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いっ痛え!痛さで夜も眠れない。1年以上放っておいた奥歯の虫歯が悪化して、顔の半分が痺れるほど痛い。 以前係った香港の歯医者さんにそのうちに見てもらおうと、先へ先へと延ばしていたツケがやってきてしまった。
歯だけは痛みが退いたと思っても中で確実に悪化しているものだ。治療を先に延ばせば、それに比例して治療費もかかる事は頭の中で分っていても、起こり得ない自然治癒を信じて放っておいたのだ。
一般的にバリ島の医者は日本人に甚だ人気がない。言葉の壁もあるだろうが、過去の医者の誤診等が口伝えで広まった結果だ(このような噂は大袈裟に広まるものだ)。
全てのバリ島の医者を十把一絡げに考えてしまうのは危険だが、この様な悪評のため、人によっては健康診断でさえ、わざわざジャカルタに出向く人もいる。専門的な診断を要する時などはシンガポールか日本の病院に行く人が多い。
しかし、僕の歯の痛みは待ってくれない。意を決してバリ島の歯医者へ出向く事にした。さて、どこの歯医者が良いものか。ドクターを紹介してもらおうと、バリ人や日本人の友人に電話した。
「あそこは設備がひどいらしいから止めた方がいい。でも腕はまあまあ。」
「あそこの先生はインドネシアン華僑で説明も上手だし、それほど高くない。だけどいつも待たされる。」
「外国人にはヌサドゥアの先生が有名だけど一番治療費は高いらしい」
などなど。皆な意見はまちまちだ。
結局、友人が今も通っているというドクターに決める事にした。決めたポイントは「女医」さんということだ。何となく優しく治療してくれそうな気がしたからだ。
今まで集めてきた歯科医の情報も「女医」さんの前では全く役に立たなくなってしまった。 早速その日のアポイントを取る。しかし、車が故障している事を忘れていた。残された唯一の交通手段は自転車だ。30分はかかりそうだ。炎天下の中での運転は気が滅入るが仕方がない。
出かける前に「女医」さんに失礼があってはならぬと髭を剃り、ヘアーを整え、よそ行きの格好をして診療所へ向かった。 普段、運動などしないものだから、やっと着いた時にはゼーゼー言って汗でびっしょりだ。ベージュのパンツは自転車の油で汚れている。
さらに帽子を被って行ったので脱ぐと髪の毛が汗で頭に張り付いて、茄子のヘタのようになっている。 診療室に通され「どうなさいましたか?」ドクターが優しく聞いてくる。
ドクターはインドネシアとヨーロッパと中国の血が混ざっているようで国籍がよく解らないが、ミックスがかもし出す独特のあやしい魅力のある人だ。
僕は診療の前にどのくらい診療費がかかるか尋ねようと思っていたが、すっかりそんなことは忘れて嬉々としてしっぽを振り振り診察台へ横たわった。 僕の歯はかなり虫歯が進行していたが、抜歯するまでには至らなくて安心した。
ドクターは全部の歯を診て、悪くなりかかっている歯も全部診療してくれた。 一体いくらくらい診療費がかかるのだろうか?
僕の悪い予感が的中し、手持ちの現金を超える請求が来てしまった。カードでの支払いもできない。値切ろうかな。 実は以前、家内をバリ島で眼科医に連れていった際に、非常に高い(と言っても日本と比べれば安いが)診療費を請求された事がある。
友人から大体の診療費を聞いていたので、そのドクターに外国人だから高いのか?と不愉快な顔をして尋ねた事がある。そうしたら、いきなり2割もディスカウントしてくれたので驚いた。
しかし、女医さんから「足りない分はこの次でいいのよ」と、優しく言われると返す言葉もなく、ただ、小さくなって「どうもすいません。おおきに。」と言って診療所を後にした。
家内はバリ島にかかりつけの内科のドクターがいる。そのドクターは非常に頼り甲斐のあるドクターで、いつも家内に対し笑顔を絶やさず、励ます事を忘れない。偉そうにしているところが全くなく、懐が深い。
確かに、医療設備という面では日本と比べてバリ島は引けを取るかもしれない。しかし、手術とかを別にすれば、結局、病気を治癒させるには患者の内に秘めた治癒力が一番大切であり、それを引き出す手伝いのできる医者が名医と言われるのではないだろうか。
先日シンガポール航空の機内映画で「PATCH ADAMS」という医学生をモデルにした実話を上映していました。医者と患者の関係とは? 癒すとは?
死は悪いもの? 人間として生きていく上での重要なテーマがたくさん盛り込まれており、感動的で涙が止まりませんでした。人に夢を与えるとはどういう事かを教えてくれた映画でした。
(1999.5.19)
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