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ラムサール条約 第9回締約国会議
文書33:湿地と貧困の軽減

日本語訳:琵琶湖ラムサール研究会,2006年.  PDF (105 zip

条約事務局原文: 英語   フランス語   スペイン語 


「湿地と水:命を育み,暮らしを支える」
"Wetlands and water: supporting life, sustaining livelihoods"
湿地条約(ラムサール,イラン,1971)
第9回締約国会議
ウガンダ共和国カンパラ,2005年11月815日

ラムサール条約第9回締約国会議文書33
Ramsar COP9 DOC. 33

湿地と貧困の軽減

湿地の賢明な利用と管理が貧困の軽減に貢献したケーススタディ例

[訳注:この文書は決議Ⅸ.14「湿地と貧困削減」に参照される.]

1.インド:チリカ湖における環境的フローのシナリオ

1.チリカ湖(Chilika Lake)はインドの東海岸にある大きな汽水性の潟湖で,海洋性から汽水性,淡水性までの生態系のユニークな集合体をなしている(ラムサール湿地229).生産性が高い潟湖の豊富な漁業資源は,その集水域の20万人以上の漁業者や80万人もの農業者の暮らしを支えている.

2.潟湖とその集水域の水循環や生物多様性を改変してしまうような開発によって,この地域の天然資源の基盤が大きく影響を受けてしまった.その結果のひとつとして,チリカ湖ならびにその氾濫原の内部および周辺に暮らす社会のなかに,生計に対する苦難や軋轢が生じることとなった.

3.現行の水資源統合計画の下に,ナラヂ(Naraj)堰が三角洲の先端に築かれた.その主目的は,このマハナディ(Mahanadi)・デルタの上流域をかんがいすることと,下流域における洪水と浸水の制御であった.しかし,この堰によって潟湖への淡水の供給が影響を受け,環境的ならびに人々の生計に悪影響を及ぼす結果となった.チリカ開発局(Chilika Development Authority (CDA))は,国際湿地保全連合(Wetlands International)の支援を得て,チリカ湖の水文生物学的モニタリングを開始した.その結果,マハナディ・デルタ・システムが潟湖への淡水流入を統制する決定的な役割を果たしていることが明確に強調された.

4.このモニタリングによって,三角洲への水の流入が減少するとどんな場合にも,この氾濫原系の生産性に重大な影響を及ぼし,潟湖の生態学的特徴の変化を導くことが示された.このモニタリングの結果はまた,環境の質を維持しつつ社会にかんがいや洪水制御を通じた持続的な経済的利益を供給できるように,環境的フロー評価(EFA)を実施して適切なフロー循環を決定することの必要性を示している.

5.水力学的かつ生物学的モデルに基づいてフローの4つのシナリオが考えられた.それらのシナリオについて,地元社会で広範に協議しまた経済的評価を実施して,チリカ湖の環境の質を維持しつつ社会に利益をもたらすフロー管理を見極めた.こうして,現在の淡水の流入レベルを維持しつつ洪水の強度を減少することができれば農業と漁業の生産性が高まり全体で年間840万ユーロにのぼる利益が上がることがわかった.

6.チリカ湖の将来性を高めつづける戦略として,氾濫原生態系の性質と価値を認識すること,この氾濫原について地方レベルの保全管理に組み込むこと,環境的フロー管理に参加型アプローチを用いること,制度的ネットワークとモニタリング過程を強化することなどが挙げられる.

2.エチオピア:西部高地の湿地からの生態系サービス

7.エチオピアの西部高地では,周年生の湿地林と季節的な湿地が人々の生活に重要な役割を果たしており,食物の乏しい季節の食料保障を達成できるように人々を助けている.食料保障はトウモロコシや野菜の生産によって高まるが,この地方では雨季のはじめには多くの家庭でそれらの畑作物は消費してしまい食物の乏しい季節が始まる.ちょうどそのころに湿地からの主要な収穫物の準備がととのう.

8.加えて農山村の人々の多くは,生命維持に欠かせないもうひとつのもの,飲料水を湿地の泉から得ている.比較的安全な水源としての機能は,湿地によって維持される地下水位によるものである.

9.湿地が提供する生産物を人々が収集して販売し,金銭を得て食物を買い求めるといった間接的な形でも,湿地は人々の食料保障に貢献している.湿地から工芸品の材料となるものを収集して販売したり,自ら加工して工芸品を販売する人々もいる.湿地には薬用植物もあり,直接用いて,あるいは販売して家族の福利に貢献する.これらの収入源はかつては重要な役割を担っており,それで家畜を購入することもできた.近年はしかしその比重は有意に減少しており,特に湿地性の農業が導入されたところではほとんど見られない.

10.都市住宅水準の向上に伴って,レンガ生産のための湿地の利用も始まっている.これは主に,コーヒー収入による高所得によって都市化が急速に進んでいるジマ区域がある地方で起こっている.以上のように,湿地の恩恵に関して,湿地の一次ユーザーから湿地生産物の最終消費者までつながりがある.エチオピアの西部高地に暮らすすべての家庭が湿地からなんらかの恩恵を得ていることを,このようなつながりから見て取ることができる.

3.南アフリカ:「湿地協働プログラム」

11.この「湿地協働プログラム(The Working for Wetlands Programme)」はつぎの二点を兼ね備える:()湿地の保全を通じて国の水供給を保障すること;()貧困の軽減や就業機会と技能の開発に体系的に取り組むこと.このプログラムは南アフリカ政府の拡大公共事業計画の一部をなし,WWFならびにモンディ湿地プロジェクトとパートナーシップを組んでいる.

12.現在国内の50の湿地で機能回復プロジェクトが進められており,そこで実施されている典型的な活動にはつぎのようなものがある:

13.このプログラムは,収入の増加に留まらず,湿地の恩恵を受ける人々の暮らしの向上に貢献してきた.それらの人々からは次のような報告を得ている:1)プロジェクトのなかで自分自身が果たす役割によって信頼の水準が高まったこと;2)食料保障が高まったこと;3)収入の保障が向上したこと;4)住宅水準が向上したこと.

4.ブラジル:「バルジア・プロジェクト」

14.ポルトガル語で「バルジア(Várzea)」と呼ばれるアマゾン川の氾濫原は,生態学的にも経済学的にも,その流域のなかで最も重要な生態系である.商業的漁業や商業的森林伐採ならびに広大な牛・水牛牧場の拡張の強化増大が氾濫原生態系の天然資源の枯渇とその生産能力の低下を招いている.

15.このプロジェクトはWWFが氾濫原の地元社会と進めているもので,世帯の収入を増やし生活の質を向上させるために地元の環境を持続可能な形で管理する人々の能力を高めようとする取り組みである.それを達成するためにプロジェクトは次のような取り組みを進めている:

16.これまでのところプロジェクトの環境的な利益として魚類個体群の再生がある.同様に社会経済的利益には次のようなものがある:


[英語原文:
ラムサール条約事務局,2005.Ramsar COP9 DOC. 33 "Wetlands and poverty reduction -- Case study examples of where wetland wise use and management have contributed to poverty reduction", November 2005, Convention on Wetlands (Ramsar, 1971). http://ramsar.org/cop9/cop9_doc33_e.htm.]
[和訳:
琵琶湖ラムサール研究会 琵琶湖ラムサール研究会,2006/01/02.]
[レイアウト:
条約事務局ウェブサイト所載の当該英語ページにおおむね従う.]
[フォロー:
決議Ⅹ.[x]SC37案文:DOC. SC37-26[英文]), 決議Ⅹ.[x]SC37案文:DOC. SC37-32[英文]), 決議Ⅸ.14 .]
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URL: http://www.biwa.ne.jp/%7enio/ramsar/cop9/cop9_doc33_j.htm
Last update: 2008/06/17, Biwa-ko Ramsar Kenkyu-kai (BRK).