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香港で働いていた頃、仕事を終えて帰路につく運転する車の中で聴く音楽が好きだった。夜遅く残業を終えた僕は、誰もいない地下駐車場に停めてある車に乗り込みシートに身を沈める。ほのかな革のシートの匂いが、僕を安心させる。
1日の出来事を軽く思い出しながらネクタイを緩め、音楽CDをon。いつもの「BOYS to MEN」だ。
美しいハーモニーに促されるようにして、駐車場から滑り出てハイウェイに乗ると、目の前は「百万ドルの夜景」だ。スピードを上げるに従い、音量をアップしていく。狭い空間の中で伝わってくるリズムとハーモニーが、移り変わる夜景の美しさと調和し、今日一日の疲れを忘れさせる。
さて、バリ島ではどうだろうか。
僕の車にはCDプレーヤーはおろか、音楽テープも聴けない(ちなみにエアコンも無い)。唯一のオプションはFMラジオだけだ。
それまではFMなど聴く習慣がなかった僕だが、車の中でFMを聴き始めてその楽しさを再認識した。インドネシアのポップスから洋楽まで局により様々だ。
僕にとってのFMの楽しみは、最新の曲の紹介よりも、懐かしのヒット曲を流してくれることにある。想い出の写真を眺めるかのように、その曲が流行った頃に想いは飛んで行く。
お気に入りはパラダイスFM(100.9)。パラダイスというネーミングも気に入っているが、ここは洋楽を中心にしてオールディーズから映画音楽、最新のヒット曲までカバーしているので嬉しい。またDJ(英語)が小林克也のようにメリハリがあり、トークが少ないので、僕はこの局に合わせていることが多い。
しかし、残念なのは夜の7時に終わってしまうことだ。7時に終了とは なんと健全なことだろうか。
先日も運転中に 昔よく聴いた曲がかかり、イントロを聴いた瞬間、その懐かしさに鳥肌が立ってしまった。
ホテル カリフォルニア(イーグルス)。
♪うぇるかむ とぅ ざ ほってる きゃーりふぉーにゃ♪
(ここしか知らない。あとはでたらめ)
信号待ちでハンドルをドラムに見立て、汗だくになりながら、でたらめな英語で絶叫する僕を見て、いつもなら近づいてくる新聞売りの少年も近寄ってこない。
同じ食べ物でも、食べる場所(国)によって美味しく感じられたり、そうでなかったりするように、自分が好きな音楽でも、ところ変われば、あまり聴きたいと思わなくなったりする。
バリ島へ移住する前には 良く聴いたCDも、何故かバリ島ではさほど聴きたいと思わないものも多い。その音楽がその地に似合わないんだ。
バリ島に似合う音楽は?・・・・
それは もちろん「ガムラン」(伝統楽器による伝統音楽)だろう。
多くの観光客もこの音楽に魅了され、CDを購入したり、習って帰る人もいるくらいだ。何種類もあるガムランの楽器の中で、僕は竹でできた木琴のような楽器の音色が好きだ。あの柔らかな音が心を和ませる。
ただ「ガムラン」は僕にとって『音楽』というより、バリ島の『音』そのものなんだ。言ってみれば、我が家の天井裏に住み着いているトッケイの鳴き声の『音』や
鳥の囀りの『音』と同列にある、それくらい自然の音そのものなんだ。
僕はバリ島で でしか、「ガムラン」を聴いたことはないが、おそらく他の国の例えばレストランなどで この音楽が流れてきたら 心は瞬時にバリ島に飛んで行ってしまうに違いない。
バリ島に恋してしまった外国人が、母国にいてバリ島に想いを馳せるには、「ガムラン」と「バリコーヒー」(砂糖3杯)が役に立つことだろう。
もし、バリ島の景色をビデオに収め、それに音楽を挿入するとしたら、ガムラン以外だったら、僕はどんな音楽を挿入するだろうか。
ある日 1人でウブドのカフェでくつろいでいると、ギター演奏の「ボサノバ」が流れてきた。そのギターの音色の優しさと、ゆったりとしたボサノバ特有のリズムが、その空間に存在する時間のリズムにシンクロナイズし、さらなる安らぎを与えてくれた。「ボサノバ」が
こんなにまで自分にとって気持の良い音楽とは、バリ島に教えられるまで知らなかった。
バリ島はいろんなことを教えてくれる。まだまだ僕は教わることが多そうだ。
(2001.6.30)
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