Swan 琵琶湖水鳥・湿地センターラムサール条約ラムサール条約を活用しよう第8回締約国会議

ラムサール条約

対話・教育・普及啓発(CEPA)プログラム

[英語] [フランス語] [スペイン語]   [PDF (755KB)]


ラムサール条約決議Ⅷ.31「2003-2008年ラムサール条約広報教育普及啓発プログラム」を締約国が実施する際の手助けとなる

湿地CEPA(対話・教育・普及啓発)活動の見直しと行動計画作りのための追加の手引き 訳注1

条約事務局,2004年5月


もくじ
謝辞
まとめ
略称と用語
第1章:本追加手引きについて
   1.1 何のために?
   1.2 この手引きの編纂のための取組
   1.3 誰のために?
   1.4 章の配置
第2章:条約を実施する際の湿地CEPAの役割
   2.1 はじめに
   2.2 CEPAが扱いうる課題
   2.3 湿地の課題へのCEPAの適用
   2.4 概念的枠組み
第3章:CEPA活動の見直しと行動計画作りに誰が参加するか?
   3.1 はじめに
   3.2 CEPA指針は何を示しているか?
   3.3 運営上のアレンジ
   3.4 見直しと行動計画作りの役割と務め
   3.5 CEPA担当窓口
   3.6 CEPA特別部会
   3.7 その他の参加者
第4章:湿地CEPA活動の見直し
   4.1 はじめに
   4.2 なぜ見直しをするのか?
   4.3 見直しの実施過程
   4.4 時間の配分と尺度
第5章:行動計画作りと実施
   5.1 はじめに
   5.2 なぜ行動計画を立てるか?
   5.3 何を盛り込むか?
   5.4 行動計画の戦略
   5.5 時間の配分と尺度
第6章:実践ツール
   6.1 はじめに
   6.2 ツール1 連関の輪
      ツール2 「意識から行動への連鎖」
      ツール3 ダート盤
      ツール4 行列
      ツール5 SWOT分析
      ツール6 展望
      ツール7 利害関係者決定分析
      ツール8 見直しと行動計画作りの手順と時間の尺度の例
文献
CEPA用語集


謝辞

条約事務局はこの文書の第1版の基礎をなした背景文書を準備されたジェーン・クラリコーツ博士の専門的かつ徹底的な作業に感謝する.決議Ⅶ.9「1999-2002年ラムサール条約普及啓発プログラム」の重要な部分である,CEPAの提供状況の見直しと将来のCEPA活動を先導する国内行動計画の策定を,締約国が実施するのを補助するこの仕事を博士が引き受けられた.決議Ⅷ.31が2002年の第8回締約国会議で採択されて決議Ⅶ.9に取って代わったが,湿地CEPAの見直しと行動計画作りという重要な務めはひきつづき指針の基礎である.この追加の手引きが条約のこの領域の作業がいっそう進展させることが望まれる.

クラリコーツ博士よりの謝辞:この文書に詳説される展望やアプローチは,この分野のさまざまなみなさんよりいただいた助けによって精巧につくりあげることができたものである.直接的あるいは間接的に条約のネットワークとつながる多くの国々や活動分野からそのような手助けをいただいた.さまざまな情報やアイデア,洞察を,しばしばすぐさまに,また大きな熱意と寛容をもってすすんで提供いただいた下記の方々にお礼申し上げる[敬称略].わたしのこの務めをずっと容易にし,実際可能にしてくださったことに,個人的にも感謝し,またみなさんからの経験などの提供の恩恵をうける湿地保全の活動者の全てを代表して感謝したい.みなさんどうもありがとう.

Mark Bacon,英国政府のオーフス条約担当窓口
Bishnu Bhandari,(財)地球環境戦略研究機関
Andras Bohm,ハンガリー政府CEPA担当窓口
Angela Brady,オーストラリアCEPA担当NGO共同窓口,オーストラリア湿地アライアンス
Robert Chambers,英国開発研究所
Judy Clark,ユニヴァーシティ・カレッジ・ロンドン,英国
Kevin Collins,ユニヴァーシティ・カレッジ・ロンドン,英国
Geoff Cowan,南アフリカ政府
Kate Gowland,オーストラリア環境省CEPA担当窓口
Biksham Gujja,WWFインターナショナル
Chris Hails,WWFインターナショナル
Doug Hulyer,英国CEPA担当NGO窓口,英国水禽湿地協会(WWT
Laurie Hunter,米国魚類野生生物局
David Lindley,レニーズ湿地プロジェクト,南アフリカ
Paul Mafabi,ウガンダ政府
Peter Martin,WWF英国
Kimberly McClurg,米国政府CEPA担当窓口
Marlynn Mendoza,フィリピン保護地域野生生物局
Mmokomo Moloto,南アフリカ政府
中島尚子,日本国環境庁
中村玲子,ラムサールセンター
Jonathan Newberry,大使館管理課,英国
Samuel Kofi Nyame,ガーナ野生生物協会
Reuven Ortal,イスラエル政府
Gonzalo Oviedo,WWFインターナショナル
Christine Prietto,オーストラリアCEPA担当NGO共同窓口,オーストラリア湿地センター
David Pritchard,英国王立鳥類保護協会(RSPB
Margaret Rowe,オーストラリア環境省CEPA特別部会
Ellen Shek,WWF香港
David Stroud,英国ラムサール委員会;共同自然保護委員会
George Subotsky,ウェスタン・ケープ大学,南アフリカ
田儀耕司,国際湿地保全連合日本委員会
Hatem Ben Mohamed Zamouri,チュニジア政府.

英国サウス・バンク大学の環境開発教育に関するマスターコースの学生ならびにスタッフのみなさんからも貴重なコメントをいただいた.


まとめ

この追加の手引きは,湿地における対話・教育・普及啓発(CEPA)活動を見直したりその行動計画作りに取り組む際の手助けになることをめざす,種々の発想や助言,実践ツールを提供する.この手引きの第1版は決議Ⅶ.9の第9段落に従って国内湿地CEPA行動計画のために準備されたが,この第2版は,決議Ⅷ.31の第20段落を反映したものである.この決議は,決議.9と異なり,全国レベルと同様にその下のレベルの行動計画も策定するように奨励している.すなわち締約国に対して次のように求めている:

『湿地に関するCEPAの分野の国内の需要、能力、機会の見直しを行い、これに基づいて、世界、地域、国内、地方の各レベルで取り組む優先活動のための国内「CEPA行動計画」(国、国に準じる地域、集水域、または地元レベル)を作成する』.

この手引きは,活動分野や活動レベルにかかわらず,活動の見直しと行動計画作りに参加する全ての方々を対象とする.この手引きでは,その目的やねらいを述べたのちに,CEPA活動が扱うべき湿地の課題の見極めとそれらの課題に対してどのようにCEPA活動を適用するかという点に焦点があてられる.読者が現在のCEPAの提供を見直す助けとなるように,ねらいと目的,手順やタイミングの原理,また戦略的なアプローチの選択の見直しについて検討する.行動計画の組み立てを検討するにあたって,この手引きでは可能な戦略や手順,また行動計画の内容やその過程で考えられる時間の尺度についても議論する.

この手引きが役立つように,見直しと行動計画作りにだれが参加するのかを検討し,任命されたCEPA担当窓口ならびにCEPA特別部会の役割と責任についての提案を示す.また,実践ツールのいくつか,単純でかつ将来のCEPAの提供のために見直しと行動計画作りを実施する過程で生じる共通の仕事を手助けするのに効き目のあるものを選んで紹介する.この文書を通じて情報や助けになる資料をさらに参照し,文中で述べたものは末尾の文献一覧に示す.

CEPAの提供が湿地の保全と賢明な利用へ及ぼす影響力とその戦略的アプローチを向上させることをめざす,条約のすべての地域における見直しと行動計画作りの努力への支援の一助となることを願う.



略称と用語

CEPA参加者
この文書を通じて,CEPAの過程や活動に関係するあるいは参加する幅広い参加者を言う.その範囲は,個人,地元社会,非営利団体,商業団体,行政機関,行政外郭機関,国際的な機関や団体のすべてを含む.
CEPA活動
対話・教育・普及啓発活動.『CEPA』は『Communication(対話), Education(教育) and Public Awareness(普及啓発)』の略称[訳注:『Communication』は,既存の決議と勧告の引用部分(表題を含む)除き,本手引き末尾のCEPA用語集の定義に対して適切と考えられる『対話』とした.既存の決議と勧告の引用部分(表題を含む)は環境省の「締約国会議の記録」の和訳『広報』のまま引用している].
CEPA指針
決議Ⅷ.31附属書に採択され,「湿地の賢明な利用のためのラムサールハンドブック」第6巻に収録された「2003-2008年ラムサール条約広報教育普及啓発プログラム」.
COP6
ラムサール条約第6回締約国会議,ブリズベーン,オーストラリア,1996年.
COP7
ラムサール条約第7回締約国会議,サンホセ,コスタリカ,1999年.
COP8
ラムサール条約第8回締約国会議,バレンシア,スペイン,2002年11月.
地域社会参加指針
決議Ⅶ.8附属書に採択され,「湿地の賢明な利用のためのラムサールハンドブック」第5巻に収録された「湿地の管理への地域社会及び先住民の参加を確立し強化するためのガイドライン」.
条約事務局
ラムサール条約事務局.
条約
湿地条約(ラムサール,イラン,1971年).ラムサール条約とも知られる.

第1章:本追加手引きについて

1.1 何のために?

1.条約が締結されて以来,教育関連分野が環境保全に果たす重要な役割についての一般の認識は徐々に高まってきた.ラムサール条約も正式に,1999年5月にコスタリカで開かれたCOP7決議Ⅶ.9とその附属書,つづく2002年にバレンシアで開かれたCOP8で採択された決議Ⅷ.31とその附属書で,このような潜在的な貢献を認識している.この決議とその附属書(以後,CEPA指針と記す)は,「湿地の賢明な利用のためのラムサールハンドブック」第2版の第6巻(Ramsar Convention Secretariat 2004c)に収録されており,条約事務局より入手できる.

2.この決議と指針は,ずらりと並んだ印象深い世界中の湿地CEPA活動を認識しているが,それらがまだその可能性を最大限には発揮していないことも認めている.従って,この決議とCEPA指針は,この実施要素への新鮮な関心を求めるCEPA活動を通じて湿地の保全と賢明な利用を促進する条約の努力を更新しようとめざすものである.

3.この追加の手引きは,締約国がこの決議を実施する際に,特に次の点について助力しようと意図するものである:

  1. 湿地CEPA活動の現在の需要や能力,機会,優先順位の見直し(決議の第20段落);
  2. その見直しに基づく湿地CEPA行動計画の策定(決議の第20段落).

4.この手引きでは,CEPA活動の見直しと行動計画作りを企画し実施するあいだの議論において生じる重要な要素を見分けて扱う.これは,より整えられた条約のCEPA要素の開発によって得られる新鮮な機会を最大限に活用するように助力して,締約国等のCEPA努力を実践的に支援するであろう.

1.2 この手引きの編纂のための取組

5.この手引きには次のようなものを利用する:条約条文と関連文書,CEPA分野の理論的著作,ケーススタディ,本プロジェクト用に設計されたアンケートへの返信,多数の締約国のCEPA専門家との会話.各国のCEPA担当窓口にもこの作業に貢献していただくよう依頼した.各国のラムサール条約に関する委員会やCEPA特別部会にも参加いただいた.従って,締約国ならびに条約地域から多くの人々の著作や実際の経験に基づき,環境や文化,社会,経済および技術などの重要な面を複合的に反映している.

6.この手引きはすべての分野を包括しているわけではない.課題はほとんど限りなく発生し,解決の最善策は個々の情勢に合わせなければならないからである.この手引きが,しかし,より容易に最善策を見出す際の手助けになることを願う.また,CEPA手法の包括的な情報源になるように目指したものでもないが,CEPA活動の見直しと行動計画作りに取り組む人々が適切なアプローチや方法および専門的技術を見極めたり,より詳細な計画作りや実施を補助するのに必要なさらなる資源を見出す一助になることを目指している.

1.3 誰のために?

7.この手引きは条約の各締約国の利用のために編纂された.また,それは,国や地域あるいは地方等どんなレベルにおいても,湿地CEPA活動の見直しや行動計画作りを企画する人々あるいは実施する人々のためである.実際,条約の実施に当たって締約国,具体的には条約担当政府機関は,広い範囲の行政責務を代表する多くの人々の参加を得,政府の内外を問わず異なる機関と協働し,さまざまな団体とも協働し,そしてさまざまなレベルでさまざまな活動分野で取り組んでいる.この手引きは,政府非政府を問わず,国際レベルから地元までレベルを問わず,適切なCEPAプログラムと活動を通じて条約を実施しようと尽力する範囲の人々の手助けになるようにと設計された.このように広い範囲の読者や主題を扱おうとするために,この手引きは必ずしも詳細まで十分ではない.読者は,実践していて経験豊富な方々とともに取り組んだり,この手引きに示す文献などを参照されたい.

1.4 章の配置と利用

8.このように多様な分野の活動をカバーし,CEPA活動の見直しと計画作りに取り組む幅広い潜在的ユーザーグループのニーズを満たすために,この手引きは,討議最中の問題への規範的解決策よりも,原則に重きを置かざるを得ない.つまり質問への決定的な答えは提供できないが,むしろ手引きして支援しようとするものである.ゆえに,議論の初期の手助けとして用いたり,ワークショップの準備に用いることができる.

9.この手引きは次の6つの章から成る:

10.この手引きを通じて引用文献はさらなる手助けの源となる.CEPA用語集も示す.この分野では共通して用いられていても潜在的にはめんどうな専門用語を概説し,その用語を取り巻く主要な課題やどこで用いるかを説明する必要性についてもいくらか説明する.


第2章:条約を実施する際の湿地CEPAの役割

2.1 はじめに

11.CEPA活動の見直しと行動計画を効力のあるものに立案するのに不可欠な第一段階は,CEPA活動の明確な目的と発展性を確立することである.この章では,条約のもとに湿地の課題に対処する際のCEPAの役割と適用について検討する.

12.広い範囲のCEPA参加者がその過程に携わらないと,CEPA活動の見直しと行動計画は効力のあるものにできない.これはなかなか難関であり,参加者の専門的背景が多様に異なりまた彼らのCEPAプログラムのねらいに対する展望もまた同じく多様であることがしばしばだからである.この章では,この問題についても扱い,彼らのための概念的枠組みも提供する.

2.2 CEPAが扱いうる課題

13.ラムサール条約は,湿地が有史以来人類を支える豊富な財とサービスを提供してきたという信条に基づいて創建された.湿地はまた地球規模での生物多様性の維持に多大な貢献をしている.湿地の喪失や劣化はこの財産を減じ,人類の健康や社会の福利に悪影響を与える.

14.条約の実施におけるCEPAの根本的な役割は従って,つぎのふたつである:

  1. 全人類にとっての湿地の機能と価値,ならびに湿地の喪失と劣化によって人類社会が被る損失について,社会の全てのレベルで意識を高めること;
  2. 条約の登録湿地でも他の湿地でもその喪失や劣化に結びつくような問題を解決する手段としてCEPA手法を活用すること.

15.次の段落ならびにBox1とBox2では,CEPA手法を用いて湿地の問題を解決する例をもって,いかにCEPAが湿地の課題を扱いうるかを例証する.CEPA活動を通じて湿地のメッセージを発信することは,たとえそれが広い範囲の利害関係者の参加と解決策の包含という複雑な過程であっても,高い効力があることを,これらの例は証明している.また,不十分な思いつきで進められた活動は失敗に帰することも証明している.この例はCEPA活動を通じて湿地の問題を解決しようとするものに焦点があてられ,湿地の機能と価値についてのポジティブなメッセージの発信ではないが,どちらのアプローチにおいても発信されるメッセージは同様である.

Box1.根本にある課題を見極めること.
湿地の課題過剰取水による容認できないほど低い水位と利用可能量.
利害関係者 利害関係 理解する問題点 解決領域
湿地管理者 法的に保護された種の個体群を維持する責任 保護された湿地の種への脅威 生態学的
地元住民グループ 家庭での利用のために直接的に水を依存している 必須資源の利用可能量の喪失 社会学的
地元住民グループ 生活水を湿地に依存していない 無関係 適用外
地元工芸職人 工芸材として湿地植物に依存している 収入への脅威 社会学的,経済学的
旅行業者 旅行業が湿地の景観や野生生物の質に依存している 生計への脅威 社会学的,経済学的
社会福祉専門員 地元住民の健康と福利への関心 地元住民の健康と福利への,彼らの収入の喪失や減少,あるいは水質の悪化などが及ぼす悪影響 社会学的
地元行政 地元社会の福利への責任 どんな問題でも解決には費用がかさむ 経済学的,政治学的

Box2.解決策を見極めること.
湿地の課題過剰取水による容認できないほど低い水位と利用可能量.
利害関係者 解決のための理論的根拠 解決策 解決領域
湿地管理者 低水位 汚染物質の濃度上昇 保護魚種への脅威 保護種をまもる行動例:
科学的野外調査の着手 普及啓発プログラムの開始 水位管理計画の策定と実施
生態学的または社会学的
旅行業者 低水位 見苦しい景観や野生生物の減少 他所を対象地とする 社会学的,経済学的
地元行政 低水位 見苦しい景観や資源の減少により地元住民にとっての魅力が少なくなる 地元社会の維持のために解決策を探る.例:
湿地の水位に対処する 地元レベル、あるいはより広いレベルの低水位の原因に対処する 景観の見苦しさに対処する 直接的な旅行者の減少に対処する 工芸職人のニーズに対処する
経済学的,政治学的

16.下のように,この湿地問題の単純な分析でもCEPA活動に関連する重要な点が多く目立つ.これらの大部分は,湿地の機能と価値についてのポジティブなメッセージを発信しようとする際にも同様に関わってくる:

2.3 湿地の課題へのCEPAの適用

17.前段に述べたような複雑な状況にどのポイントでCEPAプログラムを入れ込むか? そしてそのねらいを何に設定するか? 次の段落とBox3では,同じシナリオを用いて課題に対するCEPAの展望を確立し,どこでCEPAを導入すると役立つかを検討する.

18.Box3は,Box1とBox2で見極められた根本の異なる課題と解決策に対して考えられるCEPAの反応をまとめたものである.つぎのように,湿地の課題へのCEPAの適用について普遍的な点が多く見られる:

Box3.CEPAの解決策を見極めること.
湿地の課題過剰取水による容認できないほど低い水位と利用可能量.
利害関係者 CEPA解決策 成果 備考
湿地管理者 1.ポスター,視聴覚資料,ラジオ番組.地元の人々が利用する場所におく.保護対象魚種を紹介し,課題を説明し,人々の日々のくらしのちょっとした変更を提案する. 人々の変化が無ければ解決案2を試す.
  • 地元の人々は懸念を良く理解しており,絶対必要な水しか使わないようにしているときは,どんな情報が彼らの役に立つか?
2.上と同様の素材を使うが,保護対象魚種にかかわる法的な保護や国際的な重要性についての情報に変更する. これでも人々の変化が無ければ,この啓発プログラムは失敗に終わる.
  • 上に同じ
3.調査を実施してその結果を説明する新たな啓発キャンペーンを開始する(その魚種の卵発生には冷涼な水が必要なことがわかった).例えば樹木を植えたり家畜の放牧を少なくして,被陰面積を増やすことのような実践的解決策を提案する.この情報を地元に流す. このようなアプローチが働くところもあるが,ここではろくに反応が無かった.3ヵ月後つぎの解決案4を試みる.
  • 一年のうちで,人々に時間的余裕の無い季節は不適当.
  • 文化的にタブーとなっている色を印刷物に用いると,人々は寄りつかない.
4.おなじものをもう一度配る. 提案に参加してくれるひとも増えて,状況は改善されつつあるが,植えられた樹木は提案した樹種ではないものが多い.
  • タブーになっていない色を用いること.
  • 人々に余裕のある季節に配布すること.
地元行政 5.湿地の(改善された)ようすや旅行者が利用可能な機会を広報する. 一時的に旅行者は増加したがまた減った.湿地への負荷を高めた.
  • CEPAを十分に広い範囲まで適用する.
  • 長期的な湿地へのダメージを避けるために旅行者の意識を高めて団体の行動や組み方を変えることについて,旅行業者と地元行政とのあいだの対話が必要.
社会福祉専門員 6.地元住民の健康と福利の増進に注目して,いくつかのケーススタディをもたらすキャンペーンを開始し,地元行政の関心を引く. 地元行政が政策を改訂し,より高い保健衛生措置を導入することができる.
  • 社会福祉専門員が行動を触媒し,地元の人々と行政を結びつけた.
  • 社会福祉専門員が行政の仕事の効力を増すように手助けした.
  • 行政は問題を解決するために社会福祉専門員の所掌を超える部分の権限や資金を提供した.
社会福祉専門員と湿地管理者 7.低水位の影響を受けるいくつかの地元社会で,水質悪化についての地元の人々の共通の懸念にかかわる情報を得るための会合をもつプログラムを開始する. 多くの地元社会でこの課題が共通であることを見出し,解決案8を開始する.
  • 広い範囲の分野を超えた課題の理解が相互に利益をもたらす解決策を可能にする.
8.低水位の影響とその結果の水質悪化が保護種や地元社会に与える影響を地元行政や国の政府に知らせるプログラムを開始する. 行政が政策の変更をはじめ,法制度が変る.地元行政は解決策9を開始する.
  • この変化を遂げるには,地元の人々や湿地管理者,社会福祉専門員,そして行政の3つの部門が協働する必要がある.この過程には何ヵ月も要する.
地元行政 9.地元での実践の変化を可能にし,また利益も得られるような法制度の変更を地元の人々に説明するキャンペーンを実施する. 人々はその変更に応じ,水質も改善される.
  • 将来の実施者はすでにこの課題や解決策の見極めに参加しているので,キャンペーンに投資される時間と資源は有意に減少する.従って実施の際に,課題や政策変更の各個人にとっての意味が理解される.

2.4 概念的枠組み

19.湿地CEPA活動の見直しと行動計画作りの効力を高めるためには,さまざまな背景をもつ広い範囲の人々の参加を得る必要がある.NGO,地方や国の政府の異なる省や部局,企業人や教育者などである.その結果必然的に,CEPAプログラムのねらいの解釈が異なる可能性のある人々が集まることになる.見直しと行動計画作りグループの個々のメンバーがいだくCEPAの意義を議論することは重要であろう.以下の段落でこの議論を補佐する.

理念

20.どんなCEPA活動においても,そのねらいや構成要素にはそれを立案した人々の根本的な確信が反映している.従って,CEPA活動の見直し(評価)や行動計画作りに参加する人々にとって自分自身と他人の理念に気づくことは重要である.環境理念および教育理念がここでは特に意義深い.このセクションはそれぞれについてひとつずつ枠組みを概説する.

環境理念

21.重要なことに,環境理念は,技術中心的な(technocentric)ものと環境中心的な(ecocentric)ものに分けられる.Box4にそれぞれの主要アイデアを比較する.

Box4.環境理念の枠組み.
技術中心的 環境中心的
  • 人間は自然界から独立している
  • 人間は自然界の一部である
  • 自然界は人間にとっての功利的価値を持つ
  • 人間は自然界の管理人としての責任を持つ
  • 最終的に人間が自然界を支配する
  • 人間も最終的に自然律に従う
  • 人間は環境問題が認められたならばそれに対する新たな技術的対応策を創り出す類いまれなる才能に恵まれている

例:海岸に住む人々は脱塩プラントをつくって淡水を得る 例:人間は淡水が得られないところでは本来生存できないので,そのようなところには住まない

22.Box4に示したふたつの環境理念は極端な立場であり,どちらも完全な支持は得られそうにない.CEPAプログラムの適切な目的やメッセージについて議論すると,このような信念の違いが重要になることがある.例えば次のような議論の際である:水質汚染は避けられず技術的解決策を容認できる,といった点をどの程度までCEPAメッセージに受け入れるか? カリキュラムに技術的主題を盛り込むか,あるいは技術を適用するということは汚染とそのもととなる原因を本質的に容認することになると説得することをめざして技術の適用の代わりに地元社会が変わるためのカリキュラムにそれを盛り込むか? このような根本的な違いをあらかじめ理解することは,分野横断的あるいはまた異文化的に作業する際に,とりわけ役立つ.

23.教育理念については,「教育の目的は何か?」という点が問題である.ここでいう『教育』にはすべてのCEPA活動を含む.つぎの3つの枠組みに分けられる体系が提案される(Fien (1993) に引用された Kemmis, Cole & Suggett (1983)):

  1. 各個人が働く準備をするための教育
  2. 各個人が終生発達するための教育
  3. より公正公平な社会への変革に貢献する教育

24.これは,CEPA活動の最終目標を合意するとか資料の文章にどんな価値を盛り込むかといった状況に関係する.例えば,正式な教育カリキュラムを策定する際に何を盛り込むか? 上のに従って,技術を教えるといった因襲的な主題や資源を抽出する近代的システムを盛り込むことが考えられる.一方の考えには,現在の社会体系が(例えば,きれいな水を得ることができないといった)不公正を生み出し維持しており成功したものとはいえないということを含む.例えば,貧困と環境条件の強い因果関係は,多くの人々や文献が指摘するところである.このの視点によって,社会を変えてゆく技能をカリキュラムに盛り込むことが導かれる.

教育の傾向

25.(当初,大学における成人教育に関してつくられた)Box5の枠組みがCEPA活動のプログラムの長期的な目的(将来構想)を明確にし,その現在の活動を評価するのに役立つであろう.

Box5.教育の4つの傾向Mayo 1997).
教育が: 生活から切り離されている 生活に統合されている
社会文化的環境や政治経済的環境を変えることをねらわない 傾向1『学究的』 傾向2『研修』
社会文化的環境や政治経済的環境を変えることをねらう 傾向3『専門的教育』 傾向4『エンパワーメント
傾向1型CEPAは,既存の社会文化的状況や政治経済的状況を容認しその範囲内で行なわれる.
傾向2型CEPAは,学習者が既存の社会文化的状況や政治経済的状況に対して貢献するようにする.
傾向3型と4型はよりラジカルなねらいをもつ.すなわち,既存の社会文化的環境や政治経済的環境に変化をもたらす力を個人に与えようとする.
傾向3型CEPAは,専門職を,他の人々が社会文化的状況や政治経済的状況を変えようとするのを外部から助ける専門的仲介者になるように訓練する.
傾向4型CEPAは,学習者が自分がおかれた状況から変化を起こす力を得ること(エンパワーメント)を可能にしようとする.

環境『についての(about)』,『を通じた(through)』ならびに『のための(for)』教育

26.次のような環境教育についての枠組みがさまざまな面で採用され築かれてきた.これも現在のあるいは計画中のCEPAプログラムの最終目標やアプローチを評価する上で役に立つだろう.

開発『についての(about)』,『のための(for)』ならびに『としての(as)』教育

27.開発についての見方はほんとうにさまざまであり,世界の各地で異なるだけでなく,ひとつの国の中でもさまざまである.その結果,CEPAプログラムの内容や目的を合意することが著しく困難になる.開発教育についてつぎのように三つに別ける枠組み(Downs 1992)を用いると,湿地CEPAプログラムの最終目標とアプローチを明確にするのに役立つかもしれない:

28.概念的なあいまいさもあり,湿地CEPAに関連してよく用いられる多くの言葉について同じような解説を加えることも可能である.ことばの絶対的な意味づけをするよりも,その語の意味と他の用語との区別を明確にして相互に合意することのほうが大切である.他者がそのような用語を用いたときにその意味を質問することがまた重要である.この手引きの用語集に湿地CEPAに関する重要でしばしば用いられる用語を選んで解釈をまとめた.


第3章:CEPA活動の見直しと行動計画作りに誰が参加するか?

3.1 はじめに

29.誰が参加するかを考えるに当たって,見直しと行動計画作りが統合的な全体のそれぞれ一部に過ぎず両者の連続性と調整を確保することを考慮する.この章では,考慮すべきいくつかの点を強調し,いくつかの提案を記す.それらは,いくつもの国からの例やアイデアに基づくものである.参加する必要のある人々の範囲を考察し,CEPA担当窓口とCEPA特別部会の役割ならびに責任と,彼らがどのように取り組むかを詳しく検討する.条約の活動の中でもたいへん特殊なこの分野を発展させる際に直面する運営上の課題もまたいくつか検討する.

30.Box6に,この章で参加対象者として表現する用語の正確な意味をはっきりさせる.

Box6.第3章に用いる用語の定義.
CEPA担当窓口 決議Ⅷ.31第20段落に従って指名された締約国政府およびNGOのCEPAプログラムの担当窓口[訳注.条約事務局HP各国の担当者一覧も掲載されている].
CEPA特別部会 決議Ⅷ.31第20段落に従って,締約国が設置するCEPA活動のための作業部会.国内における活動の見直しをおこない国内CEPA行動計画をまとめる.これには,CEPA担当窓口二者も当然参加する.
レビュア CEPA担当窓口でなくCEPA特別部会のメンバーでもない人で,この見直し作業の企画から見直しのための情報収集までの活動に参加する人をこう呼ぶ.CEPA特別部会だけでなく,より広い範囲の人々が,包括的な見直しと行動計画作りを立案し完成させるには必要であろう.的確な準備次第だが,レビュアも行動計画作りの作業に参加する.
作業グループ 見直しと行動計画作りの立案から完成まで責任をもって実施する人々全体を指す.すなわち,CEPA特別部会とレビュアのまとまり.
情報提供者 レビュアに情報を提供する人々.情報提供以外で見直しと行動計画をまとめて完成させる作業には参加しない.
参加者 見直しと行動計画作りの作業にかかわるすべての人々を一般的に指す.

3.2 CEPA指針は何を示しているか?

31.決議Ⅷ.31とCEPA指針は,直接にあるいは暗に,見直しと行動計画作りの作業に参加する人々に関する方向性を提供している.Box7にそれらをまとめる.このリストに,とりわけこの分野の専門的技術に秀でた地方ならびに全国的なNGOを加える必要がある.それら団体の最大限可能な範囲に参加してもらう.NGO担当窓口をになう一団体だけでは不十分である.

Box7.決議とCEPA指針に示される見直しと行動計画作りの作業への参加者.
参加者 見直し作業 行動計画作り
国の政府のCEPA担当窓口
NGOのCEPA担当窓口
国内ラムサール委員会
(国内ラムサール委員会がない場合は)適切に設立された委員会
条約担当政府機関
NGO
地元利害関係者
条約事務局
条約の国際パートナー団体
資金提供団体
湿地へ一次的な脅威を与える可能性のある省など
公的教育部門の担当者
研修指導者
カリキュラム・プランナー
環境教育センターのスタッフ
環境,生物多様性,湿地,水に関連する政策手段やプログラムのキーパーソン
IT専門家
ラムサール湿地管理者

3.3 運営上のアレンジ

32.CEPA活動は条約の実施にかかる他のアプローチとともに,あるいはその一部として進める必要がある.CEPAに基盤を置く実施を統合するアプローチを支援するような行政的アレンジをすでにとっている締約国もある.そうでないところでは,現在条約を実施している行政的アレンジについて検討することが,CEPA活動の見直しと行動計画作りを効果的に達成できるような組織化と管理を決定するのに役立つであろう.全締約国はつぎのような作業の担当者を見極める:

CEPAに関する作業に必要な専門技術およびその結果を確認する

33.CEPA活動を通じて条約を実施するには,これまでの条約実施の主要な焦点となっていた技術面に必要とされたものとはかなり異なる知識や技能,専門技術が必要である.このことから次のようなふたつの問題点がうまれるので注意が必要である:

  1. 条約実施の責任は,例えば,土地利用計画や天然資源管理,環境保護,外務を担当する官庁にあり,教育や健康を担当する官庁にも地方行政府にもない.
  2. 多くの場合,CEPAの取り組みに必要な専門技術が,これまで条約を実施するために設置された国や地方の行政的アレンジの中に築かれていない.

既存の行政的アレンジにCEPAの機能を統合する

34.CEPA活動に必要な異なる専門分野とその位置について次のようないくつかの解決策がある:

35.条約担当政府機関あるいは国内ラムサール委員会にCEPA活動の余地や適切なレベルの専門技術を欠く場合は,政府の教育部門あるいはCEPA能力を持つ適切なNGOから人材を得る.こうすると,専門技術と適切なネットワークや団体にアクセスできる.

36.CEPA活動に適応するために,その構成や委託事項ならびに予定を改訂することによってその権限を拡張する必要のある国内ラムサール委員会(あるいは相当のもの)もあるだろう.CEPAに対応する小委員会を設立するのもいまひとつのアプローチであり,国内委員会の一部で対応する場合よりも広い範囲からのCEPA活動への参画を得られるだろう.

37.国内ラムサール委員会あるいは相当のものが設立されていない国においても,例えば教育や健康,保護区管理,水管理,土地利用計画などに関する既存のシステムや機構を経ることによって湿地の課題にCEPA活動をいっそう効果的に適用することができる.そのように計画し,調整し,モニターする手配は困難をともなうかもしれないが,それができればCEPAプログラムやその業績を各分野に十分に広めることができよう.

異なるレベルや分野からの参加

38.この活動すべての最終目的は,全てのレベルにおいて湿地CEPA活動の効力を高めることである.さまざまに異なる実施レベルや実施分野から,自らが根本から影響を受ける見直しと行動計画作りへ参加したいという要求が出されるので,それらの作業をレベルごとあるいは分野ごとに進めると効力が高まるかもしれない.例えば,あるNGOがある分野で特に動機と専門技術を持っている場合に,その団体に作業のリーダーシップを(共同で)とってもらうこともできる.国の政府が必要なサポートをする.まとめを進めてゆくと,最終的には湿地CEPA活動の国レベルの青写真ができあがり,関係する全てのレベルと実施分野を組み入れた優先的なニーズが築かれるだろう.

3.4 見直しと行動計画作りの役割と務め

39.それぞれの役割を決める際は,Box8にまとめたようなさまざまな務めと必要な技能を明確にすることが欠かせない.それから必要な専門技術を配置する.つづく段落に行動計画作りに必要と思われる役割と務めについていくつか解説する.

Box8.行動計画作りに関連する務めと技能.
務め 技能や能力
  • データ収集
  • 情報の集積
  • データの分析
  • 分析結果の発表
  • 作業管理
  • 支援と円滑化
  • 見直し結果の解釈
  • 行動の見極めと優先順位付け
  • 行動計画の立案
  • 行動計画の作成
  • 行動計画の広報普及
  • つぎのような知識:
    • 異なる分野のあいだの関連性
    • 異なる実施レベルのあいだの関連性
    • 異なるCEPAアプローチの関連性
    • 湿地の課題の関連性
  • 科学的データ収集技術
  • アンケート企画ならびに運営
  • ワークショップの実施
  • ネットワークづくり
  • コンピューターや他のデータ記憶装置の扱い
  • 統計学的分析,データ操作
  • 発表技能,つぎのものを含む:
    • 情報の選択とまとめ
    • 視覚素材づくり
    • 人前での演説
  • プロジェクト管理
  • 異なるレベルおよび異なる分野との協働
  • さまざまな対話方法
  • 異なるレベルや分野へのアクセス
  • 異なるレベルや分野の知識とアクセス
  • 行動計画文書を起案したり形式づけたりする経験
  • 実施者の主体性や需要の理解
  • 条約の運用規則の理解
  • 出版のノウハウ
  • 文書のデザイン能力
  • 行動計画作りの経験
  • プロジェクト調整

3.5 CEPA担当窓口

役割と責任

40.つぎのような目的で担当窓口が任命される:

41.自国のCEPA担当窓口の役割と責任を正しく承認することは各締約国の務めである.CEPAの見直しと行動計画作りはCEPAプログラム全体のなかのふたつの要素に過ぎないので,担当窓口がこれらふたつの役割のみを実行することに限定しようとすることは実際的ではないだろう.担当窓口の役割は執行部というよりも活動支援して促進する者として位置づけるほうがたぶんよいだろう.もちろん,各国におけるCEPA関連の能力や専門的技術によって,また任命された担当窓口次第で,執行部の役割と活動支援の促進のどちらかあるいは両方を担ってもらえばよい.また,政府の担当窓口とNGOの担当窓口がそれぞれの長所を活かして役割分担することも道理にかなう.たとえば,政府の担当窓口が活動支援の促進やCEPA活動の見直しと行動計画作りを支援し,NGOの担当窓口が執行部を担うと適切な場合もあろう.

42.これらの考慮事項を念頭に置くと、実際にはどのようにアレンジされるとしても、2つの(政府とNGOの)担当窓口の役割は次のようなものにすることが提案される:

43.このような役割を担当窓口の責任に移し変えると次のようになる:

担当窓口の見極め

44.CEPA活動は条約の実施に欠かせない要素であると考えられ,実施の範囲が広く変化に富み,そして需要が多い分野である.この分野において能力があり,重視し,また影響力のある省庁や組織からの人材を担当窓口に任命する.活動分野を越えまたレベルを越えて必要とされる実施要件を,広範な関係領域とレベルのすみずみまで効力を及ぼすように準備できなくてはならない.NGOの場合は,国内レベルあるいは国際レベル,また実践的な社会レベルのどのレベルにおいても同様にたやすく,現在の状況下でもっとも効力があると思われる働きを維持することができること.

45.自発的活動分野がまだあまり育っておらず政府の担当窓口がCEPA活動の第一の執行部とならざるをえない国もあろう.省庁間の調整があまり統合されていないこともしばしばあり,その結果政府の担当窓口の任命がNGOの担当窓口の場合よりも難しいこともある.任命の際には,適切な権限や能力を見極めることが大切である.

担当窓口はいかに機能するか?

46.担当窓口の働きを明確にする.たとえば次のような働きが合意されるだろう:

(上記は支援的な役割を反映しているが,執行部的な役割も担うならば,それぞれ別々にリストアップする必要もあろう.)

3.6 CEPA特別部会

役割と責任

47.決議Ⅷ.31の第20段落に従い,CEPA特別部会は国内のCEPA活動の見直しと行動計画作りに携わる.以下に提案するモデルに従うと,同特別部会は国内の活動の見直しと行動計画作りについて,その作業計画,調整,監督,そして完了を確実にすることになる.

48.最初から同特別部会の役割と責任を決めておくことは,またメンバー個々の役割と責任についてもたぶん同様に,二重の手間を省くために,また乱雑にならないようにするために重要である.見直しと行動計画作りの過程の精密さにもよるが,以下のような役割と責任が考えられる:

CEPA特別部会の構成

49.ここに描くように,担当窓口と比べて,同特別部会の役割は,湿地CEPAの個別の主題に携わるメンバーの役割を含むであろう.その構成は従って,見直しと行動計画作りにおいて取り扱われる,CEPA活動が提供する範囲を反映する.同特別部会は次のような集合的知識をもつ人々によって構成されることが理想的である:

50.同特別部会はまた,情報処理能力を必要とする.すなわち,体系的に複雑なCEPA分野を調査して記録する能力,ならびにその結果を活かして将来のCEPA活動を見極めて優先順位をつけ,計画する能力である.

51.[第2版編者原注:第1版のこの段落はもとのCEPA指針を引用する段落であったが,第2版において削除された.その結果として段落番号を振りなおすことを避けるために,本文の無い第51段落を残す.]

52.国内ラムサール委員会あるいは同等のものを構成するやり方には締約国によってかなりの違いがある.CEPA特別部会の役割が決定された際には,CEPA専用の特別部会を設立する必要があるか,既存の国内委員会がすでにその役割に必要な権限の広さと深さをそなえているか,決定する必要がある.もしそのほうが運営的に好ましく,あるいはより実際的であれば,国内委員会の構成を調節するのももうひとつの代案である.第3章の3で,より活動的なCEPAの構成を既存の条約関連の機構や手続きに統合する運営上のアレンジについて議論したとおりである.

CEPA特別部会の運営

53.同特別部会は,政府のCEPA担当窓口から条約の政府担当機関を通じて,CEPAの見直しと行動計画作りを完了する最終的な責任を負う.同特別部会は,定常的に,決められた期間,あるいは更新可能な期間設置される.

54.運営のための適切なアレンジを決める際には,地方での取り組みだけでなく,その全国的な調整ならびにその結果を全国レベルの行動計画作りに統合するために必要となる別の全国的なプログラムを求めることも役に立つであろう.ここで有益な実践ツール8が第6章の2にある:それは[英国スコットランドで実施された]環境教育の見直しと戦略づくりの委託事項や手続き,ならびに時間配分を概略したものである.すべての国でこのような包括的なアプローチが可能ではないかもしれないが,役に立つ事例である.

55.湿地CEPA活動の包括的な見直しと行動計画作りには時間がかかり,計画作りの会合に参加する機会や全国レベル,ならびに地方レベルでも,それの実際的な作業を手伝う人々と協働する機会が必要である.可能ならば特別部会メンバー間の対話にメーリングリストやテレビ電話会議を用いると,時間や費用を節約できる.

56.同特別部会の各メンバーがその務めを実行できるようにするには,責任範囲を特定するとよい.そのような作業分担は,たとえばつぎのような流れで整理できる:

57.同特別部会は,採用した手順の記録をとることが強く推奨される.その情報は,見直しを繰り返す際に役立ち,他国の特別部会が参照する目的でも役立つ.そのような手順のまとめには,どんな場合も必ず,最終的な行動計画を含める.可能な限り,その写しを条約事務局に提出する.つぎのBox9にCEPA特別部会の運営の例を示す.

Box9 CEPA特別部会の運営の例.

同特別部会は行動計画を果たす第一の方法である.(15名以下の)小さな特別部会では広範な活動をゆきわたらせるという包括的な見直し作業の要求を満たすことはありえない.また十分な知識を用い十分な範囲に及んで適切に戦略的な勧告をなすこともできそうにない.

この課題へは次のような対処が実際にある:

このような小さなグループ(特別部会)は,その完了までの過程を組織し,方向づけ,そして駆動してゆく.このグループは,公式でも非公式でも,CEPA分野で経験をつんだ活動者(レビュア情報提供者)に相談する.このグループがまた,最終文書を起案するが,情報提供者やレビュアからの初期のドラフトへの貢献についてはさまざまな例がある.

包括的な見直しと行動計画作りの過程において鍵となる要素に,広範な専門家の参加を得た会合や会議,セミナーがある.このような会合では,CEPAのさまざまな提供範囲からの専門家の意見を得ることができたり,分野を越えて意見の交換を刺激し学ぶことができたり,ドラフトへの意見を集め,また提案の下案について相談することもできる.どの場合も,必要な人を招く.

包括的な見直しと行動計画作りの作業は18か月かかり,さらに2年以上延長するかもしれない.このような包括的過程の終わりには,作業の各段階における会合や広範な意見交換について,首尾一貫してプラスの評価を得る.分野横断的な会合は通常の取り組みではあまり見られず,将来の分野横断的なパートナーシップの取り組みのための利益を導くものとして,特に評価が高い.まさしく相互に作用するように,そして建設的なねらいを定めて組織して,専門家の参加を得る.

3.7 その他の参加者

58.情報提供者作業グループに情報を提供する個人ならびに団体−は,中央のCEPA特別部会から動機づけられるが,潜在的に一定の距離をおく.彼らからもっとも役立つ反応を引き出すためには,彼らの貢献を地方の状況あるいは国内レベルの状況のなかで適切に位置づける必要がある.

59.情報提供者が返答を準備するためには,現実に必要なだけの時間がかかる.それはかれらの組織内や社会で相談することができるような時間である.またそのようなアプローチをとることが推奨される.もちろんその分を見直しと行動計画作りの時間配分に盛り込んでおく.

60.情報提供者が返答のために費やしたときから,かれらへ見直しと行動計画作りの成果が届くまでに時間の差がある.さらに,それらの成果は彼らにとっては難しいものかもしれない.なぜなら,それらの成果は長期的なものであり,彼らが日々対応し集中している課題からはかけ離れた全国レベルの行動計画としてはじめは見えるからである.また,計画のなかでの優先行動は,彼ら自身の優先行動とは異なっていることもあろう.従って,作業のための集まりを通じて彼らとの対話をよく確保することが大切である.諮問会議や,進捗状況の提供,また見直し結果の配布などを用いて,かれらに情報を提供し続けて彼らの参加を維持する.


第4章:湿地CEPA活動の見直し

4.1 はじめに

61.この章ではCEPA活動の見直しに焦点をあてる.見直しにあたって実際的で戦略的なアプローチを築き,また各地のニーズに適合させる手助けとなろう.その一般的内容が,国際レベルから地元レベルまで,さまざまな活動分野や状況での取り組みを支援する.見直しを企画する際に必要な議論点や決定すべき点などを強調する.この見直しと次の章の行動計画作りは密接な相互関係があるので,見直しを企画する段階で,両方の過程の明確な像と相互の実際的な関係を描くことが大切である.

62.この章では典型を述べるが,それらのいくつかは短期的あるいは中期的な計画規模では到達できないであろう.しかし,将来展望を共有することによって,到達できない時点であろうと,現在の活動を進歩させて方向づける役に立つ.

63.この章では次のような疑問に答えるようとりまとめた:

64.CEPA活動の見直しは一個人や一組織ではなしえない.見直し作業グループの個々のメンバーにとって答えが明白な疑問でも,答えがみな同じということはありそうもない.見直しの企画は,内容や過程に移る前,はじめにねらいと目的を合意形成し,見直し作業において記述的アプローチをとるのかあるいは戦略的アプローチをとるのかを決定する.

65.最大限詳細に企画しても,いったんメンバーが分散して会合と会合のあいだに見直し作業を実施すると,メンバー各個人は見直しの諸要素を自分自身の状況下で解釈することが何度もおこる.ある見直しの要素をそれにあわせた方法で実施するように立案した理由を合意しておくと,見直しの進路を保つことに大いに役立つ.参加する全員がはじめから,同じ最終目標と達成方法の展望を共有することが重要である.

4.2 なぜ見直しをするのか?

見直しのねらい

66.湿地CEPA活動の見直しのねらいは,つぎの3つの領域における要件を反映している:

67.決議.31に指示されるその務めは次のとおりである:

『湿地に関するCEPAの分野の国内の需要、能力、機会の見直しを行』うこと(第20段落).

68.これに従い,次のような実施のねらいが必要とされる:

69.同様に,CEPAの見直しの理論的根拠に関連して,つぎのように広範な具体的ねらいが定義される:

第一のねらい

  • 効力のある湿地CEPA行動計画を立案して実施するために必要な情報の収集;

付随的なねらい

  • 既存のCEPA活動の広がりと効力の測定(それらのねらい,成功か失敗か,困難;活動提供者の見極めや位置づけと現状;資源のありかなど);
  • 活動や資源が減少しているあるいは欠けているところにおける,概念的あるいは戦略的な隔たり,また資源の欠落といった需要の見極め;
  • 将来的に可能性のある活動者,目標グループ,あるいは戦略的方向性の見極め;
  • 湿地CEPAの戦略的計画作りの継続的なプロセスの開始;

潜在的なねらい

  • レベルを通じて首尾一貫した行動計画作りの基盤を形成するために,さまざまなレベルに配布する資料の製作;
  • CEPA関連の資源についての,試行錯誤しつつ,また移転可能なデータベースの構築;
  • 湿地教育現場における活動分野を越えた協働の増進の開始.

70.見直し作業に参加する個人や団体への委託や責任に関するねらいもまた,原則(各団体の目標や政策)や資源(作業に費やすことができる時間など)の見地から検討する.

71.見直し作業に参加する各メンバーは,自身の組織に対する責任やねらいのもとに作業に加わると同時に,作業グループの共同の取り組みに貢献できなければならない.見直しや行動計画作りのねらいはどんな場合でも,参加メンバー個々のねらいと両立させ,また全員が共通理解し受容する.

72.最後の補足的なねらいとして,他の国際条約や活動計画のねらいと一致するCEPA関連のねらいを見極めることがある.これによって相乗作用が助長され,二重の努力を減らすことができる.

73.見直しの最終的な目的を見失ってしまうことも容易に起こりうる.この見直しは行動計画作りに活かすために実施される.同様に,行動計画は今後の行動を導き優先順位付けするために行なわれ,かなり複雑なそしてしばしば長期にわたる変化を達成することをねらうものである.的確なねらいを明らかにすることが,この見直しの焦点を適切にあて,適切な方向づけを維持するのに役立つ.

見直しの目的

74.この見直しの目的,すなわち見直し結果を実際的に利用できるようにするには,つぎのふたつの要素を考慮する:見直しを実施する理論的根拠,見直し結果の構成.

75.作業に参加する個人や団体ならびに作業グループ全体として,明確な理論的根拠が役立ち,必要な資源や協力を確保しやすくなる.ねらいの場合と同様に,条約に関連する要素,見直し自体の目的や多くの人々の参加に関連する要素がその理論的根拠にはあるだろう.理論的根拠には,行動計画作りの過程における見直し作業の役割や,湿地CEPA活動の向上やCEPA活動自体の合意された目的を,説明し主張する.一口に言うと,拡張された湿地CEPA活動の脈絡の中における見直しの位置を論理的に説明することである.

76.見直しによって,CEPA活動計画を周知させるために使えるかなりの情報が生み出される.見直しの目的のこの面を考慮して見直し作業を立案し,見直しの過程の後半において困難な結果に陥らないように直接にまた早くから取り組む必要がある.例えば,だれが情報を得て,保持し,加工し,分析し,報告し,それにアクセスできるか? 集められたデータのフルセットを参加者全員が利用できるようにするか,あるいは分析結果だけを出版してより広範囲に配布するか? といったを考慮する.このような実際的な問題は,データを収集する方法やデータ形式に影響を与える.また行動計画作りに入る前の段階の必要資金にも影響する.

77.これらのゆえに,見直しの理論的根拠には『何が湿地CEPA活動の最終的な目的に関連するか?』から『見直し結果が活用されるには何が必要か?』までの全てのレベルの企画を含めると申し分ない.

4.3 見直しの実施過程

はじめに

78.この節では,見直しのアプローチに焦点をあてる.決定を必要とする重要なテーマを提供する.誰が参加するか,ならびにCEPA担当窓口と同特別部会の役割についてはすでに第3章に扱った.

79.CEPAの見直しは,単独の催しとして,あるいは計画作りのサイクルの一部として,計画される.どちらに決定するかで,見直し作業が進む道,例えばその範囲や,タイミング,必要な資源の確保などに影響が及ぶ.

記述的か戦略的か?

80.湿地CEPAを前進させるためにはつぎのものが必要である:

81.CEPAの業績や隔たり,可能性については,CEPAの最終目標の合意と関連付けて初めて確認できる.つまり,既存の提供範囲を記述的見地ならびに願望的見地のどちらからも見直す必要があり,そうすることによって情報が将来の戦略的行動計画作りに用いることが可能になる.

82.より記述的アプローチでは,活動者や目標グループ,CEPA活動の型などを定量的に確認する.これはどんな見直し作業においても重要な要素であるが,戦略的質問法は記述的情報を課題に関する過程や機構に結合させるもので,より評価的な分析を可能にする.この強力なアプローチは,湿地の課題とそこで果たすCEPAの役割を明確に理解することにかかっている.

83.この節では,この下により戦略的なアプローチを検討する.が,戦略的アプローチは記述的情報も組み込むものである.従って,下の記述は,湿地CEPA活動の全国的な見直し作業に対する戦略的アプローチの困難さも採用すると決めていない人にも関連する.戦略的アプローチはそのような人々がCEPA活動者や活動を見つけ出し,またCEPAの提供における隔たりや弱みを見極めるのを手助けする.

アプローチの実際

記述的アプローチ

84.見直しに用いる記述的な要素として「活動者−目標グループ−CEPAの提供型」の3点からなる枠組みが適用できる(Box10).Box10にはまた,他の有益な記述的見直しのための実施ツールも含む.

Box10 「活動者−目標グループ−CEPAの提供型」の枠組み.

活動者:CEPAプログラムを提供し,呼びかけ,開始し,あるいは促進する個人や団体.ここには,官庁や政府機関,NGOや企業も含まれうる.活動は,地元レベルから全国レベル,国際レベルまでわたり,さまざまな実施領域に見られる.見直し過程でこれらの活動者を見つけ出す必要がある.実践ツール3利用して,関係する活動者に従ってその提供状況を,記録し,展示し,簡単な分析をすることができる.

目標グループ:CEPA活動から学ぶ人たち,あるいはCEPAの活動目標とする対象グループ.対象となる社会的範囲は広く,地方,国,国際的な政策決定者,さまざまな分野の専門職,個々の湿地の利害関係者,学生や生徒,地元社会のリーダー,その他さまざまである.CEPA指針に対象となる目標グループの範囲についてのまとめがある(同指針添付文書2).課題ごとに対象となる目標グループをきちんと定義し機能的に分類することが欠かせない.

目標グループとその特質を見極めることは,CEPA活動の評価と計画作りの鍵となる要素のひとつである.CEPAを導入するレベルや,最適の活動者,用いる機構や適用するCEPAの型を決める際に役立つ.課題の網の目に機能的な目標グループの位置づけを明確にできればに,CEPAの提供における隔たりも見極められる.ここでも実践ツール3が,目標グループの分析や,もっとも必要としている目標グループへCEPA活動を届ける計画をたてるのに役立つ.

目標グループは相互に排他的な人々の集まりではなく,個人はいくつもの異なる社会的グループに所属する.これは重要なことである.というのは,ひとつのグループを目標にすると,実際にはそれ以外のグループにも届くからである.利点も欠点もあるだろうが,利点を認識するほうがためになる.例えば,CEPAのメッセージを広げたり,新たなタイプの専門家の助けを得たり,あるいは課題の網の目の理解を深めたりする場合である.

いわゆる「一般大衆」というものは存在せず,目標グループにはならない.むしろ,各個人がさまざまな関心のうちのひとつにかかわるあるグループを代表しているものと捉えることができる.ある社会システムや組織を通じてある個人と連絡をとるとき,その人に対して単一の帰属性を負わせることになる.これは都合がよくて,実際にCEPAプログラムを実施する際に必要不可欠である.が,人為的な構造性にすぎず,各個人はさまざまなグループの帰属性を持っているものである.個人こそがCEPA活動の標的であり,グループやシステムあるいは組織ではないことを覚えておくと役立つ.

CEPAの提供型:さまざまなCEPA活動の型が,その限りなく幅広いねらいや状態,状況にあわせて開発されてきた.CEPA活動に用いる型を見極めることによって取り組むべき啓発の枠組みが提供される.「意識から行動への連鎖」(Box11)における活動のねらいと位置づけを理解するとさらによい.CEPAの型には次のようなものを含む:

  • 印刷資料,視聴覚資料,電子資料の作成や配布;
  • 公的教育カリキュラムのモジュール;
  • 環境教育や持続可能な経済活動に関する研修;
  • 人々との会合;
  • 啓発キャンペーンや行動キャンペーン;
  • 湿地教育センターの設立;
  • 教育機能を持った余暇活動や旅行活動;
  • 博物館などでのノンフォーマル教育プログラムの開発,
    その他多数.

戦略的アプローチ

85.見直しの立案過程のはじめから戦略的に思考することによって,最も関係の深い情報を最も適切な形式で得ることができて,のちの行動計画作りに役立つ.湿地の重要な課題に焦点を当ててそれらを記述し,社会的(含政治的)経済的および環境的見地から理解する.言いかえれば,湿地の課題を人々と関連する多くの状況下で理解しなければならないということである.Box1Box2(8−9頁)にCEPA活動を課題に基づいて分析する例を示したが,CEPA活動を分析し描く手助けになる分析ツールは他にもさまざまある:下のBox11に「意識から行動への連鎖」ツールを紹介する;行列分析(実践ツール4)はCEPAの提供を描き迅速に分析する比較的単純な方法である;SWOT分析実践ツール5)はCEPAの提供を戦略的に分析し,その長所短所,また機会を突き止めるのに役立つ.

Box11 「意識から行動への連鎖」.

意識 知識 理解 関心 行動

本質的に,情報が提供されると意識が高まり,知識が得られ,理解が達成され,関心を引き出し,行動が起こされる.この「意識から行動への連鎖」は潜在的に,思考をまとめるためにたいへん役立つツールである.特にCEPA活動を機能的に分析しようとする際に役立つ.アンケートの際,あるいはCEPAの提供を単純に分類したり分析するといった一般的な場合にも使える.

第1段階:情報の提供が意識を高める

情報を提供したからといって必ず意識の向上につながるわけではない.情報に目標の聴衆がアクセスできなかったり,目標の聴衆やその特質の見極めに誤りがあったりすれば,情報自体がどんなに十分であろうとも期待した結果は達成できない.アクセス不可能の例は,情報掲示板がだれも行かないようなところにある;リーフレットを不適切な場所に置いた;理解されない言語でつくった;情報が公的文書に収録され最も役立てるべきところへ配布されなかった場合など.これらの例は「意識から行動への連鎖」を初期の段階で切ってしまう.

第2段階:意識の向上が知識を育てる

知識を習得するには,情報を消化して加工しなければならない.啓発キャンペーンは情報は提供するが,知識の習得と維持には消化が必要である.これは情報に受動的に触れるだけでは及ばない.知識の習得には,情報の操作と加工を引き起こす双方向の対話が必要であろう.例えば目標グループとの会合において,あるいは情報のフォローアップを提供したり,学校での議論でのように,異なる方向からも情報を探求してみるなどして,このような機会を提供しなければならない.

第3段階:知識が課題の理解を導く

知識が重要性と結びつくと,理解に発展する.知識が慣れ親しんだ状況に置かれると,慣れ親しんだ事態や事情,事実,できごと,関係などと結びつけることができる.このようにして,知識は全体的な理解の枠組みの一部となり,個人が新しいアイデアをまとめたり,成果を予測したり,知識のいる決定をなすことができるようになる.理解を達成するためのアプローチのいまひとつ共通のものは,行動によって学ぶことである.どちらの場合も,知識の習得は個人的経験に結びついたものである.

第4段階:理解は関心を引き出す

この連鎖は絶対確実というわけではない.大人も子どももその生活は自身にとっての重要問題と優先的課題に満ちている.ある課題についての理解がその解決策を見つけ出そうとする関心に転じるには,その課題がその個人自らに結びつくことが一般に必要である.関心は知的なものであるか感情的なものであろう.感情的な関心は,内面化され個人の構造の一部となることによって,根本的に強力である.

第5段階:関心は行動を引き起こす

この連鎖もうまくいくのがしばしばだが,保証されてはいない.行動が発揮されないのは,そのノウハウが欠けていたり,機会が無かったり,優先度が高くなかったり,あるいは時間が無いからかもしれない.無力さにうちひしがれているという単純な場合もあるだろう.例えば『問題が大きすぎる;私に何ができるだろうか?』と.(手順に関する知識を含めた)ノウハウや機会を提供し,自信を築くことにCEPAの重要な役割がある.これらの要素はすべて「能力の向上」の一部であるが,能力の向上にはまたさらに多くの要素を含む.

この「意識から行動への連鎖」モデルは,CEPA活動を分析する際や,当該の活動が連鎖のどこに位置するのか,またその最終目標はどこにあるのかを問う際にも役に立つツールである.活動やその最終目標を異なる位置においてしまい,異なるアプローチを探る方向に向いていることもあろう.およそ最終目標にたどり着かないような場合は,このモデルを用いて,その活動の特徴を明らかにすると,より効力をもって対処することができる.連鎖の過程全体は長く複雑なものであり,個々のCEPAプログラムはその全体を通じた進展を常にねらうものではない.(この技術について第6章の2の実践ツール2にさらに詳しく述べているので参照のこと.)

86.CEPAの実施事項に焦点をあてるために,湿地の課題をCEPAの枠組みの中に位置づけることができる.CEPA活動の見直しはCEPAの枠組みを組み立てるために用いることができる.そのために次のような質問を用いる:

質問 右矢印 機能
どの湿地の課題が重要だと認識されるか? そしてそれはどの社会グループにとって重要か?(異なる関心領域と権限範囲,ならびに異なるレベルを考慮すること) 個々の課題に関連するCEPA活動を,社会において最も関係の深い活動分野やグループ,レベルのどこに向けるとよいか,この質問によって見極める.
各グループにとっての各課題の重要性は? この質問はCEPA活動の内容の選択を導く.
認められた湿地の課題はいかに組み立てられているか? アプローチを決定する:例えば,生態学的アプローチか? 経済学的? 社会学的? あるいは手順に関するアプローチか?
認められた湿地の課題がどのように相互に関連しているか? 最も効果的にかつ効率的に社会に働きかけてゆくには社会のどこから取り組みを始めるとよいかを決める.
認められた課題は十分に広く十分に深く分析されているか? これはCEPAの型とその内容の選択を導く.

87.行動計画において対処する必要のあるギャップを見極めるには,CEPAの需要の戦略的な優先度と現在提供しているものについて集めた情報とを比較するとよい.もちろん実際的でなければならないし,容認できる規模の時間と費用で機能するものでなければならない.重要なことは,CEPAの湿地の課題への関係に焦点をあてることであり,単純にCEPA自体への焦点ではない.課題をより広くそしてより深く理解するほど,鍵になる目標グループや活動者,メッセージやアプローチを見落とす危険性が少なくなる.

手順の原則

88.見直しを実施する精密な方法は地元の状況次第である.実践ツール8に全国レベルでの(環境教育に関する)包括的な見直しの手順を述べるので手助けになるであろう.採用する精密な手順によらず,いくつか一般的な原則があり(Box12)それも考慮する必要がある.

Box12.CEPAの見直しと行動計画作りの立案の際に採る原則.
見直しの立案と行動計画作りの過程を統合する 見直しと行動計画作りの過程を縦並びに立案する.最終的な最終目標は共通し,一方の過程は他方に影響を及ぼす.見直し作業には少なくとも,採集したデータを行動計画作りに用いることができるように処理し分析する方法を注意深く考慮することは盛り込む.なぜならば,例えばデータ収集の段階からの帰結があるからである(段落89−94,段落110−112も参照).
資源を確保する 見直しと行動計画作りには,資源を確保するための目標と,規模を落としたり完了できなかった場合の臨時案も盛り込む.このような案を盛り込んでおくと,うまくいかなかった場合でも,例えば,既存の情報や将来の協働関係に関してそれらの多くを救済できる.決議Ⅶ.28によって条約の普及啓発プログラムへの任意基金も設立された(条約事務局注:ただしこれまで寄付は無い).
明確な最終目標に合意する 湿地の賢明な利用と保全,条約条文,CEPAプログラム,湿地CEPA,見直しの過程とその成果,CEPA行動計画などに関するもの.
明確な実施目標に合意する 実施に関連し,『個別(Specific),測定可能(Measurable),達成可能(Achievable),現実的(Realistic),期限明示(Timed)』(SMART基準[訳注2])であること.
役割と責任に合意すること 見直しの過程を円滑に効率よく進める助けとなる.
全ての最終目標を明示する 全てのレベルの最終目標に注目することが,立案過程や実施過程における決定の方向づけに役立つ.
できるだけ早くから人々の参加を得る 参加者を得るための法的なあるいは同様の効力を持つ根拠が無い場合でも,共通の使命や自分の問題とする意識,恩恵を育成することは取り組む値打ちがある.地域社会参加指針(決議.8附属書)に,課題の解決に関係する人々の十分な早期の参加を得ることの利益が述べられている.
フィードバックのための立案 過程の進展や得られた情報をフィードバックすることは,支援や自分の問題とする意識を築くために,また効力のある実施を進めるために重要である.それは双方向の過程にする.公式なフィードバックは見直し過程のなかに計画し,できるときはいつでも各個人へフィードバックするように手配する.
参加者へ実際的な支援を提供する 有益で,時には必要不可欠であるのは,可能なかぎり材料的に参加者を支援することである.例えば,必要な旅費を提供したり,研修活動を実施したり,資料を提供したり.
直接的な対話が単なる周知連絡に勝る 個人への連絡がより強い協働関係を育む.特に初期段階,参加の可能性のあるひとびとに提案をしたり参加を呼びかけたりする時期に重要である.
可能ならば地元の経験や専門職の経験を活用する 見直しと行動計画の主題ならびにそこに盛り込まれる務めのいくつかは専門的である.可能な限り専門家の専門的技術を活用する.役立つ戦略的立案技能や技術を提供しうる企業もある.社会開発あるいは実践社会学研究者もしばしば参加手段の役に立つ.
立案は詳細なほうがよい 立案段階や最終的なデータ収集,ならびに分析段階に,もっとも多くの時間を必要とするだろう.しかし,効力や方向性の明示,結果として得られる情報としてその分を取り戻すことができる.柔軟性を,例えばいったん確立した活動事項に修正を加える場合のように,正式に盛り込んでおく.そうすればそのような変更についてもみなで議論して扱い,効果的に対話して決定を下すことができる.
計画作りとその進展のための会合をひらく 見直しと行動計画作りをすべての参加者がフォローして建設的に参加し続けるためには,研修ワークショップや相談会,セミナー,進展にあわせた計画作り会合のすべてが必要である.

情報の収集と管理

89.見直しの計画には,見直しのための情報を収集し管理する作業が含まれる.これをつぎの4つの作業に分けると役に立つ.下の節にこれらを各々順に見てゆく:

データ収集

90.見直しの立案にあたってつぎの点を合意する必要がある:

91.データ収集に関する決定は,得られる資源,必要な質問の詳細,分析手段,そしてその後の利用方法に影響される.特に,データ収集の方法は,データセットの形式や質に直接影響を及ぼし,よって分析や質問の範囲にも影響する(Box13).

Box13 データ収集に関する注釈.

定量的データか,定性的データか?

  • 定量的あるいは半定量的データは規格化された形式で収集する.『はい』か『いいえ』を選択する質問を用いるが,しばしば反応の深度や範囲,価値を限定してしまう.定量的データは比較的すみやかに分析できるが,データセットが小さいと過度に単純化した結果になり解釈があいまいになる.
  • 定性的データは規格化されない,あるいはあまり規格化されていない形式で収集する.参加型ワークショップやアンケート等の質問形式を用い,答えを自由に記述してもらうように質問する.こうして得られた定性的データはその解釈や分析にたいへん時間がかかりまたあいまいである.定性的データ収集はより広くより深い領域の反応が得られ,また予想外の反応も引き出すことができる.

アンケートを用いるか?

  • アンケートは多量のデータを,比較的単純にまたすばやく,規格化された形式で得られるので,定量的分析の可能性を提供する.しかし,アンケートには自由記述の質問も含められるので,その場合は上記のとおりの問題が生じる.
  • 有意に質の高い情報をアンケートを用いて得られるのは,経験をつんだ人材が質問を組織立て,アンケートを設計して紹介する作業を手助けした場合のことである.特定の研究論点に答えることが可能なほど十分詳細なそしてあいまいではない反応が成功裏に得られるアンケートを設計するのは熟練を要する仕事である.
  • 最善の結果を得るには,本来の調査対象者に実施する前に,試行しなければならない.試行によって,たとえばあいまいな質問や,役立たないもの,誘導尋問などが明らかになる.また,最も効力のある質問順序を達成するのに役立つ.

データの保管と検索,処理,分析

92.見直しには少なからぬ量のデータの組織化が必要である.これは,少なくとも部分的には,コンピュータでの保管や分析,また発表に適している.しかし,そのようなアプローチが望まれない場合もあるし,そのための必要資源が得られない場合,あるいはデータセットがそれほど大きくない場合もあり,そのようなときはより単純なツールが役立つ.第6章に紹介する実践ツール1(連関の輪),実践ツール2(「意識から行動への連鎖」),実践ツール3(ダート盤),実践ツール4(行列)は単純な方法で,収集した情報を組織立て,検索し,発表する際に,またひきつづき分析し計画作りの過程でも役立つものである.

見直しの成果についての合意

93.参加者にとって必要なデータが他にもあるかもしれない.特定の成果を得るためには,得られる成果の責任範囲やその形式がデータ収集の要素に影響されることから,データ収集の企画段階から注意が必要である.統計的分析を行なうならばそれができる人材も必要になる.作業グループは,生データをそろえてまとまった時点で会合を持ち,分析から何を得る必要があるか合意する.

見直し結果の活用

94.全国的な見直しに必要な資源が得られれば,作業によって得られる価値を最大限にするように取り組む.レビュアの所属組織が生データあるいは見直し結果のみを利用する場合のようにレビュアが過程の一部にだけ参加する場合もありえる.のちのちに苦労しないように,見直し結果の利用に関する次のような質問に,初期のうちに答えておく必要がある: 情報の所有権は誰のものとするか? 情報にアクセスできるのは誰か? その条件は? 情報をどこにどんな形式で保存するか? いかに活用するか? その取扱いをいつまで継続するか? 全ての参加者にこれらの条件と成果を認識させるか? 誰が見直し結果を広めるか?

4.4 時間の配分と尺度

第5章の5も参照のこと)

95.見直し作業の予定表を立案する際は関係参加団体の営業カレンダーを考慮して,潜在的に役立つ機構や催事を用いて容易に見直し過程が進むように企画する.また次の行動計画作りの過程と強く関連させて企画する.国内ラムサール委員会や,条約の地域会合,世界湿地の日,学校での機会,他の関係国際条約あるいは教育関係の会議など,見直しと行動計画作りの取り組みについて啓発する機会となる.これらはまた,重要なレビュアや参加者,あるいは将来の活動者をみつけ,将来のCEPA努力のための協働関係を築く機会を提供する.

96.次回締約国会議(2005年11月の第9回)までに見直しと行動計画作りを完了させるために記述的な見直しを実施したいと考える締約国もあるだろう.決議Ⅷ.31に合意した行動に向けて現実的で目に見えるステップをすみやかにとることもできる.

97.それよりも包括的で戦略的な見直しをえらび,CEPA活動の見直しから行動計画作りにいたる連続的な過程を開始する国もあるだろう.どちらの場合でも,採択された枠組みや見直し結果は,湿地CEPA活動について必要不可欠な基準となる現状評価を提供する.今度はこれが3年ごとに締約国会議にあわせて提出する国別報告書を通じてCEPA活動を報告するための役に立ち,さらに将来のCEPA活動の進展の評価や報告に役立つ.従って,国別報告書に必要な内容についても,CEPA活動の見直し案に盛り込まれるべきである.

98.実践ツール8に述べる全国的な環境教育の包括的見直しの例は,比較的長期(24か月以上)のあいだ集中的に実施されたものである.12名の作業グループ(CEPA特別部会に相当)とその8つの分科会の合計71名が参加し,各分科会はさらに多くの主要な実践者やプランナー(情報提供者に相当)とコンタクトをとった.締約国に水を差すつもりではないが,この例は包括的な見直し過程を実施するにはそれなりの時間が必要な国もあるということを証明している.


第5章:行動計画作りと実施

5.1 はじめに

99.第3章のはじめに述べたCEPA活動の見直しに関する一般的な指摘はまた,行動計画作りの企画と製作に対しても直接的に関連する.読者は第3章を再読されたい.

100.世界中で湿地CEPA活動にかなりの努力が費やされているにもかかわらず,湿地の賢明でない利用や湿地の価値と機能についての理解が乏しい例が広く認められる.CEPA活動はこのような状況を正すことをねらうものであり,慎重に設計された行動計画こそがこの最終目標に貢献する.

101.この章では,CEPA行動計画の組み立てを,前章のCEPAの見直しの結果に基づいて検討する.他の章と同様に,行動計画作りのすべてのレベルの全ての参加者が適用できるような一般的な手引きと提案を含む.この章は次のような質問に答えるべく配置する:

(原注:『誰が参加するか?』という点はすでに第3章で述べた.)

102.概念的に見直しと行動計画作りの過程は共通の最終目標をもち,ひとつの過程の連続するふたつの必須構成要素である.実際に,多くの人々がこれら両方の過程に参加し,実施のための提案に関係する.

5.2 なぜ行動計画を立てるか?

103.CEPA活動の見直しと並行して,行動計画のねらいは多様であり次のような要件を反映する:

104.CEPA指針はこの分野における条約のねらいをつぎのように提示している:

  1. CEPA行動計画の実施における第一のねらいは,つぎのような行動計画をつくることである

    • 湿地の賢明な利用という最終目標へ向かって前進するためには,どのようにCEPAを活用することができるのか正確に説明していること;
    • 優先行動をどこに向かって取り組むのか,また誰が取り組むのか,明確かつ正確に提案していること.

    さらに戦略的なアプローチをとる場合はまた:

    • 優先度が高いと見極められた湿地の課題に焦点をあてていること;
    • 行動計画におけるアプローチが戦略的であること.
  2. このような行動計画を組み立てる際には,つぎのようなねらいを持つこと

    • CEPAプログラムが地元の(環境的,社会的,ならびに経済的な)すべての状況に完全に適合することを確保する;
    • CEPAプログラムが地元のニーズに対して有効に反応できるようにする;
    • 参加型アプローチを採用し,決定や実施の際には地元の人々や先住民へ十分な情報を提供した上での彼らの参加を得て,彼らの知識を取り入れる;
    • 教育現場から熟練した人材に参加してもらうことの利益を認識する;
    • 世界中のさまざな活動分野ならびに社会的ネットワークのさまざまなレベルに既に豊富にあるCEPA関連の専門的技術を十分に活用する;
    • CEPAを適用するための新たな機会を見極める;
    • 湿地の賢明な利用の最終目標に適用できるようにCEPAのアプローチと技術を改善する.
  3. 行動計画の現実的な目的はつぎのとおりである

    • 優先される湿地CEPA行動に関する情報をあまねく広める;
    • 湿地CEPA活動に携わる広範な活動者を励ます;
    • 湿地CEPAのより戦略的な努力の方向性を提供して支援する;
    • さまざまに異なる湿地CEPA活動者に統一されたCEPAの前後関係や理論的根拠を提供する.

105.CEPA指針には,CEPA行動計画は国際レベルから地元レベルまでのすべてのレベルにおいて活用できるように策定すべきことが明確にされている.従って,国内CEPA行動計画は,各々のレベルでその必要に応じて国内計画に統合される各レベルの行動計画を策定することができるように,優先順位を設定し策定のための指針を築く重要な文書となる.国内行動計画の対象者とそれを活用する方法の見極めに,国内行動計画の形式が影響される.国内行動計画を地方行政機関が地元社会レベルでの行動の立案と優先順位づけを導くために活用するといった意図もありえる.従って,各々のレベルの行動計画の正確なねらいと目的には注意深い検討と設計が必要である.

106.おのおのの行動計画がその務めに向けた最適なアプローチを見極めるためにも,その正確なねらいと目的を明確にして合意する必要がある.効力のあるCEPA行動計画には,湿地の賢明な利用,対話・教育・普及啓発の分野における集合的な理解を必要とする.これらのおのおのについてその最終目標やツール,また実施の枠組みを十分に理解しないで進めると,実施に携わる人々に受け入れられ実際にできる現実的な行動計画を設計することが困難になる.実施の鍵になる可能性のある人々の立案への参加が必要である.(用語集に示したような)用いる言葉の意味を参加者と合意して共有し,また行動計画のねらいや最終的な文書があいまいなものにならないようにすることが重要である.

107.Box14に概説した行動計画作りの利益のためには,それだけの投資が必要である.適切な水準の資源が無いと,厳しい困難にも真の対応能力を持ち,しかして実施段階で主となるアプローチを計画に十分に盛り込めないといった危険性を招く.行動計画を,立案から実施そして見直しという連続するひとつのプロセスの開始として認識する.

108.Box14に,さまざまな実践分野での経験を持つ人々にとって行動計画作りに参加する利益を概観する.ここに選び出された利益は,適切な場合,行動計画作りを導くためにその手順のねらいに盛り込むこともできる.これらの解説は(第4章の3に記述した)戦略的アプローチと密接に結びついている.

Box14.現実性をもつように,また参加型手順をとって,十分に組み立てられた行動計画は,役立つ保全管理ツールとなり,参加団体ならびにその活動に利益をもたらす.
.十分に組み立てられた行動計画は次の内容を明確にする:
 ●なにをなすべきかここで,行動計画の効率を高めるためには:
  • 行動の優先順位づけが必要である
  • 最終目標の不適切な解釈を最少限にする
  • 資源の不適切な使用を減らす
  • 実施段階においてまで企画者への再照会を繰り返す必要が生じないようにする
 ●いつなすべきかこれを定義することは:
  • 行動の優先順位づけを必要とする
  • 詳細な企画が奨励される
  • プロジェクトの段階的な実行の必要性があれば強調する
  • 実施期限を管理して進行の遅れを察知する助けになる
  • どの発展段階においても問題を見付ける助けになる
  • 進展をモニターする助けになる
  • プログラムをスムースに時間に正確に進行する助けになる
 ●誰がなすべきかこれを定義することは:
  • 実施者にいつでも自身の優先活動を思い起こさせる
  • 管理者が問題を見つけてその解決策をより効率的に見つけ出すことを可能にする
 ●誰がその完了を確かめる責任を負うかこれを定義することは:
  • 問題に対処する鍵になる人材を見極める
  • プロジェクト管理の効率を高める
.保全管理ツールとして行動計画は次の作業の助けになる:
  • 行動を優先順位づけする
  • 資源を配分する
  • 進行をモニターする
  • 報告のための準備となる
.参加型過程をとって組み立てられた行動計画は,つぎのような利益をもたらす:
  • プロジェクトの最終目標の共通理解
  • 理解やアプローチにおいて手に負えなくなる危険性のある相違を早期に一致できる
  • 達成すべき最終目標がなにで,だれが,いつ実施するかを合意できる
  • 主要な活動者がプロジェクト全体を統合的に理解できる
  • 各個人が自身の行動の必要性とそのタイムリーな完了の必要性を理解できる
  • 参加者各個人への動機付け
  • プロジェクトに対する幅広い支持者層の確立
  • 一連の関連資源の見極め
  • 主要な活動者ならびに重要な外部要因に関連して,行動計画の内容を最適なものにできる
  • 長期的な実施費用を減らすことができる:例えば,人件費,材料資源,政治的所要時間

5.3 何を盛り込むか?

扱うトピック

109.行動計画の最終的な文書はつぎのようにする:

  • 目的,ねらい,聴衆を設定する.
  • 文書とその主題を位置づける.
  • 誰がこの文書を利用して活動するかを説明する.
  • この文書の製作過程と方法を説明する.
  • 起案からまとめまで参加した人々の名前のリストを含む.
  • つぎのような見直し結果を盛り込む:
    • 湿地CEPAの現状の記述
    • 今後の取り組みのために必要な現状からの変更点の評価とその理由
    • 現在までに湿地CEPAが提供してきたものの容量の評価
    • すでに在るものの理解が進んでいない機会.
  • 湿地CEPAを前進させるために必要な優先行動を提案する.
  • 各提案行動について潜在的な実施者を明示し,適切ならば時間の尺度も示す.

.上記の内容面を3つにわけてさらに詳しく検討する:(Ⅰ)見直し結果の盛り込み,(Ⅱ)優先行動の提案,(Ⅲ)潜在的な実施者の選定.

(Ⅰ)見直し結果の盛り込み

 (段落89−94のデータ収集の立案とその利用も参照のこと.)

110.見直し作業におけるデータは,行動計画に必要な整理と異なって類別されているかもしれない.見直しの結果に基づいて行動計画の目的や焦点が変るような場合もそのような整理の変更が必要となる.このような変更が達成されるかどうかは,見直しの元データを異なる整列で再操作する能力による.これが,例えばアンケートやデータベースの設計のような初期の注意深い企画づくりが成功を導く所以である.

111.見直し結果をデータ収集と同じ構成で盛り込むこともできる.例えば活動分野ごとにまとめると,読者が自分の関心に基づく最適な入り口を見つけることも容易になろう.しかし,文書を記述的より戦略的なものにするためには,後ろの節で配列を変える必要があるだろう.例えば,見直しによって優先的な注意が必要な特定の湿地の課題や行動が強調される場合があろう.(特別な湿地の価値や機能のようにプラスのものも湿地の賢明でない利用のようなマイナスのものも含めて)優先課題に従って行動計画や関連する提案を配列すると,読者の考えが将来自分も貢献しようといった戦略的なアプローチに同調させるために適切であろう.

112.CEPAの現状評価は,これまでのCEPAの提供状況の単なるカタログに終わらしてはいけない.例えば,CEPA提供の現状を記述する節では,さまざまな活動者グループを紹介し,彼らが果たす湿地の賢明な利用(あるいは読者や潜在的な実施者に関係するその他の状況)に貢献する彼らの役割を解説し,その役割の成果を示し,また直面している障害や困難を記述する.これは本質的に見直し結果の記述的な処理であるが,自然と引きつづく節において将来に向けての戦略的な提案を導く.実践ツール5SWOT分析(「強みあるいは有利点(Strengths)」対「弱みあるいは不利点(Weaknesses)」,ならびに「機会(Opportunities)」対「脅威(Threats)」とを並行させて対比させる並行対比分析のひとつ),あるいは実践ツール2の「意識から行動への連鎖」(Box11)が見直し結果を解釈する際に役立つだろう.

(Ⅱ)優先行動の提案

113.見直し過程からの情報を用いて,将来の行動の主要な領域や潜在的な実施者が見極められる.ここでは,湿地の課題の見極めることや,これまでにCEPAが提供してきたものをレベルやアプローチ,活動分野,課題などに従って評価が可能な限り見極めること,将来必要な行動などを見極めること,そして見極められた行動に優先順位をつけることが必要である.行動計画では,誰に向かって提案するのか,また優先順位づけや緊急性の理論的根拠も明確にする必要がある.

114.どんな行動が将来のために適切なのかを決定する鍵になる要因は,『将来』とはいつを指すのか(たとえば,5年後,10年後,あるいは50年後なのか),ならびにその『将来』はどんなふうに見えるのか!といった点を合意することである.これを議論しなかったり合意しなかったりすると,解決策の合意もうまくいかないだろう.実践ツール6(展望)が,この議論にアプローチする際に役立つ可能性のある技術を提供する.

115.実践ツール4(行列)は,最終的な提案を提示するのに役立つ方法であり,この点でとても迅速に用いることができ理解することができる強みがある.読者は自身の関心領域や潜在領域を見つけて,それに関係するテキストの部分に効率的に導かれうる.

116.戦略的にCEPAが提供するものを分析して,その強みや弱みおよび機会を見つけようとする場合は,繰り返し,SWOT分析(実践ツール5)が役立つ.

117.見直しデータの分析によってCEPAが提供するものの欠落や将来の活動の可能性がある領域をいったん見極めれば,行動計画に将来の活動を見極めて優先順位づけする必要がある.この点で役に立つ可能性があるのは,一種の『利害関係者分析』の採用であろう.この分析では,主要な利害関係者とその利害,手順の知識と専門的技術が見極められる.ここでの脈絡においては,CEPAが提供するものの位置や型ごとにというよりも,見極められた湿地の課題の観点からこの技術を応用することが提案できる.利害関係者分析についてのより詳しい記述は,環境と開発に対する参加型アプローチを扱うテキストにたとえば見られる.

118.英国の実践社会学研究者グループが利害関係者分析を別の良く知られた技術マルチクライテリア分析multi-criteria analysis (MCA))と結合させた.その結果が「利害関係者決定分析」で,地元住民による水関連の課題の優先順位づけのために成功裏に用いられた.実践ツール7にこの技術の概要を記載してある.

(Ⅲ)潜在的な実施者の選定

119.行動計画の蓋然性を最大限にするために提案行動の各々について実施者を選定する.明確で理解しやすい形式で情報を提示することが大切であり,それには行列(実践ツール4)を用いるとよい.行動計画実施責任をもつ法的権威が無い場合は特に,NGO分野が湿地CEPAを提供する主要な役割をにない,彼らのこの領域における専門的技術を必要とするので,このことが決定的である.

120.二番目に確かな選定実施方法は,優先行動が見極められ提案がまとめられた段階で,可能性のある実施者と相談することである.

121.よいアイデアのひとつに,提案を異なるタイプやレベルで示して,さまざまな範囲の能力や関心領域をもった潜在的実践者を引き入れようとすることがある.提案を3つの方法で提示してみる.第一は一般的で戦略的な提案セット(『湿地教育を地元社会のリーダーが活用するように適応させ強化して提供する』).第二は特定の活動分野にねらいを絞る(『地元の漁業組合のリーダーが活動できるように強化して適応させた湿地教育を提供する』)第三は主要な対象団体にねらいを絞る(『漁業組合は組合員に沿岸漁業における賢明な利用を目的とした教育的機会を提供する』).このようにすると,どのレベルの従事者でも,どの活動分野でも,貢献可能な戦略的ポイントが見極められる.これは,より現場に近いレベルへCEPAを提供するのを促進するための方法,ならびに広い範囲にすぐに提供しなければならないようなCEPAを方向性をもって首尾一貫した湿地CEPAの取り組みに組み込む方法として代表的なものである.条約担当政府機関自身が実施する優先的CEPA行動を提案することもできる.そうすれば,その機関がCEPA活動を既存の条約のシステムや機構に統合する手助けになる.

5.4 行動計画の戦略

122.行動計画を策定する際に,ふたつの実際的な戦略,すなわち「ブランド戦略」と「統合的戦略」のどちらをとるか決めるとよい.下にこれらふたつについて簡潔に述べる.決議Ⅷ.31はCEPA行動計画に向けては統合的アプローチをとることを奨励していることに注意.戦略的な枠組みやアイデアに関するより詳しい議論として Huckle & Sterling (1996) が参照できる.

ブランド戦略

123.ブランド戦略とはここでは,ラムサール条約という「タグ」を明示的につけたものを意味する.このような戦略をとるプログラムや活動は,このブランドの一部であり,またこのブランド(すなわち,条約)自身の目標とその主張(すなわち,湿地の保全とその賢明な利用)と関連する目標をもっているだろうと確認できる.たとえば,世界湿地の日は条約ブランドのCEPA活動である.

124.条約ブランドのCEPAプログラムは,条約が理解され,プラスのイメージをすでに獲得していて,活動者や目標グループが条約はよい方向への変化をもたらしてくれると理解している場合に最も,効力を発揮するだろう.条約があまり理解されていないけれどもマイナスのイメージも支配的ではないような場合もまだ,効力がある.また,目標グループにとっても条約とその活動を刺激する現実の機会となり,またそれによって彼らが得る利益もあるだろう.

125.条約ブランドのプログラムが適切であると決定するということが,プログラムの立案と実施の重荷を条約の担当政府機関だけがになう必要があるということを意味しているわけではない.最適なプログラム参加者はこれとは別に決める.

統合的戦略

126.統合的戦略は特定のブランドに属するものほど見分けるのは簡単ではない.それは戦略のプログラムのホストとも見える既存の機構や構造を通じて演じられるからである.統合的CEPAプログラムは条約自体の最終目標や名前とともにもっぱら実施されるわけでもなく,必ずしも明示しているわけでもない.にもかかわらず,条約の最終目標とその最終目標を共有しそれにむかう意図を持って進められる.このようなプログラムや枠組みにはつぎのような内容を扱う人々の参加を得る:教育(公的,インフォーマル,ノンフォーマルのすべて);沿岸域ならびに淡水域の保護;健康と福利;地元社会の問題;生物多様性の保護管理;水管理;土地利用計画;政策づくりなど.各々の枠組みはこれらの人々の機能によって特徴づけられるのであり,彼らの具体的な独自性や活動分野,活動レベルによるのではない.適切な戦略を決定する際はまず機能に焦点をあてると有益である.そして見極められた各々の機能について,関連する活動分野ならびに適切なレベルにおける具体的な組織的独自性にその機能を移してゆく.

127.統合的アプローチの利点をつぎに列記する.(もちろん,状況によってはこれらの利益の少なくともいくつかが理解されないこともある.また統合的戦略に付随する不利益も必然的にあることを念頭におく.)

5.5 時間の配分と尺度

第4章の4も参照のこと)

128.見直しと行動計画作りは,CEPAが提供するものの基準を確立しその変化をモニタリングするために役立つ枠組みを提供する.CEPAに対する注意を継続するための構造的なかつ進行中の過程として3年ごとの条約への国別報告書がその代表に挙げられる.見直しと同様に,行動計画は,一度つくったら終わりではなく,CEPAの提供の立案と見直しが循環するひとつのプログラムの開始と見る.このようにみなして適切な資源を与えることができれば,これは条約の実施に有意な貢献を果たす.

129.締約国各国は,見直しから行動計画作りそしてその行動計画の期間のために,自らの予定表を立てなければならない.実践ツール8に例示したような包括的な全国レベルでの見直しに1824か月,さらに行動計画作りに618か月かかることもある.このように時間がかかることが,締約国をおじけづかせて,彼らがCEPAプログラムを早く進めようとしてあまり包括的ではないアプローチをとるようなことがあってはならない.

130.時間配分には適切なレベルで条約の実施カレンダーを反映させる必要がある.例えば,国内行動計画は印刷発行の前に条約担当の政府機関に提出する.[条約の]地域レベルでの行動計画作りは,条約の地域会合を通じて進められるであろうから,国内レベルの場合よりもその過程はゆっくりになる.

131.CEPA関連の企画会合のタイミングも,国内ラムサール委員会あるいは同等機関の会合で,また関係する他の条約の同様の会合において,例えば見直しに向けての議論をすると,それらのタイミングに多かれ少なかれ影響される(第4章の4).

132.CEPA指針によって締約国は自国の国内CEPA行動計画を条約事務局に提出することを求められている.また,各締約国会議においてもCEPA活動の見直しと行動計画作りに関する進捗状況を[国別報告書のなかで]報告しなければならない.3年ごとの会議というのはまた,条約の広報プログラムの最終目標への進展のために,技術会合や交流・研修ワークショップなどを通じて役に立てることができる.

133.締約国は,3年ごとの締約国会議や条約の地域会合にタイミングをあわせて,湿地CEPAの立案と見直しが循環するプログラムを決めることもできる.多くの教育アプローチに長時間のずれがあるようならば,10年間くらいの長期的な戦略立ても合理的でないこともない.そのような場合であればその10年のうちにより短かい間隔で行動計画自体は見直しと修正を施せばよい.できあがった行動計画の包括的な見直しと修正は,3年か6年ごとに計画すると,国別報告書の一部として改訂されたCEPA行動計画を条約に提出することができる.このような決定は,見直しと行動計画作りの過程のはじめに行なう.


第6章:実践ツール

6.1 はじめに

134.この章では,CEPA活動の見直しと行動計画作りに含まれるいくつかの務めを実際的に補助するツールを選んで紹介する.読者の多くはこのような補助ツールの大きなキットを持っていることだろう.ここに選んだものは異なる活動現場での経験を持つ人々向けである.これらの技術に関する詳しい文献はつぎのような活動分野に関連するテキストに見つかる:教授と教育,プロジェクトの立案と管理,事業計画,参加型アプローチと社会科学的フィールドワーク技術など.「湿地の賢明な利用のためのラムサールハンドブック」第2版の第6巻(Ramsar Convention Secretariat 2004c)にも地元社会の参加についての数多くの役立つ資料がある.またIUCNが価値ある資料を作成しており,そのカタログはIUCNのウェブサイト www.iucn.org から得られる.

6.2 実践ツール

135.下に選んだツールは,さまざまな状況下でも用いることができるように順応可能である.各々を用いる方法を,CEPA活動の見直しの企画や分析,ならびに行動計画を起案する際に発生するであろう具体的な作業に関連させて説明する.これらはどのレベルでも実施の際に適用できる.以下には,各ツールを適用できる作業について記述した章や節も参照してある.


ツール1:連関の輪(Consequences Wheel訳注3

連関の輪はつぎのような場合に役立つ:

説明:湿地で問題になることを中央にまず置き,その問題と直結する課題を外側において線で結ぶ.背景の同心円は実行レベル(地元社会地方[条約の]地域国際レベル)を表すこともできるし,単純に中央の問題からの帰結の段階を示してもよい[訳注:従って例のような4段階でなくてもよい].このようにして,関連する課題の相対的な位置やその関連性を視覚的に容易に築き上げることができる.そうして今度は,多数の他の課題と結びついている鍵になる課題が見極められ,優先的なCEPA活動の方向づけが可能になる.このような収束点を強調することもできるし,適用するCEPAの形式を異なるシンボルを用いて示すこともできる.

ツール1:連関の輪の模式図.


ツール2:「意識から行動への連鎖」(Awareness-to-Action chain

「意識から行動への連鎖」については,Box11にいくぶん詳しく記述したが,これは次のような場合に役立つ:

説明:CEPA活動あるいはその資源の機能や効果に,この連鎖のどの位置にあるかという指標を与えるだけで,標準化された方法でそれらを評価したり記録したりできる.CEPA活動の機能の位置はこの連鎖の上で評価され,適切な指標で記録される.もちろんこの方法やその結果は記録されてはじめて分析に値するが,標準化されていないために分析が困難で時間もかかってしまうことを避けられるという利点がある.この連鎖の概要を,用いる指標とともにアンケートの返答者やケーススタディを評価するレビュアに提供すれば,例えば,彼らが集合的に分析に供することのできるような標準化された評価の結果を生み出すことができる.このように,見直しデータの収集と分析,ならびに優先行動として合意されるCEPAの型の枠組みづくりがたやすくなる.

ツール2:「意識から行動への連鎖」の模式図.


ツール3:ダート盤(Dartboard

ダート盤は次のような点についての見直し結果のまとめを提示したり比較したりする際に役立つ:

説明:同心円は異なる実行レベルをあらわす.放射状の区分けは,異なる活動分野でも,活動者,目標グループ,あるいはCEPAの型など,提示しようとする結果の内容区分を示す.データの合計数量を記入して,分析しようとする要因間の比較を簡便に行なう.例えば,異なる活動分野と異なるレベルで,活動者の人数でそのCEPAの努力を評価する.そのためにこのダート盤に見直し結果として得られた活動者の合計数を各分野,各レベルの位置に記入して比較する.ネットワーク形成の中心となっている活動分野等を見分けるためには,同心円で各団体が他団体と連絡を取り合った頻度を階級化して表してみるとよい.この場合,放射状の区分けは,例えば団体のタイプでわけてもよいし,活動分野,実行レベルなども考えられる.同心円は例えば,1週間にあるいは1年間に,連絡を取り合った回数をつぎのように階級化する:5以下,6−10,11−25,26以上.そしてそれぞれの活動分野と連絡頻度の階級に含まれる団体の名称をダート盤に記入する.このような情報はアンケートの返答からつくることができる.

ツール3:ダート盤の模式図.


ツール4:行列(Matrix

行列はつぎのような目的に用いることができる:

説明:数多くの二次元の情報セットが見直しデータの分析や将来に向けての行動計画作りには必要である.例えば,CEPAの課題とそれに関係するプログラムを提供する活動者の組み合わせ,活動分野とそこで実施されるべき優先行動の組み合わせなど.行列はこのような情報セットの関係を示す簡単な手法である.適当な記号や数字を行列の中に記す.下の例では『○』と『●』を用いて各々の優先活動を先導してすすめることが期待される団体を示している.

活動分野 CEPA参加者 学習環境
家庭 学校 仕事 余暇 社会
中央政府 A省













B省

















C局


















条約担当政府機関



















地方行政 A部





B部


















C部















企業 A産業協会












A産業研修指導者

















A産業研究所


















非営利団体 A環境NGO













A健康NGO















A開発NGO















注記
a−eは,各学習環境における最も優先度の高い5つの行動で,それは見直しの分析より得られ,またその内容は本文に記述する.

●印はその活動を先導する団体;
○印はそれ以外の活動実施団体.

ツール5:SWOT分析SWOT Analysis

SWOT分析[訳注.「強みあるいは有利点(Strengths)」対「弱みあるいは不利点(Weaknesses)」,ならびに「機会(Opportunities)」対「脅威(Threats)」とを並行させて対比させる並行対比分析のひとつ]はつぎのような目的に用いることができる:

説明SWOT分析は,提案されるアイデアや分析事項(例えば,戦略の提案)に連想される強み,弱み,機会,脅威の4つの条件を記録することがまず必要である.強みと弱みは内的要因と考えられるが,機会と脅威は通常プロジェクトやアイデアあるいは分析主題の外部に発生する.SWOT分析は,理にかなった解決策を見出すのに役立つ.下に示したようなSWOTの表に分析から得られる結果や可能性をつぎのように記録する:いくつかの弱みといくつかの機会がある場合,可能性のある結果はなにか,解決策に向かうにはどうすると良いか.分析を繰り返して,解決策への可能性のあるアイデア(可能性のある戦略)をいくつも考え,その結果を比較する.


強み

1.
2.
3.
4.
5.
弱み

1.
2.
3.
4.
5.
機会

1.
2.
3.
4.
5.
強みと機会の結果や可能性 弱みと機会の結果や可能性
脅威

1.
2.
3.
4.
5.
強みと脅威の結果や可能性 弱みと脅威の結果や可能性

ツール6:展望(Visioning

展望演習は次のような場合に役立つ:

説明:展望演習の基礎になる原則は(いくつもの解釈があるが)将来あるべきすがたの集合的な展望に達することができないでいては将来へ向けての建設的な変化は促進できず引き起こすこともできないということである.従って,この演習のねらいは,現在の状況と望むべき将来の姿とのあいだの明白な違いを見極め,そしてその違いのあいだを橋渡しする方法を見つけ出すことである.以下の展望演習は Sterling (1996) に基づくものである.この手法は次のような点を検討する際に用いる:湿地の保全と賢明な利用の将来,湿地CEPAの提供の将来,あるいはそれらの全ての面(たとえば,過程,成果品,目標など),将来一般になすべき教育,その他将来にかかる実際全ての要素である.ここではたとえば,[条約の]地域ならびに関係する国における水に関する教育を考えてみる.まず,どのくらいの将来をこの演習の範囲とするか合意する.50年先の将来を見ることにし,それまでのあいだ合意された行動計画の期間を繰り返してゆくことにする.

第一段階は『可能性のある将来』を考える:『いまから(50年)後の(水教育)はどのようなものだろうと自分は考えるか?』という質問に対する答えを列記する.つづいて,『いまから(50年)後の(水教育)がどんなものであってほしいと自分は望むか?』という質問に対する答えを2番目に列記する.こうして,自らの頭の中にあるこの二種類の展望のあいだの違いを認識し,どの程度違うのか,なぜそのような違いがあるのかを考えることができる.

第二段階は,自分の中にある展望へ向けての明白な道筋を記録する.つづいて,自分が描く将来展望に到達するためにとりうる道筋について,必要と考えられる手順の列記も含めて,考えられるすべての側面を記録する.

最後の段階は,グループ(たとえば行動計画作りチーム)で集まって演習する.各々自分のノートを用いてグループの他のメンバーと議論し,湿地CEPA活動の将来の最終目標を明確にしてそれに到達するための明白な道筋を見極める.最終目標にたどり着くまでの立案のスタート地点は,見直し結果が得られた『現在』時点とする.

このような展望によって,いくつかのアプローチの難易度や速度,ならびに効能を比較して強調され,またどのアイデアが(ふつうその演習グループ内で)最も受け入れられるかが示唆され,最終目標や戦略の優先順位づけの助けとなる.あるアプローチが難しいとメンバーが合意したからといって,その最終目標や戦略を採用するのは賢明ではないと,必ずしも意味するわけではないことに注意すること.正確には,ただ戦略が困難であるからこれまで採用されていないということである.しかし,それが優先的な最終目標を達成するための鍵になるようなものならば,戦略的立案の観点から十分に検討するに値するだろう.


ツール7:利害関係者決定分析(Stakeholder Decision Analysis

利害関係者決定分析(Clark et al. 1998)はつぎのような場合に用いる:

説明:これは,提案される行動や課題について,利害関係者とのコンセンサスづくりを通じてそれらに優先順位を与える手法である.見直しの結果から重要な課題が見極められて,見直しチームが行動計画作りのためにそれらに優先順位をつけたいときに用いることができる.あるいは,提案項目の優先順位づけの際に応用できる.

第1段階:当該の課題に関して専門職的に関心や責任があったり,現場での知識をもっている利害関係者の中から,この作業に参加するグループを募る.課題に応じて必要とされるグループや務めの目的によってその構成もさまざまであろう.集まった利害関係者グループには,CEPAの見直しと行動計画作りについて,ならびに彼らに取り組んでもらいたい務めの目的などをやや詳しく説明する.この説明は作業に入る前に行なう.利害関係者の各メンバーには過程の進行に応じて,見極められた主要な課題を提示した計画書文案,あるいは提案のドラフトを手渡す.

第2段階:利害関係者グループのメンバーは,各々の課題または提案活動について,損失と利益ならびにマイナスの影響を受ける可能性(すなわち,コスト,ベネフィット,リスク)を個人ごとに評価する.

第3段階:主催者はワークショップを開いて,すべての利害関係者グループのメンバーに,文書案や欠落している課題や行動がないかなど議論を促す.こうして利害関係者グループは各課題または提案行動について,個々人の損失・利益・リスクを対照して,集合的な利害関係者グループとして合意できる損失・利益・リスクの包括的一覧をまとめる.

第4段階:ワークショップが終了する時点で,利害関係者グループには次の段階について説明する.それは,そのつぎに企画されるワークショップまでに,メンバー各個人は課題または提案行動に優先順位をつけるために役立つ基準のアイデアを考えておくこと.

第5段階:主催者は2回目のワークショップを開く.そこでは,利害関係者グループが,各自が持ち寄ったアイデアに基づいて,優先順位づけのための基準の最終的な包括的リストをつくりあげる.つづいて,つぎの務めの説明をする.

第6段階:各利害関係者グループのメンバーは各個人めいめい,包括的リストに挙げられた各基準項目に対して,課題または提案行動の優先順位を評価する際に役立つかどうかを点数(100点満点)で評価する.点数を与えたら,それを主催者へ送り,主催者は集計して点数の高いものから10の基準(トップ10)を選定して平均点数とともに示す.

第7段階:主催者は3回目のワークショップを開く.そこでは,利害関係者グループのメンバーをいくつかのグループに分けて,トップ10の基準の各々を課題または提案行動の各々に用いて優先順位を与えてゆく[訳注:結果として各課題または提案行動に10種類の優先順位が与えられる].優先順位は『高・中・低・不要』の4ランクのどれかで与える.各ランクに点数を与える:高=3点,中=2点,低=1点,不要=0点.課題または優先行動ごとに,10種類の基準について優先順位の点数にその点数を与えた基準の[第6段階で集計された]平均点数を掛けたものを合計する.こうして得られた点数に基づいて,各々の課題または提案行動にランクがつけられ,優先順位が与えられる.提案行動の場合はさらに,近接するふたつの行動のあいだに10点を越える差が開いたところで区切りを入れてグループ分けする.利害関係者グループに次の最後のワークショップについて説明する.

第8段階:主催者は,3回目のワークショップの結果として得られた課題または提案行動の優先順位をまとめて,各メンバーに配布し,第4回の最終ワークショップまでに検討しておくよう依頼する.

第9段階:主催者は第4回のワークショップを開く.利害関係者グループのメンバーは優先順位づけについての最後の議論を交わし,いくつかの小グループに分かれて作業して各々のランクに合意する.正確なランクの順序は問題ではなく,グループ分けされたあいだで課題または提案行動は移動させても構わない.メンバーが合意すればある課題または提案行動を別の優先順位グループに上げ下げしてもかまわないが,ひとつを下げた場合はなにか別のものを逆に上げる(逆も同様)というふうに扱う.作業の小グループのメンバー全員がその移動に合意する必要がある.そして,全体の会合で小グループからの提案を議論し,どんな変更も全体で合意する.

この方法を用いる場合は,扱う課題または提案行動は24件以下にすること,ならびに見直しと行動計画作りの過程で可能な限り早くからこれら利害関係者の参加を得ることが推奨される.可能な場合は,優先順位づけのために課題または提案行動をリストアップするところにはもう参加してもらう.


ツール8:見直しと行動計画作りの手順と時間の尺度の例

下の図に,英国スコットランドで実施が採択された環境教育に関する全国レベルでの包括的見直し作業ならびにその結果を基にした戦略づくりの過程を示した.この作業は[英国政府]スコットランド大臣が委託したもので,そのために作業部会を設立した.同作業部会は12名からなり,活動資金は法定の保全機関であるスコットランド自然遺産公社(Scottish Natural Heritage)を通じて提供され,同公社が事務局サポートに従事した.同作業部会の委託事項ならびに文書の目次を次に示す.

時期活動主体活動活動2条約における同等のもの

英国政府スコットランド省
条約担当政府機関


作業部会設立


同部会委託業務設定CEPA担当窓口





1990年同作業部会:12名
CEPA特別部会


各メンバーの経験に基づく報告

少数メンバーによる運営委員会の設置
メンバーへ進捗状況の案内

全活動分野へ関心を確かめる一般的アンケート配布

結果を記録するデータベースの構築

文書や受け取った資料の保存室を設置

教育ならびに環境団体の主要な人材に諮問

「学習状況」の見極め

「学習状況」に基づき,外部の人材も取り入れて,分科会を設置.



8分科会:71名
レビュア


全分科会が会合をひらき,各分野の責任についての専門家の意見を取り込む

各分科会がおのおのの分野における見直し結果の報告を起案する


1990年12月−協議会議開催:各分科会が報告のまとめを発表し参加者からの意見を求める
1992年10月


各分科会が最終報告書を作業部会へ提出
1991年9月−作業部会が潜在的な実施団体の主なものと,提案内容の実行可能性について相談
1992年12月


「学習状況」の構造にあわせて,作業部会が戦略の最終案を起草.メンバーの幾人かが編集グループとして活動.
1993年国内教育戦略
国内CEPA計画
4月
スコットランド省へ提出し,戦略の開始前にパブリックコメント実施実施前に政府担当機関へ提出

スコットランドにおける環境教育作業部会への委託事項,1990年設立:

スコットランドにおける環境教育作業部会の最終報告書の内容一覧The Scottish Office (1993) より.
この報告書は何についてのものか
第1章 スコットランドにおける環境教育の発達
第2章 スコットランドにおける環境教育の見直し
中央政府およびその機関
地方行政機関
学校
高等教育および研修
商業と工業
農業分野
土木建築業
自発的分野
青年分野
芸術
メディア
宗教的組織
健康教育
開発教育
第3章 環境教育の学習内容
家庭学習
社会学習
余暇学習
学校教育
社会人教育
職場学習
第4章 全国環境教育戦略
全国的戦略の基礎
鍵になる需要と機構
戦略的提案事項
スコットランド大臣ならびにスコットランド省への提案事項
種々の実施団体への提案事項
実施提案事項
資源と時間割り
期待すること
添付資料 A:作業部会と分科会のメンバー
B:作業部会の委託事項
C:作業部会の作業過程
D:セミナー
E:環境教育の発達における主要なできごと
F:環境教育がもつ主要な特色
G:助言者の一覧
H:文献一覧
I:略称一覧


文献

Clark, J; Burgess, J; Dando, N; Bhattachary' D; Heppel, K; Jones, P, Murlis; J and Wood, P (1998). Prioritising the Issues in Local Environment Agency Plans through Consensus Building with Stakeholder Groups. Project Record W4/002/1. Environment Agency, Bristol, UK.

Downs, E (1992). 'DE: a typology'. Unpublished thesis, Department of Environmental Management, University of Central Lancashire. UK.

Fien, J (1993). 'Ideology critique and environmental education', in Fien, J Education for the environment -- critical curriculum theorising and environmental education. Deakin University. Australia.[ジョン・フィエン著,石川聡子他訳.環境のための教育−批判的カリキュラム理論と環境教育.東信堂,2001年.]

Gilbert, N (ed.) (1993). Researching Social Life. Sage.

Hicks, D (ed.) (1994). Preparing for the Future: notes and queries for concerned educators. Adamantine.

Huckle, J and Sterling, S (1996). Education for Sustainability. Earthscan.

Mayo, M (1997). Imagining tomorrow -- Adult education for transformation. National Institute of Adult Continuing Education, Leicester, UK.

Pimbert, M P and Pretty, J N (1997). Parks, people and professionals: putting 'participation' into protected-area management. In: Pimbert, M P and Ghimire, K B (eds) (1997). Social change and conservation. Earthscan.

O'Riordan, T (1989). 'The Challenge for Environmentalism' in Peet, R, and Thrift, N (eds) New Models in Geography vol 1, Unwin Hyman.

Ramsar Convention Secretariat (2004a). The Ramsar Convention Manual: a Guide to the Convention on Wetlands (Ramsar, Iran, 1971), 3rd ed. Ramsar Convention Secretariat, Gland, Switzerland.

Ramsar Convention Secretariat (2004b). Ramsar Handbooks for the wise use of wetlands. Handbook 5: Establishing and strengthening local communities' and indigenous people's participation in the management of wetlands. Ramsar Convention Secretariat, Gland, Switzerland.

Ramsar Convention Secretariat (2004c). Ramsar Handbooks for the wise use of wetlands. Handbook 6: Promoting the conservation and wise use of wetlands through communication, education and public awareness -- The Outreach Programme of the Convention on Wetlands. Ramsar Convention Secretariat, Gland, Switzerland. (The Handbook contains the text of the Convention's CEPA Programme 2003-2008, as annexed to Resolution VIII.31 and adopted at the 8th Conference of the Contracting Parties in Valencia, Spain, in 2002.)

Sterling, S (1996). Education for Sustainability: experience of change through education. Study Guide for the South Bank University MSc in Environmental and Development Education, Unit 7. South Bank University, London.

The Scottish Office (1993). Learning for Life. A national strategy for environmental education in Scotland. The Scottish Office, Edinburgh, UK.


CEPA用語集

対話communication

対話は考えを双方向に交わすことである.返答によって得られる情報を受け取ることが含まれる.従って,思考によって加工されて返答される情報を必要とする.ポスターを配布すること,厳密にはこれは対話ではない.教育あるいは普及啓発の目標を達成する方法を議論するとき,自分たちの行動の目的を正確につかむことが重要である.

教育education

『教育』はしばしば『学校教育(schooling)』の意味に用いられるが,それ以上である.教育は,さまざまな『学習環境(contexts of learning)』において一生涯続くものである(段落35参照).

『教育』の正確な意味にコンセンサスは無く,この用語は常に注意深く見て,その言葉がそこで意図している最終目標や過程を限定しなければならない.そのような場合は『ここでいう教育はひとの一生涯にわたるものか?学習者の状況に関連するか?』とか,『誰のアイデアや価値が学習者に吸収されるか?』,『ここでいう教育プロセスの結果が参加する人の能力を築くものか?自分自身の知識や理解ならびにアイデアに従って行動するための動機づけや技能向上に結びつくか?』といった重要な疑問で明らかになる.どのようなタイプの教育を実施しようと決めるかといった議論の際にも,このような疑問を考えることが重要である.教育は,学究的にもなりうるし,手助けにも,また,学習者のニーズに焦点をあわすこともできる.『持続可能性のための教育(Education for sustainability)』は成長分野であるが,ここでもまた,その意味や精密な最終目標についてのコンセンサスは得られていない.一般的にこれは,自然環境と人間社会との接点に置かれており,ひとびと各個人ならびに社会の能力を,環境的にも社会的にも持続可能な道筋で暮らしてゆくことができるように発達させることを追及する.

『フォーマル教育(Formal education[訳注:ここ以外では公的教育と訳した])』は学校や大学で行なわれるものである.『ノンフォーマル教育(Non-formal education)』は公的システムの外部で実施されるものをいうが,特別な関心や青年グループなどのグループを組織して実施される.『インフォーマル教育(Informal education)』は組織されたグループ以外で,例えば家族の中で,あるいは個人的に自然保護区を訪問して,実施される.

環境environment

探究すべき事柄は,『環境』には人為的に築かれた環境も含まれると考えられるか,あるいは自然の世界のものだけか.原生のものから『完全に』都市的なものまで連続するところで,『(自然)環境』といえるのはどこまでか? 『自然の(natural)』とは何か? 最も高く賞賛される保護区でさえ,実際は,人の手がはいっている.われわれがいま価値ある特徴をもっていると認めるものが,人の手によってつくられたものであることもしばしばであり,『自然』や『環境』自体が人あるいは社会がつくり上げた観念なのである.ラムサール条約ははっきりと人工湿地もその湿地の定義に含めており,この点でのあいまいさをいくぶん排除している.にもかかわらず,条約は『賢明な利用』という観念の上に立ち,人が湿地にダメージを与える可能性を暗黙のうちに言及している.『環境』はつかまえどころがなくまた変化する.湿地CEPAに関連する問題を議論する際は,しばしば明確にする必要がある.

影響impacts

CEPA活動のアウトプット(outputs)と成果(outcomes)を区別する.『影響』はCEPAの結果として起こる最も我慢できる変化である.ふつうそれらは正常な状態,すなわち『いまこのように行なわれたのだ』という状態だと当然思われる.たとえば,深く埋め込まれた気持ちの変化は,長いあいだに正常な習慣が変化してゆくということに結びつくだろう.このように影響というものは,もともとのCEPAの活動が生成したあるいは触媒したものとは無関係に現われてくるのである.このような教育的あるいは保全の影響が考えうる.

情報information

情報は意図的にもあるいはそうでなくても変造を受けやすい.その情報が事実を示しているのかあるいは誰かの判断を示しているのか,またその情報には誰にとっての価値が反映されているのかをよく考える必要がある.情報を知らせようとする場合は,その情報は消化されていなければならない.情報は表象化されるものである.例えば話者の音韻や印刷された言葉によって.この表象化によって情報が歪曲されたり,もともとの意図からその解釈が変ってしまう機会を生む.ポスターやリーフレット,研修指導者などの媒体による情報伝達はもともとの意味を歪曲するような影響を及ぼしうる.情報が事実であるとは限らない.

情報を,意識(awareness)や知識(knowledge)と区別すること.

知識knowledge

「意識から行動への連鎖」(Box11)を参照のこと.

成果outcomes

CEPA活動が直ちにならびに短期に及ぼす影響.例えば,現在締約国がCEPA活動の見直しと行動計画作りに取り組んでいるのは,決議Ⅷ.31の成果のひとつである.

アウトプットoutputs

CEPA活動のアウトプットは物理的な生産物である.印刷物,視聴覚素材,研修を受けた専門職,新たなパートナーシップなど.

参加participation

参加は,多くの分野で広く受け入れられるアプローチとなっている.さまざまな形態の個人やグループの相互関係に『参加』という用語が用いられており,CEPAの作業環境における正確な意味を明らかにすることが重要である.[条約の]地域社会参加指針が印刷物(Ramsar Convention Secretariat 2004b)になっている.これに,参加型アプローチに焦点をあてた情報やアイデアならびにケーススタディが豊富に提供されている.というのもこの参加型アプローチが湿地管理にかかる意思決定に関連するからである.同様の原則が湿地CEPA活動にも適用できる.地元社会ならびに先住民の常なるサポートが湿地CEPAプログラムを長期的に成功させるために決定的な構成要素である.

以下に,有益な参加の類型(Pimbert & Pretty (1997) に引用された Pretty (1994))を,CEPA活動のための課題を示してCEPA活動を明確にする助けとなるように,再構成したものである.環境ならびに社会開発のプログラムに関連する場合,特にこの類型が広く用いられている.

受動的参加passive participation
参加者は情報を受け取るのみで,たとえ反応を返してもそれは考慮されない.受け取る情報も主催者側のものだけである.

情報提供参加participation in information-giving
参加者はアンケートの質問に答えるなど情報提供も行なう.しかし,その結果としてわかったことを確認して共有することは無く,成果に影響を及ぼす機会は与えられない.

協議参加participation by consultation
参加者は当該の問題や主催者が組織立てた質問に対する自分の見解を提供し,それらの見解は専門家に考慮される.それによって専門家が提示する解決策を変更することもありうるが,専門家が参加者の見解を必ず採用しなければならないという義務は無く,決定はあくまで専門家が行なう.つまり,参加者は意思決定の役割は持たない.

物的報奨による参加participation for material incentives
参加者は物的報奨を得られることを条件に,労力や地元の知識などの資源を提供する.彼らは当該プロジェクトにおける真の利害関係者ではなく,プロジェクトの進路に影響を及ぼす機会はなく,また報奨が終わればもうその活動を続けることはできない.

機能的参加functional participation
参加者は,主催者が決めた目標への反応として,その目標は満たすために設けられるグループに参加する.主たる決定がなされてから参加者が募集される傾向にある(『われわれには変化が必要だ.その変化に向けてあなたはどのように取り組みたいか?』というふうに).そのグループはそのプロジェクトの外部組織として開始されるが,独立することも永続することもありうる.

相互作用参加interactive participation
参加者は分析や課題とその解決策をまとめる作業にまで参加する.その作業のための新たなグループをつくるときもあれば,既存のグループを強化する方法もとられうる.その過程は全体として,学際的かつ組織的に進められる.作業グループは現場レベルの決定を管理し,実施や構造の維持に利害関係を持つ.

自主参加self-mobilisation
参加者は主催者とは無関係に決定して参加しはじめ,そして自己動員し集合的な活動を持って参加する.
意識(public) awareness

『意識(awareness)』と『知識(knowledge)』,『理解(understanding)』,そして『情報(information)』を区別することが大切である.『情報』については上に議論した.「意識から行動への連鎖」(Box11)を参照のこと.

aware』は「に気づいて」という意味の形容詞.

利害関係者stakeholders

何が『利害関係者』を構成するかは多くの定義がある.一般には,ある活動やその成果品あるいは影響への関心あるいは潜在的な関心をもつすべての人と理解される.[条約の]地域社会参加指針Ramsar Convention Secretariat 2004b)では,活動に貢献をなす人もその定義に含まれる.このアプローチは活動に対する彼らの役割,あるいは機能的関係を考慮することに支えられている.誰が利害関係者であるか決定する際に考慮すべき重要な要因は,そのプロジェクトとその人の関係性である.それを理解すれば彼らのアイデンティティが明らかになる.

賢明な利用wise use

条約は湿地の賢明な利用をつぎのように定義している:

『賢明な利用とは、生態系の自然特性を変化させないような方法で、人間のために湿地を持続的に利用することである。』

ここで言う湿地の持続可能な利用をまたつぎのように定義している:

『持続的な利用とは、将来の世代の需要と期待に対して湿地が対応し得る可能性を維持しつつ、現在の世代の人間に対して湿地が継続的に最大の利益を生産できるように、湿地を利用することである。』

条約は『賢明な利用』と『持続可能な利用』を同義語と考えている.

CEPAの状況において,賢明な利用あるいは持続可能な利用という用語は十分に精査するに値する.というのはこれらの正確な意味を合意することが,CEPAプログラムあるいはその活動の潜在的に両立しないねらいを見極める際に重要であり,あるいは少なくともその目に見えない意味を見極める際に重要だからである.


[訳注]
  1. ラムサール条約の決議や勧告およびその附属書の一部(表題を含む)を引用する部分は,それらの既存の和訳がある場合はその訳を踏襲するが,その他の部分については必ずしも踏襲していない.例えば『CEPA』の『Communication』は,既存の決議と勧告の表題(『広報』と訳されている)を除き,本手引き末尾のCEPA用語集の定義に対して適切と考えられる『対話』と訳出した.引用した既存の和訳の一覧は末尾に記した.
  2. 『SMART基準』の和訳は,西尾真治.2004(ローカル・マニフェストによる地方のガバナンス改革.UFJ総合研究所報告9(3):56-73.)等に見られる.
  3. 『連関の輪』は社会学で用いられる手法のひとつ(例:Education Queensland).
[引用した既存の決議や勧告ならびに指針の和訳一覧]

琵琶湖ラムサール研究会

[和訳:琵琶湖ラムサール研究会,2005年9月.]
[和訳にあたり,条約事務局に勤務された小林 聡史 博士(釧路公立大学)より貴重なご意見をいただいたことを感謝する.]
[レイアウト:おおむね条約事務局ウェブサイト所載の当該英語ページに従うが,ページ内リンクを多数,他ページへのリンクを一部加えた.] checkmark.gif


Swan 琵琶湖水鳥・湿地センターラムサール条約ラムサール条約を活用しよう第8回締約国会議
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