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「湿地と水:命を育み,暮らしを支える」
"Wetlands and water: supporting life, sustaining livelihoods"
湿地条約(ラムサール,イラン,1971)
第9回締約国会議
ウガンダ共和国カンパラ,2005年11月8−15日
1.条文第2条5項では、湿地の廃止または縮小について「いずれの締約国も、既に(条約湿地の)リストに掲げられている湿地の区域を緊急の国家的利益のために廃止し、若しくは縮小する権利を有する」と定めていること、また第4条2項では「締約国は、リストに掲げられている湿地の区域を緊急な国家的利益のために廃止し又は縮小する場合には、できる限り湿地資源の喪失を補うべきであり、特に、同一の又は他の地域において水鳥の従前の生息地に相当する生息地を維持するために、新たな自然保護区域を創設すべきである」と定めていることを想起し、
2.また、決議5.3が、勧告4.2で確立された基準のいずれも満たさない条約湿地についての検討手順を設けていることも想起し、
3.決議Ⅷ.20では、条文第2条5項の下での「緊急な国家的利益」の解釈と第4条2項の下での代償措置の検討について一般的手引きを定めていることに留意し、
4.決議Ⅷ.22では条文第2条5項の緊急な国家的利益の規定以外に、ラムサール条約湿地の境界について明示しなおすことが必要となる状況もあることを認識していることと、さらに以下のような状況もありうることを重ねて想起し、
a)条約湿地が国際的に重要な湿地の選定基準を満たしたことがない場合
b)条約湿地の一部または全体が、その選定理由となった価値、機能、属性をやむを得ず失う場合、あるいは誤って条約湿地に加えられた場合
c)登録時には選定基準を満たしていた条約湿地が、価値、機能、属性に変化はないものの、選定基準の変更、またはその基準の根拠となった個体数の推定値もしくはパラメーターの変更のために、その後選定基準を満たさなくなる場合
5.また、決議Ⅷ.21では、登録時の境界の記述が誤っていたり不正確であったりした場合への対応として、ラムサール条約湿地情報票(RIS)で条約湿地の境界の正確な記述に関する手引きを定めていること、また決議Ⅷ.13では、地図の提出も含め、RISの適用と記入に関する詳しい手引きを規定していることにも留意し、
6.決議Ⅷ.22において、決議5.3の付属書には登録の時点で国際的に重要な湿地の選定基準を満たしていなかった湿地に対する検討手続きが定められているが、ラムサール条約ではこの決議以外には、条約湿地が国際的に重要な湿地の選定基準を満たさなくなった場合に締約国の助けになるような手引きを定めておらず、また湿地の一部分が、その選定理由となった価値、機能、属性をやむを得ず失うような状況や、あるいは湿地の一部分が誤って条約湿地に加えられたような状況についての手引きが一切ないことを確認していたことを重ねて想起し、
7.決議Ⅷ.22が、常設委員会に対して、ラムサール条約事務局、国際団体パートナー、科学技術検討委員会(STRP)、適当な法律専門家及びその他の専門家、及び関係締約国からの支援を得て、第9回締約国会議で検討し、できれば採択するため、以下について締約国のための手引きを策定するように要請していることを意識し、
a)条約湿地が国際的に重要な湿地として指定されるための選定基準を満たさなくなるシナリオの特定
b)条約に基づく締約国の義務と、第4条2項に基づく代償措置の適用の可能性
c)このような状況の下で、条約湿地の廃止または区域の縮小を検討する場合に適用しうる手順、さらに
d)これらの問題と、決議Ⅷ.20、Ⅷ.21で取り上げた問題との関係
8.第9回締約国会議の会議文書15(COP9 DOC.15)において、条約湿地又はその湿地の一部が登録基準を満たさなくなる10のシナリオが特定されたことに留意し、
9.可能かつ適正である場合は常に、ラムサール条約湿地としての指定を継続し、そして登録時の湿地区域全体を指定したままにしておくことが非常に重要な原則であることを重ねて確認し、
締約国会議は、
10.登録基準を満たさなくなった、あるいは一度も満たしたことのない条約湿地、若しくはその湿地の一部分の問題の取り扱いに関する、本決議の付属書の手引きを採択する。
11.締約国に対して、条約湿地のリストに掲げられている湿地の廃止またはその区域の縮小を熟考する際には、本付属書に述べられる手引きと手順とを適用するように要請する。
12.締約国に対して、途上国に、条約湿地の廃止又は縮小の検討をもたらす要因を可能な範囲で覆すために役立つ、能力育成(キャパシティ・ビルディング)を含む援助を提供するように強く要請する。
13.ラムサール条約事務局に対して、リストに掲げられている条約湿地の縮小または廃止に関する問題について締約国に助言する際には、締約国によって更新されたラムサール条約湿地情報票の提出を含め、本決議の付属書中の手引きを考慮するよう指示する。
14.また、ラムサール条約事務局に対して、科学技術検討委員会(STRP)の助言を得て、条文第8条2項に基づくこれらの事項について第10回締約国会議に報告するように指示し、締約国に対して、本決議の適用から得られた経験と知見について、ラムサール条約事務局に情報を寄せるように強く要請する。
1.この手引きは、条文第2条5項で扱われているもの以外の状況下で、国際的に重要な湿地のリストに登録されている湿地の生態学的特徴の喪失あるいは劣化に関する、条約本文に予見されていない状況についての原則と手順を扱うものである。
2.この手引きは、「緊急な国家的利益」に関する条文第2条5項の下で、条約湿地の生態学的特徴の喪失が関係する締約国によってもたらされたものではない状況、又は、「緊急な国家的利益」であることを立証できない状況を取り扱う。条文第2条5項に関する締約国の手続きと責務は、決議Ⅷ.20の付属書として第8回締約国会議で採択された手引きで扱われている。
3.条約湿地の区域の縮小に関して、本手引きは、湿地の生態学的特徴の喪失、または劣化のために、湿地の区域の縮小が熟考されており、提案された変更が条約湿地の基本的な目標と、条約湿地となった登録基準の適用に影響する状況を扱う。
4.条約湿地の境界をより正確に定めようとすることに限定された改善(例えば、全地球測位システム(GPS)と地理情報システム(GIS)が利用可能かどうか、そして実際にどう利用すべきか)に関する状況は、計測された湿地の区域の縮小または拡大に結びつくかどうかに関わらず、決議Ⅷ.21で扱われている。
5.第5回締約国会議(1993年)において、締約国は、決議5.3の付属書を通して、いずれの選定基準(当時は勧告4.2で採択された基準)も満たさないと考えられる条約湿地に対する検討手続きを採択した。以下の手引きは決議5.3の手続きの関連部分を取り入れてある。
6.以下の10のシナリオが条約事務局が準備した総説の中で特定されている(第9回締約国会議文書15[COP9 DOC.15]参照)。本手引きの準備期間に、記述されたこの10のシナリオ中、7つについては実際に報告された問題として起こっており、条約事務局には報告されていなかったものの、8つ目も起こっていたシナリオのうちの7つについては、決議Ⅷ.22で特定された3件の状況のうちのいずれかの状況にあてはまっている可能性がある。
ⅰ)締約国は条約加盟時に条文で求められているように、完成されたラムサール条約湿地情報票(RIS)ではなく、単に湿地名と区域図のみを提出する。その結果、後にRISを記入する際に、その湿地がいずれの選定基準も満たさないことが明らかになる。このシナリオは決議5.3の付属書で扱われていた。
ⅱ)湿地がRIS(または登録時に提供されるRISの前段階の情報)の準備時に利用可能な情報が不適切、もしくは不正確であったため誤って登録され、その後にその湿地が全体としていずれの選定基準も満たさないことが明らかになる。このシナリオもまた決議5.3の付属書において扱われていた。
ⅲ)ラムサール条約湿地が国内法に従って国内の保護区の手続きの終了後に登録された場合で、条約湿地の境界はその国家的な重要性をもとに選定された境界に従うのだが、その後国指定の保護区の境界が変更される場合
ⅳ)条約湿地の一部または全体が、条文第2条5項が扱う変化以外の理由によって、登録の根拠となった湿地の生態学的な特徴の構成要素、プロセス、サービスを失う場合
ⅴ)湿地の生態地理学(eco-geography)または関連する集水域に直接関係しない線形な境界線の組み合わせによって、条約湿地の境界が特定された場合
ⅵ)湿地の価値、機能、属性は変化していないが、これらの選定基準の改訂により、その後選定基準を満たさなくなる場合
ⅶ)湿地の価値、機能、属性は変化していないが、登録の根拠となる個体数の推定値、またはパラメーターの変更によって、その後選定基準を満たさなくなる場合
7.次の2つのシナリオは、決議Ⅷ.22で特定された3つの分類のいずれにも直接あてはまらない。
ⅰ)以前別の締約国により登録された条約湿地が、現在条約に加盟しているその後継の国の領域内にあり、その後継の国がその条約湿地について、異なる境界と面積を示唆する場合
ⅱ)「緊急な国家的利益」であるとは立証できないが、将来に開発の余地を残すため、もしくは他の土地利用上の変更に許可を与えるために、条約湿地の一部または全体の廃止が提案される場合
8.もう一つ別のシナリオでは、上述のいずれかのシナリオから発生するものと予想される。
ⅰ)締約国が加盟時に一ヶ所のみを条約湿地として登録しており、その湿地が選定基準を満たさなくなる場合
9.条文第2条1項および第3条1項の下での締約国の義務は、ラムサール条約湿地を登録し、その保全の促進(すなわち、その生態学的特徴の維持)のための計画策定を実施することである。このことは決議Ⅷ.8の中で、さらに詳しく記述され、締約国はラムサール条約湿地の生態学的特徴の維持もしくは再生を行うものとした。
10.もし条約湿地の生態学的特徴が人為的干渉によりすでに変化しており、変化しつつあり、または変化する恐れがある場合、関係する締約国は第3条2項に基づき、“遅滞なく”ラムサール条約事務局に報告する義務がある。
11.条文(第2条5項)は、条約湿地の区域の廃止または縮小を「緊急の国家的利益」として立証できる場合に限り認めている。
12.決議Ⅷ.22は条約湿地の生態学的特徴の喪失が“不可避”である、あるいは“不可避”であった特別な状況に関心を払っている。もしこのような状況が回避可能である、または回避可能であった場合には、そのような喪失を避けるために適切な手段をとることが求められる。
13.いくつかのシナリオでは、「緊急な国家的利益」として立証できないが、将来に開発の余地を残すため、もしくは他の土地利用上の変更に許可を与えるためや促進するために、条約湿地の一部または全体の廃止や区域の縮小が提案されている場合(上記段落7ⅱ参照)等においては、条約の下で区域の廃止や縮小が認められるものとして考慮されるべきではない。
14.締約国は、ラムサール条約湿地を含む湿地の喪失または劣化に対する代償措置は、3つの状況の下で適用されるべきであると、すでに示している。
ⅰ)「緊急の国家的利益」が適用されうる(条約第4条2項および決議Ⅷ.20)、条約湿地の区域の縮小または廃止の検討に結びつく変化の場合
ⅱ)湿地生態系の構成要素、プロセスおよびサービスの喪失をもたらす変化ではあるが、区域の縮小または廃止の検討には結びつかない変化の場合(決議Ⅶ.24)、さらに、
ⅲ)登録時に登録基準のいずれも満たしていなかった湿地の場合(決議5.3)
15.「緊急な国家的利益」が条文の他の条項に優先すると考えられる場合でも代償措置の条項(第4条2項)が要求されるので、「緊急な国家的利益」の立証が適用できない場合、条文の他の義務、特に第3条5項と決議Ⅶ.24の義務が適用されることになる。したがって、もし生態学的特徴の喪失が“不可避”な場合(決議Ⅷ.22段落6b)、決議Ⅷ.20の付属書(段落4)の検討事項に沿った形で、実施可能であれば、少なくとも同等の代償措置が提供されなければならない。これは登録時に選定基準を満たしていなかったことが判明している湿地に対する決議5.3の付属書の手続きにおいて採択された取組でもある。
16.締約国は、ラムサール条約湿地の生態学的特徴の第三者による損失を扱う政策と法的仕組みがまだ制定されていなければ、補償の問題を含め、決議Ⅶ.24で求められているようにそれらを策定すること、そして必要な場合には、決議Ⅶ.7で採択されたラムサール賢明な利用ハンドブック第3巻(「法と制度」)の手引きを適用することを考慮すべきである。
17.そのようなあらゆる検討事項と選択肢が比較された後でも、もし区域の廃止または縮小が意図されるようであれば、その後の手順は条約第8条2項⒝、⒟、⒠の条項、すなわち、条約事務局はリストへのそのような変更を前もってすべての締約国に通知し、当該事項が次の締約国会議で討議されるように取り計らい、関係締約国にこのような変更に関する条約の勧告を周知させるという条項に従うべきである。
18.上記シナリオのもとで発生する問題で、条文第2条5項が適用されない状況下での条約湿地の区域の部分的縮小、または湿地全体のリストからの除外が考慮される場合には、次の手続き(第1−8段階)に沿って行われるべきである。区域の縮小がまず考慮されるべきであり、例外的な状況のときにのみ湿地のリストからの除外が考慮されるべきである。
19.この取組は、条約湿地の一部または全体が、登録の根拠となった湿地生態系の構成要素、プロセスもしくははサービスを喪失したと思われる場合のいくつかのシナリオに焦点を当てている。それぞれのシナリオの下で考慮されるべき一連の事項に関する追加情報は、第9回締約国会議文書15(COP9 DOC.15)に掲載されている。
20.締約国は条約湿地の廃止または縮小を熟考するときには、(登録時に選定基準を満たしていなかった可能性のあるラムサール条約湿地に関する決議5.3からもすでに要求されているように)早い段階でラムサール条約事務局と協議をするべきである。
21.第1段階.当該問題が、なぜ条約第2条5項に適用されないものであるかの理由を具体的に示し、確認すること。
22.第2段階.条約湿地の一部または全体の生態学的特徴が、決議Ⅷ.8に添うような人間の活動に起因して変化しているものならば、条約第3条2項にある報告を条約事務局に遅滞なく行うこと。
23.第3段階.同時に以下を考慮すること。
ⅰ)科学技術検討委員会(STRP)の助言を求めることが有用かどうか
ⅱ)決議Ⅷ.8段落21に設定された目的に添って、条約湿地をモントルーレコードに加えることが有用な措置であるかどうか
ⅲ)「ラムサール諮問調査団」を要請すべきかどうか、さらに
ⅳ)「ラムサール条約小規模助成基金」の下での緊急支援の要請が適正であるかどうか
24.第4段階.条約湿地の現在の生態学的特徴の評価を実施し、その湿地が、現在の選定基準の一つまたはそれ以上を満たし、国際的に重要な湿地として適切であるかどうかを証明すること。湿地の特徴の変化により、登録時とは異なる選定基準を満たすようになる場合もあるだろうし、これまでにも他の基準を満たしてはいたが、登録時には適用されなかったこともありうる。
25.第5段階.第4段階における評価の一環として、(国際的に重要な湿地としての)適性を失わせしめる湿地全体または一部に起こった生態学的特徴の変化が、真に不可逆的であるものかを証明すること。もし可逆的な変化であるようであれば、変化が逆進するもしくは逆進させるための条件、そして湿地の特徴が回復するために必要と思われる期間の幅とともに、このことを確実にするために必要となる管理行動(再生を含む)を特定すること。
26.このような可逆性は、特に自然災害による破壊からの回復、水鳥や他の生物の個体群サイズの自然な年間変動、もしくは影響を受けた湿地の一部分の再生や回復を含んだ管理のための人為的介入のような場合に起こりうる。
27.第6段階.もし可逆性の余地があれば、第5段階で必要と判断された期間、湿地の主要な生態学的要素をモニタリングし、そして選定基準に基づく適性に関して湿地の状態を再評価すること。
28.第7段階.条文第3条2項に基づく条約事務局へのさらなる報告等を通じて、当該条約湿地の回復について報告し、適切な場合にはモントルーレコードからの削除を要請し、起こった変化を明確に特定するラムサール条約湿地情報票(RIS)最新版を作成し、提出すること。
29.第8段階.条約湿地の一部もしくは全体の喪失が不可逆的であり、条約湿地としての適性の点から回復または再生の試みが失敗した場合、もしくは湿地が最初から誤って登録されたという明白な証拠があれば、湿地の区域の縮小または登録の取り消しについて報告を作成すること。この報告には、特に、生態学的な特徴の喪失とその理由、実施されたすべての評価とその結果、湿地の回復のために取られた取組、そして(決議5.3、Ⅶ.24、Ⅷ.20に沿ったものを含む)代償措置実施に対する提案を記載して、適切な地図を添えるものとする。もし区域の縮小を意図するのであれば、ラムサール条約湿地情報票(RIS)最新版を含めなくてはならい。
30.締約国が条約湿地の縮小または廃止の承認を望む時には、以下の手順を踏まなくてはならない。
ⅰ)締約国は上記第8段階で概説された問題の状況を含んだ形で、その意図を条約事務局に提出しなくてはならない。次いで条約事務局は、条文第8条2項⒟に沿ってすべての締約国に助言する手配を行う。
ⅱ)これらすべての事例とその結果の状況は、条文第8条2項⒟に沿って、次回締約国会議における討議のために報告される。そして締約国会議は条文第8条2項⒠に沿って、関係締約国に勧告を行う場合もあり得る。
ⅲ)条約事務局は、締約国会議で策定されるこのようなすべての勧告を関係締約国に周知する(第8条2項⒠)。
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URL: http://www.biwa.ne.jp/%7enio/ramsar/cop9/res_ix_06_j.htm
Last update: 2008/06/01, Biwa-ko Ramsar Kenkyu-kai (BRK).