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車のボンネットの上で「玉子焼き」ができるほどの暑い日、車の屋根から伝わってくる熱気にがまんしつつ信号待ちをしていた。 前の車が動き始めたので、ギアをニュートラルからローへ入れようとクラッチを踏んだ瞬間、「バチ!」という音とともにクラッチペダルが動かなくなってしまった。これではギアが入らない。
いったいどうなったんだ?? 僕の車が動かないせいで、後続の車も信号が青にもかかわらず、前に進めない。
直ぐに下車し、後続の車に手を挙げて謝り、左手でハンドルを操作し、右手でフロントガラスの右端に体重をかけながら動かし、なんとか路肩まで移動した。
バリ島の交差点では、いつも二種類の仕事が存在する。「新聞売り」と「物貰い」だ。どちらも個々の車に声をかけるということでは一致している。
僕がボンネットを開け、途方に暮れていると、その「新聞売り」のお兄ちゃんたちが様子を見に来てくれた。 幸運なことに、そのお兄ちゃんの中の一人が、元、車の整備員で、問題点を直ぐに把握し、僕の携帯で修理工場へ事情を説明してくれた。彼は、自分の仕事をそっちのけで、見ず知らずの僕を助けてくれる。彼は以前、修理工場で働いていたが、3年前のクタでの爆弾テロの影響で、仕事が無くなってしまい、今の仕事に変わったそうだ。
修理工場からレッカー車が到着するまで、その彼は、「新聞売り」の仕事話を中心に世間話に付き合ってくれた。 彼らにも縄張りがあり、どこの交差点でも仕事ができるという訳ではないらしい。
新聞の仕入方法は、中間卸しからで、ある時間になるとバイクで新聞を運んでくる。その中から求める銘柄を好きなだけ仕入れることができる。委託販売ではなく、買取販売だ。
買取商売はきつい気がするのだが、本人に言わせると、一回に5部、10部と、売る自信がある分だけを仕入れ、売り切れたらまた仕入れればいいので、それほどリスクが高いわけではない、と明るく笑って答えてくれた。
しかし、僕らから見ると、交差点での「新聞売り」仲間どおしの競争も激しく、買っている人は、早朝を除けば、それほどいないような気がして、販売するのはさぞかし大変のことと思ってしまう。また雨が降れば、商売上がったりだ。
1時間ほど交差点に佇み、そこでの人間模様を観察する結果になってしまった。
傍から見れば大変そうな仕事(実際、大変と思う)でも、何故か、皆、一様に明るいので、心の余裕が感じられるんだ。 そういった余裕があるから、僕の車の故障などでも喜んで手を貸してくれるのだろう。
「余裕」は「優しさ」とも言い換えることができるかも知れない。 「新聞売り」の仲間同士も助け合っているし(客が求める銘柄の新聞がない場合など、それを持っている他の仲間を直ぐに呼びつける)、また「物貰い」の子供たちが車と接触しないように、親が子供に注意するように叱っている。皆、それぞれが他人でありながら、お互いが無関心ではありえないんだ。
レッカーが来たので、助けてくれたお兄ちゃんにお礼を言いたく、新聞を数部購入しようと思ったが、インドネシア語を読めないことに気づき、少ないルピアを渡してお礼とさせてもらった。
「ありがとうございました。」
*** ところで、修理代はいくらになるのだろうか。急に現実に引き戻されてしまった。とほほ・・・
(2005.8.29)
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