両方のレベルで、泥炭地に焦点を当てたプログラムを開発し、推進する。

B4.泥炭地の賢明な利用と両立するライフスタイルと消費者行動を、情報に基づいて選択できるように、情報と教育資料を市民に提供する。


C.政策手段と法的手段

21.ラムサール条約決議.7は、湿地の保全と賢明な利用を促進するための法制度の見直しのためにガイドラインを定めている(ラムサールハンドブック第3巻)。このガイドラインの趣旨は、締約国がラムサール条約の下で行った、湿地の賢明な利用(特に泥炭地を含む)への誓約を効果的に果たすための、適切な法制度の枠組みを確実に設けられるように、また水管理の制度や法律といった他の部門別の対策が、賢明な利用という目標と調和し一貫したものとなるように、各国を支援することである。

22.締約国は、泥炭地が国際的に重要な湿地のリストで十分に選出されていないタイプの湿地であることを認識し、泥炭地を条約湿地に指定することを最優先事項とした。このような湿地の特定と指定の面で締約国を支援するため、COP8はその指定に関する追加手引きを採択した(決議.11)。

行動のためのガイドライン

C1.締約国は泥炭地の賢明な利用をいっそう効果的なものにする機会とそれに対する主な障害を特定できるように、ラムサール条約の「湿地の保全と賢明な利用を促進するための法制度の見直しに関するガイドライン」(ラムサールハンドブック第3巻)を使って、泥炭地に関する国の政策、法律、奨励措置プログラムに対する現行の枠組みを見直す。資源開発その他の圧力のために、泥炭地がかなりのリスクにさらされている場合には、上述の手段を強化する。

C2.締約国は、泥炭地に関する国の法律と政策が他の国際的誓約や義務と確実に合致するように努める。

C3.締約国は、泥炭地の賢明な利用の重要性と必要条件が、湿地と生物多様性に関する国の戦略や計画、そして土地利用計画に確実かつ十分に盛り込まれるようにし、また泥炭地の賢明な利用の実施が、決議.6(ラムサールハンドブック第2巻)で採択されたガイドラインに沿って策定された国の湿地政策に、十分に盛り込まれるようにする。

C4.各国の泥炭地保護区ネットワークについて検討する。現在、国の保護区制度内の泥炭地のネットワークが不完全な場合には、泥炭地保護区、公園、及びその他の保護されている泥炭地の数を適宜増やす。

C5.国内的、地域的、世界的に重要で代表的なタイプの泥炭地は、COP8によって採択された「泥炭地、湿性草地、マングローブ、サンゴ礁を国際的に重要な湿地として特定し指定するための手引き」(決議.11)を用いて、条約湿地の世界的ネットワークを拡大することにより保全をさらに確実なものとする。

C6.締約国は、決議.17にしたがい、適切な場合には泥炭地の再生と回復の分野で知識を有する国や民間部門の支援を求め、COP8で採択された「湿地再生の原則とガイドライン」(決議.16)を用いて、泥炭地の再生及び回復を実施するための政策を打ちだす。


D.泥炭地の賢明な利用

23.自国の領域内に泥炭地資源を持つすべての締約国は、再生及び回復を含めた泥炭地の賢明な利用の管理を優先事項として取り扱う。泥炭地の賢明な利用が確実に行われるようにする際に、締約国その他、泥炭地の管理と利用に関係するすべての機関や組織を支援するために、泥炭地の賢明な利用と管理に関する世界的ガイドラインが、国際泥炭学会と国際湿原保全グループを含めた泥炭地関連組織の共同体により現在策定されているところである。賢明な利用と管理に関するこのようなガイドラインは、持続可能な泥炭地管理を確実に行うための詳しい情報と専門知識の提供源として望ましい。

24.泥炭地の生物地理区分が本質的に広域的であることを考慮し、締約国その他は、適当な地域及び国の規模において、さらに、妥当な場合には集水域全体の規模で策定し実施できる管理上のガイドラインや行動計画の必要性を検討する。集水域全体の規模で行う場合には、「河川流域管理に湿地の保全と賢明な利用を組む込むためのガイドライン」(ラムサールハンドブック第4巻)にしたがう。この実施は、地域専門センターの設置により円滑化できる(後掲ガイドラインE4参照)。

行動のためのガイドライン

D1.さまざまな社会経済的奨励措置の有効性に関する情報を得ることにより、また、さまざまな管理方法の費用と便益の公平な配分を促す手段を講ずることにより、泥炭地の賢明な利用原則を適用する。

D2.ラムサール条約の原則、ならびにCBD及びUNFCCCなどの国際条約に対する重要な実証例として、締約国は最良の管理方法と泥炭地の再生を促進する。

D3.締約国は、泥炭地の賢明な利用のための戦略と政策を策定する際に、そのなかでも特に、条約湿地などの湿地の管理計画を策定する際に、文化遺産としての泥炭地の重要性が確実かつ十分に考慮されるようにし、またこれを達成するため、該当する遺産管理機関や組織と密接に協力する。

D4.土地利用計画策定プログラムを通じて、地方及び地域社会を基盤とした泥炭地の賢明な利用イニシアティブと行動の策定を推進する。その際には、「湿地管理への地域社会及び先住民の参加を確立し強化するためのガイドライン」(ラムサールハンドブック第5巻)を利用しつつ、特に女性、先住民、地域社会に影響を与え、また女性、先住民、地域社会によって実施されるプログラムなど、開発援助機関の支援を受ける。

D5.さまざまな地域の経験と最良の管理方法を活かして、人間の活動によって劣化した系内の泥炭地の機能を再生するための対策を講じる。


E.研究ネットワーク、地域専門センター、組織的対応力

25.泥炭地の賢明な利用をより良い形で実施するには、各国が、必要な組織的対応力を備えているかどうかを検討し、それを確実に備えるようにすることが必要である。また、泥炭地管理者や、泥炭地の賢明な利用や活用に関する政策担当者の能力を向上させるために、情報や研修施設を彼らに利用しやすいものにすることも必要である。

26.ラムサール条約の下では、泥炭地は国際的に重要な湿地のリストに十分に選出されておらず、地球全体で危機にある湿地タイプとして優先的に取り組むことが定められている。国際湿地保全連合により設置される予定の「ラムサール湿地研修サービス」は、泥炭地の管理と賢明な利用面での研修を行うための仕組みであり、優先事項としてのこの取組を支えようとするものである。

行動のためのガイドライン

E1.世界の泥炭地の生物多様性、生態学的特徴、価値及び機能に関する知識と情報を共有し、その理解を深められるように、研究機関やその他の泥炭地に関する科学的組織を巻き込んだ、研究やプログラム協力のためのネットワークを設ける。

E2.研究機関その他泥炭地に関する科学的組織は、泥炭地の賢明な利用を実施するのに必要な知識のうちで不足していると特定された部分を埋めるために、管理についての科学的な共同研究を行う機会を探る。GAP調整委員会(後掲ガイドラインG1参照)は、こうした不足点を検討して特定することにより、このプロセスを助ける。

E3.COP8に提出された「気候変動と湿地:影響、適応及び影響緩和」での包括的見直しで不足していると特定された知識を踏まえ、地球の気候変動の影響を緩和するうえで泥炭地が果たす役割をさらに解明するための共同研究の機会を探る。

E4.研修と知識移転を目的として、泥炭地の賢明な利用と管理を扱う地域専門センターを創設し、開発途上国及び市場経済移行国が泥炭地の賢明な利用の実施能力を高めるのを助ける。

E5.COP8で採択された「湿地再生の原則とガイドライン」(決議.16)に概説された手順にしたがって再生と回復に適した泥炭地を特定し、また、特に開発途上国と市場経済移行国の地域社会が利用できるようにするために、泥炭地の管理及び適切な泥炭地の再生と回復のための研究と技術移転を促進する。

E6.締約国は、泥炭地管理の専門知識を備えた、全国レベル及び地方レベルの組織の設立と活動を奨励する。

E7.たとえば現在園芸用品として使われている泥炭に代わる、適切で持続可能な代替品の研究と開発を奨励する。


F.国際協力

27.泥炭地は、世界中に広く分布している湿地資源であり、そこには多くの広大な系が地政学上の境界をまたいで存在している。世界の湿地の重要部分を占めるこの泥炭地の賢明な利用と持続可能な管理に関して、「ラムサール条約の下での国際協力に関するガイドライン」(ラムサールハンドブック第9巻)に沿った国際協力を通じて知識と専門技能を分かちあうことにより、締約国その他が今後得られるものは多い。

28.さらに、泥炭地の賢明な利用に向けた取組は、ラムサール条約の実施にとってプラスになるだけでなく、CBD(特に内陸水の生物多様性に関する作業)やUNFCCCなどの多国間環境協定の実施にもプラスになりうる。

行動のためのガイドライン

F1.泥炭地の賢明な利用と管理の問題は、ラムサール条約の締約国会議と補助機関の会合における議論や、会議のために作成する決議の中でも十分に取り上げる。適当な場合には、これらの問題を他の多国間環境協定でも考慮し、そのなかでも特に、CBDUNFCCCにおいては、泥炭地に関する共同行動計画の検討を含めて考慮する。

F2.泥炭地の問題に取り組むために策定された地球的行動に向け、締約国その他の国際協力について、泥炭地の利害関係者と他の関係当事者の協力を得て調整する(後掲ガイドラインG1参照)。


29.前述E1E5の行動のためのガイドラインは、泥炭地の賢明な利用のための研究と技術移転に関する共同行動に対するものだが、このガイドラインの実施は、泥炭地の賢明な利用に対する国際協力の実現にも役立つ。

G.実施と支援

30.この「泥炭地に関する地球的行動のためのガイドライン」を実施するための行動を展開する際に、締約国、本条約の諸機関、泥炭地専門組織その他を支援し、その間の調整を図るには、連絡と調整のための仕組みを設け、これがラムサール条約の下での泥炭地に関する地球的行動の進捗とその将来の優先順位を定期的に見直し、その結果を締約国会議に報告することが必要になる。

行動のためのガイドライン

G1.資源の許す範囲で、「泥炭地地球的行動のための調整委員会」(以下、GAP調整委員会)を設置する。この委員会はラムサール条約事務局が議長を務め、政府と招聘されたパートナー団体で構成され、地理的に偏りのないものにする。

G2.GAP調整委員会は「泥炭地に関する地球的行動のための実施計画」(以下「泥炭地実施計画))を策定する。その計画では、このガイドラインによって特定された優先行動を実施し、かつその実施の進捗を追跡して検討するためのイニシアティブとタイムテーブルも含め、このガイドラインの実施に必要な行動を定める。

G3.締約国その他は、泥炭地実施計画で特定された行動を実施するため、GAP調整委員会が資金提供源を特定するのを助ける。

G4.GAP調整委員会はこの「泥炭地に関する地球的行動のためのガイドライン」とその泥炭地実施計画の実効性を評価するためのモニタリング・報告手順を策定して実施し、その進捗をCOP9に報告し、泥炭地用語・分類法・生物地理区分作業部会(前掲ガイドラインA1参照)が設立されたならば、その作業部会の進捗と地球の泥炭地資源に関する知識拡充(ガイドラインA7、A10、A11を参照)についてもその報告に含める。

G5.GAP調整委員会は、COP9のために、20062008年の3年間における本ガイドライン実施と今後の優先課題に対する勧告を検討して作成する。またこれを適宜その後の締約国会議についても実施する。



ラムサール条約第8回締約国会議の記録 [和訳:『ラムサール条約第8回締約国会議の記録』(環境省 2004)より了解を得て再録,2005年,琵琶湖ラムサール研究会.]
[レイアウト:条約事務局ウェブサイト所載の当該英語ページに従う.]

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