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アジアの都市の夜は、昼間とは違った種類の人間がどこからともなく湧き出し、妖しい危険な匂いをかもし出す。
香港、バンコク、新宿、マニラ、ソウル……「今」という時を忘れたいかのように男達は酒を浴び、一時の享楽に身を委ねる。
そしてその男達の快楽を満たすべく、ここバリ島でもいろんな人間模様が展開する。(なんかハードボイルド調だ)
午後9時、雨季の夜は蒸し暑い。僕がアメリカから遊びに来た古くからの相棒とクタ・スクエア界隈をあてども無く歩いていると様々な売人たちが寄ってくる。
「タイマ、タイマ(大麻)」
「マリファナ、マリファナ」
「オンナ、オンナ、ミンナハタチマエネ(日本語)」
僕はいつものように無視を決め込みずんずん進んでいく。すると「マッサージ、マッサージ」と肩を揉むしぐさをしながら若い男が近寄ってきた。
相棒も一日中歩き疲れてマッサージでもしてもらおうと思っていた時だった。
「どこで?いくら?時間は?」と尋ねたその時
「ハーイ!グッドイブニーング!!」
と若い男の兄貴分が僕の顔から30cmのところにいきなり現れた。絵に描いたような怪しい男だ。
脂ぎった顔に口髭をたくわえ、笑顔を作ろうとしているがその目だけはよどんでいる。噛んで含めるような英語で説明を始める。
「キレイナオンナノコタチガ、アナタガクルノヲ、マッテイマス」
「アナタハソノナカカラ、スキナオンナノコヲエランデ、ホテルヘツレテカエレマス」
「アサマデOKデス」

なんだ、マッサージじゃねぇじゃねぇか、と思いつつも、好奇心が先走り取りあえず料金を尋ねた。
「オンナノコハ、USD100カラUSD220デス。ホテルダイハUSD40デス。オンナノコノレベルニヨッテ、リョウキンハ、チガイマス」
USD100とUSD220(この半端な20ドルがよく分らない)の開きは一体何なんだ?
「USD220ノオンナノコハ、Aグレード!18サイカラ22サイマデ」
と言うことはUSD100の女の子は一体何歳になるのだろう。考えるとちょっと怖い。ありがとう。俺達は行かないから他を当ってくれ。
僕らはそそくさと立ち去り、買い物のためにサーフショップに入った。そこを20分くらいして出ると、さっきのお兄さんが僕らが出てくるのを待っていた。
「キレイナオンナノコタチガ、アナタヲマッテイマス……」
もう、いいから他を当ってくれと言っているだろ!
僕たちは買い物袋を沢山抱えていたので、きっと海外から来た「いいカモ」にみえたのだろう。お兄さんは商売熱心だ。
僕が興味を示さないとみると、相棒にしつこく付きまとい、駐車場までついて来た。
僕が車のキーを開けると、そのお兄さんまで乗り込もうとする。なにやってんだおまえは!
「キレイナオンナノコタチガ、アナタヲマッテイマス。コレカラアンナイシマス…」
もう、えぇっちゅうに!(何故か大阪弁)
相棒の買い物も無事に終わり、夕食を終えたのが11時だ。さぁ帰ろうか。
いつも10時前に寝ている僕にとってちょっと眠たくなってきた。
次の日は朝6時に出発して「GTフィッシング」にいく予定だ。GTとは「ジャイアントなんとか」の略で、バリ近海で釣れる何十kgもある大きな魚だ。
この魚を求め、日本からもたくさんの釣り愛好家が、フィッシングだけの目的でバリ島に来るほどだ。
ちなみに僕は釣りはまったくダメで、今回は彼が釣る様子をビデオに収録する係だ。
相棒とは5歳のときからの付き合いだ。 日本人とヨーロピアンとのハーフで、今ではアメリカ国籍を取得し、自分で事業を興し大成功し、カリフォルニアにプール付き豪邸を構える社長だ。
相棒は久しぶりに家を離れ、せっかく南国まで来たのだからもっと遊びたいようだ。
それに先程のポン引き兄さんに「影響」され、どっか「面白いところ」へ行って「面白いあそび」をしたいらしい。困ったな。
僕はバリ島のナイトライフに関しては全く知らない。そこで夜に詳しい友人へ電話して情報を収集したところ、2〜3件、初心者向けのところを教えてもらった。
その店に入ると大きなホールにカラオケステージがあって、大音響でサザンオールスターズの北京語バージョンを流している。
台湾系の客が多いのかな。僕たちは勝手がわからず、誰も近づいて来ないので店内をうろうろするだけだ。
どういうシステムになってるんだこの店は?すると相棒が奥の方から「おーい!こっちだこっちだ!!」と興奮し、満面に笑みをたたえて僕を呼びに来た。
なんだ、どうしたんだ?行ってビックリ。

「これだよ、これ!俺達が求めてたものは!」
「すげぇ、いいなぁこの眺め」
「よしっ!行くぞ!」
とか言いながら二人でガッツポーズを取る。
そこには大きなマジックミラーがあり、その向こうが雛壇になっていてドレスを着飾った20人くらいの女の子達がこちら向きに座っている。
僕は相棒と30年前こんなシーンを体験したことがある。その時はガラスの向こうは泳ぐ魚だった(水族館)。
しかし今、展開するのは「インドネシアの綺麗なお姉さん」だ。興奮の度合いは30年前より高い。
どうやらまずここで女の子を選ぶらしい。あせるな、待て!と明日の「GTフィッシング」のことなどすっかり忘れてしまっている相棒に告げ、僕はそこを離れてこの店のシステムを尋ねに行った。
(二人の未来はいかに。待て次号!)←「あしたのジョー」じゃない!
(2000.2.1)
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